86話 破壊の王
木々はやせ細り、雑草すら萎びている。
あからさまに生気の欠片しか残っていない世界。
それでも、なぜか安心してしまった。そう、懐かしき故郷だ。
「いたたた……ここはどこ?」
「この雰囲気からすると、ギガント高原……いや、ギガント荒野というべきかもしれんな」
「えっ!? ギガント!? ルクスルじゃないんだ……」
「多分、消えかかった鏡に入った所為だろうな。この世界に戻れただけありがたいと思うべきだろう」
「確かにそうだけどさ。あっ、それよりも、お姉ちゃん、大丈夫かな? アレージュ、これからどうする?」
確かに、鏡に駆け込んだものの、全くの無計画だ。これからどうするべきか……
「そうだ。ねえねえ、死神と手を組もうよ。奴等も来てるはずでしょ」
リルレラの意見も一理あるが……
「奴等がウンと言ってくれるとは思えん。なにしろ、私達は奴等の命を狙ったんだからな。それに、奴等がどこに居るかもわからないんだ。探すために時間を費やすのは無駄だ」
騙されていたとはいえ、世界の敵に認定して抹殺しようとしたのだ。誰が快く頷くだろうか。
「でも、奴等も仲間を助けに来てるんだよね? 同じ敵を相手にしてるんだから、話せばきっと分かってくれるよ」
ほんと、こいつは能天気で幸せな奴だ。まあいい、取り敢えず皇都に向かうべきだな。
「その結論は後だ。とにかく皇都にむかうぞ」
「そうだね。今はそれしか方法はないか」
「まずは、移動手段を手に入れるぞ」
「りょうかい!」
レレアラ、生きていろよ。必ず助け出してやるからな。
牢屋を抜け出すのは簡単でした。
ネズミに化けてしまえば、鉄格子なんて大きな門みたいなものだし、人の目なんて簡単に誤魔化せる。それこそ、追ってくるのは猫くらいのものです。
だけど、それはそれで厄介だ。というか、猫に追われるネズミの気持ちが、今日ほど理解できたことはない。
『ちゅーーーーーーー! なんで追い駆けてくるちゅーーーーーー!』
『アヤカ、気が抜けるからやめるんちゃ』
ラティから怒られるのだけど、めちゃめちゃピンチだもの。現実逃避したくなっても当然ちゅ~~。
というか、生まれてこのかた、猫に追い駆けられるなんて考えてみたこともなかったのだけど、実際に追われていると最悪の気分です。
ああ、今度から、ネズミに優しくしてあげよう。
『人気のないところまで行ったら、変身を解いて追っ払うちゃ。それまで我慢するんちゃ』
『我慢しろっていうけど、ひぃ~~~~~』
小型であれども、やはり猫は肉食動物。ライオン、虎、ヒョウ、等々、それらと変わらない狂暴な性格の持ち主です。今の私には、それが痛いほどよく分かります。
そういえば、ロココ――陽菜乃も狂暴だったけど……
う~~~~っ。ネズミだとスピードがでない……足が短い所為ね。あっ、リアルだと短くないんだから、勘違いしないでくださいね。
『あそこを曲がるんちゃ』
『アイアイちゅ~~~』
景気よく返事をしてみたのだけど、もう完全に追いつかれている。
いつ奴等の爪が食いこむか分かったものではない。
「フニャ」
「フシャ!」
『ひぃ~、尻尾はやめて~~~~。私は美味しくないから~~~~』
自虐に走りつつ全力で角を曲がると、そこには白銀の少女が立っている。
先に曲がったラティが変身をといたみたいです。ふ~っ、助かったちゅ~~。
「おまえたち、いい加減にするんちゃ」
「フシャーーーー」
「ウニャーーーー」
突然ラティが現れたことで、猫達が毛を逆立てる。尻尾なんて狸みたいに膨らんでいて、少しだけ愛嬌を感じます。
「さあ、痛い目に遭いたくなかったら、あっちに行くんちゃ」
ラティが睨みつける。すると、猫達はプレッシャーに負けたのか、毛を逆立てたまま斜め歩きで逃げて行った。
その動きがまるでお笑い芸人みたいで、思わず吹き出してしまう。
『ぷぷっ。ざま~~です』
悪党には容赦ないラティも、さすがに動物には甘いようだ。武器を取り出すことはなかった。
ただ、自分の命が危うかったことを考えると、少しばかり複雑な気分です。
それでも、「これで一安心だ」と、安堵したのが間違いだったみたいだ。いや、これはフラグだったのかもしれない。
「誰だ! 曲者!?」
「侵入者か!」
「合図だ」
『侵入者あり。デルモンド大聖堂北十八番ブロック。警備の者は至急駆け付けよ』
衛士が何らかの方法で合図を送ったのだろう。警報が鳴り響く。
結局は、猫に足元をすくわれた格好だ。
ロココ、帰ったら見てなさいよ。って、これは八つ当たりか……
『まずいっちゃ、逃げるんちゃ』
『また逃げるの? いい加減、走るのに疲れたんですけど……』
『アヤカは我儘なんちゃ。だったら、アヤカは置いていくんちゃ』
ラティは冷たくあしらうけど、ネズミで走り回るのは、想像以上に体力を消耗する。
だけど、戦闘の方が、危険が多いのも理解している。それに、私を助けに来てくれているのだ。ここで無理とは言えない。
『ごめん。もうひと踏ん張りします』
『それが正解なんちゃ』
ラティは頷くや否やネズミに変身する。
しかし、その行動は裏目に出てしまった。
「おいっ、変身したぞ」
「ということは、もう一匹のドブネズミも侵入者の変化か!?」
誰がドブネズミですか!? なんて失礼な男! これでも立派なハツカネズミです。
『確かに、アヤカの場合、チッチャネズミ《はつかねずみ》というより、ダルマネズミ《ハムスター》みたいなんちゃ』
『ちょっ、ラティまで……』
これでも頑張ってダイエットしてるのに……しくしく。
「おいっ、逃げられるぞ! 真偽結界だ。急げ!」
「了解しました。発動させます。真偽結界発動。発動完了しました」
『あれ?』
『ん? ラティ、変身を解いたの? うわっ』
視線の先には、いつものラティが居る。というか、人間の姿ではなく魔人の姿だ。
それに、視線が高くなったことを感じて自分を確認すると、自分の変身も解けていた。
理由は定かではないけど、強制的に変身を解除されたようだ。
『それはそうと、アヤカ、なんで水着なんちゃ。ユウスケが言ってたけど、それってスクール水着っていうやつなんよね?』
そう、これはスクール水着。
これには色々と理由があるけど、万年ビキニアーマーのラティに言われたくないです。
『変身が解けた時、裸になるのがお約束ですよね? だから、それの防止策です』
『だったら、普通の服でもいいんちゃ』
『うぐっ……』
やばい。完全に論破されてしまった。
「侵入者は女二人だ。どっちも神官戦士風の格好だ」
「細身の女とぽっちゃり女だ」
「つ~か、細身の方は、めっちゃ可愛いぞ」
「オレは、ぽっちゃりが好みかも」
「細身って、ラティ? それじゃ、ぽっちゃりって? むきーーーーーーーっ! 失礼な奴。くたばりなさい」
アイテムポケットからマシンガンを取り出し、怒りに任せて弾丸をお見舞いする。
一応、不殺を考えて特殊な弾を使っているので、死ぬことはないと思う。まあ、当たり所しだいだけど……
狙いは適当だけど、ばら撒いている数がモノを言う。戦いとは、数の理論なのだよ。数の!
「弾幕というのは、これを言うのです」
四人の兵士に弾丸のプレゼントを進呈し、少しばかり留飲を下げる。
しかし、次なる衛士の行動を目にして、頭を傾げてしまう。
というのも、何を考えたのか、撃たれた衛士が悶絶しつつも鎧を脱ぎ始めたからだ。
「なんで脱ぎ始めるん?」
装備を外し、衣服を脱ぎ始めた衛士を目にして、ラティが不思議そうに首を傾げる。
その間も、衛士の脱衣は進む。そして、それはフル〇ンになるまで行き着く。なんて破廉恥な。
しかし、そこでこの現象の理由に気付く。
「あっ、もしかして……失敗した?」
「何が失敗なん?」
「えっと~、実は不殺を考えて、『脱意』――意識を失う弾を作ったつもりだったんだけど、出来上がったのは『脱衣』の弾だったみたい」
「それって、アヤカの妄想で作ったんよね? 恐ろしい女なんちゃ……ウチに当てたら許さんけ~ね」
ラティが顔を引き攣らせているけど、呑気にしている場合ではない。
ぞろぞろと衛士が駆けつけてきた。
「いたぞ! あそこだ!」
「おい、みんな裸にされてるぞ」
「なんて卑劣で破廉恥な奴」
「間違いなく変態だな」
「変態侵入者発見! 気を付けろ、素っ裸にされちまうぞ」
「アヤカの所為で、変態の仲間にされたんちゃ。ショックなんちゃ」
「むきーーーーーーーっ! 誰が変態ですか! 誰が!」
ションボリと俯くラティの横で、ムキになってマシンガンを連射した私は、結局のところ、不本意ながら素っ裸の男を量産することになってしまった。
はぁ~、この弾は破棄しよう。あっ、その前に、ユウスケに撃ち込むのもありかもです。
この世界は、まさに灰色だ。
青々とした木々は少なく、枯れてしまった草木ばかりが目立つ。
この荒れっぷりは、デトニスどころの話ではない。
「はっくしょん! はっくしょん!」
「どうしたんですか? 風邪ですか?」
前に抱きかかえているマルセルが首を傾げる。
くしゃみの理由は自分でも分からない。単に鼻の粘膜が刺激されただけかもしれない。
それでも嫌な予感が拭えないのは何故だろうか。
現在は、マルセルを抱え、レレアラを背負って空を飛んでいる。乗り物よりもこちらの方が速いからだ。なにしろ道を選ぶ必要がないからな。
ただ、レレアラがしがみ付くことで、大きな二つの果実が背中を圧迫していて、少しばかり罪悪感を抱いてしまう。
もちろん、それが目当てで背負っている訳ではない。移動の間に、この世界のことを教えてもらおうと思ったからだ。
「大丈夫だ。それよりも、なるほど、専属の神官戦士が助けてくれたのか」
「はい。ですが、アミユルは多分もう……本当に申し訳ないことをしました」
自分を助け出してくれた者を想い、レレアラはその美しい輝きを見せる瞳に涙を浮かべる。
その途端、前に抱くマルセルから小突かれる。恐らく慰めてやれという合図だろう。
はぁ~、こういうのは苦手なんだが……
「綺麗ごとで申し訳ないが、そうやって悲しんでいても、その人は浮かばれないと思うぞ。いまは辛いかもしれない。だけど、その人の分まで頑張って生きていくのが、一番の手向けになるんじゃないか?」
「そうですね。どうかアミユルが幸せの天地に召されますように――」
レレアラはこぼれそうになっていた涙を拭って祈りを捧げる。
それが終わるのを待って話を続ける。申し訳ないが、同情している余裕はない。いまこの時も、ラティや綾香がピンチになっているかもしれないのだ。
「それで、この世界のことだが、リューユル教が牛耳っているんだな」
「はい。多くの国が存在しますが、全ての国で布教されています。そして、その影響力は各々の国の力を超えているでしょう」
少し落ち着いたのか、レレアラは元の調子で説明を続ける。
ただ、彼女から得た情報は、少しばかりウンザリする内容だった。
「はぁ~、ほんと、国に宗教がからむと碌なことがないな」
この世界に限らず、地球においても宗教があるが故に起こった戦争は数知れない。
それを考えると、どんな善行も間違った方向に進む可能性があるということだ。
そもそも、善悪なんて価値観の違いもあるのだ。
「あなたからすればそうかもしれませんが、心のよりどころにする者も多いのです」
俺の呟きは、どうやら否定的な意見として受け止めたようだ。レレアラが少し不満そうな声を発した。
ぶっちゃけ、放置でも良いのだが、敢えて弁解させてもらう。
「別に否定してないさ。ただ、宗教が国政に影響を及ぼすのが良くなと思っているだけだ。敬虔な信徒ってのは、得てして盲目になりやすいからな」
「うっ……それは否定できません……」
思い当たる節があるのか、レレアラは黙り込んでしまった。
「おいおい、飽くまでも俺の勝手な考えだから鵜呑みにするなよ」
「いえ、おっしゃられていることは理解できます。ユウスケ様、今回の件については、どうお考えでしょうか」
「おいおい、ユウスケでいい。様付けは勘弁してくれ」
「ですが……わかりました。ユ、ユウスケは、どう考えているのでしょうか?」
敬称を辞退すると、レレアラは一つ頷いて尋ねてきたのだが、なぜか頬が赤いような気がする。おまけに嫌な予感もする。
まさかな……
女が絡むと碌なことがないのだが、不思議と何処に行っても女が絡んでしまう。これは運命という奴だろうか。それとも、何かの力が働いているのだろうか。いや、そんなことを考えても仕方ない。それよりも、レレアラの視線が痛い。早く答えろということだろうか。
「う~ん、情報が少なすぎてよくわからんが、何となく感じているのは、教会が力を得るためのような気がする」
「力を得る? それはどういう意味でしょうか」
「世界が不安定になれば、誰もが心のよりどころを求めるよな? そして、その元凶が聖敵であれば、誰もが喜んで教会に協力するだろ? こっちにあるかは分からないが、聖戦みたいなものさ」
「確かに……元凶を滅ぼすために各国から資金を調達し、勇者を募る……ただ、疑問なのは」
「ああ、マナの行き場だろ? それは俺にも分からん」
「そうですよね」
始めは瞳を輝かせたレレアラだが、マナの行方について首を横に振ると、再び眼差しを伏せてしまった。
どうやら、色々と思い悩んでいるようだ。
はぁ~、仕方ない。助言してやるか……
やはり、美女が塞ぎ込んでいると見過ごせない。もしかしたら、またマルセルから叱られるかもしれないが、少しだけフォローすることにする。
「マルセルの話だと、教皇が絡んでるんだろ? 何かの策略なら、マナの消失についても教皇が知ってるんじゃないのか?」
助言はするが、当然ながら手伝う気はない。冷たいようだが、綾香とラティを連れ戻したら、さっさと撤収だ。
それよりも、皇都とやらには、いつになったら辿り着くのやら……ん? あれは……
「あれって、盗賊ではないですよね?」
「ああ、格好からして……つ~か、なんか嫌な予感がするぞ」
視線の先には六台の車両が走っている。
一台が先行し、五台が追いかけているような雰囲気だが、まだ追われていると決まった訳ではない。
マルセルが期待の籠った視線を向けてくるが、俺の六感が近寄るなと言っている。
「とりあえず、様子を見るか」
進行方向はこちらと同じだが、スピードはこっちの方が遥かに上だ。
見つからないように高度を上げ、様子を覗いながら上を通過する。
というのも、場合によっては無視して行くつもりなのだ。
「助けないのですか?」
「場合によってはな。いまはあまり事を荒立てたくない。装備からして、レレアラを追っていた奴等と同じようだし、ここで通報されては、この後の行動に支障をきたすからな」
「支障ですか……いつも行き当たりばったりですけど……」
マルセルは助けないことに不満がありそうだ。でも、ここは耳を塞ぐことにしよう。
なんて言っている間に、先行していた車両が追い付かれてしまった。どうやら戦闘になりそうだ。
車両から飛び降りた女が青い大剣を構える。もう一人も短剣を抜いた。
うげっ、あれは……早く高度を上げよう。
「あれって、アレージュさんとリルレラさんでは?」
「えっ!? アレージュとリルレラ? 本当ですか!?」
ぐはっ、マルセル、気付くなよ……
嫌な予感が的中して、急いで上昇しようとしたのだが、少しばかり遅かったようだ。
見事にマルセルが気付いてしまった。こうなるとレレアラが黙ってはいないだろう。
「ユウスケ様、いえ、ユウスケ、お願いします。彼女達を助けてください」
「助けてって、最強の聖戦士なんだろ?」
「ユウスケ、根に持っているのですか?」
「そんな訳じゃないが……はぁ~、分かったよ」
レレアラだけならまだしも、嫁から冷たい視線を浴びて断れるはずもない。
「マルセルはレレアラを頼む」
「お任せください」
少し離れた場所に二人を下ろし、アイテムボックスからもっくんを取り出す。
かなり過剰な戦力だが、油断してこんなところまできているのだ。気を引き締めてかかる。
「久しぶりだのう。主殿、少し出番が少なすぎやしないか!?」
はぁ~、取り出した早々に愚痴かよ。だいたい、お前を出す機会が多いのは喜ぶべきことじゃないだろ。まあいいや、とにかくさっさと片付けよう。
群がる男達の背後から襲い掛かり、峰打ちを食らわせていく。
本気でやったら、何も残らなくなるからな。
「ん!? お前は!」
「あっ! 変態さんだ!」
「やかましい。誰が変態だ! 誰が!」
どうやら、向こうも気付いたようだ。本当は会いたくなかったが、こうなっては仕方ない。無視して男共を眠らせてしまおう。
「なにその武器。また変な武器で戦ってる」
「なんだと。某が変な武器だと!」
「おいおい、頼むから自制してくれよ。お前がその気になったら、峰打ちでも塵になっちまう」
リルレラの台詞が癇に障ったのだろう。もっくんが発狂している。
それを宥めつつ、淡々と片付けていく。
実際、こっちが手を出すまでもなく、アレージュは襲い掛かる男達を片付けたはずだ。そこに俺が参戦したのだ。三十人の敵なんて、あっというまに地に転がる。
「お前……どうして……」
「俺としては、見て見ぬ振りをしたかったんだがな」
アレージュの問いかけに肩を竦めて応え、チラリと後ろに視線を向ける。
そこには、小走りに駆けつけてくるレレアラの姿がある。
「アレージュ! リルレラ!」
「レレアラ! 無事だったのか!」
「おねえちゃん! 良かった~~~~!」
抱き合って喜び合う三人の女を眺めていると、少なからず満足感が込み上げてくる。
それに気付いたのか、はたまた同じ心境なのか、マルセルが腕を取り、嬉しそうな顔で見上げてきた。
「よかったですね」
「そうか?」
無視して行こうとしたことが恥ずかしくて誤魔化してみたのだが、マルセルはニコニコ顔で頬を突いてくる。
「ふふふっ。本当は嬉しいんですよね」
「ちぇっ」
見透かされたのが悔しくて、不貞腐れた態度をとってみるが、きっと、これも照れ隠しだとバレているだろう。
今日はやたらと頭を下げられてばかりだ。
目の前では最強聖戦士が跪いている。
「すまない。勘違いとはいえ……それなのに、レレアラまで助けてもらって、何と言って詫びれば良いのやら。本当に申し訳ない」
「変態さんだと思ってたんだけど、見直しました」
「やかましい。それが感謝の言葉か!」
「こらっ! リルレラ、なんてことを言うの。確かに、私の胸の感触で鼻の下を伸ばしてましたけど、恩人に対して失礼です」
「ちょっとまてーーーー! アレージュはいいとして、おまえら姉妹は――」
「そうです。直ぐに鼻の下を伸ばして、いけない旦那様です」
「うぐっ……マルセルまで……」
これだから女が集まると碌なことがないんだ。別に鼻の下なんて伸ばしてね~っての。ダメだ。このままだと奴等のペースに嵌っちまう。さっさと話しを変えよう。
「もういい。それよりも、アレージュ」
「なんだ?」
「レレアラは、お前が連れていけ。ここからは別行動だ。それでいいだろ」
「うむ。私はそれで構わない――ぐがっ」
「待ってください」
レレアラを守れる存在が見つかったのだ。ここで別れるのが妥当だろう。
そう考えて確認してみたのだが、頷くアレージュの頭を押さえたレレアラが割って入る。
彼女の表情を見ただけで、嫌な予感が湧き起こってくる。というか、言いそうなことは理解できる。
「無理だからな」
「ま、まだ何も言ってません」
「どうせ、この世界を助けてくれとか言うんだろ? 無理無理、俺にそんな力はない」
「うぐっ……」
図星だったのだろう。レレアラは押し黙る。
しかし、こればかりは譲れない。そんなことをする義理がない以前に、そんな大それたことは不可能だ。
それでも、彼女は食い下がってくる。
「それでも……あなたしか居ません。あなたの力はアレージュから報告を受けています。あなたなら、この窮地を何とかしてくれると信じています」
「やめてくれ! こちとら死神だぞ! 壊すのは得意だが、世界を救うなんて守備範囲外だ。アレージュからその報告は受けてないか?」
「もちろんしたさ」
「ですが……」
アレージュは頷くが、レレアラは首を横に振る。
すると、何を考えたのか、マルセルが割って入った。
「ではこうしませんか? マナ枯渇の原因を究明する。それは手伝います。そして、それが私達で何とかなる問題なら手を貸しましょう。ですが、無理だと判断したら諦めてください」
「マルセル! だが――」
「良いではありませんか。どの道、二人を助けるために皇都に向かうのですよね? 破壊を気にしないのであれば、ユウスケは最強ですよね」
マルセルはといえば、満足そうに頷いている。いったい何を考えているのだろうか。
「それで構いません。まずは教皇を問い質しましょう」
俺の不満とは裏腹に、レレアラは満足そうに頷く。
本当は言いたいことが山ほどあるが、マルセルの発言が的を射ているだけに言い出せない。
もしかして、これって女難なのだろうか。
ここは裸天国だろうか。
視線の先には屍の山ならぬ裸体の山ができている。
もちろん、それを築いたのは、ほかならぬこの私です。
その光景は、昔の私なら足を進めるのにも苦労したでしょう。
ですが、今の私はそれほどウブではない。相手は一人だけど、それなりにやりまくっていますから。それに、ユウスケの方がたくましいですから……こんなシメジで驚いたりしないです。
「いつまで裸男を量産する気なんちゃ。いい加減、弾を変えるんちゃ。衛士が現れる度に変態扱いされるのは、もう沢山なんちゃ」
「そ、そうですね。追手も居なくなったし、武器を変えますか。それはそうと、ここは何処ですか?」
この建物から逃げ出すつもりでいたのだけど、全く以て建物から出られる気がしない。
逆に、奥へ奥へと誘い込まれているような気すらする。
「ラティ、ここって、どのあたりか分かりますか?」
「う~ん、あんね~」
「うんうん」
「全然わからんちゃ」
「うんがっ」
ほんとこの子はテヘペロが良く似合います。まあ、それほどに可愛いということだと思うけど、いまは感心している場合ではないです。
「どうしましょうか。全然、道が分からないし……」
そう、完全に迷子状態なのだ。それこそ、外が見える窓さえあれば、どうにでも脱出できるのだけど、ひとつも存在しない。
エアバイクで逃げるにしても、通路が入り組んでいて、逆に危険そうだ。
あれこれと脱出方法を考えるのだけど、こういう時に限って良案が浮かばない。
しかし、ラティは何か思いついたみたいです。こちらに視線を向けて頷いた。
「アヤカ、許すんちゃ」
「えっ!? なにを?」
「破壊するんちゃ」
「ああ、そういうことね」
道がないなら作ればいい。壁が立ちふさがるのなら壊せばいい。とっても簡単な方法が残っていた。どうして気付かなかったのだろうか。これも平和ボケという奴かもしれない。そう考えると、偶には戦いも必要なのかもしれない。
「さ~て、景気よく行きますか!」
アイテムポケットからロケットランチャーを取り出して景気づけする。
だけど、トリガを引き絞る指が止まる。
『ラティ、綾香、無事か?』
『えっ!? ユウスケ?』
『ユウスケも来たん?』
頭に響くその声は、まさに神の声でした。といっても、死神だけど……それでも、困った時に必ず現れる旦那様の声です。
『私達は無事よ。場所は~~~』
『先のとんがった大きな建物なんちゃ。ユウスケはどこにおるん?』
『先の尖ったといえば、街の中心にある大聖堂かな? 俺は街から二十キロのところだ。そっちの状況は?』
ユウスケが近くに居る。勝機が見えた。彼がくれば鬼に金棒です。
なんか、ウキウキしてきた。だって、私達を助けに来たんですよね? もう最高!
『アヤカが浮かれて舞い上がりそうなんちゃ』
『こ、こらっ、ラティ!』
『そ、そうか……』
ラティから暴露されて、頬から火が出そうなほどに恥ずかしい。でも、ユウスケも鼻の頭を掻きながら照れているはずです。なんだかんだ言っても恥ずかしがり屋なのです。ほんとに可愛い旦那様です。
『それで、状況は?』
『逃げ出したのは良いのだけど――』
『迷子になってるんちゃ』
『ラ、ラティ!』
別に言わなくていいことまで、なんでもかんでもラティが暴露してしまう。
彼女はそれほどに純朴なのだけど、私としてはとても恥ずかしい。穴があったら入りたいくらいです。
でも、ユウスケはあまり気にしていないみたい。特に茶化すこともなく話を進める。
『それで、どうするつもりなんだ?』
『これから、壁を破壊して逃げるつもりなんちゃ』
『そうか……う~ん』
『どうしたんですか? もしかして破壊はやめろとか?』
ユウスケは何やら考え込んでしまった。というか、破壊の王からダメだと言われるのは心外です。いや、破壊の王はラティかも……
それはそうと、彼が思案するくらいだ。きっと何か考えがあるのだろう。
『もしかして、止めた方が良いですか?』
先読みしてみたのだけど、どうやら早合点だったみたいです。
『いや、逆だ。少し派手に暴れてくれ』
おお~そうきましたか。望むところです。
『了解なんちゃ。それならアヤカが得意なんちゃ』
『ちょ、ちょっと、ラティーーーー!』
『あははははははははは。頼むぞ、綾香。でも、くれぐれも用心しろよ。ラティ、護衛を頼む』
『了解なんちゃ』
ラティに揶揄われてしまったけど、彼から頼りにされて正直うれしい。
「さあ、張り切って壊しますか」
嬉しさを込めてロケットランチャーの引き金を絞る。さあ、ここから破壊の始まりです。




