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さ~て、悪者でいこうか!  作者: 夢野天瀬
09 小話
89/90

86話 破壊の王


 木々はやせ細り、雑草すらしなびている。

 あからさまに生気の欠片しか残っていない世界。

 それでも、なぜか安心してしまった。そう、懐かしき故郷だ。


「いたたた……ここはどこ?」


「この雰囲気からすると、ギガント高原……いや、ギガント荒野というべきかもしれんな」


「えっ!? ギガント!? ルクスルじゃないんだ……」


「多分、消えかかった鏡に入った所為だろうな。この世界に戻れただけありがたいと思うべきだろう」


「確かにそうだけどさ。あっ、それよりも、お姉ちゃん、大丈夫かな? アレージュ、これからどうする?」


 確かに、鏡に駆け込んだものの、全くの無計画だ。これからどうするべきか……


「そうだ。ねえねえ、死神と手を組もうよ。奴等も来てるはずでしょ」


 リルレラの意見も一理あるが……


「奴等がウンと言ってくれるとは思えん。なにしろ、私達は奴等の命を狙ったんだからな。それに、奴等がどこに居るかもわからないんだ。探すために時間を費やすのは無駄だ」


 騙されていたとはいえ、世界の敵に認定して抹殺しようとしたのだ。誰が快く頷くだろうか。


「でも、奴等も仲間を助けに来てるんだよね? 同じ敵を相手にしてるんだから、話せばきっと分かってくれるよ」


 ほんと、こいつは能天気で幸せな奴だ。まあいい、取り敢えず皇都に向かうべきだな。


「その結論は後だ。とにかく皇都にむかうぞ」


「そうだね。今はそれしか方法はないか」


「まずは、移動手段を手に入れるぞ」


「りょうかい!」


 レレアラ、生きていろよ。必ず助け出してやるからな。









 牢屋を抜け出すのは簡単でした。

 ネズミに化けてしまえば、鉄格子なんて大きな門みたいなものだし、人の目なんて簡単に誤魔化せる。それこそ、追ってくるのは猫くらいのものです。

 だけど、それはそれで厄介だ。というか、猫に追われるネズミの気持ちが、今日ほど理解できたことはない。


『ちゅーーーーーーー! なんで追い駆けてくるちゅーーーーーー!』


『アヤカ、気が抜けるからやめるんちゃ』


 ラティから怒られるのだけど、めちゃめちゃピンチだもの。現実逃避したくなっても当然ちゅ~~。

 というか、生まれてこのかた、猫に追い駆けられるなんて考えてみたこともなかったのだけど、実際に追われていると最悪の気分です。

ああ、今度から、ネズミに優しくしてあげよう。


『人気のないところまで行ったら、変身を解いて追っ払うちゃ。それまで我慢するんちゃ』


『我慢しろっていうけど、ひぃ~~~~~』


小型であれども、やはり猫は肉食動物。ライオン、虎、ヒョウ、等々、それらと変わらない狂暴な性格の持ち主です。今の私には、それが痛いほどよく分かります。

そういえば、ロココ――陽菜乃も狂暴だったけど……

う~~~~っ。ネズミだとスピードがでない……足が短い所為ね。あっ、リアルだと短くないんだから、勘違いしないでくださいね。


『あそこを曲がるんちゃ』


『アイアイちゅ~~~』


 景気よく返事をしてみたのだけど、もう完全に追いつかれている。

 いつ奴等の爪が食いこむか分かったものではない。


「フニャ」


「フシャ!」


『ひぃ~、尻尾はやめて~~~~。私は美味しくないから~~~~』


 自虐に走りつつ全力で角を曲がると、そこには白銀の少女が立っている。

 先に曲がったラティが変身をといたみたいです。ふ~っ、助かったちゅ~~。


「おまえたち、いい加減にするんちゃ」


「フシャーーーー」


「ウニャーーーー」


 突然ラティが現れたことで、猫達が毛を逆立てる。尻尾なんて狸みたいに膨らんでいて、少しだけ愛嬌を感じます。


「さあ、痛い目に遭いたくなかったら、あっちに行くんちゃ」


 ラティが睨みつける。すると、猫達はプレッシャーに負けたのか、毛を逆立てたまま斜め歩きで逃げて行った。

 その動きがまるでお笑い芸人みたいで、思わず吹き出してしまう。

 

『ぷぷっ。ざま~~です』


悪党には容赦ないラティも、さすがに動物には甘いようだ。武器を取り出すことはなかった。

 ただ、自分の命が危うかったことを考えると、少しばかり複雑な気分です。

 それでも、「これで一安心だ」と、安堵したのが間違いだったみたいだ。いや、これはフラグだったのかもしれない。


「誰だ! 曲者!?」


「侵入者か!」


「合図だ」


『侵入者あり。デルモンド大聖堂北十八番ブロック。警備の者は至急駆け付けよ』


 衛士が何らかの方法で合図を送ったのだろう。警報が鳴り響く。

 結局は、猫に足元をすくわれた格好だ。

 ロココ、帰ったら見てなさいよ。って、これは八つ当たりか……


『まずいっちゃ、逃げるんちゃ』


『また逃げるの? いい加減、走るのに疲れたんですけど……』


『アヤカは我儘なんちゃ。だったら、アヤカは置いていくんちゃ』


 ラティは冷たくあしらうけど、ネズミで走り回るのは、想像以上に体力を消耗する。

 だけど、戦闘の方が、危険が多いのも理解している。それに、私を助けに来てくれているのだ。ここで無理とは言えない。


『ごめん。もうひと踏ん張りします』


『それが正解なんちゃ』


 ラティは頷くや否やネズミに変身する。

 しかし、その行動は裏目に出てしまった。


「おいっ、変身したぞ」


「ということは、もう一匹のドブネズミも侵入者の変化へんげか!?」


 誰がドブネズミですか!? なんて失礼な男! これでも立派なハツカネズミです。


『確かに、アヤカの場合、チッチャネズミ《はつかねずみ》というより、ダルマネズミ《ハムスター》みたいなんちゃ』


『ちょっ、ラティまで……』


 これでも頑張ってダイエットしてるのに……しくしく。


「おいっ、逃げられるぞ! 真偽結界しんぎけっかいだ。急げ!」


「了解しました。発動させます。真偽結界発動。発動完了しました」


『あれ?』


『ん? ラティ、変身を解いたの? うわっ』


 視線の先には、いつものラティが居る。というか、人間の姿ではなく魔人の姿だ。

 それに、視線が高くなったことを感じて自分を確認すると、自分の変身も解けていた。

 理由は定かではないけど、強制的に変身を解除されたようだ。


『それはそうと、アヤカ、なんで水着なんちゃ。ユウスケが言ってたけど、それってスクール水着っていうやつなんよね?』


 そう、これはスクール水着。

 これには色々と理由があるけど、万年ビキニアーマーのラティに言われたくないです。


『変身が解けた時、裸になるのがお約束ですよね? だから、それの防止策です』


『だったら、普通の服でもいいんちゃ』


『うぐっ……』


 やばい。完全に論破されてしまった。


「侵入者は女二人だ。どっちも神官戦士風の格好だ」


「細身の女とぽっちゃり女だ」


「つ~か、細身の方は、めっちゃ可愛いぞ」


「オレは、ぽっちゃりが好みかも」


「細身って、ラティ? それじゃ、ぽっちゃりって? むきーーーーーーーっ! 失礼な奴。くたばりなさい」


 アイテムポケットからマシンガンを取り出し、怒りに任せて弾丸をお見舞いする。

一応、不殺を考えて特殊な弾を使っているので、死ぬことはないと思う。まあ、当たり所しだいだけど……

 狙いは適当だけど、ばら撒いている数がモノを言う。戦いとは、数の理論なのだよ。数の!


「弾幕というのは、これを言うのです」


 四人の兵士に弾丸のプレゼントを進呈し、少しばかり留飲を下げる。

 しかし、次なる衛士の行動を目にして、頭を傾げてしまう。

 というのも、何を考えたのか、撃たれた衛士が悶絶しつつも鎧を脱ぎ始めたからだ。


「なんで脱ぎ始めるん?」


 装備を外し、衣服を脱ぎ始めた衛士を目にして、ラティが不思議そうに首を傾げる。

 その間も、衛士の脱衣は進む。そして、それはフル〇ンになるまで行き着く。なんて破廉恥な。

 しかし、そこでこの現象の理由に気付く。


「あっ、もしかして……失敗した?」


「何が失敗なん?」


「えっと~、実は不殺を考えて、『脱意』――意識を失う弾を作ったつもりだったんだけど、出来上がったのは『脱衣』の弾だったみたい」


「それって、アヤカの妄想で作ったんよね? 恐ろしい女なんちゃ……ウチに当てたら許さんけ~ね」


 ラティが顔を引き攣らせているけど、呑気にしている場合ではない。

 ぞろぞろと衛士が駆けつけてきた。


「いたぞ! あそこだ!」


「おい、みんな裸にされてるぞ」


「なんて卑劣で破廉恥な奴」


「間違いなく変態だな」


「変態侵入者発見! 気を付けろ、素っ裸にされちまうぞ」


「アヤカの所為で、変態の仲間にされたんちゃ。ショックなんちゃ」


「むきーーーーーーーっ! 誰が変態ですか! 誰が!」


 ションボリと俯くラティの横で、ムキになってマシンガンを連射した私は、結局のところ、不本意ながら素っ裸の男を量産することになってしまった。


 はぁ~、この弾は破棄しよう。あっ、その前に、ユウスケに撃ち込むのもありかもです。









 この世界は、まさに灰色だ。

 青々とした木々は少なく、枯れてしまった草木ばかりが目立つ。

 この荒れっぷりは、デトニスどころの話ではない。


「はっくしょん! はっくしょん!」


「どうしたんですか? 風邪ですか?」


 前に抱きかかえているマルセルが首を傾げる。

 くしゃみの理由は自分でも分からない。単に鼻の粘膜が刺激されただけかもしれない。

 それでも嫌な予感が拭えないのは何故だろうか。


 現在は、マルセルを抱え、レレアラを背負って空を飛んでいる。乗り物よりもこちらの方が速いからだ。なにしろ道を選ぶ必要がないからな。

 ただ、レレアラがしがみ付くことで、大きな二つの果実が背中を圧迫していて、少しばかり罪悪感を抱いてしまう。

 もちろん、それが目当てで背負っている訳ではない。移動の間に、この世界のことを教えてもらおうと思ったからだ。


「大丈夫だ。それよりも、なるほど、専属の神官戦士が助けてくれたのか」


「はい。ですが、アミユルは多分もう……本当に申し訳ないことをしました」


 自分を助け出してくれた者を想い、レレアラはその美しい輝きを見せる瞳に涙を浮かべる。

 その途端、前に抱くマルセルから小突かれる。恐らく慰めてやれという合図だろう。


 はぁ~、こういうのは苦手なんだが……


「綺麗ごとで申し訳ないが、そうやって悲しんでいても、その人は浮かばれないと思うぞ。いまは辛いかもしれない。だけど、その人の分まで頑張って生きていくのが、一番の手向けになるんじゃないか?」


「そうですね。どうかアミユルが幸せの天地に召されますように――」


 レレアラはこぼれそうになっていた涙を拭って祈りを捧げる。

 それが終わるのを待って話を続ける。申し訳ないが、同情している余裕はない。いまこの時も、ラティや綾香がピンチになっているかもしれないのだ。


「それで、この世界のことだが、リューユル教が牛耳っているんだな」


「はい。多くの国が存在しますが、全ての国で布教されています。そして、その影響力は各々の国の力を超えているでしょう」


 少し落ち着いたのか、レレアラは元の調子で説明を続ける。

 ただ、彼女から得た情報は、少しばかりウンザリする内容だった。


「はぁ~、ほんと、国に宗教がからむとろくなことがないな」


 この世界に限らず、地球においても宗教があるが故に起こった戦争は数知れない。

 それを考えると、どんな善行も間違った方向に進む可能性があるということだ。

 そもそも、善悪なんて価値観の違いもあるのだ。


「あなたからすればそうかもしれませんが、心のよりどころにする者も多いのです」


 俺の呟きは、どうやら否定的な意見として受け止めたようだ。レレアラが少し不満そうな声を発した。

 ぶっちゃけ、放置でも良いのだが、敢えて弁解させてもらう。


「別に否定してないさ。ただ、宗教が国政に影響を及ぼすのが良くなと思っているだけだ。敬虔けいけんな信徒ってのは、得てして盲目になりやすいからな」


「うっ……それは否定できません……」


 思い当たる節があるのか、レレアラは黙り込んでしまった。


「おいおい、くまでも俺の勝手な考えだから鵜呑うのみにするなよ」


「いえ、おっしゃられていることは理解できます。ユウスケ様、今回の件については、どうお考えでしょうか」


「おいおい、ユウスケでいい。様付けは勘弁してくれ」


「ですが……わかりました。ユ、ユウスケは、どう考えているのでしょうか?」


 敬称を辞退すると、レレアラは一つ頷いて尋ねてきたのだが、なぜか頬が赤いような気がする。おまけに嫌な予感もする。


 まさかな……


 女が絡むとろくなことがないのだが、不思議と何処に行っても女が絡んでしまう。これは運命という奴だろうか。それとも、何かの力が働いているのだろうか。いや、そんなことを考えても仕方ない。それよりも、レレアラの視線が痛い。早く答えろということだろうか。


「う~ん、情報が少なすぎてよくわからんが、何となく感じているのは、教会が力を得るためのような気がする」


「力を得る? それはどういう意味でしょうか」


「世界が不安定になれば、誰もが心のよりどころを求めるよな? そして、その元凶が聖敵であれば、誰もが喜んで教会に協力するだろ? こっちにあるかは分からないが、聖戦みたいなものさ」


「確かに……元凶を滅ぼすために各国から資金を調達し、勇者を募る……ただ、疑問なのは」


「ああ、マナの行き場だろ? それは俺にも分からん」


「そうですよね」


 始めは瞳を輝かせたレレアラだが、マナの行方について首を横に振ると、再び眼差しを伏せてしまった。

 どうやら、色々と思い悩んでいるようだ。


 はぁ~、仕方ない。助言してやるか……


 やはり、美女が塞ぎ込んでいると見過ごせない。もしかしたら、またマルセルから叱られるかもしれないが、少しだけフォローすることにする。


「マルセルの話だと、教皇が絡んでるんだろ? 何かの策略なら、マナの消失についても教皇が知ってるんじゃないのか?」


 助言はするが、当然ながら手伝う気はない。冷たいようだが、綾香とラティを連れ戻したら、さっさと撤収だ。

それよりも、皇都とやらには、いつになったら辿り着くのやら……ん? あれは……


「あれって、盗賊ではないですよね?」


「ああ、格好からして……つ~か、なんか嫌な予感がするぞ」


 視線の先には六台の車両が走っている。

 一台が先行し、五台が追いかけているような雰囲気だが、まだ追われていると決まった訳ではない。

 マルセルが期待の籠った視線を向けてくるが、俺の六感が近寄るなと言っている。


「とりあえず、様子を見るか」


 進行方向はこちらと同じだが、スピードはこっちの方が遥かに上だ。

 見つからないように高度を上げ、様子を覗いながら上を通過する。

 というのも、場合によっては無視して行くつもりなのだ。


「助けないのですか?」


「場合によってはな。いまはあまり事を荒立てたくない。装備からして、レレアラを追っていた奴等と同じようだし、ここで通報されては、この後の行動に支障をきたすからな」


「支障ですか……いつも行き当たりばったりですけど……」


 マルセルは助けないことに不満がありそうだ。でも、ここは耳を塞ぐことにしよう。

 なんて言っている間に、先行していた車両が追い付かれてしまった。どうやら戦闘になりそうだ。

 車両から飛び降りた女が青い大剣を構える。もう一人も短剣を抜いた。


 うげっ、あれは……早く高度を上げよう。


「あれって、アレージュさんとリルレラさんでは?」


「えっ!? アレージュとリルレラ? 本当ですか!?」


 ぐはっ、マルセル、気付くなよ……


 嫌な予感が的中して、急いで上昇しようとしたのだが、少しばかり遅かったようだ。

 見事にマルセルが気付いてしまった。こうなるとレレアラが黙ってはいないだろう。


「ユウスケ様、いえ、ユウスケ、お願いします。彼女達を助けてください」


「助けてって、最強の聖戦士なんだろ?」


「ユウスケ、根に持っているのですか?」


「そんな訳じゃないが……はぁ~、分かったよ」


 レレアラだけならまだしも、嫁から冷たい視線を浴びて断れるはずもない。


「マルセルはレレアラを頼む」


「お任せください」


 少し離れた場所に二人を下ろし、アイテムボックスからもっくんを取り出す。

 かなり過剰な戦力だが、油断してこんなところまできているのだ。気を引き締めてかかる。


「久しぶりだのう。主殿、少し出番が少なすぎやしないか!?」


 はぁ~、取り出した早々に愚痴かよ。だいたい、お前を出す機会が多いのは喜ぶべきことじゃないだろ。まあいいや、とにかくさっさと片付けよう。


 群がる男達の背後から襲い掛かり、峰打ちを食らわせていく。

 本気でやったら、何も残らなくなるからな。


「ん!? お前は!」


「あっ! 変態さんだ!」


「やかましい。誰が変態だ! 誰が!」


挿絵(By みてみん)


 どうやら、向こうも気付いたようだ。本当は会いたくなかったが、こうなっては仕方ない。無視して男共を眠らせてしまおう。


「なにその武器。また変な武器で戦ってる」


「なんだと。それがしが変な武器だと!」


「おいおい、頼むから自制してくれよ。お前がその気になったら、峰打ちでもちりになっちまう」


 リルレラの台詞がかんに障ったのだろう。もっくんが発狂している。

 それを宥めつつ、淡々と片付けていく。


 実際、こっちが手を出すまでもなく、アレージュは襲い掛かる男達を片付けたはずだ。そこに俺が参戦したのだ。三十人の敵なんて、あっというまに地に転がる。


「お前……どうして……」


「俺としては、見て見ぬ振りをしたかったんだがな」


 アレージュの問いかけに肩を竦めて応え、チラリと後ろに視線を向ける。

 そこには、小走りに駆けつけてくるレレアラの姿がある。


「アレージュ! リルレラ!」


「レレアラ! 無事だったのか!」


「おねえちゃん! 良かった~~~~!」


 抱き合って喜び合う三人の女を眺めていると、少なからず満足感が込み上げてくる。

 それに気付いたのか、はたまた同じ心境なのか、マルセルが腕を取り、嬉しそうな顔で見上げてきた。


「よかったですね」


「そうか?」


 無視して行こうとしたことが恥ずかしくて誤魔化してみたのだが、マルセルはニコニコ顔で頬を突いてくる。


「ふふふっ。本当は嬉しいんですよね」


「ちぇっ」


 見透かされたのが悔しくて、不貞腐れた態度をとってみるが、きっと、これも照れ隠しだとバレているだろう。









 今日はやたらと頭を下げられてばかりだ。

 目の前では最強聖戦士が跪いている。


「すまない。勘違いとはいえ……それなのに、レレアラまで助けてもらって、何と言ってびれば良いのやら。本当に申し訳ない」


「変態さんだと思ってたんだけど、見直しました」


「やかましい。それが感謝の言葉か!」


「こらっ! リルレラ、なんてことを言うの。確かに、私の胸の感触で鼻の下を伸ばしてましたけど、恩人に対して失礼です」


「ちょっとまてーーーー! アレージュはいいとして、おまえら姉妹は――」


「そうです。直ぐに鼻の下を伸ばして、いけない旦那様です」


「うぐっ……マルセルまで……」


 これだから女が集まるとろくなことがないんだ。別に鼻の下なんて伸ばしてね~っての。ダメだ。このままだと奴等のペースにはまっちまう。さっさと話しを変えよう。


「もういい。それよりも、アレージュ」


「なんだ?」


「レレアラは、お前が連れていけ。ここからは別行動だ。それでいいだろ」


「うむ。私はそれで構わない――ぐがっ」


「待ってください」


 レレアラを守れる存在が見つかったのだ。ここで別れるのが妥当だろう。

 そう考えて確認してみたのだが、頷くアレージュの頭を押さえたレレアラが割って入る。

 彼女の表情を見ただけで、嫌な予感が湧き起こってくる。というか、言いそうなことは理解できる。


「無理だからな」


「ま、まだ何も言ってません」


「どうせ、この世界を助けてくれとか言うんだろ? 無理無理、俺にそんな力はない」


「うぐっ……」


 図星だったのだろう。レレアラは押し黙る。

 しかし、こればかりは譲れない。そんなことをする義理がない以前に、そんな大それたことは不可能だ。

 それでも、彼女は食い下がってくる。


「それでも……あなたしか居ません。あなたの力はアレージュから報告を受けています。あなたなら、この窮地を何とかしてくれると信じています」


「やめてくれ! こちとら死神だぞ! 壊すのは得意だが、世界を救うなんて守備範囲外だ。アレージュからその報告は受けてないか?」


「もちろんしたさ」


「ですが……」


 アレージュは頷くが、レレアラは首を横に振る。

 すると、何を考えたのか、マルセルが割って入った。


「ではこうしませんか? マナ枯渇の原因を究明する。それは手伝います。そして、それが私達で何とかなる問題なら手を貸しましょう。ですが、無理だと判断したら諦めてください」


「マルセル! だが――」


「良いではありませんか。どの道、二人を助けるために皇都に向かうのですよね? 破壊を気にしないのであれば、ユウスケは最強ですよね」


 マルセルはといえば、満足そうに頷いている。いったい何を考えているのだろうか。


「それで構いません。まずは教皇を問い質しましょう」


 俺の不満とは裏腹に、レレアラは満足そうに頷く。

 本当は言いたいことが山ほどあるが、マルセルの発言が的を射ているだけに言い出せない。

 もしかして、これって女難なのだろうか。









 ここは裸天国だろうか。

 視線の先には屍の山ならぬ裸体の山ができている。

 もちろん、それを築いたのは、ほかならぬこの私です。

 その光景は、昔の私なら足を進めるのにも苦労したでしょう。

 ですが、今の私はそれほどウブではない。相手は一人だけど、それなりにやりまくっていますから。それに、ユウスケの方がたくましいですから……こんなシメジで驚いたりしないです。


「いつまで裸男を量産する気なんちゃ。いい加減、弾を変えるんちゃ。衛士が現れる度に変態扱いされるのは、もう沢山なんちゃ」


「そ、そうですね。追手も居なくなったし、武器を変えますか。それはそうと、ここは何処ですか?」


 この建物から逃げ出すつもりでいたのだけど、全く以て建物から出られる気がしない。

 逆に、奥へ奥へと誘い込まれているような気すらする。


「ラティ、ここって、どのあたりか分かりますか?」


「う~ん、あんね~」


「うんうん」


「全然わからんちゃ」


「うんがっ」


 ほんとこの子はテヘペロが良く似合います。まあ、それほどに可愛いということだと思うけど、いまは感心している場合ではないです。


「どうしましょうか。全然、道が分からないし……」


 そう、完全に迷子状態なのだ。それこそ、外が見える窓さえあれば、どうにでも脱出できるのだけど、ひとつも存在しない。

 エアバイクで逃げるにしても、通路が入り組んでいて、逆に危険そうだ。

 あれこれと脱出方法を考えるのだけど、こういう時に限って良案が浮かばない。

 しかし、ラティは何か思いついたみたいです。こちらに視線を向けて頷いた。


「アヤカ、許すんちゃ」


「えっ!? なにを?」


「破壊するんちゃ」


「ああ、そういうことね」


 道がないなら作ればいい。壁が立ちふさがるのなら壊せばいい。とっても簡単な方法が残っていた。どうして気付かなかったのだろうか。これも平和ボケという奴かもしれない。そう考えると、偶には戦いも必要なのかもしれない。


「さ~て、景気よく行きますか!」


 アイテムポケットからロケットランチャーを取り出して景気づけする。

 だけど、トリガを引き絞る指が止まる。


『ラティ、綾香、無事か?』


『えっ!? ユウスケ?』


『ユウスケも来たん?』


 頭に響くその声は、まさに神の声でした。といっても、死神だけど……それでも、困った時に必ず現れる旦那様の声です。


『私達は無事よ。場所は~~~』


『先のとんがった大きな建物なんちゃ。ユウスケはどこにおるん?』


『先のとがったといえば、街の中心にある大聖堂かな? 俺は街から二十キロのところだ。そっちの状況は?』


 ユウスケが近くに居る。勝機が見えた。彼がくれば鬼に金棒です。

 なんか、ウキウキしてきた。だって、私達を助けに来たんですよね? もう最高!


『アヤカが浮かれて舞い上がりそうなんちゃ』


『こ、こらっ、ラティ!』


『そ、そうか……』


 ラティから暴露されて、頬から火が出そうなほどに恥ずかしい。でも、ユウスケも鼻の頭を掻きながら照れているはずです。なんだかんだ言っても恥ずかしがり屋なのです。ほんとに可愛い旦那様です。


『それで、状況は?』


『逃げ出したのは良いのだけど――』


『迷子になってるんちゃ』


『ラ、ラティ!』


 別に言わなくていいことまで、なんでもかんでもラティが暴露してしまう。

 彼女はそれほどに純朴なのだけど、私としてはとても恥ずかしい。穴があったら入りたいくらいです。

 でも、ユウスケはあまり気にしていないみたい。特に茶化すこともなく話を進める。


『それで、どうするつもりなんだ?』


『これから、壁を破壊して逃げるつもりなんちゃ』


『そうか……う~ん』


『どうしたんですか? もしかして破壊はやめろとか?』


 ユウスケは何やら考え込んでしまった。というか、破壊の王からダメだと言われるのは心外です。いや、破壊の王はラティかも……

 それはそうと、彼が思案するくらいだ。きっと何か考えがあるのだろう。


『もしかして、止めた方が良いですか?』


 先読みしてみたのだけど、どうやら早合点はやがてんだったみたいです。


『いや、逆だ。少し派手に暴れてくれ』


 おお~そうきましたか。望むところです。


『了解なんちゃ。それならアヤカが得意なんちゃ』


『ちょ、ちょっと、ラティーーーー!』


『あははははははははは。頼むぞ、綾香。でも、くれぐれも用心しろよ。ラティ、護衛を頼む』


『了解なんちゃ』


 ラティに揶揄われてしまったけど、彼から頼りにされて正直うれしい。


「さあ、張り切って壊しますか」


 嬉しさを込めてロケットランチャーの引き金を絞る。さあ、ここから破壊の始まりです。


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