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さ~て、悪者でいこうか!  作者: 夢野天瀬
09 小話
83/90

80 身から出た錆(前編)

皆さま、ご無沙汰しております。

本作品ですが、一旦は完結しました。ですが、思うところがあって、小話を投稿していこうかと思っています。

更新作品が他にもある関係で不定期の投稿となりますが、どうか宜しくお願いしますm(_ _)m


 まるで蟻のようだ。

 この状況を形容するなら、蟻というのが適当だろう。いや、ハチの巣をつついた状況とも言えるかもしれない。

 自然の洞窟を利用した盗賊のアジトでは、汗臭い男達が我先にと逃げ惑っている。


「やばい。逃げろ!」


「敵だ!」


「使徒だ!」


「死神だ!」


「もうだめだ。死神に見つかっちまった……もう終わりだ」


「だから、止めようって言ったのに……」


「助けてくれーーーー!」


 薄汚れた男達がすえた臭いをき散らしながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うのだが、だったら盗賊なんてやんなきゃいいのにと思う。


 こうなることは分かっていただろ。バカな奴等だ。


 必死に逃げ出す盗賊を眺め、呆れて肩を竦める。


 現在の状況だが、いまだ身籠っていないラティ、マルセル、アンジェを連れて盗賊狩りにきている。

 そういうと色々と誤解を生みそうなので、敢えて付け加えると、現時点で身籠っているのは、ロココ、アレット、クルシュの三人だけだ。

 それ以外の者は、国を守る役目があるので、そちらに専念している。

 というか、ぶっちゃけ、親睦会から逃亡した面子でやってきたというのが事実だ。


 因みに、親睦会で決め台詞を残して颯爽と逃亡した訳だが、数日で子供達が恋しくなって天空城に戻ってしまった。

 逃亡組からは根性なしとなじられ、取り残されたエルザ達からは思いっきり説教されてしまった。

 それでも考えは変わらない。国の運営に口を出すつもりはない。


 ああ、サラリと流したが、そう、クルシュとの間に子供ができてしまった。というか、やっちまった……

 もちろん、嫁達からは白眼を向けられることになった。ただ、クルシュは身籠っているというのに、飛び跳ねんばかりに喜んでいた。もう少しお腹の子供のことを気にして欲しいところだ

 まあ、白眼を向けられたのは俺だけで、クルシュは嫁達から祝福されていた。特に、ラティは自分のことのように喜んでいた。


 少し話が脱線したので戻すことにしよう。

 嫁達に国を任せたのは良いものの、特にやることもないので、世の中の悪を排除して回っている。

 とはいったものの、何もかもを俺達がやってしまうと免疫めんえきがなくなってしまう。だから、出張るのは特定の条件に該当した場合だけにしている。そして、その一つが盗賊だ。なんといっても、これだけはなかなか消えてなくならない。まるで、台所の黒い悪魔のような存在だ。

 そんな相手を国に任せていると、どうしても後手に回ってしまうこともあって、大変申し訳ないのだが、世の中の見せしめになってもらう。

 そう、「盗賊なんてやってたら、死神に狩られるぞ」という具合だ。

 実際、その効果は出ている。なにしろ、親が子供をしつけるのに、「悪さをすると死神に狩られるぞ」なんてことわざができたくらいだ。

 ほとんど、ナマハゲ状態なのだが、死神の恐怖を目にした者も多く、やたらと効果が出ているようだ。


 またまた話が逸れてしまったのだが、この時も、うちの元気な嫁達は、容赦なく盗賊を捕獲している。もちろん、無益な殺生をしている訳ではない。


「おらおらおら! 逃げんな! ぶっ飛ばすぞ!」


「アンジェさん……それじゃ、逃げますよ」


「大丈夫なんちゃ。うちが逃がさんっちゃ」


 アンジェが鉄パイプとロングバールを振り回しながら息巻く。当然、盗賊達は顔を引きらせて逃げ惑う。

 それを目にしたマルセルが、それ見たことかと溜息を吐く。

 呆れるマルセルの横では、ラティがいつもの如く速射で盗賊達を貫いていく。ただ、これまでと違うのは、その矢が刺さる位置だろう。

 本来なら一撃で敵をあの世送りにする彼女の矢は、的を外すことなく盗賊の脚に突き立っている。


「アンジェは武器を仕舞え! お前がそんなもんで殴ったら、盗賊なんか即死じゃんか。物言わぬ残骸になるぞ! それと、転がってる奴等を転移陣にぶち込め」


「ちぇっ、いつもオレだけ汚れ役なんだよな……」


「別にそんなつもりはないが、マリルアで事務仕事でもするか?」


「ちょっ、ちょっとまて、それだけは勘弁してくれ! ちょっと魔が差しただけだ。ほら、お前等、さっさとあの中に入れ! ちっ、動けね~のか! 面倒だ。ほれっ!」


 不平を漏らすアンジェに事務仕事の従事をほのめかすと、途端に態度を変え、矢を食らって動けない盗賊の襟首えりくびを掴んで転移陣に投げ込み始めた。

 盗賊がぶち込まれている黒い転移陣だが、その先はジパングではなく、魔国に造った施設に繋がっている。

 そう、こいつら盗賊は、強制労働施設行という訳だ。

 きっと、日本なら大変な騒ぎになる行為だが、盗賊を軒並み死刑にする訳にもいかない。だからといって、牢屋にぶち込んで無駄飯を食わせる訳にもいかないのだ。

 そこで考え出したのが強制労働施設だ。こいつらは、そこで汗水流して働き、自分達が育てた作物を食べて暮らすことになる。

 もちろん、これまでの罪滅ぼしとして、生産した作物の大部分を販売することによって得た利益を被害者の慰謝料に回している。

 まあ、俺達としては、大変なばかりでなんの利益がないのだが、それで世の中が良くなるのなら、無益なことではないと自分達に言い聞かせることにしている。


「た、助けてくれ!」


「ま、まだ死にたくねーーーー!」


「お、お願いだ。これからは真面目に働くから」


「お、お慈悲を……」


 動けない盗賊達が、迫りくるアンジェを目にして命乞いする。

 怯える盗賊を前にして、アンジェが面倒くさそうに溜息を吐いた。


「はぁ~、根性なし共が……別に殺したりしね~よ。さっさと入れ。くそ面倒くせ~」


 ぶつくさと文句を言いながら、盗賊を転移陣に放り込む。

 美しい見た目と相反して、その所作はガサツ極まりない。それが残念でならないのだが、彼女が乙女モードになった時のギャップが堪らなかったりする。

 そんなアンジェを目にしたマルセルは、その乱暴な態度を快く思わなかったのか、溜息を吐きつつ肩を竦める。ただ、直ぐに盗賊をさとし始める。


「殺したりしません。向こうでは真面目に働いてくださいね。そうすれば、今よりも真面な生活ができると思います」


 そもそも、強制労働施設を推奨したのは、聖女ことマルセルだ。

 彼女の言い分からすると、盗賊を始めた者達は、初めから道を間違えていた訳じゃなく、働き口がないことや人に騙されて路頭に迷った者も多いらしい。

 当然、怠け者や根性のねじ曲がった者も居るが、それほど多くないという。

 まあ、そういう奴は、向こうで酷い目に遭うことになるので心配していない。


「あらかた片付いたんちゃ。あとは……」


 目に映る限りの盗賊は、全てラティに脚を撃ち抜かれて倒れていた。ただ、それを見回した彼女は、その美しい瞳をこっちに向けてきた。

 そう、他の敵がいないのかと言いたいのだろう。


「ん~、壁の向こうに隠れ部屋があるみたいだ。四人ほど隠れてるぞ。でも、逃げ道はなさそうだし、先に転がってる奴等を送るとしようか」


「了解なんちゃ」


 奴等としては上手く隠れているつもりかもしれないが、マップ機能を騙すことは出来ない。

 肩を竦めつつ事実を伝え、隠れている奴等を放置して、アンジェと一緒に転がる盗賊を転移陣へと放り込む。

 向こうでは、クリス、エミリア、ルミアの三人が待ち構えているはずだ。


「ほれっ! さっさと入れ!」


「動けん? だったら、もう一発食らえば動くようになるかもなんちゃ」


 ぽんぽんと盗賊を放り込んでいると、少し離れたところからラティの非情な声が聞こえてきた。

 その途端、そればかりは御免だとばかりに、盗賊は這う這う(ほうほう)の体で転移陣に自分から突入する。


 ふむ。なかなか上手い作戦だな。


 彼女にならって日本刀を抜き放つと、盗賊が青ざめた顔で転移陣に逃げこむ。


 よしよし、それでいい。ん?


 とても怪我をしているとは思えない勢いで、次々に転移陣に入る盗賊を見て満足していると、ふと視線を感じる。


「誰だ!?」


 慌てて感じた方向に視線を向けるのだが、そこには土の壁があるだけだ。しかし、ラティも同じく視線を感じたのか、鋭い眼差しで同じ方向を睨みつけていた。


「またか……」


「ここ最近、多いっちゃ」


「そうですね。私も時々感じます」


「なんか、気持ち悪いんだよな。どこの誰だ? 覗き見なんて趣味の悪いことをしてる奴は! 見つけたら唯じゃおかね~」


 不気味に感じて思わず声が漏れる。すると、ラティ、マルセル、アンジェ、三人が頷いた。

 どうやら、みんなも同じように視線を感じるのだろう。


 ちっ、誰だかは知らんが、勝手に見んなよな。視聴料を取るぞ、こんにゃろ。


「まあ、ここで騒いでも仕方ないか……さっさと盗賊を片付けるぞ」


 腹立たしく思いつつも、みんなに声をかけ、転がる盗賊を残らず転移陣にぶち込んだ。









 隠れていた盗賊を捕らえるべく部屋の壁を空牙で排除すると、予想もしていなかった者とご対面することになった。


「くっ、こんなところまで……ゴキブリみたいな奴等だ」


「先生、どうすんだよ。見つかったじゃね~か」


 髪の薄い男が毒を吐き、人相の悪い男が責任転換を始めた。

 すると、その二人の背後に居た豚がわめき始めた。


「なんて奴等だ。お、おいっ、何とかしろ。お前等、使徒なんだろ!?」


「お父様、ここは逃げましょう」


 豚の手を取った年若い女は、すぐさま逃げる判断を下したようだ。


 うむ、なかなか賢い女だ。しかし、こんなところに隠れていやがるとは……つ~か、どっちがゴキブリだ。このゴミ共!


 そこに居たのは、行方が分からなくなっていた三宅と天村あまむらだ。いや、それだけではなく、さっさとマリルア王城からとんずらした元王様と元王女だった。

 こんなところで再会するとは思っても見なかったが、これはこれで行幸だ。


「逃げたと思ったら、今度は盗賊の親玉か? ほんと最低な奴等だな。ゴキブリ以下だぞ? ああ、悪いけど逃がさん。亜空間結界!」


 毒のお返しをお見舞いしつつも、即座に転移できないように結界を張る。

 途端に、発光石によって明るさを保っていた洞窟が、真っ黒な世界に塗りつぶされる。そして、明かりの魔法を唱えると、顔を引き攣らせた四人が再びお目見えした。

 これで元王女ケルトルが転移の魔法を使っても逃げ出せないはずだ。


「こ、これは?」


「ああ、逃げ出せないように結界を張らせてもらったよ」


 結界と聞いて、ケルトルが顔を引き攣らせる。

 多分、転移ならこの場から逃げ出せると、安易に考えていたのだろう。だが、精神体に比べれば、転移が使えるだけの者を閉じ込めるなど、赤子の手を捻るよりも容易いことだ。


「ユウスケ、どうするんちゃ? さすがに、こいつらは始末するん?」


 奴等のこれまでの行動をかえりみて、ラティは生かしておく必要がないと考えたのだろう。ただ、こういう時のために、綾香に頼み込んで作ってもらったものがある。


「まあ、ここは任せてくれ」


「おいっ、またか! ユウスケ、また独りで美味しいとこ取りか!」


「はぁ~、別にそんなつもりじゃね~し。だいたい美味しくないだろ」


 アンジェからクレームを頂くが、こっちとしては代わってもらえるのなら、即座に進呈したい気分だ。

 溜息を吐きつつも、気を取り直して奴隷の首輪をアイテムボックスから取り出す。


「奴隷の首輪ですか? なんか、嫌な思い出しかありませんが……」


 首輪を見た途端、マルセルが顔をしかめるのだが、これは奴隷の首輪に見えて非なるものだ。

 そう、これこそが綾香に頼んで作ってもらった必殺アイテムだ。


「ちっ、何をする気か知らんが、そう簡単にやられるか!」


「そうだ。お前等が死ね!」


「結界!」


 奴隷の首輪を目にした三宅が唾を吐くと、天村が現在の状況も考えずに稲妻を放つ。だが、それはマルセルが作り出した結界に阻まれて、こっちに届くことはない。ただ、奴等はそういう訳にもいかなかったようだ。


「ぐあっ!」


「うぐっ」


「あぎゃーーーー!」


「くっ……」


 アホだな……完全に自爆じゃんか……


 奴等は、天村の放った電撃を浴びて呻き声を漏らし、ピクピクと痙攣けいれんしている。

 放った本人まで食らっているところが傑作だ。俗にいう自業自得という奴だ。ああ、他の三人に関しては因果応報かな。


「ほんと、面白いというか、愚かな奴等だな。まあ、手間が省けていいんだけどな」


 本当は時間停止の能力を発動させようと思っていたのだが、それすら必要がないみたいだ。

 呆れて肩を竦めつつも、動けなくなった四人に首輪を嵌める。


「よし、完了だ。さてと――」


 四人に首輪をめ終わったところで、亜空間結果を解除する。

 すると、元王女ケルトルがうつろな表情のまま、豚王の手を取って魔法を発動させようとする。ところが、呼吸が止まったかのようにあんぐりと口を開けた。


「転移……えっ!?」


「ああ、その首輪がある限り、魔法も固有能力も使えないからな。おっと、無理に外そうとしたら、死ぬぞ? ああ、死にたいのならどうぞ。別に止める気はないからな」


 そう、これこそが狙いなのだ。

 トキシゲ――ファルゼンを滅し、精神体を討伐したいま、殺生を続けるのもどんなものかと考えた。ただ、残った召喚者をどうやって大人しくさせようかと悩みに悩んだ。その結果、見出した答えは、生きて己が罪を償わせるというものだ。

 そうなると、当然ながら邪魔になるのが、奴等が持っている固有能力や魔法だ。

 そこで、一つの案が浮かんだ。それは、エルソルの塔、いや、あの島のことを思い出したのだ。そして、エルソルに尋ねてみると、とても簡単な答えが返ってきた。


「マナを遮断すればいいのよ。もちろん、固有能力は別の場所からマナを供給されてるけど、それも同じよ。あと、マナ吸収の能力も付け加えた方がいいわよ」


 悪を捌くと聞いて、エルソルはノリノリで色々と教えてくれた。


「固有能力と魔法が使えないだと!?」


「そ、そんな馬鹿な!」


 説明を聞いた三宅と天村が、焦って固有能力を発動させようとする。だが、何も起こらないと気付いたのか、顔を青くして慌て始める。


 ぶっちゃけ、力が使えても、俺達には勝てないんだけどな。さてと……


「これで終わりだ。これもお前達がやって来たことを考えれば、当然の結末だ。命があるだけありがたいと思え。これからは汗水流して働けよ」


 黒い転移陣を作り出し、騒ぐ四人を放り込む。


「あとは……荒木達、四人で終わりだな」


 転移陣を消し、ほこりを払うために両手を叩く。


 あと四人を捕まえてしまえば、一旦は召喚者の問題は終わる。

 そう考えると、途端に気が軽くなってきたのだが、デコ電がブルブルと水を差す。


 い、嫌な予感がする……


 不安な気持ちがデコ電に負けず劣らず心を震わる。助けを求めるつもりでマルセルに視線を向けると、彼女は眼差しを伏せて首を左右に振っていた。

 どうやら、助けてはくれないようだ。

 ガックリと肩を落としつつもデコ電の液晶を見ると、筆頭妻のエルザではなく、勇者麗華の名前が表示されていた。


 ん? 麗華から? 珍しいな……いや、もしかしたら、ピンチなのか?


「もしもし、麗華、どうしたんだ?」


 携帯電話を好まない麗華からの連絡だと知り、疑問を抱きながら受話する。


『ユウスケ! 大変ですわ』


 やっぱり……トラブルか……


「どうしたんだ?」


『マリルア州に巨人が!』


 嫌な予感に圧し潰されそうになりながらも麗華の言葉を待っていると、酷く動揺している彼女の口から、想像を絶する事態が告げられた。









 巨人、巨人、巨人……間違っても読○ジャイアンツではない。

 だからといって、伝説の巨神兵でもないだろう。腐ってくれていると面倒がなくて良いのだが……

 実のところ、魔法が当たり前のこの世界においても、巨人なる生き物は存在しない。それを考えると、嫌な予感がますますつのる。


「なあ、この世界に巨人なんていないよな?」


「うちも初めて聞いたんちゃ」


「ああ、オレも聞いたことがない」


「私も知りません」


 この世界の住人であるラティ、アンジェ、マルセル、三人が揃って首を横に振った。

 一応、確認のために聞いてみたのだが、予想通りの言葉だ。


 マジで嫌な予感がするんだが……


 連絡をもらって速やかにマリルアの王城に駆け付けると、麗華、ロココ、ルルラ、美麗、妻二人と子供二人が笑顔で迎えてくれた。

 彼女達と熱い抱擁ほうようを交わして幸せな気分に浸る。しかし、いつまでもそうしている訳にもいかない。


「それで、どこに現れたんだ?」


「マリルア州の北部、ローデスとの国境にある山岳地帯ですわ」


「でも、朝になると消えたみたいニャ。まるでダイダラボッチニャ」


 麗華が出現した場所を教えてくれたのだが、なぜかロココはアニメのネタを披露した。

 もちろん、ダイダラボッチなんて知らない面々は、疑問の表情を顔に貼りつけていたが、それが何であるかを尋ねようとはしなかった。いや、聞き流せない者も居たようだ。


「ロココママ、ダイダラボッチって――」


「いったい、なんニャ?」


 美麗とルルラがコテンと首を傾げている。


「ダイダラボッチはニャ――」


 思いっきり自慢げなロココが娘二人を相手に説明を始めた。ただ、彼女が口にしている内容は嘘八百だ。というか、風土記ふどきですらなく、単にアニメの話だった。

 まあ、それはどうでも良いことなので放置して、麗華に状況を詳しく聞くことにする。


「それが、夜になると突如として現れるとのことでしたわ。いまのところ、大した被害は出てないのだけど、昨夜はふもとで目撃されたので――」


 確かに、山の中を歩き回る分には、好きにしてくれって感じだが、人里に現れたとなると放置もできんよな。被害が出る前に、何とか対処する必要があるだろうな。


「私が出張っても良かったのですが、こちらの仕事も山積みですし、ユウスケやラティに飛んでもらった方が早いと思って……」


 かつての勇者も、いまや一児の母として、また管理職として、色々と大変そうだ。

 なにしろ、旦那は好き勝手してる訳だし、ここは喜んで問題を引き取るべきだろう。

 実際、管理職の仕事については、真面目で頭の良い彼女に向いているように思えるのだが、国の運営はそれほど容易たやすいことでもないのだろう。少しばかり疲れが見てとれる。


「大丈夫だ。俺達に任せとけ。それよりも、少し休んだ方がいいんじゃないか? 顔色が悪いぞ?」


「いえ、そういう訳にもいきませんわ」


 ご機嫌取りではなく、正直な気持ちで、無理をしないようにと気遣うのだが、彼女は強い責任感を持っているだけに、首を縦に振ることはなかった。ただ、なにやら物欲しそうな眼差しを向けてきた。


『あの~』


『ああ、分かってる』


挿絵(By みてみん)


 おずおずと伝心で声をかけてくる麗華の気持ちを察して、他の者を気にしつつも二つ返事で頷いた。









 星々が輝く空の下を、巨大な白竜の背に乗って突き進む。

 時間的には、既に深夜を過ぎている頃合いだ。

 マリルア王城を出発したのは、凡そ五時間前だ。

 それは、麗華の欲求だけを満たしたことで、他の者達から白眼を向けられた時刻と、おおむね一致している。

 ここ最近、妻達との夜の営みを疎かにしていたこともあって、誰もが不公平だと口にしたが、全員の相手をしている時間もなく、一晩だけ待ってもらうことにして出発した。

 ただ、嫁達の不満に関しては、それが身から出た錆だと思うと、言い訳の一つも口にできない。

 真面目に夜の営みも頑張る必要がありそうだ。

 なんか、頑張る方向が違うような気がしないでもないが、これも夫婦の営みが大切であることを考えると、当然のことだと思う。


「それにしても、巨人か……いったいどこから現れたんだ? まさか異世界から入り込んだのか?」


「精神体のことを考えると、否定もできませんが、可能性は低いでしょうね」


「うんなもん、悩んでもしょうがね~。いきゃ分かるさ」


 一緒についてきたマルセルとアンジェが、各々の考えを口にした。

 まあ、アンジェの返事は全く以て正論なのだが、なんとも彼女らしい発言だ。

 ただ、毎度になりつつある行き当たりばったりの行動は、何とかしたほうがいいかもしれない。


 それはそうと、やっぱり……なんか、嫌な予感がするんだよな~。いや、大丈夫だ。何とかなるはずだ。


 理由は分からないが、嫌な予感がいつまでも心を捕らえて放さない。

 その度に、根拠のない言葉で自分を落ち着かせる。


『そろそろ到着するんちゃ』


 いまも自分自身に言い聞かせて不安を払拭していると、ラティが到着を知らせてきた。

 視線を前に向けると、月に照らされた大きな山が見える。


「あれか」


「普通の山みたいですけど」


「巨人は居ないみたいだな」


 マルセルとアンジェが、続いて感想を口にすると、急にラティが慌て始めた。


『あれ? あれれ……まずいんちゃ』


「ど、どうしたんだ、ラティ!? 大丈夫か?」


「なんか、面積が小さくなってないですか?」


「縮んでるのか?」


 突如として慌て始めたラティが心配になる。だが、彼女から理由を聞く前に、マルセルとアンジェは異変に気付いたようだ。


「変身が解けてるのか? やばい! ラティ、直ぐに降下しろ」


『りょ、了解なんちゃ~~~~~~~~』


 こりゃ、間に合いそうにないぞ……それなら……


 急降下しながらも、みるみる小さくなるラティの背中を目にして、即座に別の手段を執る。


「マルセル、アンジェ、掴まれ!」


「はいっ!」


「おうっ!」


 二人が掴まると、すぐさま飛翔を使って空に飛び立つ――そのつもりだった。だが、飛び立……てなかった。


「なんでだーーーーーーーーー!」


 固有能力が使えない理由を考える余裕もなく、二人を抱いたまま、ただただ絶叫をあげる。


「きゃーーーーーーーーー!」


「うおーーーーーーーーー!」


 アンジェとマルセルの絶叫も聞こえてくるのだが、そこで背中に重さが加わった。


「完全に解けたんちゃーーーー!」


「あっ、ラティ、良かった……って、良くないよな……」


 そう、ラティが追いついたのだ。だが、ちっとも良くないし、喜べる状況でもない。


 くそっ、どうする!? 浮遊! 瞬間移動! くっ、全部だめだ! こうなりゃ、ヤケクソだ!


「ファイアーボム!」


 直ぐ近くに迫った高い木々に爆裂の魔法をぶちかます。

 すると、物の見事に魔法が炸裂し、そこら一帯が吹き飛ぶ。そして、その爆風で落下速度が和らぐ。

 我ながら見事な対処だ。これで無事に着陸――なんて上手い話にはないらない……


「魔法は使える……マルセル、結界だ!」


「はいっ! ホーリーウォール」


 魔法が使えると知って、すぐさま守りを頼むと、マルセルが保護の魔法を発動させた。


 これで少しは衝撃を緩和できるか……あとは、ド根性だ! おりゃーーーーーーー!


 ラティを背中に担ぎ、右腕でアンジェ、左腕でマルセル、三人を抱えたまま焼け焦げた山の斜面に、落下の勢いのまま降り立つ。


 こちとら、伊達に人外になってる訳じゃね。この程度でくたばって堪るか。


「ぐおっ!」


「きゃっ!」


「うおっ!」


「んちゃ!」


 物凄い衝撃が身体を襲ってくるが、身体系魔法と保護魔法のお陰で、取り敢えず無事に着地することができたようだ。ただ、両脚が見事なまでに膝上まで埋まっている。

 両腕で抱えていたアンジェとマルセルは拙いと感じたところで放り出し、ラティはタイミングを見計らって自分で飛び降りたみたいだ。


「みんな、大丈夫か?」


「うっ……うう……ユウスケ、大丈夫なん? 脚がないんちゃ」


 いやいや、幽霊じゃあるまいし、脚はあるからな。


「私も問題ありません。ユウスケは……」


「ああ、オレも大丈夫だ。てか、ユウスケ、なに地面に埋まって遊んでるんだ?」


「ああ、楽しいぞ。お前もやってみるか?」


 自分の事はさておき、すぐさま三人の状況を確認する。

 ラティ、マルセル、アンジェ、三人とも問題なさそうだ。

 もちろん、アンジェから放たれたジョークには、肩を竦めて軽口で返す。

 ただ、俺の方はと言えば、怪我こそないのだが、両脚が焦げた地面に埋まって身動きできない状態だ。


「くくくっ、ほれっ! てか、こりゃ、どういうことだ?」


 ニヤリと笑んだアンジェが地面からの脱出を手伝ってくれたのだが、色々とに落ちないようだ。直ぐに表情を顰め面に変えた。

 それについては同感だ。そして、理由は分からなくとも、現在がどういう状況であるかは理解できている。


「アンジェ、ありがとう。ああ、固有能力が使えないみたいだ」


「でも、魔法は使えました。これって……」


 マルセルは直ぐに状況を察したようだ。いや、アンジェも気付いたようだ。顔を青くしている。


「まさか……」


「塔と同じなんちゃ」


 口籠るアンジェの続きをラティが口にする。その途端だった。地面が揺れ始める。

 嫌な予感に襲われて周囲を見渡すと、いまだ健在な高い木々の向こうから、黒く巨大な影が夜空へと延びる。


「ちっ、まさか、このタイミングでお出ましか? なんとも都合のいい奴だ」


「おいおい、こりゃ、デカすぎるだろ!」


「あれが巨人……」


 その巨大な姿を目にして嫌味を口にすると、アンジェが呆れ、隣に立つマルセルが絶句している。

 それも仕方ないだろう。なにしろ、その大きさはと言えば、まさに某もののけアニメに出てきたダイダラボッチサイズなのだ。いや、それどころか、やたらと酷似している。


「うちの竜化よりも大きいんちゃ……」


「ラティ、今は落ち込んでる場合じゃないぞ。取り敢えず、このまま戦うのは不利だ。一旦、退避するぞ」


 項垂うなだれるラティをなだめ、身体能力の低いマルセルを抱き上げると、恥も外聞もなく巨人の調査を放り出して逃げの一手に転じた。


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