52話 秘密
何もかもを焼き焦がすような灼熱の日差しが照り付け、その熱で焼かれた大地が、全ての生物を干上がらせるかのような反射熱を遠慮なく放っている。
身を焦がすような熱を受けて、ここ魔国が他の地域よりも遙に過酷な場所であることを否応なしに認識させられる。
「準備はよいか」
「いつでもいいぜ」
尋常ではない圧力を感じながらも頷くと、ローデス王国の国王ハルケルアこと義経が、ジワリと間合いを詰めてくる。
現在の状況だが、義経と魔国の闘技場で対峙している。
もちろん、一般市民の歓声などはなく、数人の仲間がジッと見詰めているだけだ。
義経はジパング産の日本刀を持ち、俺も爺ちゃんからもらった日本刀を両手に、正眼の構えで向かい合っている。
日本刀での戦いであるが故に、まるで日本で果し合いでもしているかのような光景だ。
「なかなかやるな。隙が見当たらん」
「我流なんだけど……」
義経が褒めてくれるのだが、刀を持った戦い方を誰かに習った訳ではないので、本当にこれで良いのかは全く分からない。いや、俺の戦闘技術についてより、こうなった経緯を話すべきだろうか。
そう、それは義経と対面した時のことだった。
質素だが厳かな雰囲気のする静かなサロンで、義経の復讐話を聞かされて猛烈に感動していた。いや、完全に感情移入してしまった。
まるで、自分の大切な家族が殺されたかのような気分にさせられたのだ。
自虐的な言葉を口にする義経にもそう答えたが、もし、エルザが、ロココが、麗華が、マルセルが殺されたら、きっと冷静な心を失い、ただひたすらに死を撒き散らすだろう。そして、彼女達に手を掛けた者を地の果て、いや、異次元の果てであろうとも、その者に惨たらしい死を与えるまで、どこまでも追い続けるだろう。
そして、義経の気持ちに同調してしまった俺は、ミストニア王国の消滅、いや、ファルゼンの討滅を約束した。
ただ、そう感じたのは、俺だけではなかった。後ろに立つエルザ達も力強く賛成してくれた。
そういった流れで、ファルゼンを倒す話しになり、話題はファルゼンと相対した時のことに行き着いた。
すると、その話を聞いた義経が、驚愕しつつ「やはりな」と零した。
「やはり、とは?」
「奴には何かの秘密があるようだ。私も奴の首を刎ねたことがあるのだが、その時も死ぬことはなかった。それにしても、塵にしても生き返るとは……」
「さすがに、あれには愕然としたよ」
義経はこれまでも何度か対峙したことがあり、同じように奴を討ち取ったことがあるらしい。だた、彼の話では、俺が受けた印象ほどの戦闘力は持っていなかったようだ。
「お主の力を疑う訳ではないが……もしよければ、私と模擬戦をやってくれないだろうか。どうにも、奴がそれほどの戦闘力を持っているとは思えぬ」
「それは構わんが、訓練施設とかでも良いのか?」
義経の希望では、できる限り全力に近い形で行いたいとのだったので、初めは装甲車内の訓練場にしようかと思ったのだが、是非とも魔国に行ってみたいという希望もあったので、致し方なく魔国の演習場を借りることになったのだ。
こうして現在の状況に至る訳だが、魔国に義経を連れてくると、クルシュが腰を抜かすほどビックリしていたのは言うまでもないだろう。
おまけに、アンジェがオレも戦いたいと言ったのは、今更なので敢えて話すこともないだろう。
ジリジリと焼けるような日差しを浴びながら向かい合っていると、その様子に焦れたのか、クルシュが口を挟んだ。
「いつまで睨み合っておるのじゃ? 日が暮れてしまうのじゃ」
まあ、確かにそうなんだが、隙がなくて攻撃しづらいんだよな……まあいいか、取り敢えず、いつものようにやってみるさ。
覚悟を決めた俺は、即座に瞬間移動を発動させると、五メートル先に構えた義経の背後から攻撃をしかける。
ところが、義経はまるで背中に目を付けているかの如く、瞬時にその場から飛び退くと、間合いを取り直した。
おいおい、チラリとも振り向かなかったのに、よくわかったな……
「やるな。さすがは、邪竜を倒すだけのことはある」
「まだまだ、これからさ」
義経の足元に空牙を発動させ、彼の足を封じると、瞬間移動を使って後ろから斬りつける。
だが、彼は背中を向けたまま、その攻撃を受けるだけではなく、振り切られる力を逃がすように受け流す。
上手く受け流されたことで、一瞬だけ身体のバランスが崩れてしまう。そこに、すかさず斜め上方から刀を切り下ろしてくる。
だが、その程度でやられる訳にはいかない。
即座に横移動でその斬り下ろしを避けると、瞬時に横に回り込み、横振りの一撃を見舞う。
横からの攻撃に避けられないと判断したのだろう。義経はその一撃を刀で受けるが、自分から横に飛んで威力を削ぐ。
「さすがは義経だ。弁慶を翻弄しただけのことはあるな」
「ふふふ。懐かしい話だな。だが、お主は、まだまだ奥の手を隠しているだろ」
そう、まだ本気ではない。確かに身体を使った攻撃はこれが目一杯だが、まだ時間停止の能力も使っていない。
だが、彼も固有能力保持者だ。持っている能力が、転生に関わる力だけではないはずだ。
そんな俺の思考を察したのか、今度は義経の方から攻撃を仕掛けてきた。そして、その攻撃は、喉に向けた刺突だった。
こんな攻撃じゃ、やられんぞ?
その攻撃を見定め、易々と躱してしまう。
ところが、その途端、横腹が痛みを訴えた。
くっ……こりゃ、どういうことだ?
予想外の攻撃を食らい、混乱しつつもすぐさま間合いを取る。
だが、勝機はここだと言わんばかりに、義経が突き掛かってくる。
今度こそはと、その攻撃に対して余裕を持って躱すのだが、腕に、足に、腹部に、全身に痛みを加えられる。
おいおい、いったいどんな攻撃なんだ? 全く正体が掴めないぞ。
間違いなく、義経が手を抜いて攻撃してくれているから、この程度で済んでいるのだが、本当なら首が飛んでいてもおかしくない。
ちくしょう。全然わかんね~。多分、あの刺突攻撃に何かの秘密があるはずなんだが……
得体の知れない技に翻弄されて、対処法すら思いつかない。
しかし、やられてばかりもいられない。立て続けに繰り出される次の刺突攻撃に、一か八かの勝負を懸けることにした。
すると、意気込みを察知したのか、義経はニヤリと微笑むと、すぐさま刺突の構えをとる。
間違いなく、次の太刀打ちが終決になると読んだのだろう。
次の瞬間、俺と義経の視線がぶつかる。
義経の踏み出しが地面を震わせた途端、時間停止の能力を発動する。
すると、時が止まる……刺突を繰り出す姿勢の義経を始め、観戦している嫁達、空を飛ぶ鳥、風に舞う埃、生有るものから生無きものまで、ありとあらゆるものが時を停止させている。そんな世界で、自分だけが動くことができるのだ。
そして、時が動き出す。まるで止められた事実など無かったかのように、当たり前の時が戻ってくる。
義経が放った刺突の先には何もなく、彼の横には俺が立っている。
右手に持つ刀の切先は、義経の首に突き付けられ、皮一枚で止められている。
静まり返っていた演習場の観覧席では、大きな喝采と拍手が起こる。それは、俺の勝利を喜ぶと共に、義経の強さを称賛するものでもあった。
さすがは、俺の嫁だ。敬意というものを知っている。
自分の嫁の素晴らしさを嬉しく思っていると、義経が声を掛けてきた。
「強い! よもや、これほどとは。まさか、私の攻撃が躱されるとは思ってもみなかったぞ」
義経は心から感服しているようだった。
ただ、最終的には勝ったが、彼がその気になれば、もっと早くケリがついていただろう。それを考えると、完全に俺の負だ。
「いや、これが本当の戦いだったら、俺の負けだよ」
正直なところを口にすると、義経はニヤリとした笑みを浮かべる。ただ、思うところがあったのだろう。すぐさま、首を横に振った。
「いや、あの地面を抉った攻撃を私自身に向けていたら、間違いなく、そこで終わりだっていたはずだ。それにしても、その身体能力は凄いな」
確かに巨大な空牙を放てば、あっさり終わったかもしれない。
いや、本当にそうかな? どうせ、身軽な義経のことだから、サクッと避けたんじゃないのか? こりゃ、俺もまだまだ修行が足らんということだな。
どちらにしても負けていたような気がするし、仮に勝っていたとしてもギリギリだったはずだ。
それもあって、これまで以上に鍛える必要があると感じてしまう。
そもそも空牙での戦いなんて、そんなものは殲滅であって戦闘ではない。なにしろ、ただのチートだからな。だから、敬意を持った相手との戦いをそんな攻撃で終わらせるなんて、全く以て考えもしていなかった。
「私の攻撃は確かにお主を捉えたが、それは能力を使って、やっとのことだ。しかし、お主は違う。きっと、魔法や能力を使わない戦闘をしたならば、私はお主の足元にも及ばなかっただろう。私も修業が足らんということだな」
凄いな。一国の王であり、何度も転生を行って、この世界に君臨している存在が、そんな風に考えることができるなんて……俺も見習わないとな。
「ささ、そんなところで友情を育んでないで、城でお茶でもしようぞ」
義経と力をぶつけ合ったことで芽生えた友誼に浸っていると、それまで観客席に居たクルシュが、文字通りの茶々を入れてきた。
紫を基調とした静かなサロンで、俺と義経は座り心地のよいソファーに腰を下ろしていた。
そう、刀を交えたことで、俺達はさらに親睦を深めた。それこそ、親友と呼んで差し支えないほどの関係になった。
「それにしても、このサロンはとても良いな。特にこの色彩がいい」
魔王城の一室となるサロンの様相を眺めていた義経が、何度も頷きながら感嘆の声をあげた。
どうやら、義経は紫がお好みのようだ。
だが、その後に、俺達を驚かせる台詞が続いた。
というか、初めてこの城にきた時から義経の様子がおかしいと思っていたのだが、ここにきてその理由が初めて解ったのだ。
「クルシュワーラ殿よ。其方は本当に美しいな。もしよければ、私の妃にならぬか?」
義経の放った一言で、サロンに居た誰もが凍り付く。
どうしたんだこの男……一気に威厳が消えてなくなったぞ? だいたい、俺の女を口説くなよな!
まあ、まだクルシュを嫁にするとは決まっていないのだが、少しばかり腹立たしさが込み上げてくる。
クルシュはといえば、扇子で顔の半分を隠すと、チラリとこちらに視線を向けてくる。
「ローデスの王と聞いておったが、なかなかに見る目があるのじゃ」
ぬっ、こいつ、喜んでるだろ……てか、その眼差しは何が言いたいんだ?
なにやら、クルシュの方も満更でもなさそうなのだが、もの言いたげな視線を外すと、己が想いを口にした。
「じゃがな、妾はユウスケの虜じゃ。もう心に決めておるのじゃ」
まさか断られるとは思っていなかったのだろう。今度は義経が凍り付く。しかし、次の瞬間には、襲い掛からんばかりの勢いで立ち上がった。
「ユウスケ、あれだけ沢山の女を連れておるのだ。一人くらい私に譲ってくれてもよかろう?」
あの~、義経のキャラが一気に変わったんだけど……もっと、陰のあるニヒルな男だったよな?
「いや、それは、俺が決めることじゃないし……それに、ここで俺が頷いたら、何もかもが台無しだと思わないか?」
「そ、そうだな……ユウスケ、悪かった。クルシュワーラ殿、失礼した」
女性は物じゃないぞ的な発言をすると、義経はハッとしたかと思うと、直ぐに頭を下げた。
だいたい、一途なお前に感動したんだが……
残念な義経を目にして、すっかり呆れてしまったのだが、クルシュは気にしていないというよりも、とても嬉しそうにしている。
「構わんのじゃ。妾の美貌のせいじゃからのう」
なんか、クルシュが生き生きとしてるんだが……まあ、そんなことは、どうでも良いのだ……いや、良くないが、少し脱線しすぎだ。
「話を戻すが、ファルゼンを倒すには、あの異様な生命力を何とかする必要があると思うんだ。だが、全く糸口が掴めないんだ」
「うむ、あれほどの力を持つユウスケがお手上げなのじゃ、この世に倒せるものなど居るまいて」
話を元に戻すと、クルシュが絶望的な表情で頷いた。
すると、元の状態に戻った義経が、己が疑問を露わにする。
「ユウスケの戦闘力と対峙した時の話からすると、奴はどうやって戦闘力を身に付けたのだろうか。そもそも、ファルゼンが戦えるなんて考えてもいなかったのだが……」
そう、俺と義経の認識には、大きなギャップがある。
俺が対峙したファルゼンは、並外れた戦闘能力と黒い魔剣を手にしていた。しかし、義経が言うには、以前から不死身性はあったものの、戦闘力については皆無とのことだった。
そうなると、やっぱりアレだろうな……
誰もが押し黙る中、今までに感じていた疑問を話すことにした。
「この前のテルン平原の戦いで感じたんだが、戦闘に参加した者は気付かなかったか? あの兵士達の中に、多くの能力者がいた。ざっと見ただけで二百人以上は居ただろう。しかし、能力保持者がそんなに都合よくいるとは思えん。それも、あの時の能力は過去にも見たものばかりだった。何かおかしいとは思わないか?」
「そうね。そう言われると、使われた能力は、恐らく三つ――」
エルザが最後まで説明する前に、ロココが割って入った。
「死人と魔獣、あと、身体能力強化かなニャ?」
どうでも良いが、最近の語尾には、ニャが少ないくないか? いいかげん、止めればいいのに……
「それも複数の者が同じ能力を使ってるはずですわ。そうでないと、あれだけの魔獣なんて召喚できるはずがないですわ」
麗華が自分の考えを付け加えると、義経が眉間に皺を寄せる。
「それはおかしいぞ。固有能力とは、似たような力はあっても、同じものはないはずだ。だから複数の人間が同じ固有能力を持つなど在り得ん」
それは、初めて知る事実だった。というよりも、それくらい教えてくれても良かっただろ、エルソル。てか、そうなると、いったいどういうことなんだ?
「それじゃ、あの能力は何なんだ? 身体能力強化については分からんが、魔獣召喚と死人使いは、どう見ても佐々木と伊豆本の劣化版だったぞ」
少しばかり混乱し始めると、頭脳派のエルザが、謎は解けたと言わんばかりに胸を張った。
「分かったわ。能力を真似る能力を持っている者がいて、その力を誰かに譲渡する能力を持っている者がいるのよ」
エルザのなぞ解きを聞いた途端、すぐさま麗華に視線を向ける。その視線は、決して甘く熱いものではなかったはずなのに、彼女は頬を染めて頷いた。
「私の知る限りでは、そんな能力保持者はおりませんでしたわ」
そうなると、召喚者以外にそんな能力を持った者がいるということになる。いや、そんな能力を持っていることも問題だが……ただ、その能力でファルゼンが力を得ていると考えると、これまでの謎が解けるのも確かだ。
「ふむ。あいつは、他の者から能力を写し取っているのだな」
誰もが辿り着いたであろう結論を義経が口にした。
そのタイミングで閃いた。そう、これまでのこと、これまでの流れが、この為だったのだと。
「わかった!」
一同がこちらに視線を注ぐ。
しかし、皆の視線など気にせずに話し始めた。
「召喚を行ったのは、このためだったんだ。召喚者に何かさせる必要はないんだ。奴は初めから能力を写し取るために俺達を召喚したんだ」
慌てて結論を口にすると、ロココが首を傾げる。
「だったら、荒木、伊豆本、佐々木はどうして刺客として他の国に行ってたの……ニャ」
もうやめろよ、その語尾……もう有っても無くても意味ないじゃん。
もう完全に崩壊し始めたロココの語尾に呆れながらも、自分の考えを伝える。
「多分、写し取ったから、捨て駒として使われたんだ」
それを聞いた麗華が立ち上がる。
「もしかして、私達の逃走をあれほど執拗に追いかけて来たのは……」
「ああ、まだ写し取ってなかったからだろう」
麗華は表情を強張らせ、わなわなと震えている。
どうやら、かなり頭に血がのぼっているようだ。
「これで奴のやっていることは全て解った。あとは不死の秘密だけだな」
最後に、この話を聞いていた義経が奴の戦闘力についての議論を締め括った。
続けて不死の能力についての議論となったが、これに関しては、何の推測や憶測さえもできずに終わった。
ただ、誰もが沈み込んだ状況で、俺が一番気になっていたことは、全く別のことだった。
そう、それは、この場にラティの姿がないことだ。
会議を終えた後に、ラティが居ないことについて、クルシュに尋ねた。
確か、闘技場で模擬戦をやってた時には居たはずなんだが……
何が楽しいのか、クルシュはニヤニヤとした笑みを湛えていた。だが、俺が眉を吊り上げると、扇子で口元を隠しつつ、ラティが居ない理由を教えてくれた。
「あの子は、少しばかり体調を崩して部屋で寝ておるのじゃ」
それは初耳だ。もっと、早く教えてくれると良いのに……
クルシュの態度に反感を持つのだが、そこで違和感を覚える。
だって、ラティが体調をくずしているという割には、クルシュが心配しているように見えない。
その態度を怪訝に感じていると、彼女は直ぐに話を続けた。
「部屋に行ってやるが良いのじゃ。その方があの子も喜ぶじゃろう」
クルシュがニヤけた顔で視線を向けてくる。
彼女の勧めもあって、疑念を抱きながらも、少しばかり不安に感じながらラティの部屋に向かった。
ラティはこの魔王城で王女として扱われており、広い部屋を割り当てられている。
村人に虐められて一人で旅をしていたとは思えないほどに、待遇が一気に完全されている。
今では、ラティの強さをどこで知ったのか定かではないが、臣下の者達も彼女のことを崇拝しているようだ。
まあ、アンジェ辺りが暇つぶしに模擬戦でも挑んだのだろう。
ラティの部屋の前までくると、すかさず厳かな雰囲気の漂う扉をノックする。
「開いてるっちゃ」
ん? 元気そうじゃん。
ノックをすると、直ぐに彼女の返事があった。もしかしたら、クルシュがデコ電で教えたのかもしれない。
ただ、そのことよりも別のことが気になる。というか、いつも通りの声色を聞いて安堵する。
ラティの了解をもらい、その歴史を感じさせる扉をゆっくりと開くと、ベッドの側面に足を投げ出して座っているラティの姿があった。いや、それはラティではなかった。いやいや、それはラティのはずだ。
そこに座っていたのは、可愛らしい幼女ではなく、エルザまではいかないが、ロココよりはやや年上風の少女が座っていた。
そして、ベッドに座る美しく可憐な少女は、唖然としている俺に話し掛けてきた。
「どうしたん?」
その声と口調は、どう考えてもラティだ。いや、その様相もラティだと思える。だが、俺の知っているラティより、大きく成長した美少女なのだ。
もしかして、指輪の力か? 模擬戦の時は、いつもの幼女姿だったし……
「ラティか? 指輪で姿を変えてんのか?」
首を傾げつつラティに声をかけると、彼女は俺の真似でもするかのように首を傾げた。
「どうしたん? うち、ラティだよ? 相貌の指輪も使ってないっちゃ」
どうやら、彼女はラティらしい。というか、ラティと言うよりラティーシャと呼んだ方が似合うかもしれない。
「ラティ、いったい何があったんだ? 一気に成長してないか?」
「うん。あんねぇ、うちねぇ、女になったんちゃ」
いや、前から女の子なのは知っているが……あ、もしかして、アレがきたのか? 赤飯か?
俺の考えを察したか、彼女は少し恥ずかしそうにコクリと頷く。
「うちら魔人族は、節目、節目で成長するんちゃ。人間族とかみたいに、日に日に成長する訳じゃないんちゃ」
うっ、これも初めて知った事実だ……
「じゃけ~ね。うち、もうユウスケの子供作れるんよ」
飛び跳ねんばかりに嬉しそうなラティ。というか、実際にベッドの上を飛び跳ねている。
それとは裏腹に、完全に硬直してしまう。いや、それも仕方ないだろう。彼女は、少女の姿に成長した彼女は、とても、とても、可憐な美少女なのだ。
そんなラティに名前を呼ばれるだけで、ベッドで飛び跳ねる彼女の如く、心臓が飛び跳ねそうだ。
「どうしたん? そんなとこじゃなくて、こっちに来て欲しいっちゃ」
少し落ち着きを取り戻した美少女ラティは、これまで以上に可愛らしい笑顔で手招きをする。
言われるが儘に側に近寄るのだが、なぜか動悸が収まらない。
それを知ってか知らでか、彼女は飛びついてきた。そう、いつもそうするように抱き付いて来たのだ。だが、彼女の頭は俺の直ぐ目の前にあった。
以前なら、腰に飛びついてくると、彼女の頭は胸より下の位置になるはずなのだが、現在の彼女の頭は顎くらいの位置だった。
「そんなにびっくりしたん?」
「ああ、びっくりしたってもんじゃないぞ」
「あはは」
ラティは驚いた姿が楽しいのか、ニコニコとしている。
「ユウスケ。うち、可愛い?」
少し伸びた白銀の髪をキラキラと輝かたラティは抱き着いたまま、綺麗な金色の双眸を上目遣いにして尋ねてくる。
今のお前を見て可愛いと思わない奴なんて居ないだろ! めちゃめちゃ可愛いぞ! ぶっちぎりで魔国の国民的アイドル間違いなしだ。
「ああ、可愛い。めちゃめちゃ可愛いぞ」
「嬉しいっちゃ」
彼女は顔を赤らめながらも嬉しそうにする。そして、そのしなやかな腕を首に回してきた。
「うち、ユウスケのお嫁さんになりたいんちゃ。ええかな?」
確かに、めっちゃ可愛いし、直ぐにでも嫁にしたいのだが、彼女が何を想って俺と結婚したいのかを知りたい。
出会いからしてかなり特殊だったし、彼女が何を考えて、俺のことをどう思っているのかを知りたいのだ。
「なあ、ラティ。なんで俺と結婚したいんだ?」
少しだけ首を傾げるラティだったが、直ぐに笑顔で答えてくる。
「びびっときたっちゃ、始めて見た時から、この人だって解ったっちゃ」
あはは! あははははは! あはははははははは! そう言えば初めからそう言ってたな。なんか、笑っちまったぜ。
そうだな、ラティは変わってないんだな。初めからその想いで寄り添ってきたんだな。すまん。悩んでいた俺が馬鹿だったんだ。
「うむ。分かった。ラティ、俺の嫁になってくれ。必ず幸せにするぞ」
「うん。なるっちゃ。ユウスケの嫁になるけ~ね。うちもユウスケの力になっちゃ」
これ以上ないほどにラティが声をあげて喜ぶと、部屋の扉が行き成り開いた。
「おめでとう。ラティ」
先頭のエルザがラティを祝福する。その顔は筆頭妻のものではなく。これまで一緒に戦ってきた仲間の幸せを願うような笑顔だ。
「エルザ、ありがとうっちゃ」
ラティも嬉しくて堪らないのか、その金色の相貌に涙を浮かべながら礼をいう。
「ラティ、ずるいニャ。そんな美少女になるなんて、いんちきニャ。チートニャ……でも……おめでとうニャ」
ロココは不平を口にしながらも、ラティを祝福する。間違いなく、この不平はただのポーズだろう。
「ロココ、うち、嬉しいっちゃ。ロココも頑張るんよ」
ラティは「次はあなただよ!」と、言わんばかりにサムズアップする。
そして、ここに居る誰もが、みんなでラティを祝福し、その後は、身内だけのパーティータイムとなった。




