30話 ロココの野望とミレアの食事
小鳥が騒がしい。いつもの温もりがない。
ああ、もう朝なのか。う、う、う、足が重い。きっと、ラティだわ。
体を起こすと、ラティと二人きりで一緒の布団で寝ていた。
ん? ユウスケ君はもう起きたみたいね。
何を隠そう、わたしは磯崎陽菜乃。今は可愛い猫娘ロココなのだ。
ん? 語尾にニャがないって?
あはは、あれはわざとニャ、いやいや、わざとなんだよ。
確かに、獣人族は語尾に特徴があるのだけど、転生者である私は、実のところ普通に話せたりする。
ただ、照れくさいから、ついつい語尾をつけてしまう。
ということで、今回は私が主役よ。にゃはははは。
思い起こすと磯崎陽菜乃としての人生って何だったの? って思うの。
学校では、村上君の誘いを断っただけで虐めに遭い。家では母親に邪険にされて、楽しかったことなど何もない。
唯一の喜びは、ユウスケ君に出会えたこと、それだけ。
そう、彼と出会えたことは、わたしにとって最高に嬉しいことだった。彼と話しているだけで幸せになれた。
彼とのひと時だけが、わたしの人生における最高の瞬間だった。
でも、わたしは死んでしまって……
この世界のお父さん、お母さん、ファーガ姉、みんな優しかった。初めてと言って良いくらいの幸福感だった。
そう、とっても、とっても、幸せだったの。だけど、だけど、だけど、ある日突然、盗賊に襲われて大好きだったお父さんとお母さんは死に、わたしは奴隷になってしまった。
そんな時に助けてくれたのは、またまたユウスケ君だった。もう嬉しくて嬉しくて涙が出ちゃった。銅貨の所為で、お尻も痛くて泣いちゃったけど……責任とってくれるよね? ねえ、ユウスケ君。
「おはようっちゃ」
「おはようニャ」
ラティが起きたみたい。
この子はライバルだけど、可愛くて大好きなの。
何のライバルって? そんなの恋のライバルに決まってるじゃない。
「ユウスケ様は起きたん?」
「そうみたいニャ」
これはいつものことね。
いつもユウスケ君が先に起きて、わたしが起きる。最後にラティが起きるの。
昨日は、サクラさんのこともあって大変だったけど、今日からはダンジョンではっちゃけるのだ。
それじゃ、朝ごはんを食べにいこうかな。
「ラティ、ご飯ニャ。行くニャ」
「うん!」
ラティと一緒に脱兎の如く布団から飛び出す。ああ、彼女は魔人族で、わたしは猫娘だから、飽くまでも比喩だけど、アレットなら比喩ではなくなるよね。
懐かしい匂いを漂わせる畳の間、う~ん、いい匂い。懐かしい匂いが気持ちを温かくする。
そこに置かれた大きな木製の座卓に、懐かしい料理がずらりと並んでいる。
鮭のような焼き魚に、ノリ、味噌汁、卵焼きに、うげっ! 納豆がある……前世でもあまり好きじゃなかったけど、猫人になってからは、この臭いが最悪なのよ……
ただ、猫人になった所為か、前世より魚が大好きになっちゃった。
「懐かしいな~。これ、おっ、すげ~うまい。最高だ~~~!」
ユウスケ君が大きな声で騒いでいる。彼にしては珍しい。
これまで食べ物であれこれ言わなかったし、あまり食に興味がないのかと思っていたけど、そうでもなかったみたいね。
ああ、そういえば、昨日の宴会の時も涙をこぼしてたっけ。まあ、わたしも懐かしくて泣いちゃったけど……
そっか、ユウスケ君は、やっぱり日本料理がいいんだね。
私も料理の勉強とかもした方がいいのかな?
きっと、包丁の使い方は上手いと思う。だって、私の武器はダガーだもの。でも、さすがに断裂と炎裂で料理はできないよね? 材料が大変なことになりそうだ。
血まみれの肉と燃え上がる魚なんて、誰も食べたいと思わないものね。
「ほ、ほん、ほんと、美味しい。懐かしい、うっううううう」
あらあら、鈴木さんが泣き出しちゃった。
まあ、私のように生まれ変わったのならまだしも、行き成りこの世界に連れて来られた訳だし、その気持ちも分からなくはないけど……
「ラティ、納豆を食べるなら、あっちに行くニャ! 臭いニャ」
この臭いを何とかして欲しい。唯でさえ臭いに敏感なのに、納豆とか最悪だわ。
というか、ラティは気にならないのかな。ガツガツ食べてるけど。
「臭いが嫌らなら、ロココがあっちに行くんちゃ」
む~~~! あっちに行ったら、ユウスケ君から遠くなるじゃない。もう、意地悪なんだから……ラティのバカニャ!
「まあ、ロココさんの気持ちは分かります。私も納豆は苦手です。懐かしくても、さすがに食べる気になれませんね」
「そうニャ、そうニャ。だいたい、これは腐った豆ニャ!」
あまりの臭さに、思わず、顔を顰める鈴木さん同意してしまった。ああ、生産量ナンバーワンの水戸市の皆さま、本当にごめんなさい。
ああ、鈴木さんと言えば、実は、それほど蟠りはない。
初対面の時は、虐められていた頃のことを思い出して神経質になっていたけど、彼女が虐めに加わっていた訳ではないし、あの状況で手を差し伸べる人なんていないのも理解している。だって、逆らったら自分が獲物になるのだし……
例外は、ユウスケ君だけだよ。あなたは、わたしにとって最高の存在だわ。
「それより、ロココ、さっさと食べるんちゃ。子供のところに行くんちゃ」
そうだった……呑気に惚気ている場合じゃなかった……
さあ、わたしもさっさと食事を済ませて、子供達のところに行くとするニャ。
難民施設、そこは思ったより快適な場所だった。
そこにあるのは、日本風のお寺みたいな建物で、とても情緒のある雰囲気が漂っている。
庭には池があり、石や灯篭が置かれ、その直ぐ脇には梅の木が植えられていて、とても美しい。
それに、建物の周りには、青々とした竹がところ狭しと生えていて、静かな雰囲気が落ち着いた気分にさせてくれる。
ユウスケ君がもらった屋敷とこの施設は、大京都の北西の隅に位置している。
街から離れていることもあって、喧騒が全く入ってこない、落ち着いた場所だ。
ここから東に向かって進むと『試練の洞窟』と呼ばれるダンジョンがある。
いつでもダンジョンに行けることを考えると、最高の環境だと思う。
ほんと、あの殿様って、何でもかんでも分かってるんじゃないのかなニャ?
「じゃ~、みんなで行くニャ」
「「「「「は~~~い」」」」」
「うちも行くっちゃ」
「私もピョン」
今日は百二十人の子供を連れて、ダンジョンに遠足なのだ。
残りの子供や年老いた人は、ここに残って食事や薪割りなどの手伝いをするみたい。
嫌という子に無理強いしたくないし、まだ三歳にもならないような子供もいる。
ただ、物心が付いた子供たちは、みんな参加したいと言ってきた。
この辺りは、やはり日本とは違う。みんな生きることに真剣だ。
それは、転生したわたしが一番よく理解している。
今日は、珍しくユウスケ君と別行動だ。
ただ、子供達にはパーティーアイテムを渡してあるので、完全なる養殖だよね。
どうやらユウスケ君の能力で、ダンジョン内に居れば経験値の共有ができるみたいなの。だから、今日は子供達にチュウチュウ吸わせてあげるのだ。
そして、ふふふっ。柏木軍団を創設するニャ。
因みに、ユウスケ君は、わたし、ラティ、アレットを抜いたメンバーで、ガンガン進むらしい。でも、私達は子供達に基本的な戦闘を教えながらだから、よく進めても精々が地下三階くらいかな。
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫ニャ」
「大丈夫なんっちゃ」
ユウスケ君、私の『ニャ』は可愛いかな? にゃははは。
大丈夫、大丈夫、心配しなくても、ちゃ~んと柏木軍団を作り上げるからね。あっ、ユウスケ君が身震いしてる。
「どうしたニャ」
「いや、ちょっと寒気がしてな」
にゃははは、さすがに感が良い。まあ、あなたが気付かない内に仕上げるから大丈夫だよ。
隣で、ラティも瞳を輝かせてるし、将来が楽しみだわ。
「じゃ~、出発するぞ! ってか、これじゃ幼稚園か小学生の遠足みたいだな」
「偶には明るくて良いじゃない」
「そうですね。みんな可愛い……」
ヤバイニャ。エルザは良いけど、ミレアが涎を垂らしてるニャ。
男の子達のピンチニャ。
あ、焦って語尾が……
ミレアから子供達を守りつつ、ダンジョンに到着したんだけど、まずは入口のモンスターを片付けてもらおうかな。
「入口のモンスターを掃除してほしいニャ」
「そうだな。入れそうなら、伝心で連絡する」
「了解ニャ」
ユウスケ君と精鋭班が先に入って行く。まあ、入り口周りの敵なんて、彼が入っただけで消滅しそうだけど。
「じゃ、みんな槍を持ったかニャ?」
「「「「おーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」
うは~~~、みんなが一斉に返事をしたものだから、耳がおかしくなりそう。
今回の作戦は、私とラティが敵を引き付けて、みんなで袋叩きにするのだ。
そう、名付けて『みんなでやれば怖くニャい』だ。
『いいぞ』
お、ユウスケ君から連絡がきた。
『ありがとうニャ』
『直ぐ行くっちゃ』
「みんな入るニャ」
子供達の元気の良い返事が聞こえてくる。
さて、出発進行!
中に入ると、まだユウスケ君達がいた。でも、モンスターは居ないみたい。
「じゃ、今日の目標は地下四十階だからな、俺達はガンガンいくぞ」
「いってらっしゃいニャ」
ということで、私達は地下一階を隈なく回ることにしたのだけど、一階は『人魂』でした。
これって、槍でどうやって倒すニャ~~~~~~~!
結局、大勢の子供達を引率して、地下三階まで行ってきた。
そう、散々と暴れて、もう帰還ずみなのだ。
というか、もう大変だったなんてもんじゃなかったわ。
みんな、怯えるかと思えば、好き放題に突貫していくし、なぜかモンスターは妖怪ばかりだし、もうクタクタ。
ほんと、保母さんとか、学校の先生とか、みんな尊敬するよ。ああ、わたしの元担任はゴミだったけどね。
ユウスケ君の話だと、奴もミストニアに居るんだよね。絶対に報復してやるわ。
ラティを見ると、彼女も畳の上で、座布団を枕にぐったりしている。よっぽど疲れたのね。こりゃ~、柏木軍団を作るのも楽じゃなさそうだわ。
あとは、申し訳ないけど、ユウスケ君が戻ってきた時に、レベルチェックをしてもらう予定なの。あわよくばスキルの取得もお願いする。
疲れているところに、ごめんニャ。きっと、語尾を『ニャ~~~ン』にすれば、間違いなくやってくれるはず。
「ただいま~~」
あ、帰ってきた。えっ!? 今までぐったりと転がっていたラティが、飛び起きて走っていった。速過ぎるニャ! まるでロケットニャ!
「おかえりっちゃ~~!」
ああ~~~っ! なに飛びついてるのよ~~。ドサクサに紛れていつもベタベタしてさ。偶にはわたしに譲ってくれても良いじゃない。
「おかえりニャ。どうだったニャ」
「おう、ここのダンジョンはレベルが高かったぞ。それに出て来るのが妖怪ばかりだ」
やはり、下層も妖怪ばかりなんだ。どんなのが出たのかな?
「一番苦労したのが、カラス天狗だな。速いなんてもんじゃない。魔法すら避けられたからな」
それは凄いな~、わたしでも対抗できるかな?
「ユウスケニャ。みんなのレベルを見て欲しいのニャ」
「ええ~~~~、百二十人だろ?」
「そうニャ」
案の定、眉間に皺を寄せて渋っている。
よし、ここだ~~~~~~! 抱き着いて甘えるのニャ!
「おねがいっちゃ~~~!」
ぐはっ、またもやラティに先を越された。マジか、この魔人!
ラティが彼のお腹の辺りに抱き着いたまま、飛び跳ねながら甘えている。
ぐぐぐぐ~~~~、やはり侮れぬ。いや、羨ましい……ラティめ、如何にしてくれよう。
「あ、あ、分かった、分かったから。その代わり、今日は半分な。残りは明日だ」
ふぇ~~~~ん、シクシク、ラティに全部持っていかれた~~~~!
おまけに、彼女がユウスケ君に隠れて、勝ち誇ったニヤリ笑顔を向けてきた。
ぐぅ、悔しい……お風呂だって一緒に入ってるし、もはや、わたしも脱ぐしかないようね。とうとうその時が来たのね。まだ、ペッタンコのツルツルだけど……
已む無く柏木軍団の野望を一時中断して、わたしはユウスケ君の恋人の座をラティと奪い合うことにした。
~~~~~主役交代 ユウスケ登場~~~~~~~~~~
今日は本当に疲れた……
ダンジョン攻略も、アンジェの暴走でかなり大変だったが、帰ってから全部で七十人のステータスチェックとスキル取得を行ったのだ。疲れない訳がない。
子供達は、俺達の経験値を恐ろしく吸い捲っていて、一日でレベル18まで上がっていた。これって、どんな養殖場? って感じだ。
次に、麗しき脳筋アンジェも、これまでの戦闘と今日のダンジョン攻略でレベル30になった。本人は全然満足していないが、一日でどれほど上げるつもりだったのだろうか。
今回のスキルで特記すべきなのは、とうとうエルザが無詠唱魔法師になったことだ。
基本レベルも70近くになったし、これで彼女は、この大陸で二番目の魔法師になったはずだ。
残念ながら、一番の魔法師はエミリアだ。彼女は今日の攻略でレベル80を超えた。そして、複合魔法師になるべく地属性魔法を取得した。下手をするとあと三日もダンジョンに篭れば地と水の複合魔法である『奈落』を取得できるかもしれない。
おそらく、その魔法を取得するのは、この大陸初になるはずだ。
誕生日を迎えたとはいえ、まだ十一歳であることを考えると、末恐ろしいと言える。
ただ、エルザと一対一で戦えば、エルザが勝つのは間違いない。身体能力と発動スピードが違い過ぎるからだ。
それもあって、エルザはそれほど悔しがっていないみたいだ。
そういえば、彼女も十四歳になったので、あと一年で成人になる。
俺とラティはといえば、遂にレベル100を超えてしまった。
いったいどこまで上がるのだろうか。
恐るべし固有能力『取得経験値増加』。だって、倍率ドン、さらに倍、それを超えた、五倍だからな……
最後に、ぶっ魂消たのは、従妹そっくりのサクラだ。
薙刀をメインウエポンにしていたが、扱いがとても上手くて速い。
おそらくだが、カツマサ達より強いと思う。
なんたって、魔法すら避けるカラス天狗をバッタバッタと薙ぎ倒していた。
その立ち振る舞いは、とても洗練されていて、見惚れてしまったほどだ。
だからといって、嫁の話は合意してないからな……
「さて、明日は地下六十階を目指すし、のんびりと風呂に入って、上手い物を食って、ゆっくりと休もうかな」
きっと、こんな独り言を口にしたのがフラグだったのだろう……
熱い風呂にでも浸かって疲れを癒すぞ~~! と男湯に入った。
その途端、入り口の扉が景気よく開け放たれる。
「うちも入るんちゃ」
ラティに関してはもはや仕様なので、動じることなく体を軽く流して風呂に浸かる。
十六歳といっても、見た目は五歳程度なのだ。全く以て問題ない。
それはそうと、ここの風呂がまた最高だ。なんてったって温泉だからな。
おまけに、檜で造られた広い浴槽が、物凄く癒される雰囲気を引き立てている。
「くは~、癒されるぜ~」
なんて口にしたのが間違いだった。
いつものように湯船に浸かっていると、入口の引き戸がガラガラと音を立てた。
そこに現れたのが、白い湯着姿のサクラだった。
その豊かな胸が、湯着が狭苦しいとばかりに外側に押しやっている。
そ、そ、そ、んな、そんな湯着とか、濡れてしまうと素っ裸よりエロいんだが……ダメだ。それは、俺のチラリズムを刺激してしまうはずだ。
「お背中を流しに参りました」
「い、い、いや、そ、それには及ばない……」
「いえ、これもわたくしの務めですので」
どんな務めだよ。今時、奥さんでも旦那の背中を流したりしないぞ。
つ~か、これはヤバい。色気もヤバいが、俺の下半身もヤバい。オマケに、こんな状況を、あの連中が察知しない訳がない。
案の定、うちの幼女少女が勘付いたみたいだ。恐ろしく勘の良い奴等だ。
なにやら、入り口が騒がしい。
「な、な、なにやってるのよ」
「は、破廉恥ニャ」
「ユウスケ、一緒に入るぞ~」
「臣下としては、私こそが、主様の背中を流すべきかと……」
「責任をとってくれるって……」
「「「「「私達も入ります」」」」」
エルザが怒りに震えている。
ロココがタオルを身体に巻いた状態で、猫耳と尻尾をピンと張っている。
アンジェは……よくあることなので問題ない?
クリスは自分の務めだと言うし、鈴木に関しては、最近この台詞が多いんだけど、本当に責任を取らなきゃいけないのかな?
残りの面子は、参入することだけを伝えてきた。
こうして男湯が一気に混浴となる。いや、女湯に俺が入り込んだみたいな構図だ。
実際、このくらいなら、時々起こる話だし、みんなタオルを巻いたりしているので、いまさら焦るほどの話でもない。
ところが、問題はこの後に起きた。
「さて……」
みんなで湯船に浸かっているのを見定め、体を洗うために湯船から出ると、サクラが付いてきた。
「それでは――」
まあ、かなりエロいが彼女は湯着を着ているし、俺も腰にタオルを巻いているので、この時点では軽く考えていたのだが……
「鍛えてもらっているお礼もあるし、オレも洗うぞ」
「臣下である私にも洗わせてください」
「私も手伝います」
サクラだけではなく、成人組の三人が手伝うと言い始めた。
そして、こいつらは何を隠そう、いや、何も隠してなかった……生まれたままの姿……スッポンポンという奴だった。
いつの間にタオルを外したんだ? いや~~~ん! お前等、隠せよ~~~! 丸見えじゃんか~~~~~!
若いだけあって、ミレア以外は恥毛も極薄で、本当に丸見えなんですが……
こうなると、さすがに目のやり場に困る。そう思って顔を逸らすとエルザと鈴木の空恐ろしい視線にぶち当たった。だから、下を向くしかない。
ところが、ミレアの奴がやりやがった!
「では、わたくしは背中を――」
「じゃ、オレは右だな」
「それなら私は左を」
「うふふふふっ。そうなると、私が前ですね」
そうなると、じゃね~~~~デカいオッパイを目の前に晒すんじゃねぇ!
なんと、ミレアの奴、俺の前で豊満な胸を曝け出したまま、跪きやがった……どこに視線を向ければいいんだ……
動揺する様子を見て楽しんでいるのか、ミレアがしてやったりという表情を向けてくる。
これはもう目を瞑るしかない。これで安全だ……そのはずだ……だが、甘かった……
「う、うぐっ」
ヤバイ、思わず声が出てしまった。
こら、ミレア。見てないと思って、どこを洗ってるんだ~~~~~!
いつの間にか腰のタオルまで取りやがって、丸出しじゃないか……それも直接洗われて巨大化してる……
つ~か、何で洗ってやがる。それは、胸であって、スポンジじゃね~つ~の。
た、たすけて、助けてくれ、エルザ!
そう思ってエルザに視線を向けると、奴は目を見開いて俺の股間を凝視している。
「お、お、おっきい……あれが、あんなのが……入るのかしら」
その隣では、鈴木が両手で顔を隠しているものの、指の隙間からガン見している。
「は、初めて実物を……あんなに大きくなるんですね……」
ロココも口を開けたまま見入ってるし、ラティは「いつもはもっと小さいのに」と驚いている。
だ、だ、だれでもいい、助けてくれ! そんな思いとは裏腹に、ミレアは巨大化したアレを集中的に洗っている。
だ、だめだ、こ、こ、これ以上は耐えられそうにない……こ、こんなところで果てる訳にはいかない。
人生最大のピンチに直面して、無我夢中で一気に立ちあがると、そのまま風呂場から逃げ出した。
お願いだから、根性なしとか言わないでくれ……
なんとか九死に一生を得たのだが、既に盛りのついた女共は、これで収まりを付けてくれる気はないようだ。
それとは知らず、お人好しの俺は、思いっきり騙されていた。
奴等は、表面上、何事もなく食事を終え、いつものように振る舞っていた。
これが、獲物を油断させる作戦とも知らず、安堵の息を吐いた。
ところが、事態が急変したのは、明日に備えて寝るぞというタイミングだった。
俺の部屋は、二十畳くらいの畳の間だ。
そこに、直接布団を敷いているのだが、いつものように両隣にはラティとロココの布団も敷いてあった。
まあ、それはいい。いつものことだ。
だが、今日は、それ以外にも沢山の布団が敷かれていた。
一、二、三、四、五――
布団の数を数えてみると、如何見てもメンバー全員プラスワンだ。
これが意味するところは、うちの面子にサクラが加わった状態だとしか考えられない。
まあ、修学旅行だと思えば何てことはないので、気にせず自分の布団に潜り込んだのだが、その途端、両隣争奪戦が始まってしまった。
布団を被っている俺の両腕をエルザ、ラティ、ロココ、鈴木が取り合っている。
他の面子はと言うと、この争いに参加するのは憚れるようで、遠目にしている。
おいおい、勘弁しろよな。唯でさえ疲れてるのに――ぬ……こ、これは……
幼女少女の姦しさに顔を顰めた時だった。下半身に重さが加わった。
両腕を取られたままなので、頭を動かして確認してみる。しかし、布団を被っているので、何がどうなっているのか分からない。
ただ、かなり盛り上がっているのが目に映る。
ま、ま、ま、まさか~~~~~~~!
そんな思いを余所に、浴衣の下に穿いていたボクサーパンツが下げられたような気がする。
こ、こいつは……
視線を周囲にやり、誰が居るのかを確かめる。
や、ヤバい。奴が、奴が居ない。これって、絶対絶命なんじゃないか?
危険を察知した途端だった。これまでに感じたことのない激震が俺を揺さぶる。
その攻撃は、必死に耐える俺を弄ぶかの如く執拗に続けられる。
こらこらこら、ぐおっ、やばい、やばいってば……こら、やめろ……ぐおっーーーー!
必死に抵抗するが、恰もそれを歓喜に変えているかのように、攻撃の激しさが増す。
頼む。もうダメだ。これ以上は……
どれだけ耐えただろうか、いや、耐えれば耐えるほど、奴の琴線に触れているような気がする。
ダメだ。奴は、逃さない。捕らえた獲物は絶対に逃さないはずだ。
それを本能で悟った時、敗北を確信した。その途端、全てを出し尽くして、いや、搾り取られ、灰のように力尽きた。
脱力した俺の様子に気付いたのか、エルザが盛り上がっている布団に視線を向けた。
「あっ、拙いわ、ミレア!」
エルザが布団を捲ると、そこには満面の笑みを湛えたミレアがいた。
周りの様子からすると、俺の浴衣はきちんと元に戻してあるようだ。
よ、よかった……アレをプラプラさせたままなんて、絶対に耐えられないからな……
「ミレア! 何をしてるのよ。どこまでやったのよ」
エルザがミレアを問い詰めるが、彼女は気にした風でもなく、幸せな表情で口の中にあるものを嚥下した。それが何かなんて、考えたくもない……
頭を抱える俺を他所に、彼女は一言だけ口にする。
「エルザ様、大丈夫です。本番は残してあります。ああ、ユウスケ様、ご馳走様でした」
この女、俺の、俺の、俺の純潔を奪いやがった。それも俺の目前で全て残さず飲み干しやがった……な、なんて女だ!
「や、やられたわ。私としたことが、一瞬の隙を突かれてしまったわ」
エルザは悔しそうに唇を噛み締めてミレアを見遣るが、彼女は恐ろしく軽い足取りで自分の布団に入って行った。
「だ、だから、油断するなって言ったでしょ。それなのに、簡単に喰われちゃって! バカっ!」
「う、ううう、私のが……」
エルザが被害者である俺を罵倒したかと思えば、鈴木は泣き崩れる。
おいっ、鈴木、お前のじゃないからな?
「ニャンておんニャニャ、だけど、口だし、今回は大目に見るニャ」
「あんねぇ~、うちは、子供が欲しいっちゃ」
なぜか、ロココとラティは譲歩の姿勢を見せている。
こうしてカルピス飲み干され事件の幕が閉じた。
俺は想定外の事故で純潔を奪われ、無理矢理に未経験を卒業する羽目となった。
そして、みんなが寝静まった後に、こっそりと涙で枕を濡らしたのは言うまでもない。
翌朝、肉体的にはスッキリとしているが、精神的には病んでいた。
それでも、昨夜の悪夢を拭い捨て、朝食をとるために大広間に行くと、昨日よりも艶々とした顔付きのミレアがいた。
「おはようございます」
「……おはよう」
正直言って、まだ完全に復調していない。
だが、ここで怯んだら、それこそ負け犬だと感じて、何とか気力を絞って返事をすると、奴は爽やかな笑顔で告げてきた。
「本番については、他の方々との関係もありますので……ですが、溜まった時には私が処理しますので、遠慮なくお申し付けください」
ぬおおおおお~~~! なにをいけしゃあしゃあと!
「そう、それなら目を瞑るわ」
心中で吠えている最中に、背後から勝手に了承するエルザの声が聞こえてきた。
なに勝手にOKだしてんだよ~~! バカチン!
「でも、下半身を使ったら許さないニャ」
「うちはね~、子供が欲しいっちゃ」
「お前達は、いったいなんの話をしてるんだ? まだ子供だろうが!」
ロココ、ラティに向けた、その言葉がまたまたフラグとなるのは、もう少し先の話になる。
「大人ならいいみたいだぞ。ならオレも行くぞ」
「なら、私も……」
「わたくしもですね」
「日本では未成年ですけど、ここは十五歳で成人なので、私も良いですよね」
成人組――アンジェ、クリス、サクラ、鈴木、四人の台詞は、俺の耳に届くことはなかった。




