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さ~て、悪者でいこうか!  作者: 夢野天瀬
03 旅立ち
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26話 予期せぬ出来事


 お、重い、暑い、以前にも、こんなことがあったが……


 まぶたを開くと、スヤスヤと眠るラティが、お腹の上に乗っている。

 それを見やり、案の定かと思いながら左に視線を向ける。

 そこには、ロココが寝ているのが見える。レム睡眠中なのか、耳がピコピコしているのが可愛い。

 そして、最後に右を見みやると、グウスカと眠る鈴木がしがみ付いている。

 重さと暑さの原因は、幼女少女が犯人だった。

 偶にはゆっくり寝させてくれよ。なんて愚痴が、ついつい口から零れ出る。

 ハッキリ言って、気持ち的には嬉しいのだが、メリハリのない身体を押し付けられても、肉体的には嬉しくとも何ともない。というか、全く疲れが取れた気がしないから勘弁してほしい。


 昨夜、色々と面倒事を片付けたこともあって、ベッドに入ったのは、朝の四時を過ぎた頃だった。

 デトニス共和国の首都デトアを襲った犯人達を、ダートルに連れてきて、思いっきり後悔の念を刻み込ませ、最後は地獄に旅立ってもらった。

 その後、再びデトアに戻って、死人化していないことを確認してから、自分のベッドで眠ることにしたのだ。

 ここ最近は、死人ばかりを相手にしていた所為か、心が荒み気味だったのだが、昨夜の作戦が成功したお陰で、満足な気分で眠りに就いた。

 ところが、三時間もしないうちに、幼女少女塗まみれで目を覚ますことになった。

 溜息を吐きながら起き上がり、こっそりとベッドから抜け出してリビングに向かう。

 すると、ミレアが早くも起きていた。


「おはようございます。今朝は、お疲れ様でした」


「ああ、おはよう。お前もな」


 朝からシャキッとしたメイド服姿のミレアが、笑顔で労ってくれる。


「お茶を用意しますね」


「悪いな」


 いつでもお茶を出せる用意をしていたのだろう。直ぐに温かいお茶を入れてくれた。

 この辺りがメイドとして働いていた者の手際良さかもしれない。


「それで、ダートルの状態はどうなってる?」


「討滅は三分の一くらいですね。思いのほか生存者が多くて、思うように進んでません。ベースキャンプのテントには、大人が六十人ぐらいで、子供が百人を超えています」


 お茶を飲みつつ、ミレアに進行具合を尋ねてみたのだが、思ったよりも生存者がいることに驚く。


「生存者の状態は?」


「大人は未だに信じられないといった感じで、呆然とする者が多いですね。逆に子供達は、親が居なくなったこともあって、将来に対する不安を感じているみたいですが、同年齢の子供が多いお陰か、思ったより元気にしています」


 ミレアに「そうか」とだけ返し、悩んでいたことを彼女に相談することにした。


「保護した者をどうしたらいいと思う?」


 そう、救助したのは良いのだが、後は知らんという訳にもいかない。だからといって、この先の面倒を見る訳にもいかないのだ。

 彼女は暫く黙考し、飽く迄も自分の考えだと前置きする。


「大人、それと保護者が生きている子供については、この街の死人を討滅したあと、少し酷ではありますが、自立してもらうしかないですね。身寄りのない子供達については、施設を探して保護してもらうしかないかと思います」


 彼女の口からもたらされた回答は、真っ当なものだった。ただ、これだけの人数を受け入れてくれる施設があるのだろうか。


「身寄りのない子供は、どのくらい居る?」


「百人近くいるかと……」


 無理だな。可能性としては、分けて受け入れてもらうしかないが、それでも十カ所以上に頼み込むことになるぞ。


 不可能だと感じて、どうしたものかと黙考し始めると、新たなる問題を投げかけられる。


「実は、食料の方が心許ないのですが……」


 確かに、百人以上に飯を食わしている訳だから、食料も恐ろしい速度でなくなるわな……


 結局、食料がなければ生き残っても死ぬだけだと考え、本日の行動が決まってしまった。









 昨夜は夜景であったことから、その全貌を把握できなかったが、首都デトアは、大都市と表現しても過言ではないほどの規模だった。

 立ち並ぶ建物は、レンガ造りや漆喰で塗られた二階から四階建で、その間を通る路地は広く、不揃いではあるものの、四角く整えられた石が敷き詰められていた。


 食料不足と知って出向いた先は、昨夜、ミストニアの悪党どもを拿捕した首都デトアだ。

 他の街ではなく、この都市を選んだのには、幾つかの理由がある。

 その一つは、保護した子供達の引き取り先を探すことだ。

 ただ、実際は、使えるワープポイントが、こことベースキャンプだけとなったことが大きな理由だったりする。

 これまでにセーブしたワープポイントは幾つかあるが、エルザの部屋であるロマールの女子寮は使えないし、ドロアの借家は解約してしまった。ましてや、マルブラン家の近くに設置したワープポイントなんて論外だ。

 消去法で考えると、使えるワープポイントが、ここデトアしかなかったのだ。

 そんな訳で、家事班であるアレットを連れてやってきた。

 ああ、残った者達には申し訳ないが、腐臭漂うダートルで死人と戯れてもらっている。


 でも、帰ったら色々と大変そうだな……


 アレットだけを連れていくと聞いて、膨れっ面となっていたラティとロココを思い出していると、隣に居るアレットが長い耳をピコピコと動かした。


「ユウスケ様、まずはどこから行くピョン」


「まずは食料の確保にしよう。何があっても、それだけは達成する必要があるからな」


 トラブルに愛されているこれまでの経験からすると、必要なことは先に済ませる費用がある。

 なにしろ、何事もなく用事が済んだことの方が稀なのだ。


「了解ウサ……了解ピョン」


挿絵(By みてみん)


 おいっ、今、言い直したな? 本当は語尾なんて要らないんだよな? そうだよな!?


 アレットの語尾を不審に思いつつも、二人で手分けして必要な食料を買い漁った。

 ところが、途中で資金が心許なくなってきた。そこで、仕方なく盗賊から巻き上げた金品に手を付けることにした。

 実を言うと、奪ったものを我が物にすることに、少なからず罪悪感があったのだが、私利私欲に使う訳ではないので、問題ないと自分に言い聞かせた。


「そういえば、宝石とかって、どこで売り捌けばいいんだ?」


「買取屋があるピョン」


 アレットの返事を聞き、食料の買い出しを一旦中止して、買取屋の情報を入手することにした。だが、これが失敗の始まりだった。

 ヘルプ機能で探せるのだから、街で情報を得ようなんて考えるべきではなかったのだ。

 まさに後悔先に立たずということわざを、身を以て体験することになる。


 入手した情報からチョイスした買取屋は、大通りから外れた裏通りにあり、見た感じも、漂う臭いも、店員も、なにもかもが怪しかった。

 この時点で止めれば良かったのだが、腕に自信がつくと慢心になるものなんだよな。これを良い教訓としよう。


 店に入ると胡散臭い大柄な男がカウンターの向こうに居た。胡散臭いのもそうだが、どれだけラ○ザップに金をつぎ込んだんだ? と尋ねたくなるほどに筋肉モリモリだ。

 おまけに、むき出しの肩には獅子のタトゥーが刻まれている。

 こんなムサイ男に刻み込まれて、獅子もさぞかし逃げ出したいことだろう。どことなく刻まれている獅子が悲しそうに感じられる。


「ん? 何の用だ?」


 何の用って、ここは買取屋じゃないんかい!


「買取をして欲しいんだが……」


 内心でツッコミを入れつつも、予め別の袋に分けた宝石を出すと、大柄な男が目の色を変えた。

 当然ながら、邪眼でもなければ、ギアスでもない。単に欲に目が眩んだだけのことだ。

 ああ、ついでにマップの表示も色を変えた。説明するまでもなく、青から赤に変わった。


 お前はリトマス紙か! ほんと、カメレオンみたいな奴だな。はぁ~、まあいいか……


 諦めの溜息を吐いていると、カメレオン野郎がカウンターを二回ほど叩く。

 すると、それが合図だったのか、隣の部屋から、ガタイのいい男が三人ほど現れる。

 この手合に関しても、パターンに嵌り過ぎていて、もはや呆れるばかりだ。


 まあ、この後の流れは認識済みだが、一応は忠告してみるか……


「一度しか言わないぞ。命は大切にしろよ。今なら見逃してやる」


 良心に基づいて忠告をしてやるのだが、カメレオン男はニヤリと笑ったかと思うと、脅し返してきた。


「くくくっ、女は生かしてやるよ。ガキは死ね」


 カメレオン男がニヤリと不敵な笑みを見せた訳だが、その台詞を言い終わった時には、その顔がアルカリ性に変わった。というか死相が出ている。

 なぜなら、カメレオンが能書きを垂れている間に、わざわざ隣の部屋から出てきた三人の男は、一言も話す機会なく手足を失ったからだ。

 ああ、忘れてた。頭もだ。

 三人は呻き声をあげることすらできず、バラバラとなって無残な死を晒している。

 つ~か、この手合いを片付けるのは、死人を始末するよりも罪悪感がなかったりする。


「だから言っただろ? 悪いが、さっきの台詞をもう一度言ってみてくれないか?」


「て、てめえ、何者だ。オレ達はガーセル一家だぞ」


 ぐはっ、今時、中坊でも言わないレベルだぞ。


 奴が口にしたのは、「おれ、○○君を知ってるんだぞ」みたいなノリだった。そして、この台詞は『君』付けが肝だ。


「ガーセルねぇ~。ゴミの集団ぽいな。生きていても害にしかならんだろ」


「ふ、ふざけやがって~」


 このカメレオン男は始末するとして、ガーセル一家をどうするかな。悪の組織みたいだが、一掃する義理もない。こいつを片付けたら他を当たるか。

 そう結論付けると、瞬間移動でカメレオン男の背後に回り込み、そのアルカリ性となった頭を斬り落とした。そして、次の瞬間には、元の場所に戻る。

 あまりの速さのお陰で、鮮血を浴びることすらない。


「はや……」


 あ、ピョンがない。初めてピョンなしの台詞をゲットした。やったぞ~~。これはポイントが高いだろ。これまでの流れが、これのための布石なら、全てが許せるぜ。


 因みに、これで店を出たら終わりとなる予定だったのだが、この世界には遠見の魔道具なるものがあるんだってさ。









 先程の失敗から学び、今度はヘルプ機能を使って街情報から最適な買取屋を選択した。

 さすがはヘルプ機能の情報だ。打って変わって、それらしい店構えと、執事を思わせるほどに品のある店員が迎えてくれた。


「初めからここに来ればよかったピョン」


「すまんな……」


 そもそもの出会いが、血塗れの出会いだっただけに、アレットは先程の買取屋で起きた殺傷事件にドン引きすることはなかった。ただ、幾分か青い顔をして正直な感想を口にした。


 それについては同感だ。怖い目に遭わせてごめんよ。


 そこでの買取に関しては、サクサクと進んだ。買取金額も相場を知らない俺ですら満足できる金額だった。

 そう、ここまでは順調だった。

 ただ、定期的に確認しているマップでは、取引をしている間に、店の外では赤いマークが無数に集まっている。この店の従業員のマークは青いままだということを考えると、おそらく別件だろう。

 色々と考えた結果、取り敢えずこの店に迷惑を掛ける訳にいかないという結論に達し、外に出ることにしたのだが、あちらこちらの路地に人相の悪い男達の姿が見える。


『少し移動するぞ』


『うっピョン!』


 アレットを抱き上げると、有無も言わさず、瞬間移動で赤いマークの居ないところまで移動した。


「どうしたピョン」


「いや、ゴミが集まってきたからな」


「どうするピョン」


「アレットはベースキャンプに戻った方がいいな」


 このままでは、おちおち買い物もできないと考えて、アレットをワープでベースキャンプに送り、赤マークについて調べることにした。

 といっても、情報収取という手段ではない。

 そう、チョイスした方法とは、直接聞くことだ。

 赤マークの一人を人影のない路地に連れ込み、優しく尋問することにしたのだ。

 取り敢えず、死なない程度に蹴りを叩き込む。話はそれからだ。

 おらっ! おらっ! くらえ!


「お前達は、何者だ? なぜ俺を狙う?」


「うぐっ……いて~~、くそっ、お、お前は、ベルガ達をやりがっただろ」


 ん? ベルガ? 誰だ? それ。


 記憶にない名前を聞いて疑問を抱いていると、路地に転がっている人相の悪い男が、親切に教えてくれた。


「買取屋だ」


 ああ、あいつ等か。ということは――


「それじゃ、お前はガーセル一家か?」


「そうだ」


 ふむ。それにしても、どうやって俺が奴らを始末したことを知ったのだろうか。

 その答えは、目の前の人相の悪い男を刀で撫でてやると、直ぐに明確化した。

 それで『遠見の魔道具』なるものの存在を初めて知ることになる。


「てめ~は、もう終わりだぜ」


 人相の悪い男が、空元気でさえずるので、面倒ながらも教えてやる。


「いや、お前らが地獄に足を踏み入れたんだよ。放っておけば助かったものを」


 ん~、取り敢えず、一匹ずつ片付けるのも面倒だ。


「これから二時間後に、街の外にある森の入口まで来るんだな。そうしたら、相手をしてやる」


 人相の悪い男を放してやり、走って逃げだす後ろ姿を眺めつつ、マップを確認する。

 もし、エルザが俺の顔を見たら「なに、ニヤケてるのよ」と言っただろうな。









 現在は、マップを確認しつつ、街の出口とは反対方向に進んでいる。

 ガーセル一家の男に伝言をしたのだが、別に約束を守るつもりはない。

 というか、その男をマップで確認しながら追っているのだ。

 伝言を受け取った人相の悪い男は、行く先々で赤いマークを引き連れて進んでいる。多分、見かけた仲間を掻き集めながらアジトに戻っているのだろう。まさに予想通りだ。

 そもそも、街の外で戦うつもりなんてない。ゴミを一ヶ所に集積させたかっただけだ。


 暫くの間、その男を追っていると、街外れの屋敷に赤マークが集まるのが確認できた。おそらく、そこが奴等のアジトなのだろう。数にして八十四人が集まっている。

 奴等のアジトにあたりを付けると、すかさず瞬間移動でその屋敷の前に移動する。

 屋敷の前で番をしていた二人の男が、突如として現れた俺に驚く。しかし、直ぐに自分達の仕事を全うする。


「てめ~は、何者だ」


「ここは、お前みたいな奴が来るところじゃね~」


 ほんと、面倒くせ~。


 ウンザリしながら、素早く門番をかわして屋敷の敷地に侵入すると、門番二人は慌てて後を追ってきた。

 だが、その二人を気にすることなく周囲を確認する。


 ん~、外部からは見られる心配はなさそうだな……


 この屋敷は街外れに建てられているだけあって、敷地も広く、それを囲う塀もしっかりした作りだった。お蔭で外からの目を気にする必要がなさそうだ。

 さぞかし弱い者を泣かせて利を得てきたのだろう。ほんと、立派な造りだ。


「なに、勝手に入ってんだ」


「死ねや」


 背後から怒声をまき散らしながら襲ってくる門番二人を、口を開くことなく刀で二度突く。


「ぐげっ」


「あごっ」


 う~ん、南無さん。さてと……


 門番は鮮血を撒き散らしながら地に倒れる。

 二人から視線を外し、再びマップを確認する。

 マップが言うには、屋敷の一番奥に人が集中しており、それ以外の部屋はまばらな状態だ。

 それだけを確認しを終え、特に躊躇ちゅうちょすることなく、屋敷の入口に設置された大きな扉を開き、中にずかずかと入る。

 もちろん、お邪魔しますなんて、口にすることもない。まるで我が家のように堂々と足を進める。

 ここで俺に気付いた男が「何者だ」と騒ぎ始めたが、刀をひと突きすることで大人しくさせた。もちろん、二度と騒ぎ立てることなどない。


 これであと八十一人だな。


 奥の部屋までもう少しというところで、三人組の男が姿を現した。

 その三人組は俺の存在を知っていた訳ではないのだろう。ただ、右手にしている刀を見ると「殴り込みか」と声を張り上げた。

 今度はその三人を透かさず地獄に送る予定だったのだが、そいつ等は戦うことなく、奥の部屋へと逃げ込んだ。とんだチキンだ。

 ただ、チキン三羽を逃がしたことで、一気に慌ただしくなる。


 う~ん、残り八十一人もいるのか、本当に面倒だな。


「こっちだ!」


「あいつだ!」


「みんなでやるぞ!」


 仲間が増えたことで、チキン達が威を借りたらしい。一気に態度をでかくして襲い掛かってくる。そんなチキンが手にしているのは大型のナイフだ。


「死ねや、こら!」


「ここをどこだと思ってやがる。あの世に送ってやるよ」


「きゃほーーーー! 刻め刻め!」


 チキン達が、これが最後の言葉になるとも知らずに、ボキャブラリに欠けた台詞をまき散らす。

 数が多くて面倒だ。おまけに、あまり騒がしくしたくない。そうなると、魔法ではなく、ここは空牙の出番だ。


「空牙!」


 襲い掛かるチキン達とその後続の男達に、直径五メートルの空牙を食らわせてやる。


 これで七十五人になった。まだ、そんなに居るのか……まあ、ここは地道に片付けるしかないな。


 わらわらと現れる敵を目にして面倒だと感じつつも、ボスが居るであろう場所に辿り着くまで蹂躙劇を続ける。









 ただただ面倒な作業をこなした俺の前には、ボスらしき男とその取り巻きが十人ほど残っていた。


「な、なんで、こんなことをしやがる」


「何を言ってるんだ? 手を出したのは、お前達が先だぞ?」


 ボスらしき男は、俺の言葉の意味が分からなかったのだろう。周りに居る取り巻きに目を向ける。


「こいつは、ベルガをったんです」


「ああ、ベルガとかいう男が襲ってきたからな」


 取り巻きの一人がボスに説明するが、俺がその原因を教えてやった。


「うるせ~、仲間をられて黙っていられるか」


 取り巻き二号が吠える。


「だったら、客を襲うようなことは、止めるんだな。ああ、止めるも何も、もう人間を止めるんだから、忠告しても意味ないか」


 俺を恨むのは、ただの逆恨みでしかない。いや、恨まれても一向に構わない。

 しかし、このゴミ共がそれを理解できるとも思えない。ただ、ここでボスから予想外の情報を得ることになった。


「お前、今、この街で指名手配になってる奴だな」


 ん? 確かにルアル王国じゃ、マルブラン家の所為で指名手配になっているが……そのことじゃなさそうだな……


「なんのことだ?」


とぼけてんじゃね。今朝方、東地区で民家四軒の住民とミストニア王国の使者を暗殺しただろ」


 ミストニア? もしかして、昨夜の件か? だが、なんで俺がその件で指名手配になるんだ?


「意味がわからん。何のことだ?」


「ミストニアの生き残った使者が、デトニス共和国に知らせたらしいぞ。確か黒髪の目隠し男が犯人だという話だったな」


 生き残りが居たのか……全く気付かなかったぞ。それにしても、全ての罪を俺達におっ被せるつもりみたいだな。


「それと、デトニス共和国の各地を死人化して回ってるらしいじゃね~か。どういうつもりだ」


 それも俺達の所為にするつもりか。もう最悪だぜ。すげ~ムカついてきた。


「ああ、それ件なら俺じゃない。こう見えても、そんなに肝が大きくないんだ」


「嘘つけ、おい、こいつは賞金首だぞ、やっちまえ」


 ここまでくる間に七十四人が他界したんだが、どうやって残り十人で始末する気なんだ?


 とても無意味な行為だと思うのだが、ボスの命令は絶対なのだろう。四人の男が斬り掛かってきたので、サクッと刀の錆になってもらう。

 続いて襲い掛かってくる取り巻き達を切り裂きつつも、さっきから気になっていることがあった。


 なんか、雰囲気の違う奴が居るんだが……あいつらは、何者なんだ?


「客人、悪いが手を貸してくれないか」


 取り巻きの残りが三人になったところで、ボスが少し毛色の違う二人に頭を下げた。

 それは、疑問に感じていた雰囲気の違う二人だ。


「うむ。それでは、手を貸そう」


 その二人の内の一人が、快くボスの頼みを承諾すると、隣のもう一人も頷く。

 途端に、二人は刀を抜く。


 ん? 刀? なんで刀?


 二人が持つ武器に疑問に感じたのも束の間、刀を引き抜いた二人は襲い掛かる。


「ぐあっ、な、何をする」


「ぎゃ~う、裏切り、か、」


 その二人は、ボスと最後の取り巻きを刀で貫いたのだ。


 う~ん、やはりこうなるのか……

 というのも、この二人は初めから敵ではなかったのだろう。少なくともマップ機能はそう言っている。

 ただ、驚くのはこれからだ。

 ガーセル一家に終止符を打った二人は、何を考えたのか、突如として俺の前でひざまずいた。


「ユウスケ様、お待ちしておりました」


 ボスを討った方の男が、こうべを垂れたまま待っていたという。


 これは一体どういうことだ? 全く理解できないんだが……そもそも、なんで俺の名前を知ってるんだ?


 怪訝に思うのだが、気にした様子もなく、その男はさらに続けた。


「理解できないことは、重々承知しておりますが、少し場所を代えてお話させて頂けませんでしょうか」


 確かに、この男の言う通りだろう。ただでさえ指名手配となっている上に、こんな大虐殺現場に居たら、次はどんな罪状を追加されるか分かったものではない。

 まあ、人殺しの罪は、冤罪ではないんだけどな……


 こうしてガーセル一家なるヤクザもんを一掃し、知らない二人に連れられて移動することになった。


 それにしても、昨夜の件にしても、死人事件にしても、全ての罪を擦り付けられてしまった。ルアル王国の指名手配に関しては別だが、デトニスから指名手配されることになるとは……どうやら、まんまとミストニア王国の罠に嵌められてしまったようだ。









 この二人は、いったい何者なのだろうか。

 そんなことを考えている俺はというと、首都デトアの南に位置する小さな民家にいる。


「わざわざお越しいただいて、恐縮するしだいです」


 俺をここまで連れてきた二人は、本当に恐縮しているようだ。というのも、行き成り土下座だった。


「た、立ってください。それと、あなた達は、どこの誰ですか?」


 そんなに恐縮される言われはないし、この人達の存在の方が気になって仕方がない。

 上司らしい男は、「それでは、失礼します」と言いうと、ゆっくりと立ち上がり、自己紹介を始めた。


「我らは、デトニス共和国の西にあるジパング国の者です」


「なぜ、隣国の者が俺の名前を?」


 一番の疑問は、名前を知っていたことだ。


「主様にお聞きしました」


「主様とは?」


「それについては、まだお答えできません。ただ、ユウスケ様に害をなす方では御座いません」


 イマイチ、要領を得ないな。なんで、こんなにへりくだっているのだろうか。

 二人から得た様々な情報を頭の中で整理してみる。


 この二人は、ジパング国の武士であり、上司らしき男の名をカツマサといい、部下の方がマサノリという名前らしい。そして、二人は、俺の危機を感じた主様の指示で迎えに来たと言うのだ。


「そうすると、あなた方の役目は、俺をジパング国に連れて行くことなんだな?」


「はい。直ぐには信じて頂けないかと思いますが、我らは決してユウスケ様やお仲間をあざむく者ではありません。何卒、お聞き届け下さいませ」


 ん~、この人達が敵でないのは、マップ機能で分かるんだが、俺の一存で決める訳にもいかないからな。


「申し訳ないが、返事は仲間と相談してから、ということでいいか?」


「はい。それで構いません」


「それなら、一旦戻って相談してみるが……ここに来れば、また会えるのか?」


 カツマサさんから了承を得たので、一旦戻ることを伝えたのだが、意外な返答が出てきた。


「もし差支えなければ、我らもお供させて頂けませんでしょうか」


 少し考えてみたのだが、この二人なら特に害がないような気がしたので、了承することにした。

 この軽率な行動の所為で、またエルザから不用心だとたしなめられるのだが、それはまた後の話だ。


 二人を連れてベースキャプンに戻ると、丁度、第二班が戻ったところだった。

 班については再編成をしたので、現在は二班制となっている。

 この時間に戻っているということは、恐らく生存者を保護したのだろう。


「お疲れ。どうだ、調子は」


 戻っていたラティ班が、俺に気付いたようなので声を掛ける。すると、ラティがすかさず飛びついてきた。


「お帰りっちゃ。問題ないっちゃ」


「順調です。今し方、生存者を保護して戻ったところです」


「ユウスケ様、ところで、そちらの方々は?」


 ラティとマルセルが問題ないことを報告してくると、クリスが俺の背後に立つ二人の武士について尋ねてきた。


「この二人は、カツマサさんとマサノリさんだ。敵ではないのでめるなよ」


「カツマサです。宜しくお願いします。それと、ユウスケ様、拙者の事は、カツマサと呼び捨てにして下さい」


「マサノリです。宜しくお願いします。カツマサ殿と同様に呼び捨てに――」


『新しいお仲間ですか?』


 自己紹介の途中で、マルセルが念話で問い合わせてきたが、全員が揃ってから説明すると返しておく。


「あの~、ここでいったい何を?」


「なにやら、死臭が漂っているような気が……」


 どうやら、二人は現状について気になっているようだ。だから、このダートルの街で行っていることを説明してやった。


「こ、こんな悲惨なことになっていようとは……」


「ミストニア、許すまじ」


 驚くカツマサに、憤慨するマサノリ。


 まあ、正常な倫理の持ち主なら怒るわな。


 この後、第一班も生存者を保護して戻って来たので、みんなでリビングに集まることにした。









 リビングに集まったのは、仲間とジパング国の使者二人で、合わせると十四人となる。

 さすがに、リビングでは暑苦しいほどの人数だが、なぜかエアコンが動いてるので不快さはない。


 鈴木さん、あのエアコンのエネルギーはどこから? というか、もうこの女のやることには驚かないからな。意地でも驚いてやるもんか!


 リビングのあまりの凄さを目の当たりにして、ジパング国の二人は、ぶったまげたまま口をアウアウさせている。

 全員が集まったところで、そんな二人――カツマサとマサノリの紹介をしたのだが、案の定、エルザからの視線が痛い。

 それをスルーして、みんなの自己紹介を簡単に済ませた。そして、いよいよ本題に入る。

 まずは、デトニス共和国で指名手配になったことを知らせると、リビングは騒然となった。


「ちょ、ちょっと、どういうことなのかしら」


「死人化の犯人ですか?」


「オレ達のお蔭で、落ち着いたのにな」


「というか、元凶はやはりミストニアですね」


「死ねばいいのニャ」


 エルザが動揺し、マルセルが唖然とし、アンジェが憤然し、鈴木が元凶を口にし、ロココが結論を出した。


「幾らなんでも酷すぎます」


「やはり潰すしかないですね」


「塵にすればええんちゃ」


 遅れて、エミリアが祖国の仕打ちに顔を歪ませ、クリスとラティが撲滅すべきだと主張した。


「あの~、潰すって、もしかして、ミストニアを潰すつもりでしょうか?」


 話を聞いていたマサノリが、おずおずと尋ねてくる。

 まあ、普通では想像もできないことだろう。


「そのつもりだが?」


「やはりそうですか」


 正直に答えると、カツマサが首肯し、納得の表情となる。

 その言動が予想外であり、不可解だった。


「なんで、やはりなんだ?」


「いえ、我らを使わせた主様が、ユウスケ様ならそう判断するだろうと申しておりましたので」


 あんた達の主様は超能力者か!


 カツマサの返事を聞いて、主様の凄さに呆れてしまう。


「そろそろ、あなた達の主を教えてもらえないか?」


「申し訳ありません。それは我らの一存では……ただ、主様を含め、我らはユウスケ様の味方であることは間違いありません」


「どうして、そんなことが言えるのかしら」


 カツマサの言葉に、険しい表情のエルザが食いついた。


「それは、我らの主様がミストニアの行動のみならず、このトルーア大陸の行末を憂いておいでだからです」


 それが答えになっているかどうかは疑問だな。


「勘違いしてもらっては困るが、俺達は正義の味方じゃないぞ。況してや、誰かのためにやっている訳じゃない。ただ単に自分達のやりたいことをしているだけだ。だから、あなた達と利害が一致するとは限らんぞ」


「それも重々承知しております。しかし、主様は、ユウスケ様がどういった決断をしようとも、絶対に従えと申しておりました」


 カツマサからの返事は、度肝を抜かれるような内容だ。

 いったい、その主様とやらは、どこまで俺のことを知っているのだろうか。


 この後も色々と話した訳だが、結論が出ることはなく、ジパング国に行く決断は保留となった。

 ただ、カツマサの情報によると、近々、デトニス軍がこちらに向かってくるらしい。

 さすがに、このままデトニス軍と鉢合わせになれば、戦闘になりかねない。だから、手早く撤収する必要があるのだが、未だに生存者が居ることを考えると、放置して逃げる訳にはいかない。


「掃討が完了するまで、あとどのくらい掛かる?」


「う~ん、ざっくり見積もっても、あと一週間近くは掛かるわね」


 エルザの見積もりなら、おそらく間違いはないだろう。


 一週間か……軍が今直ぐ出発しても、ここに辿り着くまでに、早くても十日は掛かるだろうな。


「分かった。あと一週間で殲滅するぞ」


 決断をくだすと、全員が頷く。


「アレット、救出した生存者の進退について確認してくれ。全員連れて行く訳にはいかないからな」


「はいピョン」


「それと、みんなに頼みがある。掃討の途中で鉱物や製錬品を見つけたら回収してくれ。それが盗人行為になっても構わん。鈴木、みんなに大量に物が入る道具袋を用意してやってくれ」


「それって、火事場泥棒じゃ……」


 盗人のような台詞を聞いて、マルセルの声が淀んだ。間違いなく罪悪感を抱いているのだろう。


「死人事件を解決してやるんだ。それくらいの報酬をもらっても罰はあたらんさ」


「分かりました。この街にある素材全てを回収できるくらいの道具袋を作ります」


 鈴木の方はといえば、素材が手に入ると知って超ノリノリだ。しかし、正義好きなクリスは渋面を作る。


「……」


「いいじゃね~か、駄賃だ、駄賃。あはははははは」


「確かに、消費した食料だけでも半端じゃないですからね」


「まあ、良いのではないかしら。放って置いても手を出せない物になる訳だし、死人を殲滅した上に、生存者まで助けるのだから。盗賊を倒して金品を押収するのと代わりないと思うわ」


 沈黙のクリスを横目に、相変わらず単純なアンジェが笑い声を上げると、ルミアが現実的な話を始め、エルザが締め括った。

 それは、ごもっとももな話を装っているものの、どこか論理のすり替えに聞こえる。

 他の者は、特に関心がないのか、頷いているだけだ。

 ジパング国の二人を見ると、当然だと言わんばかりに首肯している。


 こうしてジパング国行きは保留となったが、今後の方針について決定した。しかし、これからさらなる波乱の日々が続くとは、現時点で、誰も予想すらしていなかった。


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