表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Beardead Gold Bear  作者: 大隈寝子
24/24

BGB 最終話 「旅立ち」


 その時初めて、本当の意味で神が顕現した。

 未熟な神の片鱗だけではなく、あるいは完全な肉体を失った制限付きの神でもない。

 全てがつながった。

 完全な状態の神。

 黄金と虹が折り重なる刃。

 それを持つエペレ。

 その神は日輪がごとく、太陽がごとく、輝いていた。

 その輝きは、タイヨウの右腕へとつながっていた。

「この世界でやたらと俺の術の出力が上がってたのはこれが原因か……」

 その光がタイヨウに一つの答えをもたらした。

 その世界の分身ともいえる神器を内包しているのなら、術式と世界の親和性は上がって当然なのだ。

 思えば痕からエペレの夢へと繋がったのも自然なことだった。

 その刀が肉体から抜け出したことによって、タイヨウは己の中に残った力を確認する。

「……まぁ、そんなもんだよな」

 笑えるほどに残っていない。

 あと一発ほどか。

「エペレ。敵がどんだけ吹っ飛んだかわかるか」

「えっと、あっちの方に……」

「なっ」

 二人同時に、異変が起きる。

 タイヨウの脳内に直接、エペレからのイメージ、概念が流れてきたのだ。

 思わず二人とも頭に手を当てていた。

 原理はわからない。

 どういう方位か、どういう属性か、すべてわからないが。

「この光の……」

 何がそうさせたかはわかる。

「なぁ、エペレ」

 神器が二人を繋げていた。

 いわば一心異体。

 そこに確かめるだけの言葉はもはやいらなかった。

 けれど。

「なぁに、タイヨウ」

 人間は神に問いかけた。

 神は人間に聞いた。

 視線があう。

 きっとそれは、世界に言葉を記録させるだけの、とても無意味な瞬間。

「行くぞ」

「うん」

 黄金の光をまとったヒトとカミは、虹を残して戦地へかける。

「レベル4 王は戦地へ」


 その姿を、もの言わぬ烏は見つめていた。

 世界から力を得て黄金に輝く二つの背中を。

 そして口を開く。

「……どこまでお前のお膳立てだ、妖怪」

 その背後。

 音もなく、いつの間にか立っていた長身長髪。

 やせた男。

「その呼び方はやめろっつってんだろうが。金髭」

 その男は世に“妖怪”と言われ畏れられる。

 タイヨウの師。

「どこまでってことはねぇよ。アイツならこれくらいのことはやってのけると思ってた」

「カッ。相変わらず食えん」

 吐き捨てるようにこの世界の本来の主は言う。

「もうそろそろ、ワシの力も一度尽きる。この身体、頼むぞ」

「娘の方はいいのか」

「それならもうアテがある」

「……そうかい」

 交わす言葉は少ない。


「クソッ……」

 木を背に倒れこんでいた神の敵は悪態をつきながらも、笑っていた。

「あっちが本物かよ。たまんねぇな」

 あの二柱がどういう関係かはわからない。

 さしずめ親子といったところだろうか。

 左腕を失い、あまつさえ人間のせいで、奥の手さえ出している。

 この状況で二柱は、正直、骨が折れる。

 とはいえ。

「楽しくなってきたな」

 立ち上がりながら、残る右腕に刀を一本。  

 大剣だ。

 これまでの両刃のものではなく片刃。

 雑に言えば、幅の太い無骨な日本刀といったところか。

「吸い尽くせ」

 握った剣から、赤い光が肉体を走る。

 血管のように。

「……そっちも得物を持ってんだな」

 視線が捉えたのは黄金の刀を持つ少女。

 そして、光に包まれた術者。

 交わす言葉もなく、剣戟が響いた。


 剣と剣が甲高い音を響かせるなか、タイヨウは動いていた。

 敵の左側。

 腕のない、防御の手薄な方へ。

 最後の炎を。

 その手が届く。

 戦いを終わらせる一手が。

「もう少し実践慣れした方がいいな」

 その手が、指が。

 わずか数cm。

 阻まれる。

 白の敵が起こした、巨大な力の壁によって。

 急激に現れたそれはタイヨウごと炎を吹き飛ばし、正面で切り結んでいたエペレさえも、弾き飛ばされていた。

 まずい。

 宙を飛ばされ、地に身体が転がりながら思った言葉はその一言だった。

 最後の炎が消えた。

 もはや力はほとんど残っていない。

 網をかき集めるにしても、時間がかかる上、身体へのダメージが大きすぎる。

 正直、立ち上がることさえ、ままならない。

 黄金は未だエペレと繋がってはいるが現実にある疲労の方が勝っていた。

 そのエペレも、なかなか立ち上がれないでいる。

「なんだ、限界がきてたのか」

 剣を振り回しながら、白はつまらなそうに言う。

「思いのほか、あっさりとした幕切れだったがまぁそれもいいだろう。十分楽しんだ」

 一歩ずつ、白はエペレに近づいていく。

 その凶刃を携えて。

 幾何も待たずして、その刃は届くだろう。

 止めなきゃ。

 身体が動かない。

 動けよ。

 力がないんだ。

 知らねぇよそんなもん。

 ねぇもんはねぇ。

 ずっと前から、知ってたことだろう。

 力がないなんて、生まれたときから知ってただろう。

 それでも、もう空っぽなんだ。

 動けない。

 それは肉の話だ。

 お前の心はどうなんだ。

「……ッ!」

 心が叫ぶ。

 動けと。

 肉が叫ぶ。

 無理だと。

 魂と身体が乖離する。

 あまりにも、苦しい。

 ここまで、力の無さに苦しめられたのはいつ以来か。

 空に浮かぶ罅がうつる。

 倒れ伏している土の匂いがする。

 いつまで寝ているつもりだ。

 ―――敵を退け、神を助けろ

 ―――エペレを頼む

 師と神の言葉が身体をかけ、心にこだまする。

 だから何だ。

 お前は誰かに言われたからそうするのか。

 誰かに言われなければ動かないのか。

 違うだろ。

 止めなきゃ、じゃねぇ。

 止めるんだ。

 それは心が欲する現実。

 自分の限界は知ってる。

 力が無い、その現実も。

 知っているなら、超えられる。

 自分の全てを、力に変えろ。

 ないなら創れ。

「ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 

 それは獣の咆哮に近かった。

 理性と理論で戦っていたタイヨウが、限界を無視し、超えたその答え。

 なぜ身体が動くのか。

 今のタイヨウには知ったことではなかった。

 心が思うままに。

 心の欲するままに。

 理屈もへったくれも何もない。

 ただ、動かす。

 前へ。

 エペレに迫る刃へ。

「近づくんじゃ、ねぇ!!!!!!」

 握りしめた、それだけの拳が、敵を捉える。

 敵は言葉もなく、吹っ飛ばされた。

 

 そのまま、エペレの手をとる。

 心が流れ込む。

 交わす言葉はない。

 繋がっている存在にそんなものはいらない。

 心からあふれる力。

 定義だけで言うなら力とさえ言えない原始的な感情。

 それを無理やり、刀へ乗せる。

 最後の炎と共に。

 虹色に輝く剣閃が、振るわれた。


 初めてエペレが打った拳打がごとく。

 いやそれ以上に。

 その剣閃はこの世界からすべてを奪っていった。

 音も、光も、何もかも。

 そしてその先にあるものを捉える。

 白を司る敵。 

 神の敵を。

 虹色の炎が、すべてを封じ、その敵を焼き、世界から消し去った。


 その一撃は、現実世界の太陽が月に喰らわれているがゆえに照らすことのない世界を照らした。

「お前の娘は十分育ってるじゃねぇか」

 その輝きを視ながら、長髪を揺らす。

「少しはマシになったか、タイヨウ」


 光で世界を満たした斬撃は、たかだか人間一人では止まらなかった。

 タイヨウがこの世界にまいた網ごとすべて焼き払った。

 それほどの破壊。

 すでに壊れかけのこの世界がとても耐えきれるほどのものではなかった。

 空の崩落が加速する。

 空だけではない。

 大地さえ、もはや悲鳴を隠すことなく、叫んでいた。

 その大地に。

 少年と少女は伏していた。

 最後の全力。

 正真正銘、あとの無い一撃を出し尽くした彼らは、敵を退けた安堵感と共に空を見上げていた。

「無事か……エペレ」

「大丈夫。タイヨウは……?」

「まぁ……立てない」

「私もだよ」

 ふふふと。

 なぜか笑えた。

 笑っているような猶予がある状況ではない。

 今すぐこの世界から離脱しなければ。

 そういう一刻を争う場面だ。

 けれど。

「タイヨウ、私、よくわからないんだけど」

「何だ?」

「なんでだかね、おかしいんだ。もう、この世界とお別れなのに」

 世界は悲鳴を上げている。

 ここは、少女の故郷だ。

 その真の主は少女の父親だとはいえ、長くを共にした、唯一無二の存在。

 父と母の帰る場所。

 それなのに。

「なんでだろうね。悲しいけれど。涙が出てくるんだけれど」

 どうしてだか心は温かい。

 それは父に会えたが故か。

 それとも、それとは別の何かか。

 握った手は、暖かい。

「ねぇ、タイヨウ」

「なんだ?」

「これから、私どうしたらいいかなぁ……」

 世界が滅びゆくなかで、少女は少年に問いかける。

「……やりたいことはあるか?」

 少年は答える。

「やりたいこと……?」

 世界が壊れていく。

「それだったら……」

 少し逡巡する。

 空に浮かぶ欠けたモノを。

 自分を照らす、少年と同じ名を持つ光を、少女は初めて見た。

「私は外に行きたい」

 それは願い。

 そしてその願いを、少年は聞き届ける。

「じゃぁ行こう」

 地が崩れ、二人は重力に引きずられ、自由落下を始めた。

 触れる空気は、エペレのいた世界のものではもはやない。

 現実の世界。

 神と人とすべての生物が生きとし生ける世界の風が、二人を包む。

 落下する二人が眼下に捉えるのは、崩落し消えていく無数の大地と。

 海に浮かぶ列島。

 青に浮かぶ緑の地。

 遥かな高度から見下ろす地表は、壮観だった。

 風に、重力にもてあそばれるまま、二人は落ちていく。

「随分と手荒い歓迎だな」

 タイヨウは苦笑する。

「これが……世界……」

 初めて視る世界にエペレは目を丸くする。

「こんなもんじゃねぇぞ。世界ってのは」 

 驚くエペレをからかうように、タイヨウは言う。

「もっと、もっと広い。これからいろいろ見よう」

 何もかも知らない。

 何もかも初めての神にとって。 

 それは、その言葉は。

 うれしかった。

「ねぇ、タイヨウ」

 ふと、思い浮かんだことを、エペレは口にする。

「なんだ?」

「どうして私と一緒に戦ってくれたの?」

 崩れゆく故郷を、世界を視ながら。

 エペレは口にする。

 突き詰めれば、これはエペレの戦いだった。

 タイヨウは本質的には部外者にすぎない。

 そのタイヨウがなぜ。

 会って間もないタイヨウが、肩を並べ、戦ってくれたのか。

 一歩間違えればすぐそこに死があるというような状況だった。

「そりゃまぁ……」

 それは何なのだろう。

「そりゃまぁ……?」

「なんだろうな」

 それは言葉にできない何かだ。

 タイヨウにはわからなかった。

 無論エペレにも。

 湖で夢のように会ったあの一瞬。

 一目見たあの時から。

 一目見たその時から。

 あるいはそれはあったのかもしれない。

 もし、それが同じものであるなら。

 タイヨウの心にあるものと同じものなら。

 そうだといいなと、少女は思う。

 世界が滅びゆく、故郷が消えることへの涙は、まだ消えない。

 けれど、その瞳には虹をともし。

 少年と降り立つ世界を見据えていた。


「で、タイヨウ。これからどうするの?」

 落下をはじめてしばらく。

 まだ地表までの距離が相当にある最中。

 エペレは現実を口にした。

 すなわち、どうやって無事に着陸するのか。

「それなんだがな……痛ッ」

 タイヨウにはわかっていた。

 わからされていた。

 その手段を。

 左腕が発するその痛みが、すべて告げている。

「大丈夫?!」 

 そのうめきに、エペレが反応する。

「大丈夫だ、もう少しで……」

 口にすると同時。

 空中に輝きが突如として現れる。

 それは竜の形をしていた。

「タイヨウ!」

「来たか、ハク」

 現れるや否や、タイヨウとエペレを背にのせ、ハクは宙を泳いだ。

「大丈夫か?!」

 タイヨウと繋がっているハクはその衰弱が手に取るようにわかる。

 だからこそ術式の負担を承知で自ら駆けつけたのだ。

「まぁ……生きてるよ。ありがとな」

 その頭に手をのばし、優しくなでる。

 人間の状態とは手触りはまるで違うが、ぬくもりは同じものだった。

「くすぐったいぞ、タイヨウ」

 眼を細めながら、少し満足げに言う。

「あ、これ、妖怪から」

 ふと、思い出したようにハクはタイヨウに一枚の符を渡した。

「師匠から……?」

 符を眺め、術式の用途、意味を解析していく。

「移動術式か……おまけに力まで添えられてる……」

 タイヨウがすっからかんになるのは見越していたのだろう。

 師は起動用の燃料さえも、その符に組み込んでいた。

「ハク、エペレ。少し衝撃が来ると思う。ちょっと備えといてくれ」

 ほんの少しの操作だけで、力が符にいきわたり術式が発動する。

 その発動と共に、一人と一匹と一柱はその場を後にする。

 その瞬間に、神は言葉を聞いた。

「行って来い、エペレ」 

 何度も聞いた、低く穏やかな声。

 心に響くその声に、返事を残す。

「行ってきます」


 最初に会ったのは、どこかに落ちたという衝撃だった。

「いって……大丈夫か?」

「私は大丈夫」

「オレもだ……」

 竜は不安げに、長い身体を丸め、契約者に寄り添う。

 エペレもまた、タイヨウの傍にいた。

 そこはひたすらに暗かった。

 どこかの庭だろうか。

 月明りに照らされて、美しく花々が咲き誇っている。

「どこだ……ここ」

 師匠に渡された術式からは場所を大雑把にしか特定できなかった。

 よもやいきなり敵地ということはないだろうが……。

「どこか教えてやろうか」

 チリン、と鈴が鳴るように。

 凛とした声が背後より通る。

 振り向いた先にいたのは、人間であることが疑わしいほどに神々しい女。

 片目を眼帯で多い、その身は黒と金でまとめあげた豪奢な、しかし洗練されたドレスに覆われていた。

「へぇ、面白いものを掲げているじゃないか」

 少年の服に書かれた字を見て笑む。

「ここは“大聖堂”の頂上。そして私の住居だ」

 

 タイヨウはまだ知ることがなかった。

 そう言った目の前の女こそが、自分の目標であると。


「ゆっくりしていくといい。客は久しぶりなのでな」

 

 楽し気に、マオウは笑った。

 



 はい。とりあえず一区切りです。更新頻度的に二月中に終わるかと思ってたんですが、案外かかるもんですね。

 一話から最終話まで通して読んでいただけた方がどれだけいるのか正直よくわかっていませんが、ありがとうございました。

 内容について触れますと、タイヨウの物語はBGBとしては終わりますがまだ続きます。終わり方が終わり方ですし。ただその続編についてはたぶん六月頃になるかと思います。たぶん。

 その間、別のものを書いたりするかもしれません。書く予定ですがそんなもの未定です。

 宣伝的なことを言わせていただくと、最後に出てきた人、拙作の「夜トの宴」の方にも出てきてます。もしよろしければ眼を通していただけると幸いです。


 繰り返しになりますが、一文字でも読んでいただき、感謝以外の思いがありません。本当にありがとうございました。


 ところで、感想をいただいたのだけれど、規約違反で運営に消されてました。

規約違反の感想って何だろうネ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ