BGB 番外その3「刻限」
前回は変な時間にアップしてしまい申し訳ありません。
ただのミスです。
申し訳ない。
そして今回予告なく番外編で申し訳ありません。
ちょっとドタバタしておりまして。
以下、番外を読むにあたっての注意書き(再掲)です。
この番外は読まなくとも本編は読み進められることはできます。
また、この番外を読まずに先に完結まで読んでいただいて見るという方がいいかもしれません。
個人的にはネタバレが全然大丈夫という方はこの番外を読んでいただいた方がいいかも?といった感じです。
ネタバレとかねーわー無理だわーという方は一旦飛ばしていただいて全部終わってから戻って来て頂ければ、と思います。
だったら最初っからこの順番であげんじゃねぇよという話ですが、そこは作者のジコマンです。
ご了承ください。
門の解錠には時間がかかったものの、一応とけた。
その時間が著しく“白”を腹立たせたわけだが。
「まったくもってわずらわしい……。ここの髪は力任せに暴れるタイプだと思ってたんだがな」」
それはなんとなくの勘だ。
今までの経験で神敵の“源蝕”になる以前のことを含めても神の世界に侵入したことは何回かある。
その経験で、神がどういうタイプかはなんとなくわかるようになっていた。
それを人間の定義であてはめるのはどうかと思うが……。
一つは人間の理解を軽く超える魔法を軽く扱う連中。
もう一つは持てる力をただ反神がごとく振り回す連中。
この世界に触れたときから、てっきりここの神は後者だと感じていた。
「……いや、だれかがこの仕掛けを付け足したのか」
この門。
仮に魔法を使う神が、同類に対して作ったとするならば、もっと複雑に、“白”には理解できないほどのものが用意されていたはず。
すなわち
「これを組んだのは人間……?」
術者を統括する“大聖堂”。
その存在が神を保護しているという情報は神敵には来ていない。
この、侵入者から世界と、ひいては神を守るために作られた門。
これを作ったのは“大聖堂”に与していないかつ
「神敵た俺相手にここまで時間をくわせられる人物……」
“白”は分類するなら反神使いの術者だ。
力に意図を与えてふるう。
もっぱら戦闘においてもそうだが、対をなす魔法が使えないわけではない。
むしろ空を飛ぶ機関車を簡単に作り出すなど、図抜けているとさえいっていい。
それをして解除に一日もの時間をつぶさせた門。
まずもって“大聖堂”に所属しない術者など神敵を除けばそうはいない。
数えられる程度のその中でこれほどのものを作り出すとなれば
「“妖怪”……!」
脳裏に一人の男の姿が浮かぶ。
長髪を揺らす、長身痩躯。
アイツに会ったのは神敵に入る前だったが。
「あのクソ野郎が関わってるのか!」
かつて飲まされた煮え湯を思い出す。
あふれてくるのは怒りと
「だったら野郎をぶっ殺せるかもしれねぇってわけか!」
復讐を遂げられるかもしれないという狂喜。
負と正の感情をないまぜにしつつ、錠のとけた門を開く。
「……クソッタレめ」
耳障りの音をたてて、開いたその先には
「迷路か」
やたらと高い壁と一つだけある入口。
巨大な迷路が存在した。
入口からでは出口は当然だがその規模がわからない。
ただその高さからいって、数時間程度で終わるものでもないだろう。
更にそれが“白”の考えている通りの人物が作ったとするなら。
「……そっちのやり方にはのらねぇぞ、“妖怪”」
その手に一本の剣を出現させる。
鈍く輝くその剣は、通常の人相手のモノに比べればおよそ倍の大きさがある。
「迷路があるなら出口にたどりつかなきゃいかねぇ。大抵はそう思う」
その刃に、力を。
“妖怪”に向けた殺意さえもこめて。
「そもそもの話だ。迷路なんてのは攻略法がある」
炎のように光が剣に集まっていく。
「一つは完全なしらみつぶし」
集まった光が、力が空間を軋ませる。
「もうひとつは、壁をつぶすことだ」
もはやその強すぎる光は、すべてを歪ませていた。
空間も、音も、重力も、あるいは時さえも。
「まずはこの壁からだ。“妖怪”」
強すぎる一撃が、迷路を崩し、壊し、神の世界ごと、揺らした。
その光の通った後に残るのは、光を放った本人のみ。
右手に持つ大剣からは光が消えていた。
「この程度じゃさすがに世界は割れないか」
その視線のはるか遠く、およそ200mくらいだろうか。
その先に、一つの扉が残っている。
「……」
それがその世界の入口だという確証はない。
だが先ほどの剣閃で壊れていない頑強さを鑑みればその可能性は十二分にある。
“白”は確認さえしなかったが、彼の後ろにあった巨大な門は、同じ一撃の余波であとかたもなく消え去っていた。
一歩ずつ扉に近づいていく。
「少し待ちたまえ、“白”」
脳内に唐突に声が入り込む。
ひびくほどに低く、威厳のある声だ。
「……そのやり方、急すぎるんでやめてくれませんかね“黒”」
その声の主は神敵の頂点だった。
脳に直接声が響くというその事実に、“白”は内心恐怖さえ感じていた。
術者のなかでは異端の存在とはいえ、術者であることに変わりはない。
それに加え、神を相手にするという己の状況から“白”は常に術式によるプロテクトを自身に施していたのだが。
「すまないね。これ以外やり方がなかったようだから」
それをやすやすと気取られることさえなく対象の内部に侵入するという離れ業。
それをなんてことはないとでもいうように“黒”は続ける。
「戦闘好きの君に朗報だ。今、君が向かっている“金髭の死熊”なんだけどね、強さにムラがあるみたいなんだよ」
「ムラ……?」
「あぁ、まぁ神様に限らず伝説と言われるような連中にはよくある話だけどね」
伝説だけでなくあらゆる生物にそれはあてはまる。
コンディションとよばれるものがそうだ。
人間の場合、それは目立つ形で現れるとすれば女性の生理周期程度のもので、それ以外にほとんどない。
そして、何かの物理的影響をうけてコンディションが変動するということも人間においてはない。
ならば神はどうか。
何かを司る、強者たる神は。
「“金髭”には何が影響するんです?」
「月だよ」
“白”には“黒”の声しか聞こえていない。
だがなんとなくその男がニヤリと笑った気がした。
「月……ですか」
「あぁ。その世界はこちらの現実世界と少しときの流れがずれてはいるが……あと8時間ほどで月が太陽を喰らいはじめる。だからそれまで待ってみてはどうかな?」
そのほうが君も楽しいだろう、と“黒”がささやく。
挑発的な言葉だけ残して声は脳内から去った。
そうしてようやく、あの男がいかに恐ろしいかを再認識する。
正確な位置まではわからないが彼がいるのはおそらく地球の裏側だろう。
そこから通信をとばすことの難しさ。
なんらかの術式をわたされていたわけではない。
かといってつかまされたという可能性もない。
神と戦おうという身が、自身の肉体の異常を見つけられないはずがない。
「あげくどっから情報をつかんでくるんだか……」
神敵における“源蝕”のメンバーの仕事は指定された神の討滅だ。
その居所は“黒”から通達される。
その情報源は一切不明だが。
少なくともこれまで伝えられた範囲においては間違っていたということはない。
その素顔自体もいつもフードに隠れていてよくわからない。
あの“黒”についてわかっているのは神すら打倒しうる“源蝕”のメンバーを束ね、その六人すら軽く裏をかけるほどの実力者であるということくらいだ。
その情報量の豊富さと、時々垣間見える“マオウ”への警戒を見るにあたり、その正体について一つの仮説を立ててはいるのだが。
「確かめようがねぇしな……」
「おっとそういや忘れていた」
不意に響く脳内の声に思わず背筋がゾクリとした。
「……どうしたんですか」
「今回の対象の“金髭”だけどね。アレ、“大聖堂”が以前やらかしたときに出てきたらしいんだよ」
「“大聖堂”がやらかした……?術式実験の失敗か何かですか」
「まぁそんなとこだろう。詳しくは僕も知らないが。ただそれで山が一つ消し飛んだらしいんだ」
「それは随分と下手をうちましたね」
「あぁ、問題はそこからだ。その山とどういうつながりがあったのかはわからないが、“金髭”は怒れるままに暴れたらしくてね」
「……それが?」
「結局大賢者6人と界者2人でようやく鎮まったとさ」
「界者2人……」
“大聖堂”において“マオウ”に次ぐ6人の強者たち、それが“界者”だ。
それを二人も投入して鎮まったとなれば、神のなかでも主神とされるような連中と同等の力を有しているに違いない。
「そんな強者がなぜ無名なんです?知りませんでしたよ、俺。それに界者が二人も動いたとなると噂くらいは耳にしてもよさそうですが」
“白”は自覚もあるが、情報に対してそれほどアンテナをはっているわけではない。
しかしそれほどの大事件、耳にしないほうが不自然だ。
「まぁ“金髭”、未だ記されていない神<アンネイムド>だしね。下手をすれば新しく神話ができちゃうから“大聖堂”というよりは“マオウ”あたりがもみ消したんじゃない?」
「なるほど……それならわからないでもない」
「ま、要するにそれだけ強いってことだから、ウォーミングアップくらいはしといた方がいいんじゃないかな」
じゃぁね、期待しているよ。
今度こそ別れを告げて、声は消えた。
「ウォーミングアップねぇ……」
要は準備体操をしておけ、ということなのだろうが。
自分にそんなものは必要ない。
正確には“白”の術式には、だが。
準備をしつくさなければ使えない術式など神相手には無意味だ。
なにをするかも、どういう属性かもわからないうえに力の総量でこちらが勝てるわけがないのだから。
ゆえに、“白”は神を打倒すると心に決めて以降、己の戦い方を一つに絞った。
自身の持つ陰の属性と南の方位。
ゆえに現れる光の属性。
それをつきつめ、極め、形にした、それが剣。
魔力自体は人並み外れて持っている上に、そもそも現代の術式では効率をよくすることはできても総量はどうしようもない。
だから術式の精度を上げる。
相手がいかなる者であろうと、光の前に切り伏せる剣。
もちろん、補助的な術式はあるが、それさえも剣を使ったものだ。
すべてを剣にたくし、すべてを剣で切る。
むろん、神でさえも。
目前の扉を開けばおそらく神のいる世界がある。
“黒”の言った時間はいずれ来る。
ならばそれまで、ウォーミングアップをしようじゃないか。
あぐらをかき、手を組む。
瞑想だ。
多少は使ってしまった力の回復と、イメージの強化。
全てを切り伏せる覚悟をもって、“白”は目を閉じた。
彼が世界に侵入するまで、残り七時間半。




