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前触れ

 宇宙人との学校生活がどれほど危険かということをわかったところで、僕は今三好先生の授業を受けている。隣に座る美少女宇宙人を気にしつつも、あえて目に入れないようにして、拝むようにして顔の前で手を組んで願った。


(これ以上何事もなく、1日の学校生活終わりますように)


 そう願いつつも、頭の片隅では絶対に嫌なことが起こるだろうと思ってはいた。だって僕の人生、あり得ないことばかりじゃないか。とてつもなく運が悪い事続きだ。逃亡前の束の間の学校生活にしても、そうだろうに思う。でも願わずにはいられない。仮に99パーセントそうだとしても、残りの1パーセントにかけたいのだ。


 はあーーという長い溜息をついて手を伸ばす。


 朝、転校生の紹介の時にはみんな突っ込んでいた僕の席にピタリとくっついているサラの席に関してはみなさも最初からそこにあったといったように授業が開始し、黒板上にある時計をみるとそれから30分は経っている。

 さきほど出したリモコンのような装置によって、みんな洗脳をされているのだ。不自然すぎて気味が悪い。


 ……本当に大丈夫なのかな。体に悪影響とか、死んだりしないだろうか。


 質問しようと横にいるサラを見たら、なんだが先生の話に興味津々といったように、なぜか持っていたノートや教科書を広げてペンを持ち、黒板にある文字を読んで(読めるのか?)書き書きしているようだった。ちらりと覗くと、わからない文字の羅列がバーっと書かれていた。多分宇宙語だろう。



 もう片方の隣を見ると頬杖をつきながら、口を尖らせているひかりんがみえた。こちらも、さも当然として座っているが、そこは今日も欠席である神崎さんの席だ。誰もいや、誰かは突っ込んではいた気がするけど、いいのかな。ひかりんだし、まあ、休みだしいいかって感じなのかな。



 ひかりんの前の席にいる花咲さんが目に入った。後ろ姿でもわかる。まじめに授業を受けているようだった。



『ドキドキシュミレーションゲーム』


 なぜか突然脳裏に変な言葉が浮かんだ。そういえば変な夢をみたな。サラにみぞおちにパンチを食らった時、見た夢だった気がする。あの夢……、すべてサラを選ばなければバッドエンドだったけど、花咲さんだけ選択肢も何もでなかったんだっけ。出たら僕はどっちを選択していたんだろう。


 っていきなり何を思い出しているんだ。しかもなに気になっちゃってるんだ。



 あり得ないあり得ない、考えるのはよそう。僕にはそういうのには縁がないんだ。花咲さんのこともそうだし、ひかりんのことだって、きっと何か裏があるんだ。ずっと浮かれていたけど、イメージの崩れた今ならわかる、ひかりんには何か裏があると。それで僕に近づこうとしてるに違いないと。


 昨日、もう遠い昔のように感じるけど、確かに何かを僕に回そうとしていた。それが何だったのか、粉砕してしまった今わかる術はないけれど、確実になにか嫌な方面だ。



 でも、でも、でもである。やっぱり期待してしまう。矛盾しているのはわかってるが、僕に縁がないというのはわかっているが、やっぱり僕は彼女のファンなのだ。


 昔僕たちは会っていて、もしかしたら――――なんてことは思ってしまうのである。仮に100%ないとしても。


 っていやいや、待て待て違うだろ、僕。

 ここで、一番考えなきゃいけない事、それを僕は考えていない気がする。絶対今大切なこと忘れてるよ。なにかとてつもなく大事なことーーー宇宙組織にーー



「そうだ! 宇宙組織に指名手配されているんだ!!」


 はっとして、僕は大声をあげてしまった。気づくと僕の机の前には鬼のような表情で見下ろしている三好先生が教科書を片手に持ち、片方の手を教科書でポンポンと叩いていた。そのとき、周りの視線が僕に集中しているのに気づいた。あーやってしまった!


 ボカ


 三好先生が手に持っていた教科書で僕の頭を遠慮なく叩いてきた。痛い。


「何が宇宙組織だ。遅刻の常習犯で指名手配でもされたのか? 授業に集中しろ!!」


 クスクスと笑いが起き、僕は頭をさすりながら、すみませんと小さい声を出す。三好先生の痛い視線を感じ、仕方なしに教科書ノートを開いてペンを持つが、それは表面的だけで授業に関心を向けるなんてことはできなかった。だって、さきほど叫んだことは事実なのだから。



 ☆


 授業終わり僕は、なぜかもっている鞄に機械的に教材一式を入れているサラに小声で宇宙組織のことを尋ねた。どういう組織なのか、そして指名手配というのは一体どれくらいやばいことなのか。

 


「ああ、宇宙組織には簡単には語れないぐらい歴史があるの」

 サラはさらっとした顔をして答えた。


「歴史?」

「そうそう、たとえば発足は宇宙戦争の話からになるんだけどーー」

「あー、歴史は大丈夫だよ。どれくらいの規模なのか知りたいな」


 なんだか難しい話になりそうだったので話を遮った。サラは教材を入れ終え、机の横に鞄をかけるとなんだか満足気な表情をしながら僕に顔を向ける。


「それも話せば長くなるんだ。末端は小さな星一つ分埋まるほどの生命体がいるんだけどーーそうだね、省略して話すとその中で私は重役の立ち位置にいる。だから裏切るはずがないと信頼されている。接触機械は経ったから、知られるには時間の問題だけど、それでも気付くまでにはある程度の時間はあるはずだよ。だから一日ぐらい、いや数時間程度なら余裕で学校生活大丈夫」


  小さな星一つ分……!

  って小さな星ってどれくらいのだろう。けどともかく凄い組織だっていうことはわかった。わかったけど……。


「……でもさ、それってかなりやばいんじゃない? サラが」


 ふと思った疑問を僕は口にした。


「ふふ、ありがとう! のぞむ、心配してくれて嬉しい! 」


 サラは僕に嬉しそうに身を乗り出しながら、笑いかけるが、背筋を伸ばして僕から顔を逸らし、僕の後ろの人物ーーひかりんーーに向かって冷たい口調と表情で言い放った。



「対策する前にまずはそいつをどうにかしなきゃね」



 後ろをみるとクラスメイトに囲まれたひかりんが睨んでいた。サラの殺気を感じてこちらを見たのだろうか。



 しかし、勝負と朝言ってたけど、なにをするんだろう。



 ひかりんは群がるクラスメイトを背に席から立ってこちらを見下ろしてきた。僕を挟んでサラへ向かってにこやかな顔をする。


「さて朝言っていた決着つけましょうか」


 ガタッと音を立ててサラが立ち上がり、僕の後ろを通り、ひかりんの前に立つ。


「のぞむところよ。いくら朝食べたハンバーグ定食が絶品だったからといって手加減はしないわよ」


 確かにあのハンバーグは美味しかったと一人頷きながら、朝とほぼ変わらない口論を聞きながらハンバーグの味を思い出しながら静かに着席していた。するとヤジが飛んできた。



「は? なんで宇多川、こんなギャルゲー主人公みたいになっているんだよ」


 前の席に座っている本田が後ろを振り返り、心底納得いかない顔をしながら、こちらをみている。本田の席の近くにいる複数の友人らは無言でうんうんと頷いていた。


 ここで、すぐ思わなければいけないのは、今この状態はかなり目立っているということだということだけど、それ以上に本田の頭が本当にツンツンしすぎてて、第一に思ったのはどうやってそんなにツンツンさせて来ているんだということだった。けれども今は突っ込める状態ではない。



「えーと、わからないよ」


 僕はぎこちなく笑いながら、返答をすると、

  ふーんと言ったように本田は怪訝な顔をした後、近くにいる友人と話し始める。



  「はぁ……」

 僕はため息をつき、ちらりと二人を見る。白熱している。話の内容は僕を巡ってのこと。少し慣れてしまっていたこの状況だけど、そうだ今の状態はかなり異常事態だ。


 ……周りを見てみると、殺意に満ちた目で僕をみている。昨日ひかりんにやらかしたドジに対する殺意の目線ではない違うタイプの視線。どういうことだと、付き合っているのかと、そして相手の転校生の美少女は誰だと。きっといろんな考えがその眼差しに込められていることだろう。



 しかし、そんな返答は僕にはできない。先ほども言った通り、わからないのだ。本当に。


 二人のトークをどうにか止めなければと思ったものの、何か言えば更になんだか大変なことになりそうな気がして、僕は一人席で俯きながら、耳を塞いでその場をしのごうとした。隣でじゃんけんしてる声も聞こえてくるが、聞こえないよう強く耳を塞いだ。

 すると、僕の座る席の机からちょこっと顔を出している花咲さんが見えた。何か言葉を発している。聞こえなかったので、花咲さんに「何?」と聞くと、


「さっきのどういう意味? 授業中叫んでたアレ」


 とひそひそと尋ねてきた。




 僕はあぁ宇宙組織の話かと思い、素直に答えようとした。


「それは、言った通り――――――」


 しかし、その直後、突然に前にみた夢が頭によぎる。


 ―――ゲームクリアおめでとう! 宇宙組織に指名手配されたあなたは普通の人間と暮らすことはできないのです。なぜならあなたをかばった人間は宇宙組織に追われるかもしれません――



 僕はその先を言うことはできなかった。そして目を泳がせた後、



「ーーいや、さっき寝てて変なこと言っちゃってたみたいだね」



 あははと誤魔化して僕に、花咲さんは信用していなかったように目を細めるか、ニコッと笑って立ち上がる。


「そうなんだ」

「そうそう」


 僕は下を向きながら頷く。

  心の中で謝りながら。

 ごめんね、花咲さん。僕は頭が回らないから、こうして、学校に安易に来て、最後の生活を楽しんで(楽しんでないかもしれないけど)るけど、きっとあの夢のように事情を話してはいけないんだと思うんだ。




「……花咲さん、前にも言ったけど、本当に感謝しているから」


 僕はにこやかに顔を上げて花咲さんに向かって感謝の言葉を述べた。少し意味深かもしれないけど、多分これで最後だと思うから。花咲さんはきょとんとしつつも、またニコッとした。


「わかってるよ」


  僕たちがこそこそ話してる間にも隣で口論が続いている。注目を浴びている二人に花咲さんが横に入りに行く。



「ね、じゃあこうしたらどうかしら」


 花咲さんが顔の近くに人差し指を立てる。


「なに?」

「私演劇部に入っているのだけど、休み時間、演劇で勝負をつけるってのは?」


 二人は考えた顔をして


「「いいわ」」


 と了承した。



 花咲さんは僕に小声でよかったねと言って遠くにいる女子のグループの元へと去っていく。


 演劇……。ああ、ひかりんは天才女優だ。わざとひかりんに有利な勝負を提案したんだろう。僕がひかりんのファンだと知って……。勝たせようとしたのか、ひかりんに。

  ありがとう、花咲さん。



「じゃあ、そういうことで、休み時間に勝負しましょう」



  ばちばちした火花が散る中、休み時間決着が着くらしい。


  間違いなく、ひかりんが勝つだろう。しかし万が一、ひかりんがなにか企んでるとしたらーー僕は考えるのをやめて、1パーセントの可能性にかけた。恋の火花であってほしい。



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