初めての戦闘
タイトルの以下の部分を変更しました。
前『〜異世界転生で落ちこぼれ航空会社のパイロットになった〜』
↓
後『〜異世界最強のパイロットになった〜』
4話のタイトルを『一夜明けて』から『初めての戦闘』に変更しました。
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炎で囲まれた戦場へと変貌した村で、俺は14人もの盗賊達に向かって猛然と地面を蹴った。
俺の全力ダッシュに一瞬遅れて彼らも動き出す。
だが遅い。
彼らは俺が、まさか14人もいる集団に向かって突進してくるとは思っていなかったようで、驚愕の表情を消して戦闘態勢に入る頃には俺は集団の中に侵入していた。
先程、利き手の指を俺に折られた、モルゾというボサボサ男の剣は地面に落ちた状態で彼は丸腰状態だった。
俺はモルゾに狙いを定め、間合いを一瞬で詰めると剣を地面スレスレの位置から振り上げ、モルゾの首へと直撃させた。
「ごふっ!?」
突然、標的にされたモルゾは成す術もなく、衝撃によって太っ腹を揺らしながら倒れた。
まるで死んでしまったかのように動かなくなる。
だが俺の剣は鞘に納められているので殺傷能力は無い。殺しをするためにここに来たわけでも無いからだ。
俺が狩ったのは命ではなく意識だ。
とりあえず、まず1人目を倒した。
「うおおおおおっ!」
雄叫びしながらいち早く俺に近づいたのは青いバンダナを頭に巻いて、腹筋を露出させた格好の男。
主武装は長槍。
突進しながら鋭い突き技が放たれる。
槍はリーチの長さが最大の利点だ。
それを生かし、どんどん突き技を連発させる。
だが単調な突き技はすぐに見切れる。
突き技を繰り返す長槍を左腕で抱え込むように掴み、槍使いは身動きができなくなる。
俺が槍を勢い良くぐっと手前に引くと、それによって槍使いの体が前へつんのめる。
体勢が崩れたところで剣を腰のベルトに挟み、それによって空いた右手で拳を作り、顎にアッパーカットを決め込む。
「ぶごっ!」
宙に浮かんだ槍使いは俺の顎パンチで豪快に舌を噛んだようで、情け無い声と共に撃沈した。
これで2人目。
槍使いがダウンしたと同時に、俺の視界左端から接近してくるのは湾刀を持ったベリーショートヘアの金髪男。
湾刀は俺に向けて斜め左上から右下へと振り下される。
俺は湾刀の軌道の下に滑りこむと身体の向きを反転させ、剣の流れに乗るように金髪男の腕を掴み勢いそのままに一本背負い。
スッダーン!!
手加減なしで地面に叩きつけられた金髪男の身体の衝突音が響く。
俺は間髪入れず高く振り上げた踵を起き上がろうとする金髪の鳩尾へと放った。
涎を口端から垂らしながら白眼を向いた。
3人目。
「ナめてンじゃねえぞ、くそガキィ!」
馬鹿みたいに正面から突っ込んでくる、フードで顔を隠した男が、憎悪を含んだ叫びを発しながら攻撃を仕掛ける。
俺はフード男が持つ直剣の動きに意識を集中する。
奴は剣を胸あたりで構えている。
恐らくこの後、剣を振り上げ、右上から左下へと振り下ろすだろう。
ならば、右切り上げで受ける!
俺は右下から左上へ斬るように剣を振った。
果たして奴の剣は俺の予想した通りの軌道を描くか?
予想違わず、剣と剣の軌道が交差しーーーー、
直後、甲高く響く剣同士の衝突音と火花。
俺はフード男を見る。
フード男は何を思っているのか、口元が僅かに緩んでいた。
奴の狙いは俺を真正面から斬ることでは無いのをひしひしと感じていた。
俺は腰に装備していた戦闘用ナイフを逆手で引き抜き、背中へと回す。
直後、ナイフに何かが衝突する音が背後から聞こえた。
俺は視線だけを後ろへ向ける。
そこには背中への不意打ちを防がれ驚愕の表情を浮かべたーー、チョンマゲのように髪を纏めた男がナイフに剣を当てたまま立っていた。
彼が驚くのも無理はない。
後ろへ回り込まれれば、普通の人であればまず気づかないからだ。
だが甘い。
奴は接近するとき足音を殺さなかった。
俺は昔から耳が良かったから、音の発生した方角、距離を正確に判断するのが可能なのだ。それに俺は視界に誰が居て、誰が居ないのかを常に把握している。
だから、後ろからの襲撃を予測できたのだ。
でなければ多数の相手には絶対に勝てない。
「セイヤァァッ!」
チョンマゲ男は雄叫びしながらもう一度、俺に向けて剣を振りかざす。
2度目の攻撃はナイフ一本で防げないと判断した俺は、背後からの刃を防ぐために俺はフード男の襟首を掴み、足技をかけるとぐるりと回転して俺とフード男の位置が逆転する。
そのフード男の背中の先には、チョンマゲが振り下ろそうとしている剣。
そう、フード男を肉盾にするために立つ位置を逆転させたのだ。
チョンマゲ男は剣が向かう先に仲間が立っていることに驚きの表情を浮かべた。
だが斬撃はチョンマゲ男にも止められない。
肉盾にされたフード男の背中を剣の切っ先が深く抉った。
「ぐわああああっ!」
背中を斬りつけられたフード男から手を離すと苦痛の叫びをあげ、出血部位を左手で押さえながら地面を転げ回る。
チョンマゲは仲間を斬ってしまったことに罪悪感を感じているせいか剣の動きが一瞬、鈍くなる。
俺がその一瞬の隙を見逃すはずも無い。
「ハアアアァッ!」
下から勢いよく振り上げた剣はチョンマゲの顎に激突、一瞬浮かんだ身体は大の字になって倒れた。
この時点で5人を気絶させることができた。残るは9人。
彼らはようやく余裕の表情を消し、鋭い視線で睨む。
俺も集中力が加速され、戦い方も少し分かってきた。
続いて接近したのは口元を奇怪な仮面のようなもので覆った両手剣使いの低身長マッチョ男。
マッチョは剣を横へひと薙ぎする。
俺は剣の軌道の上まで跳躍すると同時に身体を限界まで捻り、その反動を使って脚を回転。
勢いつけた回し蹴りはマッチョの顔面に炸裂。
前歯がバリバリと歯茎から引き抜かれ、口の中が紅色に染まる。
マッチョは血だらけの顔面を押さえフラフラとよろめく。俺は間髪入れず頭を掴み、そのまま後頭部を地面へ叩きつけた。
恐らく視界がホワイトアウトしたであろうマッチョ男は一瞬ビクリと身体を痙攣したのち気絶した。
6人目。
次に後ろから襲いかかったのは右手に短剣、上下ともに黒い衣装に灰色のフード付きマントと、暗殺者を連想させる衣装を身に纏った禿げたツルピカ頭の男だった。
ハゲ男の短剣に俺はナイフで応戦。
だがこの男はなかなかやるようで、そう簡単に隙を見せようとしない。
そこで俺は足で地面を蹴った。
それによって舞い上がった砂が目に入ったようで、ハゲ男は一瞬だけ両目を瞑った。
その瞬間を狙って、下から上へ一振りした直剣は軌道上にあるハゲ男の股間へと直撃した。
「ふごゅぐがッ!?」
ハゲ頭の顔は激しく歪み、思わず短剣を持っていない方の手で震源地を押さえる。
余りの痛さと、目に砂が入ってしまったのもあって目尻からは涙が滲み、目の焦点は合っておらず、虚ろな眼になっていた。
…………うん、超痛いだろうね。
俺は同じ男として同情しながらハゲ男の後ろへ回り込み、剣の腹を後頭部に直撃させると脳震盪を起こさせ、そのままうつ伏せに倒れた。
ようやくこれで半分。
いや、ここではまだ半分と言った方が良いだろうか。
残る人数は7人。
俺は残り半分を殲滅すべく、暴れ狂う獅子のごとく剣を振り続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はあ……はあ……」
俺は激しく肩で息をしながら、剣を地面に突き立て、身体を支える。
俺の周囲には13人もの盗賊たちが無様に倒れている。
しかし大人13人を一挙に相手した俺の体力は極限まで消耗していた。
あとは……
「お前ェ、ただの子供じゃねえな?」
そう声を発した14人目ーー、つまり最後の1人へと視線を向ける。
盗賊の頭だろうか。長身大柄な体格で肩にかかるほどに長い髪、髭が濃いおっさん。
一際目立つ赤いバンダナを頭に巻き、主武器は湾刀や槍といった類の武器ではなく、先端部が石でできた巨大ハンマーのような戦鎚だった。
俺は髭面ジジイに向かってぶっきら棒な声で呟く。
「ただのガキじゃ無かったら、なんかあるのかよ?」
「いや、ねえけどな」
髭ジジイはニッと口端を歪める。
「まあ俺以外のメンバー全員を倒したお前に敬意を表してこの俺、シングス様が本気で相手してやるよ」
そう言うとシングスは何やら呪文のような言葉の羅列を唱え出した。
「ウース、オウラ、シグニス、コルトボォーク、アンスタント、フォルト!」
呪文を唱え終わるとーーーー、…何も起きない。
何かの攻撃魔法だと思っていたが、どうやら違うようだ。
見た感じ奴自身にも変化はない。
俺が不思議に思っているとーーーーーー、
シングスは戦鎚を後ろに構え、薙ぎ払い攻撃を予測させる動作を見せた次の瞬間ーー、
戦鎚が消えた。
いや、これは……
俺は嫌な予感がし、瞬間的に上体を仰け反らせた直後ーーーーーーーーーーー、
「ウヒッ!?」
俺は思わず奇声を上げてしまう。
一瞬前まで俺の頭があった場所を戦鎚が、フルスイングされる野球バットの如く視認するのが難しいほどのスピードで通過したからだ。
もしあのまま回避行動をしていなかったら、俺の頭部は間違いなく粉砕、即死していただろう。
俺は仰け反ったついでにバック転で後退し、一旦距離をとる。
シングスはニヤッと嗤う。
「ほう、今のを避けたか。俺の薙ぎ払い技を躱せたのはお前が初めてだ」
そんな台詞をベラベラと話しているシングスを見ながら俺はーーーーーー、
あんなのでプレスされてたまるかよ!というか、盗賊のくせに魔法使えるとか卑怯だろ!と心の中で絶叫する。
まあ、そんな文句は置いておくとして…………。
俺は再びシングスの戦鎚を見る。
まるで羽のように軽いのだと見せつけるように、巨大な槌を片手で振り回しており、トンデモ怪力によって暴れる槌はヒュンヒュンと空気を斬る音を生み出している。
先ほどの詠唱したのはどうやら筋力増加魔法のようだ。
「かかって来ないのか?ならば俺から攻撃させてもらうぞ!」
シングスは筋力増加魔法で強化された脚力で俺との距離を一瞬で縮める。
「くっ!」
俺は戦鎚の軌道を見ることで避けようとするが、それを速すぎる戦鎚が許さない。
仮に俺が右手に持っている剣で戦鎚の攻撃を防ごうとしても、耐久性がそれほど高くない剣では当たった瞬間に折れてしまう可能性が大きい。
そのため、俺はほぼ勘だけで戦鎚を回避し続ける。
しかしこのままではいずれ勘が外れ、致命的な傷を負ってしまうだろう。
そして、その予想は的中してしまう。
鎚の軌道を予測しながら連続6回目の回避行動をしようとした時、予想したタイミングよりも一瞬戦槌が速かったのだ。
しまっ………。
気付いたときには遅く、俺の左脇を鈍い衝撃が襲う。パキパキと肋の骨が何本か折れるのがはっきりと分かった。
俺は砲弾のように弾き飛ばされ、十数メール先の広場に設営されていた店の中へと突っ込んだ。
「グッ……かはッ!」
前世でトラックに跳ね飛ばされたときに似た激痛が全身を走る。
さらに店内に展示されていた瓶類が棚から落ちてきた。
割れた瓶の破片で額を切ってしまい、赤い液体が頬を伝って流れ出す。
俺の身体はズルズルと壁から落ち、床に崩れ落ちる。
頭を打ったせいか、視界がぼやける。
砂利を踏みながら店へ近づいてくる足音が聞こえる。
床から身体を起こした俺はシングスに視線を向ける。
経験、体格、年齢的に向こうのほうが上だ。さらに奴は魔法を使える。
転生直後に遭遇したそれなりに強い敵。
魔法は使えど、俺と同じ人間なのだから勝率がゼロな訳では無い。勝つ方法は必ずあるはずだ。
考えろ…考えろ!
俺は思考をフル回転させ、必死に打開策を考える。
そのとき、不意に床に転がっていた1つの瓶が俺の視界に映った。
「これって………」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おいおい、いつまでも隠れんぼしてんじゃねえぞ。それとも今ので死んじまったか?」
シングスは嗤いながら、店の中を見た。
だが、次の瞬間に出現したそれにシングスは目を疑った。
あの少年が立ち上がったのだ。
馬鹿な!?
ジンクスは驚愕した。
子供があのオーバープレスを喰らえば、普通なら立っていられないはずだ。
だが現に少年はフラついてはいるものの確かに両足で体を支えている。
だがもう真面に戦うことはできないだろう。
だが立っているのは事実。
次の一撃で決めよう。シングスがそう思ったときーーー、
少年は弾かれたように飛び出し、猪突猛進と言い表せるほどに馬鹿正直に正面から来る。
「はっ、勝つのを諦めて、やぶれかぶれの特攻かよ!所詮はガキか」
自分へと接近する少年に向かってシングスは戦鎚を振った。
だが少年はそれをひらりと躱したと同時に子供とは思えないほどのジャンプ力で大きく跳躍。
シングスの頭上を飛び越え、その後ろへ着地する。
「背後をとれば勝てるとでも思ってたか!」
シングスは過去最大の力を込めて、自分でも視認出来ないほどのスピードでそれを振った。
だが少年はそんな戦鎚をまたも紙一重で躱したのだ。
そして少年の持つナイフがシングスの右脇腹を捉え、僅かに抉った。
「うっ!?」
僅かだが、久しく感じていなかった痛覚がシングスを襲う。
斬られた?………この俺様が!?
まさかあんなガキに自分の屈強な体に傷を付けられるとは予想していなかった。
だが、予想していなかったのはこれだけでなかった。
視界がクラっと歪んだのだ。
それと同時に強烈な睡魔のようなものが襲ってきたのだ。
そこで1つの可能性に気づいた。
「貴様ッ……まさ……かッ!」
「ああ、お察しの通りさ」
シングスの後ろ、5メールほどのところに立つ少年は初めて勝利の笑みを口の端に刻んだ。
ナイフの刃に睡眠薬を塗りこんでいたのか!
だが気付いたところでどうにかなるわけではない。
解毒薬は持ち合わせていない限りは。
「う………あ………」
いくら賊の頭であるシングスとは言えども睡魔に勝つことはできない。
意識が完全に闇の底へ引き込まれると、屈強な男の身体は後ろへよろめき、地に伏した。
「ふう………危なかった」
俺は安堵のため息を吐き出す。
「これのお蔭だな」
俺の左手には緑色の液体が詰まった小瓶。
言うまでもない。睡眠効果がある薬だ。
実は買い物に出かけて店に寄ったときに、店員から『モンスターとかに遭遇したときに備えて短剣などにこの薬を塗っておいて、その剣でかすり傷を負わせれば、あとは睡眠薬が体内に吸収され、一瞬で眠らせることができるんですよ!睡眠効果は30分以上発揮されます。お試しでひとつ買ってみてはいかがですか?』と勧められたのだ。
実際に購入はしなかったが、説明だけでも聞いておいて良かったとしみじみと思った。
ようやく戦闘意識を解除した俺は辺りを見回す。
いつの間にか火災も自然鎮火していたようで周囲はシンと静まり返っている。
戦闘時に集中力をかなり使った上に寝不足も
あってか、疲労感がどっと身体にのしかかる。さらに今更ながら肋の骨を折られた痛みが現れ出した。
俺は思わず地べたにへたり込んだ。
「こりゃあとで爆睡だ……な」
俺が座り込むと同時に地平の彼方から暁が姿を現し、光が村全体を優しく包み込んだ。
その暖かな光はまるで俺の勝利を祝福しているかのようだった。
こんばんは、作者の大橋リッキーです。
ハードフライト4話(プロローグも含めると5話)を読んでいただき、本当にありがとうございます。
今回のお話は戦闘シーンのみで、表現するのにかなり苦労しましたが、なんとか14日に投稿することができてホッとしています。
さて今回のお話は盗賊を掃討する回となりました。
16歳であるケイが14人もの盗賊に立ち向かう。殺さずに勝つ…なんて普通ならありえないでしょうが、傷を負いながらもなんとか勝利しました。
盗賊の頭であるシングスにどうやって勝つか…。そこが一番悩みました。結局は睡眠薬のチカラも借りて倒しちゃいました(^^;;
さてさて!いよいよ次回はメインキャラクターである女の子と飛行艇(この異世界では飛空艇と呼ぶ)が登場します。
次回はケイがミューリを母親の元に連れて行くシーンから村を離れるシーンまでをお届けします。
(10/19現在、最新話の創作がなかなか上手くいっていないため、投稿はもう数日遅れます。予定通りに投稿できなくてすみません(>_<))
次回『少女と翼』