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人工惑星  作者: 赤靴下
9/49

2-3

 昼食の後、リンゴが店番を代り、アキは市を見てみようと外へ出た。昨日の快晴はまだ続いており、空気は乾いて暑かった。アキは地図を見ながら、言われた通り広い道を歩いて中央地区へ向かった。白壁の民家が並ぶ通りに人影はまばらだ。たぶん住民は市へ行っているのだろう。民家の間の細い路地の前や井戸のある小さな広場を通り過ぎ、なだらかな坂道を登っていくと石造りの大きなアーチが見えた。その向こうが中央地区らしい。ざわざわと活気が流れてきた。


「おお……」アーチをくぐったアキは感嘆の声を漏らした。


 通りの両側にテント屋根の店がずらりと並び、かごに山と積まれた野菜や果物を売っている。華美な布や透き通ったガラス細工を置いている店もあった。老若男女さまざまに混じった人の群れが、ざわめきながら流れていく。


 アキは人ごみの中を通り抜けながら歩いて行った。特にあてはないが、とりあえず中央地区の真ん中にある大きな広場まで行こうと思った。進むにつれだんだんと市らしさが消え、祭りのような雰囲気が取って代わってくる。着飾った人が増え、周りの店も菓子やジュースや酒、あるいは派手な装飾品の屋台になった。

アキはチュニックのポケットに入っている財布を探った。手持ちは多くない。無駄遣いはできないな、と考えながらアキはあちこちの屋台を見て回った。


 広場につくと話し声に交じって陽気な音楽が聞こえてきた。円形の広場の真ん中には立像があり、その下でギターや笛を演奏している人が見える。広場の周りに沿って屋台が並び、店主が声を張り上げて客を呼び込んでいた。アキは道すがら買った林檎のジュースを飲みながら、楽器を演奏している人たちを眺めた。演奏が終わり、ギターを弾いていた人がかぶっている帽子を脱いで前に置くと、観客がその中へ小銭を放り込んでいく。わいわいとにぎわう中からアンコールの声が広がると、ギターの人はさっとお辞儀をして再び演奏を始めた。


 午後の日差しが照りつける中、雑貨屋を出てから歩きっぱなしのアキはさすがに疲れてきた。額の汗をぬぐいながら少し広場を歩くと、端の方に腰掛けるのにちょうどよさそうな高さの石を積んだ塀が見えた。塀の後ろの大きな建物がうまい具合に日光を遮り、影を作っている。アキは塀に座って一息つくと、通り過ぎる人の波をぼんやり眺めた。


 アキはしばらく休憩すると、ほかの場所も見て回ろうと空になったジュースのカップを持って塀から降りようとした。その時、塀とアキの背後の建物との間に何かが落ちているのが目に入った。影に転がるそれを見てアキはすぐに気が付いた。ガラスのような透明な箱の中で、白い球が浮いている。昼前に雑貨屋で目にした、ヒイラギが惑星と呼んでいたものだ。


 アキは塀に腰掛けたまま建物の壁に手をついてもう一方の手を下に伸ばすと、塀の下に落ちているガラス箱をつかんで拾い上げた。塀から降りてよく見ると、それは確かに数時間前に見た惑星と全く同じものに見えた。


 ヒイラギがあれを持って店を出た後で、ここで落としたのだろうか。それともまた別の惑星なのだろうか。アキはずっしりと重いガラス箱を眺めて考えた。


 とにかくこれが何か知っている以上、ここに置いておくよりヒイラギに渡した方がよいだろう。さっき渡されたパンフレットには科学者の研究施設の場所を示す地図が付いていたし、リンゴにもらったこの町の地図と合わせて見れば行けそうだった。しかし、一人で科学者がわんさかいるであろう場所を尋ねるのはどうにも気が引けた。一度雑貨屋に戻ってリンゴに相談した方がいいかもしれない。


 アキは考えながら音楽と雑踏に満たされた広場を後にした。


 

 アキが雑貨屋に戻り、リンゴに拾った惑星を見せて話をするとリンゴは眉間にしわを寄せた。


「変な話だね。科学者に絡んでるものがそこらに転がってるなんて」


「そのままにした方がよかったでしょうか」アキはこれが落とし物であるという証拠が全くないことに今気が付いた。

「誰かが何か意図があってそこに置いていったものだとか……」


「でも誰も目につかないようなところに落ちてたんだろう?もう一回言うけど、科学者がらみのものがそこらに転がってるなんてそうあることじゃないんだ」リンゴはカウンターの前の丸椅子に座り、しかめ面で惑星の入ったガラス箱をつまみ上げた。

「今朝、ヒイラギに渡したものとも違うようだね。ほら、ここに番号があるだろ。科学者はこれで識別をしてるらしいんだ」


 リンゴの指がさすガラス箱の隅の角のところに、確かに「No.378」と刻印されていた。


「これ、どうしますか」アキは尋ねた。拾ってきたのはアキだったが、この惑星というのはどうにも胡散臭い感じがした。


 リンゴは肩をすくめた。

「ヒイラギに渡すしかないだろうね。私はあいつ以外に科学者は知らないし、そこらに放っておくわけにもいかないよ。日曜にでも届けてやるか」


「施設に行くんですか」アキの問いにリンゴはああ、と答えた。


「どのみちそろそろ行こうかと思ってたしね。別に行ったところでとって食われるわけじゃないよ」リンゴはアキの曇った顔を見て言った。

「ヒイラギを見たろ。確かに表じゃあれこれ言われてるけどね、そんなに変な奴ばっかりじゃないさ。それより、祭り市はどうだった?何か面白いものは売ってた?あれは定期市で人が集まるのを利用して創められたんだけど、第一回目から結構な賑わいでね。密売人とか、怪しげなのもかなり紛れ込んでいたらしいよ。私が学生の時、あそこで友達がでっかい卵を買ったことがあってさ、目玉焼きをやろうとしてフライパンに割ったら、中から三十センチはあるオオトカゲが出てきてね……」


 リンゴはけらけらと思い出し笑いをした。

「ああ、でも今じゃ警備が強化されてるから、ゲテモノは持ち込めないかな」

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