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人工惑星  作者: 赤靴下
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2-1 アキ

 ぐっすり眠って目が覚めた時、もう窓から日が差し込んでいた。昨晩アキは母屋の空き部屋に案内された。それまで物置として使っていたという二階の小さな部屋は、古くなった木のにおいがした。アキはベッドから起き上がると服を着て、あくびをしながら階段を下りていった。

 

 台所には誰もおらず、どうやらリンゴはまだ寝ているようだった。アキは少し考えてからベーコンを焼き、チーズとパンを棚から取り出した。勝手に触って大丈夫だったかな、思いながらパンを頬張っていると、リンゴが目をこすりながら下りてきた。


「おはよう。おお、飯だ」


「すいません、勝手にやらせてもらったんですけど」


「いや、いいよ。むしろお願いしようかな、朝飯は。私より早起きみたいだし」リンゴはテーブルに着くとチーズにかぶりついた。


「あとで店番の説明するよ。まあ、あんまり覚えることもないけどね」


「はい」



「そっちが小物、インテリア系のやつ。向こうのテーブルのは見ての通り、陶器だよ。ときどき落っことす客がいるんだよねえ……めったに割れたりしないからたぶん大丈夫なんだけど。だからほら、テーブルをわざと低くしてあるんだ」


「なるほど」

 朝食のあと、アキは店のカウンターでリンゴの説明を聞いていた。


「店番が覚えとくことは以上。あとは……ああそう、日曜日は当然休み。営業は昼前から日暮れまで。それくらいかな。何か質問ある?」


 アキは少し考えてから首を横に振った。

「いえ、特に」


「うん、じゃあそうだな、とりあえず昼までやってみる?忙しくはならないよ。うちはそんなに客は多くないし。ていうか、今日は一人も客は来ないかもね」


「どうしてですか?」


「今日から市の日なんだよ。しかも半年に一回やるだけのでかいやつ。祭りみたいな感じだね」


「ああ、ここに来るときに送ってくれたおじさんに聞きました」


「今日から一週間やるんだ。午後からは私が店番やるし、暇なら見ておいでよ。中央地区でやってるよ」


「そうします。でも私この町がどうなってるのかよく知らないですけど」


「ああ……アキってさ、方向音痴?」


「え?いえ、そうでもないと思います」


「初めてのところでも地図があったら行ける?」

アキが頷くと、リンゴはじゃあ心配いらないでしょ、と言った。


「後でこの町の地図を渡すよ。ほら、その土地がどんなところかは歩いてみなけりゃわからないしね」


「そうですね……」


「迷いそうになったらすぐ戻ってきなよ。大きい道だけ通れば、そう迷わないし。とりあえず、まずは店番。昼までよろしく」リンゴはにかっと笑った。



 母屋の二階にいるから何かあったら呼んでよ、とリンゴは言って店から出て行った。アキはカウンターの前の椅子に座り、静かになった店内を見つめた。ガラス越しに見える通りには人はおらず、話し声や物音も聞こえてこない。いつのまにかアキは頬杖をついて、物思いにふけっていた。


 父親の進言でここへ来たが、実際は家でも生活はできた。アキはもう学院を卒業し、一通り家事もこなせる。父親にもそう言ったが、若い女が一人で暮らすのは危ないだろ、としれっとした顔で返された。もっともらしい理由ではあるけど、とアキは思った。父親は普段から研究のことしか頭になく、学院から一晩帰ってこないことも珍しくない。そういう人に言われてもまるで説得力がなかったが、アキは勧められて祖母の住む町へ来た。無理に断る必要もなかったし、祖母がどんな人なのか気になったのだ。


 そこまで考えたところで、アキは祖母のあの異常な体躯についてまだ何も知らないことに気が付いた。祖母の家で話しているとき、本人に面と向かってなぜ大きいのか、と尋ねることはなぜかためらわれた。店に戻ってきてからリンゴに訊こうと思っていたのに、忘れてしまったようだ。


 なぜ?アキは宙を見つめた。祖母の巨大な体は何かの病気なのだろうか。生まれつきということはないだろう……たぶん。アキのほかの親族にはあんな大きな人間はいない。考えてもわからない、後でリンゴに訊いてみよう、とアキは思った。


 リンゴの予想通り、しばらくしても客は一人も現れなかった。一度、茶のカップを持って、絵の具まみれの作業用エプロンを着たリンゴが様子を見に来て、やっぱり今日は来ないね、と笑った。


「普段もそんなに客が多いわけじゃないからね……」

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