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人工惑星  作者: 赤靴下
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9-1 ヒイラギ

「駄目だ、開かない」私は身分証明書を認証機器から離してそう言った。「指紋も虹彩も身分証明書も認証されないな。一体何が起きたんだ」


 私、エナガ、そしてリンゴの三人は研究施設の職員用の通用口の前にいた。白い金属の扉は固く施錠され、私の持っているどの解錠手段でも頑として開かなかった。


「金属鍵は――」


「鍵穴は内側にしかないんです」私の疑問をエナガが引き取って答えた。

「メインエントランスの扉も同じく」


「じゃあ、本当に閉め出されてしまったのか」私は呆気にとられて扉を見上げた。

「なんてことだ。ただでさえ訳の分からないことが立て続けに起こっているというのに」


「携帯もつながらないんです」エナガは悪態をついた。

「電波が飛んでいないみたいで。普段ならつながるのに、どうしてなんだ?」


 私は額に、暑さとは別の原因の汗が流れるのが分かった。アキの失踪から突然始まり、初対面のキジから告げられた霹靂の事件、そして研究施設からの閉め出し。この詳細不明の一連の出来事が、たまたま今夜に度重なったということがあり得るだろうか。何かが起きている――しかし、それがなんなのかが全く分からない。


「ねえ」途方に暮れて黙り込んだ私とエナガに、リンゴが後ろから心配そうに声を掛けた。

「とりあえず店長と合流して、話を整理しようよ。ここで立ってても扉が開くわけじゃないでしょ?」


「それはそうだが」私は歯噛みした。確かにこのままでは何も分からない。明らかに私達科学者を嫌悪しているキジと話すことには腰が引けたが、とにかく情報を集める必要がある。

「分かった、そうしよう。エナガは――」


 エナガの方を振り向くと、彼はどうしようかと逡巡している表情だった。


「ええと、もしどこか出入り口が開いたときのために、俺はここに残った方がいいかもしれないと思いますけど」エナガの口調は、あの巨大な老婆を怖がっているのが明らかだった。

「多分、俺達が閉め出されたのは何かの手違いでしょう。ほら、ロックシステムの不具合とか。待ってりゃそのうち復旧するんじゃないですか」


 キジから聞いたことが無ければ、私もそう考えていたかもしれない。しかし、拭えない嫌な予感が、このままここで待つことを拒否していた。


「そうか。それなら、エナガはここで待っていてくれないか。本当にシステムの不具合ならいいんだが」


「それ、どういうことです?何か思い当たる原因があるんですか」私の言葉にエナガは訝しげに尋ねた。

「と言うか、なんでヒイラギさんがあの、えー、大きな人のところに行く必要があるんです?」


「それは、科学者がアキちゃんがいなくなったことに関わっていると、店長がそう言ったからだけど」私が答える前にリンゴがそう言った。

「ヒイラギ、店長がどうしてそんなことを言ったのかは分かったの?」


 私はエナガとリンゴの顔を交互に見た。


「キジさん曰く、アキさんの父親が科学者なんだ」


 それを聞いたリンゴは驚きの声を上げ、エナガは目をぱちくりさせた。


「え?つまり、そのさっきから探してる件のアキって人は、俺達の側の人間ってことですか。てっきり、地上の一般人なのかと思ってましたけど」


「アキちゃんが科学者の身内なんて初耳だよ」リンゴも唖然とした声で言った。

「じゃあ、そうすると店長も――?」


「ともかく、昨晩キジさんのところにアキさんの父親が来たんだそうだ。彼はアキさんをこの町から連れ出したがっていて、それで――」


「高熱を出して意識朦朧のアキちゃんを誘拐したってわけ?」リンゴは信じがたいと言わんばかりだ。

「何の理由があってそんなことをするの?」


「それは」私は一瞬押し黙った。

「私も詳しく聞いていない。だけど、どうやら私達科学者に関わる話らしい」


「何なんです、その科学者に関わる話って」エナガが怪訝そうに尋ねた。


「それを今から聞きに行くんだよ。もしかすると、重要なことかもしれないし、リンゴには世話になってるから、放っておくわけにもいかない」


「あらま、格好いい」それを聞いたリンゴの心配そうな表情が少し緩み、茶化すような口ぶりでそう言った。

「ありがとね」


 エナガはまだどうするのか決めかねているようだったが、結局こう言った。


「やっぱり、俺もついて行っていいですか。ここで待ってるだけっていうのも気が進まないし」


 科学者の身内がいるというのは、これから怒り心頭であるだろうキジと話す身にはありがたかった。


「いいとも。行こう」





「あんたは知っちゃったわけか。店長は、あんた達科学者が大嫌いだってこと」


「やっぱりそうなのか。最初は孫娘を誘拐されたことに腹を立てているのかと思っていたが、他にも科学者を嫌っている理由があるんだな」


「多分ね。私もちゃんとした理由は聞いたことはないけど」


 街灯のない夜道に、リンゴの手に持ったカンテラの灯りが揺れた。私達はキジの家に向かう道の途中で、前方には既にその家が見えていた。闇夜に黒々と染まった大きな家と、その窓から漏れる明かりに、それは何とも威圧的に見えた。

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