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人工惑星  作者: 赤靴下
42/49

7-7

 言い終わる前に見上げている老婆の姿がだしぬけに一歩踏み出し、私はぎょっとして後ずさった。同時にキジの声が降ってくる。


「科学者だって?」


「そうです」私は暑さが原因のものとは別の、嫌な汗が背筋を流れるのが分かった。老婆の低い声が明らかに怒気をはらんでいたからだ。闇に浮かんだシルエットの表情こそうかがえないが、それが返ってキジの静かな怒りを強調しているようにも見えた。

「あなたのお孫さんがいなくなったとリンゴから聞いて来たのですが」


 私はそこで言葉を切って、思わず唇をなめた。落ち着け、と自分に言い聞かせる。まずこの老婆が怒っている理由が、私が考えている通りのものであるかどうかを確認しなければならない。キジは黙ってこちらを見下ろしているだけだが、それだけでも相当な威圧感があった。


「リンゴから聞きましたが、あなたは私達科学者がお孫さんの行方を知っていると考えていらっしゃるのですか」


「違うのかい」キジの冷たい怒りをまとった声がそう言った。

「あのろくでなしか、そうでなければあれが言っていたテロリストどもの仕業だろう。どっちにしてもお前達が関係していることは知っているんだ。あのろくでなしから聞いたからね」


 テロリスト?聞きなれない単語に私は目をぱちくりさせた。訳が分からない。この老婆は一体何を言っているのか。


「テロリスト、というのは何のことですか。いや、それよりも、少なくとも私はあなたのお孫さんの行方は知らない。なぜあなたは科学者が、アキさんがいなくなったことに関わっていると考えているのですか」


「今言っただろう」キジが唸るように答えた。

「あのろくでなしの、私の息子から聞いたよ。お前達の中から、今の体制に反発してテロを起こした奴が出たんだって?それであのろくでなしめ、泡を食ってアキを連れ出しに来たんだ。安全な場所を見つけるとか言っていたが、冗談じゃない――」


「ちょっと待ってください」私は慌てて遮った。寝耳に水のとんでもないことを聞いた上に、話が全く見えない。

「科学者がテロを起こした?そんなことを言ったあなたの息子というのは何者なんですか」


 言い終わる前にキジの巨大な影がだしぬけにかがみこんできた。私は仰天して尻餅をついたが、その時、またしても昼間にアキから聞いた話が頭をよぎった。キジは昔、科学者が行ったある実験に参加したことがあるのだと言う。


 地上の住人が科学者の研究活動に参加するなど聞いたことがなかった。ニオによれば、このホームで科学者と地上の一般人の直接的な関わりはほとんどなかったとも聞いている。だからアキの話が本当だとは考えていなかった。しかし――この仮定もまた相当に奇妙な話ではあるが――もしも肉親に科学者がいたのなら、そんなことがあり得るかもしれない。


「では、あなたの息子さんは――」


「――科学者だよ」私の言葉をキジが引き取って言った。暗がりでしゃがんだ老婆の、巨大な目が間近で私を睨んだ。

「お前、さっき知らないと言ったが、とぼけているわけじゃないだろうね」


「まさか、とんでもない」私は土を払いながら立ち上がった。

「あなたの言っていることは全て初耳だ。テロとは一体どういうことなんですか。息子さんはあなたに何を話したんです?アキさんがいなくなったことと関係があるんですか」


 咳き込むように疑問を並べ、キジの視線を捉えるように見上げた。この老婆の話を詳しく聞かねばならない。もしキジが今言ったことが本当ならば、これは単に私の知り合いが消えたと言うだけで済む話ではなさそうだ。


 闇の中でキジがこちらをしばしじっと見るのが分かった。そして老婆はやおらかがみこんだ上体を起こし、フンと鼻を鳴らした。


「本当にお前が知らないのなら、私が馬鹿息子から聞いたことを話そうじゃないか。私もお前達科学者から聞きたいことがあるからね」


「聞きたいこと?しかし、私はアキさんがどこへ行ったのかは本当に知らないんです」


「お前が知らなくても、あの馬鹿息子はアキの行方を知っているはずだ。あれは科学者なんだ。あれのことなら同じ科学者のお前の方がよく知っているんじゃないのかい」


「しかし、一口に科学者と言っても膨大な人数がいます。あなたの息子さんが科学者なのは分かりましたが、だからと言って私の知っている人だとは限りませんよ」


「そうかい?」キジが立ち上がった。見上げるほどの大きなシルエットが闇夜に浮かぶ。

「あれの名前は今、お前達科学者のうちで相当有名だと、私はそう聞いたがね。ソテツという名前だ」



 リンゴがキジを探している、ということを私が伝えると、キジは町の雑貨屋の方へ戻ることを提案した。


「雑貨屋の前で手分けすると言って別れたんだろう?それならしばらく経てばリンゴはそこに戻ってくるはずさ」


 雑貨屋までの道を戻る中、私の頭の中で疑問が渦巻いていた。

 

 キジが、アキがいなくなったことについて、科学者の関係を疑っていた理由は分かった。キジの息子――つまりアキの父親が科学者で、キジはアキを連れて行ったのはその男だと考えている。

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