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「店長がいないよ」リンゴは愕然とした顔だ。
「町の中、ということはないよな」私はあの老婆の体躯を思い出して言った。
「自宅へ戻っているのかも」
以前リンゴから、キジは町の外の丘を回ったところに住居を構えていると聞いたことがある。
「それとも、街の外でアキさんを探しているのかもしれない」私がそう言うが早いか、リンゴは町の外周を囲む道を駆け出していた。
「手分けした方が早いから」リンゴが走りながら私の方を振り向いて叫ぶ。
「ヒイラギは店長の家へ行ってみて。私は町の周りを探してみる」
「それはいいが、明かりは?」私は遠ざかるカンテラの光に向かって慌ててそう返した。当然ながら街灯は町の端までしか設置されていない。
リンゴは急停止してこちらへ駆け戻ってくると、何かを投げてよこした。私の手前に落ちたそれを拾い上げてみると、マッチ箱だった。
「カンテラは店の裏にあるのを使って」リンゴがそう言って再び走り出す。
リンゴはさっき施設に来た時と比べると落ち着いたように見えたが、やはり焦っているようだ。私はマッチ箱を持って雑貨屋の裏へ回った。暗くて見えづらく、マッチを一本擦って明かりを点ける。
店の壁のあたりに空の植木鉢やらバケツやらがたくさん転がっているようだ。目を凝らすと、その隅に古ぼけたカンテラが一つあるのを見つけた。手に取ろうとした時、すぐそばの植木鉢の中に目が行った。マッチの小さな灯を、ちらりと植木鉢に入っている何かが反射する。
私はまじまじとそれを見つめ、植木鉢の中からそれを取り出した。透明で小さな箱の重さを、ずしりと手に感じた。
まぎれもない、人工惑星だった。白い核がくるくるとケースの中で回っている。
私が驚きで息を呑んだ途端、マッチの火が消えた。急いでもう一本擦って、カンテラを灯そうとする。しかし灯が点かない。どうやら油が空のようだ。私は悪態をつき、惑星を持って道へ出た。街灯の明かりで惑星を見ると、ケースに刻まれた56というナンバーが何とか読めた。
二桁のナンバーの惑星は、例の盗難事件では三つ見つかっていた。当然この惑星も関わっているだろうから、これで四つ目になる。そしてこの雑貨屋で見つかった人工惑星は、先日リンゴから連絡を受けて回収しに行ったのと合わせて二つ目だ。
私はこんな状況で人工惑星を見つけた衝撃にしばし立ち尽くしていたが、今の目的を思い出し、惑星を白衣のポケットにしまった。アキを探さねばならない。
カンテラにもう一度火を灯そうとしたがやはり無駄だった。私は困り果てて町からキジの家へ続く道を眺めた。マッチ一箱だけを頼りに、街灯もない夜道を行くのは気が重い。もしかするとこちらを孫娘の誘拐犯だと考えているかもしれない人間のところへ出向くとなればなおさらだ。
私はキジと話したことはないし、リンゴも雑貨屋の店主のことについてはあまり言及しない。しかし私は何となく、キジは科学者についてはあまりいい感情を持っていないのではないかと思っている。
この国の民のほとんどが科学とそれに携わる者をカルト扱いしているのは承知の上だが、恐らくはキジもそんなふうに考えているのだろうと私は思っていた。それに、今日アキから聞いた話のこともある。彼女曰く、キジは以前に科学者の実験に関わっていたことがあり、あの巨大な体もそのせいなのだと言う。
にわかには信じられない話だった。だが、もしそれが本当だとしたら、キジが私達科学者に抱いている感情が決していいものではないことくらい容易に想像がつく。キジがアキの失踪について、どうして科学者が彼女の行方を知っているなどと言ったのか、その理由は全く分からないが、少なくともキジとそのことについて穏やかに話せるとは思えなかった。
それでも行動しなければならない。私は真っ暗闇の道に足を踏み入れることを決意して、マッチを構えた。この町の――というかこの国では全体的に――治安は良い。文化レベルの関係で街灯はオイルランプで、日が暮れてから外出する者こそ少ないが、犯罪もあまり起きない。むしろ道を踏み外したり、ヘビでも踏んづけたりしないかということが気になった。
しかし、結果的にそれは杞憂だった。私がそろそろと歩を進めて街の灯りが丘に隠れようとするところまで来たとき、突然行く手に巨大な影がぬっと姿を現した。どうやらこちらからは丘に隠れて見えないところで、キジがしゃがんでいたらしい。いきなり立ち上がったその姿に私は仰天して腰を抜かしそうになった。
「そこにいるのは誰だい」
老婆のかすれた声は音量こそそんなに大きくなかったが、巨大な影と相まって相当な威圧感があった。
「こ、こんばんは」私はどもりつつも何とか声を張り上げた。
「私は町の科学施設に勤めているヒイラギという者です。夜分遅くに失礼しますが、本日は――」




