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人工惑星  作者: 赤靴下
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1-4

 入るといきなり部屋だった。置いてあるものの数こそ少なかったが、やはり巨大だ。木でできたテーブルや椅子の足はアキにとっては大樹の幹のようだったし、本棚は二段目すらアキの二倍以上の高さはある。てっぺんは高すぎてとても見えなかった。


「ちょっと失礼」上から声がしてアキが見上げると、老婆の大きな手がゆっくり降りてきて掌を差し出した。

「ほれ、乗りな。テーブルにいる方がいい、私が蹴っ飛ばしちまいそうだからね」


 アキは不安げにしわの多い掌を見つめた。指も入れるとアキとほぼ同じ大きさだったが、だからと言ってこれに乗り上に持ち上げられるというのはあまり快適なことではなさそうだ。


 アキがためらっているのを見て、老婆はこれなら安全だろ、と言って今度は大きな深皿を下ろした。

「大丈夫、落っことしやしないよ」


 そう言われてアキは恐る恐る皿に乗った。そこに座るとゆっくり皿が持ち上がり、テーブルのふちがアキの目線に迫ってきた。皿の上昇速度が遅いのは大きいからではなく、慎重になっているせいらしい。皿がテーブルの上にごとりと置かれるとアキはほっとした。


 お茶でも淹れようと老婆がいうのを、さっき店でいただきましたから、とアキは断った。もし頼んでいたらバケツサイズのカップに入って出てきたかもしれない、と後で思った。


「さて」老婆はアキと向かい合うようにテーブルに着いた。アキは靴を残して皿から出ると、広いテーブルの上に座った。


「よく来たね。私のことは覚えているかい?」アキが首を横に振るのを見て、老婆は続けた。

「まあ、そうだろうね。最後に会ったのはアキが二歳のころだったからね。ずいぶん大きくなったもんだ」老婆はにっこりした。


「そうですか……」アキはテーブルの端からそびえたつ老婆の上半身を見上げ、おずおずと笑みを返した。ここに来て最も気になること――この祖母のとても人間とは思えない大きさ――について尋ねたかったのだが、いきなり聞くのはなんとなく気が引けた。


「もう知っているだろうけど、私がさっきの雑貨屋をやっていてね」老婆は続けた。

「もっともこんななりじゃあ店に入ることもできないんでね、中のことはリンゴに任せきりなんだけど。リンゴのことはもう知っているね?あの店員さ」


 切れ長の目がきつそうなせいで一見すると強面に見えた老婆だが、意外に人当たりがいいようだった。相手が孫だからかもしれないが。

「あいにくこっちじゃ私一人しか寝る場所がなくてね。店の方で部屋を用意してあるよ」


「そうなんですか」アキはさっき店の前で老婆がリンゴに言っていたことを思い出した。


「ああ、リンゴが住み込みでやってるからね。なにかあったらあれに言うといい……すまないね、せっかく来てくれたのに面倒も見てやれなくて」


「いえ」たぶんこんな巨大な家で暮らすとしたらいろいろと大変だからというのもあるんだろうな、とアキは考えた。

「じゃあお店の手伝いは向こうに住みながらすればいいんですね」


「うん?店の手伝いをしてくれるのかい?それはありがたいけど」老婆は首をかしげた。

「ソテツがそう言ったのかい?」


「はい……聞いていないですか?どうせ暇になるだろうから、って父さんには言われました」


「いや、ソテツの手紙には書いてなかったと思うけどね。いきなり言われて困ることじゃないし、いいんだけれど。どうせ書き忘れたんだろう、うっかりしてるよ」老婆は首を振った。

「あれにも呆れたもんだ、何を研究してるのか知らないけど、仕事のことしか頭にないんだろう」


 アキは苦笑いした。

「トカゲを研究してるらしいですけど。今回のも新種が発見されたとかで、絶対見に行くって言ってました」


「トカゲのために外国まで行ったってのかい。そんなのに金を出す学院の方もどうかしてるね」老婆はため息をついた。

「まあ、あれが帰ってくるまでゆっくりしていくといいよ。もうなんなら、こっちでずっと店の手伝いでもしてくれてもいいくらいだね。あんなのが父親だと心配になってくるくらいだからね」


「それで、店を手伝ってくれるなら」老婆は話題を変えた。

「店に戻る時にでもリンゴに言っておくよ。店番くらいなら簡単だし、あれも人手が増えるって喜ぶよ」


「よろしくお願いします」アキは軽く頭を下げた。


「いやいや、こっちこそありがたいよ」老婆はからりと笑った。

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