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人工惑星  作者: 赤靴下
39/49

7-4

 午後7時を少し回ったところだった。


 シグレと別れた後、私は自室に戻った。今日の惑星捜索のために雑務は前日に終わらせておいたので、コハクがレポートの相談にでも来ない限り、今日の予定はもうなかった。暑い町中を歩きまわったせいか自分でも気づかないうちに疲れていたようで、なんとなくベッドに寝転がってそのまま眠ってしまっていた。


「どうしたんだ」私は寝起きのかすれ声でそう言った。

「時間ならあるが」


「受付に来てほしいんです」電話越しのエナガの声は困惑気味だ。

「ヒイラギさんのお知り合いという方がおいでになっているんですが」


「受付?」私は聞き返した。普通ならもうとっくに受付は閉まっている時間のはずだ。

「知り合いっていうのは誰なんだ」


 その時ちらと頭をよぎった名前と、エナガの答えは一致していた。


「リンゴさんという方です」そして少し間があり、エナガが受話器から少し離れたところで「はい?」と言う声が聞こえた。どうやらその場にいる別の誰かと――恐らくはリンゴと――話しているらしい。


「すいません」それからまた少し無言の間があって、再びエナガが私に言った。

「ええと、リンゴさんが電話を代わってほしいとおっしゃってまして――うわっ」


「ヒイラギ!」


 エナガの驚く声に突然別の声が割り込んできた。


「リンゴか?」私はいささか面喰って言った。どうやらエナガから強引に携帯電話を取ったらしい。彼女とは知り合ってずいぶん経つが、今まで聞いたこともないような切羽詰まった声だった。

「こんな時間にどうしたんだ」


 良い知らせや用事ではないと言うことは彼女の声の調子から何となく分かったが、リンゴから返って来たのは予想だにしない問いかけだった。


「アキちゃんがそっちにいない?」


 私は目をぱちくりさせた。


「アキちゃんだって?」


「ほら、一昨日来たはずでしょ。うちの店長の孫娘の」電話の向こうからはリンゴの声に交じってエナガの声が小さく聞こえる。携帯電話を奪われたことに抗議しているようだ。


「それは知っている。確かに二日前にこの施設に来たが、彼女に何かあったのか。今この施設にいるなんて話は聞いていないが」私はベッドから降りて部屋のドアへ向かった。何やらただ事ではないような雰囲気が、電話越しに伝わってくる。

「今そっちへ向かう。アキさんがどうしたのかだけ教えてくれ」


 私は突拍子もない出来事に動揺していたせいか、答えなど分かり切っていることを問うていた。彼女がここにいないか、とリンゴは尋ねたのだから、当然――


「アキちゃん、いなくなったの。熱を出して寝込んでたんだけど、気が付いたらベッドがもぬけの殻だった」


* 

 

私は施設寮の階を出て、エントランスへ向かった。エレベータを乗り継ぐ途中に早足で通り抜けたホールは隅の明かりが点いているだけで、当然のことながら薄暗くがらんとしていた。


 エントランスへ急ぐ途中、電話でリンゴが言ったことが頭の中で回っていた。アキが熱を出したと言うが、私は今日の午後に彼女に会っている。あの時は特に具合が悪そうに見えなかったのだが、無理をしていたのだろうか。そして寝ていたアキがいなくなったとリンゴは言った。病人が忽然と姿を消す理由など私には見当もつかないが、それならばなぜリンゴはこの施設を訪ねてきたのか。アキは二日前にこの施設を訪れており、まったく縁がないというわけではないが、熱を出した彼女がわざわざ訪れる場所ではないだろうと思う。


 エレベータを下りて階段を上り、エントランスにたどり着くと受付カウンターの傍にリンゴが青い顔で立っていた。その隣にはエナガがどう見ても部屋着に見える格好で、訳が分からないと言うように困惑した顔でいたが、私に気が付くと幾分安心した表情になった。


「ああ、ヒイラギさん。どういうことなのか俺にはよく分からないんですが、とりあえず話を聞いてあげてください。この人、ずいぶん慌てているみたいで」


「分かった。ありがとうエナガ」私はリンゴの方を向いた。

「リンゴ、どうしたんだ。アキさんがいなくなったというのはどういうことなんだ」


「そ、そのままの意味」リンゴは早口で話そうとして舌をもつれさせた。

「アキちゃんが熱を出して倒れて……すごく具合が悪そうだったから医者を呼びに行ったんだけど、それで戻ってきたらベッドからいなくなってて……」


「それは夜になってからのことなのか?」


 私の問いにリンゴは頷いた。

「アキちゃん、今日の午後は外出してたんだけど、昼下がりに帰ってきてからいきなり倒れたんだよ。私の風邪がうつったのかと思って寝かせたんだけど、日が暮れてからどんどん熱が上がって……咳も激しくなるし、これは危ないと思って、それで医者を――」


「――呼びに店を出たわけか。そして戻ってきたら、いなかった」私は首を傾げた。

「店と母屋の中は当然探したんだよな。何か心当たりはないのか」


「そんなのないよ」リンゴは心配でたまらないという表情で唇を噛んだ。

「店長が精算伝票を受け取りに来て、そのことを話したら、そしたら科学者を呼んで来いって店長がそう言ったんだ。連中がきっとアキちゃんの行方を知っているって」

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