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人工惑星  作者: 赤靴下
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6-7

 ただ、リツの様に科学者というだけで胡散臭い目を向けるのは、アキが今まで暮らしてきた社会の中ではありふれた反応であって、だからリツの言葉にどこかで頷いている自分もいた。



 科学者って何者なのだろう。それが分からないから人は彼らを怪しむのだが、アキとしては科学者と話し、彼らが行っていることを知った今も、その疑問が氷解したとは言い難い。


 彼らは地下に住み、正体不明の技術によって人工の星を作っている。その目的とか意味とかは聞いていない。先日のヒイラギの話からすると、相当に大規模な集団を形成しているようだが、その資金やら人員やらはどこから調達しているのかも知らない。


 アキは科学者の施設を訪れた時に見たエレベータや窓に似せた映像を思い出した。星を創ること以外でも、科学者達は常識から外れた技術を何でもないように扱っていた。例えばもしあのエレベータという技術がこの一般社会に持ち込まれたなら、この世の建物には革命が起こるんじゃないか?階段を上り下りするよりも速く、疲れることもなく、離れた階層の行き来が可能になる。それがどれほどに便利なことであるのか、誰だって分かることだろう。



 

 図書館の中は茹だる様な暑さだった。石造りの大きな建物の、窓という窓を開け放しているようだったが焼け石に水で、アキは汗だくになって持ってきた例の本に書かれている言語を調べた。初めて訪れた時に顔見知りになった司書が手を貸してくれた。


「東国の文字が一部に使われてるみたいだけどね」困ったことに、司書にもその本の文字のことは詳しくは知らないようだった。

「見たことのない文字も結構あるし、文の意味まではちょっと分からないかな。まあ、外国語なのは間違いないね」


 この本、借りられるか、読まれてないなら寄贈できるかどうか持ち主に尋ねてみてよ。詳しく調べてみたいな、と言う司書にキジさんに訊いてみますと約束をして、アキは予定よりも早めに図書館を出た。あまり収穫がなかったと言うのもあるが、午後になってますます強く照りつける太陽の暑さのせいか、頭痛がしてきたせいでもあった。


 結局は、キジに詳細を尋ねるのが一番よさそうだ。ただ、リンゴの話をはぐらかす様な素振りを考えると、キジ本人からはっきりした答えを聞けるのかどうかは分からなかった。


 ひょっとしたら自分は、余計な詮索をしているのかもしれない。そんな考えがアキの頭を過ぎった。祖母にはできるだけさりげなく訊いてみて、それで新しい情報が得られなければこの本のことはもういいか、とアキは痛む頭で考えた。リンゴが何か隠しているとして、それなら事情があってのことだろう。興味本位で首を突っ込むのは止した方がいい。


 ヒイラギは人工惑星を見つけただろうか。帰る道すがらぼんやり思った。愛想がよく、悪い人ではないのだろうが、やっぱり科学者であるためかどこか掴みどころがない。惑星の盗難事件をどうにかしようとしているらしいが協力者が少ないようで、苦労しているらしい。今日会った時に疲れて見えたのはそのせいかもしれない。


 アキは小さく息をついた。この町に来て巨大な祖母に会ってから、何かしら漠然とした違和感が胸の内にある。単に自分がよそ者だから、そう感じるだけなのだろうか。


 とりあえず帰って寝よう、とアキは思った。リンゴが寝込んでいる間に雑貨屋の店番やら家事やら、あれこれとこなしていた反動が出たのか、ちょっと疲れている。



 母屋に帰り台所に入ると、雑貨屋のカウンターの方からリンゴがお帰り、と声をかけた。


「さっき、アキちゃんあてに手紙が届いてたよ。学院からだって」


 アキがテーブルに目をやると、事務的な茶色い封筒が置かれていた。封筒の裏にある差出人の名は、確かにアキがこの春まで通っていた、そして父親の勤め先でもある学院だった。


 アキは首を傾げながら封を開けた。手紙なら自宅に届くはずだ。学院には自分が祖母のもとにいるなんて、わざわざ連絡していない。なのになぜ、ここに自分宛ての手紙が届くのだろう。


 アキは訝しみながら取り出した手紙を読んだ。



 カウンターに座っているリンゴは、暇つぶしに眺めている本の中身がまるで頭に入って来ず、無意識に貧乏揺すりをしていることに気が付いた。アキの勘繰りに自分が焦っているのだと分かる。リンゴが喋るのは好きだが、誤魔化しや嘘が得意ではなかった。その証拠に、アキは明らかにリンゴの曖昧な説明には納得していない。もっとも、どれだけ上手くはぐらかそうが、キジを一目見れば誰だってその巨体に疑問は持つだろう。真相に辿り着けるかどうかは別として。


 さっきリツが雑貨屋に訪れた。アキちゃんと若い男の科学者が話してるのを見た、そりゃもちろんアキちゃんが誰と友達になろうがこんなおばさんが口うるさく言うことじゃない、でもやっぱりあんな連中と関わり合いになるのは止した方がいいと思ってね、ほらキジさんも何だか科学者とは嫌な思い出があるみたいじゃない、だからまあちょっとアキちゃんにもそういうことを話しておいたんだけど、リンゴちゃんも何か言ってあげた方がいいと思うのよ、とついさっき仕入れた話題を提供していった。


 ヒイラギがキジの秘密を知っていて、それがアキに伝わる、ということはないだろう。キジとヒイラギは面識がない。だがヒイラギは科学者だ。もしかしたら――


 リンゴは頭を振った。ただの可能性だ。でもやっぱりアキにヒイラギから何を聞いたのか、さりげなく確認しておいた方がいいかもしれない。リンゴはカウンターを立った。


「図書館で何か収穫はあった?」


 リンゴがそう声を掛けながら台所に入ると、アキはテーブルの傍に立って手紙を読んでいた。さっきアキに届いたのだが、学園からの手紙らしい。


「手紙、休暇中にはこっちに届くようにしてあったの?準備が良いね」そう言いながらやかんを手に取る。

「お茶でも淹れる?あ、でも暑いよね」


「リンゴさん」


 アキに呼び掛けられ、リンゴは振り向いた。


「うん?」


 手紙から顔を上げたアキは何だかやつれて見えた。そして、この暑さだと言うのに妙に顔が青白かった。


「父が」


 そう言いかけたアキの体がふらりと傾く。手紙が落ちる。体を支えようと咄嗟にテーブルの縁を掴むが、そのまま崩れるように倒れた。


 突然のことに、リンゴは呆気にとられて立ち尽くしていた。


「アキちゃん?」

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