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人工惑星  作者: 赤靴下
34/49

6-6

「ヒイラギさん」


「うん?」


 アキが祖母について気になっていることを尋ねると、ヒイラギは首を傾げた。


「キジさんが、科学者の実験に参加したことがあると?キジさんは、その実験が失敗したせいであんな姿になった?」


「祖母は……皆はそう言います」


「ふうん」ヒイラギは不思議そうだった。

「そんな話は初耳だ。そもそも、一般の人が私達の行う実験に参加するということ自体、私は聞いたことがない」


「そうですか」もしかしたら、アキの口調に落胆が表れていたのかもしれない。


「いや、もしかしたら私が知らないだけで、過去にそんな事例があったのかもしれないが」そう言いつつも、ヒイラギはそんなことはないだろうという口ぶりだった。

「キジさんは、科学者と何か関わりがある立場にいたのかい?それならあり得るかもしれない」


 アキは分からない、と言う意味で首を横に振った。祖母の昔の話は、父親からもほとんど聞いたことがなかった。


「すいません、おかしなことを聞いて」アキがそう言うと、ヒイラギはいやいや、と愛想よく答えた。


「確かに、キジさんを最初に見た時は私だって驚いたけれど。あの姿はむしろ――」そこまで言ってヒイラギは一瞬言葉を切った。

「あの姿は、うん、本人がそう言っているのなら、本当にそんな事情があったのかもしれないな」


 出掛かった言葉を急いで方向転換したようなヒイラギの言い方にアキは違和感を覚えると同時に、ふと昨日のリンゴの話を思い出した。


「あれ?ヒイラギさんは、祖母に会ったことがあるんですか?」


「いや、ないよ。見かけたことがあるだけだ」ヒイラギは答えた。

「あの姿だと、遠くからでもよく見えるだろう」


「ああ、成程」


「けれど、もしキジさんが科学者と関わりがある人物なら、一度会って話をしてみたいね。この町でも有名な人が科学者への理解を示してくれるなら、ありがたいことだし」


 どうやらヒイラギは本当に、キジが科学者を嫌悪しているということを知らないらしい。リンゴがそれをヒイラギに教えていないのは、彼女なりの気遣いなのだろうか。アキは今ここでそれを自分が言うことも憚られると思い、曖昧に微笑んだ。


「じゃあ、これで。捜索の邪魔をしちゃってすいませんでした」


 ヒイラギは構わない、と首を横に振った。


「リンゴにもよろしくと伝えてくれ」


「はい。人工惑星も、もし町中で見かけたら連絡しますね」


「ああ、ありがとう」



 アキがヒイラギと別れて図書館へと続く坂道を上っていると、後ろから名前を呼ばれた。


「アキちゃん」


 アキが振り向くと、初老の小柄な女性が立っていた。丸顔が柔和そうな雰囲気を漂わせている。


「こんにちは、リツさん」アキは挨拶した。

「昨日はありがとうございました。お昼の間、店を見ていて下さって」


「いいえ。リンゴちゃんが寝込んじゃって大変だったものねぇ。あの子、大丈夫なの?」女性は雑貨屋の常連客で、アキともすでに何度か顔を合わせていた。


「もうすっかり良くなったみたいです。今日は雑貨屋に出てます」


「あら、良かったわねぇ。でもこんな時期に風邪をひくなんて、あの子も不運ね。ほら、お祭り好きでしょう、リンゴちゃん。祭り市を見て回る時間を取られちゃって、残念がってたんじゃないかしら」


 確かに、寝込んでいる時にそんなことを言っていた。


「でも、今年は店番が半日で済みますから、お祭りを回る時間は風邪をひく前に結構とれたみたいです」


「ああ、そうねぇ。アキちゃんが半分、店番を代わっているんだったわね。アキちゃんはどうなの?お祭りで、何か面白い物は見つけた?」


 話し好きのリツは雑貨屋に他に客がいないときは、カウンターで長々と世間話をすることも多い。今日もご近所で仕入れたとりとめのない話をしばらくした後、ふと声を低くして話題を変えた。


「ところでね、アキちゃん。最近怪しい人がこの辺りをうろついてるの、知ってるかしら」


「怪しい人?」アキは聞き返した。

「不審者ってことですか」


「ええ、そうなのよ。見たことない?若い男でね、痩せてて背が高いの」


「その人が、どうかしたんですか」アキは嫌な予感がしたが、案の定その予感はすぐに的中した。


「私ねぇ、偶然だけどこの間、その人が科学者、とかいう連中がいる建物から出てくるの、見ちゃったのよ」


「ああ……」アキはどう反応したら良いのか分からず、曖昧な返事をした。


「それでねぇ、その人、昨日から町のあちこちをうろうろしてるらしいのよ。変にきょろきょろしたり、町の人に声を掛けたりしていてね」リツは全く持ってけしからん、と言わんばかりの口調だ。

「以前から町中で見かけることは何度かあったんだけど、まさか科学に絡んでる人間とはねぇ。アキちゃんも気を付けた方がいいわよ。何か聞かれても、黙って逃げなさいな」


「ええ……はい」アキは内心で天を仰いだ。


 もうこれは十中八九、ヒイラギのことだろう。完全に不審者扱いされている。以前なら当然のこととして受け止めていただろうが、今は少し複雑な気分だった。


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