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人工惑星  作者: 赤靴下
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6-5

 もっと正確に言えば、今まで全く目にしたことがない文字だ。箱型の印刷文字は直線と点が組み合わさってできており、ページの上にきちんと並んでいた。


 アキは幾分興味を惹かれてぺらぺらと頁をめくり、本を閉じて表紙を眺めた。灰色の表紙にはやはりこの知らない文字で題名が大きく書かれており、そして表紙絵があった。


 表紙絵には頭巾付きの白いマントを羽織った髪の長い女性が描かれている。目を閉じ両手を広げ、まっすぐ正面を向いている姿の背後からは光の様な筋が伸びている。


「後光?」アキは呟いた。宗教に関する本なのだろうか。だとすると何故こんなところにあるのかが分からない。リンゴはとても信心深そうな人間には見えない。


 だけど、とアキは思った。学者の父親を持つ自分にとっては、よく分からない本が家にあると言うのは別段驚くようなことでもないか。父親の部屋を掃除していると、時折いつの時代のものなのかと思うようなぼろぼろの本やら、なんでこんなものを持っているのだろう、と訝しむような胡散臭い本やらが出てくることは時々あった。


 そしてこれも、そういう類の本なのかもしれない。昼食の時にでもリンゴさんに訊いてみよう、と考え、アキはその本を棚に戻し、隣の本を代りに引っ張り出した。



「ああ、あの本ね」昼食時、アキの疑問にリンゴはさらりと答えた。

「あれは店長が外国を旅行した時に買った本だよ。確か、表紙絵に何となく惹かれたんだって」


 アキは成程と頷き、重ねて尋ねた。

「見たことがない文字でしたけれど、どこの国の言葉なんですか?」学院では外国語を幾つかの選択肢から選んで学ぶのだが、そこにはあの本に書かれていた文字は無かった。


「ええと……どこだったかな。ごめん、忘れちゃった」リンゴは屈託なく笑ったが、何故かアキは一瞬、彼女が答えをはぐらかしたように感じた。


「祖母が旅行ですか」アキは呟くように言い、思わずあの巨体が客船に跨る様を想像した。

「祖母が、あんな風になる前の話ですよね」


「うん……多分ね」アキは本から話題を少し逸らせたつもりだったが、リンゴの歯切れは悪いままだった。

「そりゃ、あんなに大きいんだもの。乗り物になんて乗れないだろうしね……そういえば、さっき画材を受け取った時に、ビトウと一緒に南地区長がいたって言ってたよね。あのおじいさん、今回の祭り市じゃ大変だったろうねぇ――」


 アキが、話し好きで饒舌なリンゴが振られた話題を避けようとする素振りを見るのは、これで二回目だった。一回目は、アキがどうしてキジの体はあんなに大きいのかと尋ねた時のことだった。キジは科学者の実験に参加した時に事故にあってあんな体になったそうだと、曖昧な答えを返すリンゴの笑みは、何かを誤魔化そうとしているように、アキには見えた。



 昼食の後、アキは図書館で例の本の言語に付いて調べようと、リンゴに断ってその本を持って出かけた。不満に思ったわけではないが、リンゴの話に何処かで納得できず、祖母とこの本の関係が気にかかる。キジ本人に会って話を聞くのが手っ取り早いだろうが、リンゴによると彼女は今日、祭り市の後片付けを手伝っているとのことだった。あの巨体だと町中を歩くにも一苦労だが、力仕事では文字通り十人力のようだ。


 祖母の常人を逸脱した体の大きさについても、アキは気になっていた。リンゴや、ビトウのような雑貨屋の常連は詳しい話は知らないと言う。アキはキジ本人にそれとなく尋ねたこともあったが、返ってくるのは同じ答えで、どういう訳か誰もキジの体の大きさについて詳しい話を知らないか、あるいは避けているように見えた。


 考え事をしながら歩いていたせいで、アキは危うく前から蛇行するように歩いてきた人にぶつかりそうになった。慌てて避けようとしたその時、アキはその人がヒイラギであることに気が付いた。


「こんにちは」アキが挨拶をすると、ヒイラギもこちらに気付いて「やあ、君か」と言った。


「先日はどうもありがとう。リンゴはもう良くなったのかい?」


 ヒイラギはこの間雑貨屋に姿を見せた時と同じような、ぴっちりした上着を着ていた。この炎天下にそんな恰好をしているせいか、ヒイラギの顔はどこか憔悴しているように見えた。


「ええ、もうすっかり。今はお仕事中ですか?」


「違うんだ。人口惑星の捜索でね。その、例の件の」ヒイラギはそう言いながら額の汗を拭った。

「本当なら、調査官っていう役職の者が中心になって動いてくれるんだが、どうもこの件では当てにはならないようだ」


「じゃあ、ヒイラギさんが一人で探しているんですか」アキは昨日の夜のリンゴとの会話を思い出しながら尋ねた。


「いや、友人が手伝ってくれている。だが当てもなく探し回るには、やはり人手が足りないな」ヒイラギは力なく微笑んだ。


 大変ですね、と返してからアキはふと思った。科学者のヒイラギは、キジについて何か知っているのだろうか。


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