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人工惑星  作者: 赤靴下
30/49

6-2

「大層な夏風邪だね。あれを雇ってからしばらく経つけど、病気らしい病気もしたことがなかったのに」キジは不思議そうに言った。

「まあ、聞く限り治りかけているようだし、大事無ければいい。アキも気をつけなよ」


「はい」アキは頷いた。


 それから話題は変わり、雑貨屋に着くまで、キジはアキに昔起こった祭り市の事件を話して聞かせた。ある商人が見世物で儲けようと、外国から持ち込んだ珍しい巨大な動物――ゾウというらしい――が大暴れして手に負えなくなり、街から脱走しようとしたところをキジが取り押さえる羽目になったという。おかげで怪我人は続出するわ、市は滅茶苦茶になるわでてんやわんやだったよ、と言うキジの話をアキは驚いて聞いていた。


 店に着くと、母屋の二階の窓が開いて寝間着姿のリンゴがひょっこり顔を出した。

「お、やっぱり店長でしたか。闇夜の中でもそのでっかいシルエットだけは見違えませんね」


「なんだい、心配してやっていたというのに。それだけ軽口を叩けるようなら、もう大丈夫そうだね」キジの顔に笑みが浮かんだ。


「そりゃもう全快ですとも。アキにも迷惑かけちゃったし、明日からはバリバリ働きますよ」リンゴはカンテラを下げているアキを見下ろしてちょっと手を振った。

「お疲れ様。ごめんね、夜中に外歩かせちゃったりしてさ」


「いや、今日は店まで行かなくてすまなかったね」アキが答えるより先にキジが言った。

「ちょっとうっかりしていてね」


「度忘れですか」リンゴが笑った。

「毎日やってることじゃないですか。何かあったんですか」


「何もないさ。ただの度忘れだよ。この年になると物忘れが多くなるのさ」何気ないやり取りだったが、それを聞いているアキにはキジの口調が少し硬くなっているような気がした。



「客?店長に?」リンゴはスープを匙で掬いながらこちらを見た。

「誰だったの?」


「暗くて分からなかったんですが」アキはリンゴと向かい合ってテーブルに付き、夕食をとっていた。さっきキジの家に向かう途中で見た出来事を話すと、リンゴは物珍しそうにふうん、と言った。


「あの店長がそんなに怒ってるところ、私は見たことないけどな。さぞ恐ろしかったんじゃないの」


「ええ、まあ」アキは腰を抜かしたことを思い出して苦笑いした。

「いったい誰だったんでしょう」


「さあねえ」リンゴは思案顔でスープをかき混ぜた。

「店長の人間関係は、私もよく知らないな。ただ、あの家には店長の顔見知りだってあまり訪れるところじゃないんだ。店長に用事がある人は、大抵は私を通して店長に連絡を取って、町のはずれまで来てもらって話す。店長がそれを望んでるし、町の人もそれで了承してるしね。やっぱり、慣れてもあの身長差は結構怖いものだから、町の人からしても店長の家にはあまり行きたくないみたいなんだよ」


「ということは」アキが後を継いで言った。

「その客は、何か理由があって祖母の家に直談判しに行ったということですね」


「で、返り討ちにあったと」リンゴは軽く咳き込んだ。

「急ぎの用だったか、あるいは訳ありとか、内密の話だったか。何にしても、店長が話す気にならないと分からないよ。そんなに店長が怒るような話なら、こっちからも聞きづらいし」


「はい……そうですね」アキはキジの怒った顔を思い出し、身震いして相槌を打った。


「さて、ご飯食べてさっさと寝よう。明日から仕事だし、絵も描きたいし」


「大丈夫ですよね?熱がぶり返したりしないといいですけど」


「大丈夫、大丈夫」リンゴは匙を振った。

「いつまでも寝込んでなんかいられないさ」


 

次の日、リンゴは宣言通り雑貨屋の仕事を再開した。それどころか、アキに迷惑をかけた分、今日は一日店番をやらなくていいと言って聞かなかった。それなのでアキは朝食を摂った後、その日の時間をどうやって潰すか考えながら、ぶらぶらと西地区の大通りを町の中心へ向かって歩いていた。道すがら荷馬車と何度かすれ違ったところで、アキは今日が祭り市の最終日だったことを思い出した。


 道なりに歩いて中央地区へ入ると、先日前までの祭りの空気はすっかり消えて、屋台やテントを片付ける人達が慌ただしく動き回っていた。最終日と言っても、実質的には祭り市は昨日までだったようで、はるばる遠方からやって来た商人達も、隣町からやってきて出店を出していた者も、この町に集まって来た者達は皆、今日は朝からそそくさと店仕舞いを始めているようだった。


 アキがどこへともなく、祭り市の終わりを見物しながら歩いていると、不意に「やあ」と声がかかった。アキが振り向くと、作業着姿で髪がつんつんと突っ立った青年が挨拶代わりに片手を上げていた。


「おはようございます、ビトウさん」アキは会釈をした。数日前と昨日、この青年はアキが店番をしている時に雑貨屋に訪れていた。リンゴやキジとも顔見知りで、常連客らしい。


「おはよう」ビトウは白い歯を見せて笑った。

「ちょうどよかった。後でお宅の雑貨屋へ行こうと思ってたんだ。ちょっと渡したいものがあってさ。」

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