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人工惑星  作者: 赤靴下
28/49

5-3

 私はついさっき昼食をとったばかりだったので、食堂ではコーヒーを頼み、大きなミートパイを切り分けているウスイの向かいに腰掛けた。


「それで」私は改めて切り出した。

「帰って来たということは、今度こそ修士論文を書く気になったのか?」


「はずれ」ウスイはにやりと笑ってパイにかぶりついた。

「少なくともあと十年は根無し草でいたいな。帰って来たのは、休学期間が切れそうだからさ。また目一杯申請しないと」


「お前、そんなことしてたらいずれ追い出されるぞ」こうは言ったものの、半ば予想していた通りの答えに私は半ば安堵していた。

「いつまでも学士でいるわけにはいくまい」


「そりゃそうだけど」もぐもぐと口を動かしているときですら相好を崩さないのは、ある種才能と言えるかもしれない。

「お前みたいにとんとん拍子で人生の階段を駆け上がるのはさ、やっぱりつまらなそうじゃないか。ほれ、誰か偉い人が言ってたろ。若いうちの苦労は買ってでもしろって」


「お前の場合は苦労じゃなくて、ばっちり楽しんでるじゃないか」私は笑って言った。

「まあ、確かにそういうやり方をうらやましく思ったことはあるがな」


 とりとめのない世間話がしばらく続いた後、話題はホーム5のことに移った。


「来学期はきっとあそこへの進級希望者が殺到するぜ。ダーウィン勲章を取る前から注目されてたところだしな。うちと違ってさ」


「注目されてたからこそ賞を取ったんだろ。分野そのものに可能性がないと判断されれば、どんな発見があろうと評価はされん」


「暗いねぇ。外野が注目してるかどうかは置いといて、その分野に携わってる者が可能性がない、とか言ってちゃ駄目でしょ。発想の転換とか常識破りとか、行き詰った時にそういうもので打開できるから大発見って言われるのさ。優秀な学者にはそういう頭の柔らかさが備わってるんだよ、きっと。ソテツ博士だってそういう人だろ?話してみたらこれが変わり者でさ、まさに天才と変態は――」


「何だって?」私は流暢にしゃべるウスイを遮った。

「ソテツ博士って今回のダーウィン勲章の受勲者だろ?話したってどういうことだ?」


 ふっふっふ、といかにも得意げにパイを頬張った顔が笑う。

「話したってのはそのまんまの意味さ。このホームに来る途中、列車に乗り合わせたんだよ。見ろ、証拠のサインだ」


 ウスイはパイを飲み下すと、脇に置いた鞄に手を突っ込んで手帳を取り出し、開いてみせた。ページに書かれているのはサインというよりただの署名だったが、確かに先日ダーウィン勲章を受勲したその人の名前だった。


「本物なのか?」私は疑わしげに言った。今、科学者なら嫌でもその名前を耳にする時の人だ。本拠地のホーム5や本部のあるホーム1ならともかく、いわゆる辺境のようなこのホームに続く列車に乗っているなどと、おいそれとは信じがたい。


「当たり前だろ」ウスイは憤慨するふりをした。

「俺がこんなのを自作自演して作ったところで何にもならないし、このサインをしてくれた人は間違いなくソテツ博士だったね。あれだけニュースで何度も見ていれば、間違えようがないぜ。このホームで俺と一緒に下りたから、まだ第七研究施設にいるかもしれない。お前も会えるかもよ」


「馬鹿な」私は当惑して言った。

「ダーウィン勲章を受勲した超が付くような天才が、こんなところにいったい何の用なんだ?」


「本人は知人に会いに来たって言ってたな」ウスイはまたしてももごもごと頬張りながら言った。

「でも、きっと他にも何か目的があるな。例えば、人工惑星が今回の発見に深く関係していて、その証拠をもみ消しに来たとか」


「まったく、いい加減なことを言うものだな」


「いや、案外あり得るかも。奴の周囲を洗えば今までひた隠しにしていたとんでもない事実が明らかになるかもしれないぜ。これはちょいと探りを入れて、弱みか何かを掴んじまえばだな……」


 ウスイのにやにや顔を見れば冗談を飛ばしていることは明らかだったので、私は適当に聞き流しながらソテツ博士がこのホームに訪れた理由を考えていた。


 博士が受勲してからそれほど日は経っていない。私が知る限り、歴代の受勲者は授与されてからしばらくは公園だの特別講義だので多忙を極めると聞く。当然ソテツ博士も例外ではないはずだ。まさかこんな片田舎のホームにまで講義にでもしに来たのだろうか。例の盗難事件さえなければ、暇を見つけて野次馬にでも行こうかと思うほどに興味を惹かれる話だった。


「――まさしく画期的!そう思うだろ?」ウスイの何やらとっ散らかった長い話はいつのまにか別の話題に移っていたようで、どうだと言うようにこっちを見た。


「うん、そうだな」私はいい加減に相槌を打った。


「なんだよ、その生返事は」ウスイは気を悪くしたふうでもなく、愉快そうにけらけら笑った。

「ああ、もしかして本当にソテツ博士を恐喝する方法でも考えていたか?それともあれか、例の惑星が大量に盗まれた件で悩んでいた?」


 私はちょっと眉を上げた。「コハクから聞いたのか?」


「そうさ」ウスイは屈託なく答える。

「惑星がごっそり盗まれたんだろ?変な奴もいたもんだなぁ。あんなものを盗んで何になるんだろうな?金にはならなそうだけど」


「それは私も聞きたい。犯人に聞く機会があればだが」私は腕組みをして椅子にもたれかかった。

「しかし、弱ったものだ」


「何が?」ウスイはコーヒーの入ったカップに手を伸ばしながら尋ねた。

「捜査が進んでないのか」


「進んでいないと言うか、始まってもいない状態だな。コハクからはどこまで聞いたんだ?」


「あんまり詳しくは聞いてないな」ウスイはのどを鳴らしてコーヒーを飲み込むと、またパイに取りかかった。

「惑星が本部から大量に盗まれたってことと、その盗まれた惑星がこの町でどんどん見つかってるってことぐらいかな。捜査が始まってもないって、どういうことだ?」


「順を追って話すよ」私もコーヒーのカップを持ち上げて、このおかしな事件の経緯を頭の中で整理した。


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