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「ふうん。盗難ねぇ」リンゴはベッドの上に起き上がり、その日の精算をつけながらアキの話を聞いていた。
「何で今更そんなことを話したんだろうね?その人工惑星が盗まれた事件はしばらく前の出来事なんだし、この間うちに来たときにも話す機会はあっただろうに」
「あまりおおっぴらにしたくなかったんじゃないですか」ベッド際に座っていたアキは意見を述べた。
「もともと怪しげ……に思われている組織ですから、それに絡んだ犯罪なんて町民には迷惑がられると考えたのでは」
「それで、自分達だけじゃ始末に負えなさそうだから、手伝ってほしいってことか」リンゴはペンを指の間でくるくると回した。
「でも、それを私達だけに明かしたところでどうにかなるわけでもないと思うね。私を除けば、町の人達は科学者に協力したがらないのは確かだろうけれど、そうかと言って私だけで町中を隈なく惑星を探すなんてどだい無理な話だし」
「科学者の人が協力をあおっても町民は聞いてくれないから、リンゴさんを介して呼びかけて欲しい、とか」アキはヒイラギから話を聞いた時に考えたことを言った。
「話が広まりさえすれば、町なかで惑星を見つけた人たちがこの雑貨店へ持ってきてくれるかもしれませんし」
「そりゃ、あちらさんにとっちゃずいぶん都合のいい話だね」リンゴは皮肉っぽく笑った。
「もしそれが本当だとしても、店長が許さないよ。この店が科学者と接点を持ってるなんて、世間様には知られたくないだろうからね。私がヒイラギと知り合いだっていうことも、この店の常連も知らないんだよ。私が店長に口止めされてるから」
「そうなんですか」キジの、科学者に対する苦々しげな態度を思い出しながらアキは相槌を打った。
「ヒイラギさんはそのことを――?」
リンゴは首を横に振った。
「知らないよ。と言うか、店長とヒイラギはお互いに会ったことがないんだ。店長が科学者を毛嫌いしているからね。だから、ヒイラギがこの店を町民と自分達とのパイプに使えると思っているんなら、残念ながらそれは無理な話なのさ」
「しかしねえ。盗まれたのは人工惑星、つまり科学者の研究対象なんだから、連中にとっちゃ相当に価値のあるものだと思うんだけれど。で、盗まれたものはこの町のどこかにある可能性が高い。それなら連中は頑張って町中探すべきだろうに、そんな様子が全然しないじゃない?」リンゴはペン先で小銭を数えながら言った。
「それは、町民が彼らを怪しんでいるからなのでは?」
「本当にそれだけなのかな」リンゴは軽く咳き込んだ。
「まあ、ともかく、惑星探しには私は協力するけど。できればアキも気を付けてやってよ。店長はいい顔をしないだろうけれど、ヒイラギは悪い奴じゃなかったでしょ?」
「ええ、すごく愛想のいい人でした。助手の人も」アキは助手の少年を思い出して続けた。
「私より年下に見えましたよ、その助手の人。科学者にはあんなに若い人もいるんですね」
「コハクっていう子でしょ。若いのはあの子に限った話じゃなくて、あの年頃の子が施設には大勢いるみたいだね。ヒイラギみたいな科学者の下で科学について学んでいるんだって」リンゴは巨大な精算伝票を眺めまわして確認すると、くるくると筒状に巻いて紐で括った。
「はい終わり。今日もご苦労様でした。ごめんね、昨日は休みだったのにお使いなんかさせちゃってさ。その上今日も一日中店番してくれたし」
「全然かまわないですよ」アキは微笑んだ。
「昨日はいろいろと珍しい物が見られましたし。リンゴさんは、早く風邪を治してくださいね」
「ああ、なんていい子なんだ」リンゴは大袈裟に嬉し泣きする真似をした。
「親御さんに是非お会いしてみたいよ。というか、あの店長の孫とは思えないなあ」
「そんなこと言って。知りませんよ、祖母に洩れちゃっても」アキは伝票を受け取って立ち上がった。
「そりゃ、私かアキちゃんが洩らさなきゃ大丈夫でしょ……えっ?洩らさないよね?ねえ?ちょっと?」リンゴの慌てた声を背中に受けながら、アキは部屋を出た。




