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視界は今にも通り過ぎようとしている嵐の最後尾を捉えていた。なおも稲光に照らされる暗雲の中に、遠目に映し出された映像越しでも恐ろしいほど巨大だと分かるシルエットが浮かび上がった。紡錘形の体に魚のような尾びれが付いたそれは、体をゆっくりとくねらせて、まるで泳いでいるかのようだった。
「もうちょっと――」少年が唸るようにつぶやき、操作盤を叩いた。
「近づいて……駄目か」
巨大なシルエットが映っていたのはほんのわずかの間だった。見ているうちにも嵐は遠のいていき、再び抜けるような青空が広がった。アキが映像から目を離したときには雨に濡れた赤銅色の岩山に、傾きかけた太陽の光が反射していた。
「珍しい物が見られましたね」ヒイラギが満足げにアキに話しかけた。
「はっきりとは見えませんでしたが、私もあれを生で目にするのは初めてなんですよ」
「あれは一体――?」アキは言いかけたが、無念と言わんばかりにがっくりうなだれていた少年が頭を上げて「あ、そうだ」と言ったのに遮られた。
「どうした?」ヒイラギが怪訝そうに声をかける。
「今の、トウジン先生に報告しておいた方がいいんじゃないですか。最近、ソラクジラについて調査していらしたみたいですから」
ちょっと行って来ます、と観測室の戸口に向かう少年の背中を見ながらヒイラギが首をかしげた。
「トウジンさんが?そんなの初めて聞いたが。最近は人工気象の再現に夢中なんじゃなかったか?」
「そうですよ。ソラクジラについての調査も、それだからじゃないんですか?」
少年はドアノブに手をかけて振り返った。
「うん?ああ……そうか」ヒイラギは一瞬混乱したように眉をひそめたが、すぐに頷いた。
「わかった……じゃあ、トウジンさんに報告したらその後は自由にしてくれていいよ。案内は私がやるから」
ヒイラギはかまわないですね、と言うようにアキに微笑んだ。
「わかりました。じゃあ、失礼します」少年はそう言うと、急いでいるように部屋を飛び出していった。
黙って師弟のやり取りを聞いていたアキはちらりとヒイラギの方を見た。ヒイラギは考え込むような表情で低く何かを呟いたが、すぐに愛想のいい笑顔を浮かべてこちらを向いた。
「いかがでしたか?ここにある人工惑星は私達の大きな研究成果です。今ご覧になったように独自の生物が発生し生態系が築かれた惑星もありますし、あるいは大規模な地殻変動や気象などを観測する目的で制作された惑星や、天体運動のシミュレーションを目的とした惑星もあります。こうした研究は私達が暮らすこの星の様々な謎を解く手助けとなったり、生化学や医療技術の発展につながったりするのです」
「はあ……すごいですね」アキは目の前にそそり立つ黒い円柱を見つめた。
「さっき見た映像が、全部この中の創られた星で起きていたっていうことですよね。何て言うか、とても信じられない」
「リンゴも、初めてこれを見た時そう言っていましたよ……リンゴがこの施設に来たことがあるというのは本人から聞きましたか?」ヒイラギはアキがええ、と答えるのを聞いて続けた。
「彼女は少し前からここにちょくちょく顔を出すようになりましてね、こうして私達の行っている研究の理解が一人でも多くの人に広まるのはありがたいことです。――ところで、今日は彼女は来ないのですね。あなたは初めてここにいらっしゃるのですし、彼女が同行されなかったというのは少し意外です」
「リンゴさん、今朝に熱を出したんですよ。とてもじゃないけれど行けなくなって、それで私が代わりに」
「そうでしたか。夏風邪でしょうかね、お大事にとお伝えください」




