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人工惑星  作者: 赤靴下
19/49

3-5

「それで、全部こっちで解決しろって?しかも手前の不始末で盗まれたものをわざわざ回収してやったのに、それまでこっちが届けろと」ヒバリはしかめ面で皿のジャガイモに箸を突き刺した。

「無茶苦茶ね。それであんたは、ホイホイやるって言っちゃったわけだ」


「ひどい言い草だな」私も顔をしかめてシチューをすくった。

「そんなに言うなら君が訴えてみたらどうだ。人手不足など知ったことか、さっさと調査員と連絡員をよこせと。向こうだって手一杯なんだよ、ホーム――」


「――5の件でね。もうここのところ、皆そればっかり。耳にタコができるね」ヒバリが口をもごもご動かしながら後を引き取った。


 焼けるような日差しを天幕が遮っていた。あたりは祭り市の喧騒で騒がしく、私とヒバリはテーブルを挟んで少々大きな声で話していた。


「そういえば、なんで私がここにいるって分かったの」ヒバリはジャガイモの塊を飲み下して訪ねた。


「君の助手に聞いた。何て名前だったか、ほら三つ編みの男性だ」私は口にしたシチューの味に驚きながら答えた。

「美味い」


「そうでしょ」ヒバリがにんまり笑う。

「イモがね、違うんだわ。施設の食堂で使われているのは二等、三等品よ。ここで調理されているのは北の町の特産品、こっちに暮らしてちゃこんな時しか食べられないんだよ」


「なるほど」私はヒバリの助手からも同じ話を、そしてそれを目当てにわざわざヒバリが地上に出かけて行ったことを先刻聞いていた。


「それで、話を戻すが……そう顔をしかめるな。私か君かニオのうち誰かが、本部へ件の惑星を届けられないかということだ。ニオにはまだ話していないんだが、君はどうだ?」


「どうだ?と言われてもね……とりあえずタイミングが最悪よ」ヒバリは砕けたジャガイモの欠片を箸でつまもうとしていた。

「ニオは今このホームにいない。ホーム5に出張中」


 私の口が驚愕にぱくりと開いた。「出張?なぜ?」


「ホーム5に出張よ?分かるでしょ」ヒバリは当然でしょと言うように目をぐるりと回した。


「引き抜きか?彼の研究分野を買われて」私はなおも唖然としたまま言った。


「引き抜きって言うか、まあ技術的な援助ね」ヒバリはジャガイモを箸で食べるのをあきらめ、スプーンでたっぷりすくい上げた。

「ニオの研究分野は……えー、高度に発達したセクターにおける生命体の発生過程みたいなことだったっけ。ざっくりいうとそんな感じなんだけど、その研究が今回のマザーの除毒技術の開発に関係あるみたい。イケマ博士が亡くなってから、その分野に関してはニオが第一人者だったらしいよ。そのことは私もこの間初めて聞いたけれど、改めてあいつはすごいと思ったね。あんな若くしてドクターになるだけはあるよね」


「すると、ニオには頼めないというわけか」私はヒバリの話の後半を聞き流しながら頭を抱えた。

「参ったな。彼がいれば本部から何かしら有益なものも引き出せたかもしれないと言うのに」


「有益なものって?人員や金を期待しているなら、無駄でしょ。電話でどれだけ訴えようが聞く耳なしなんだから、直接本部に乗り込んだところで結果は同じじゃないの」ヒバリはスプーンを口に運びながら呆れたように言った。


「電話口に出てる彼らは本部でも末端の者だ。ニオはうちの施設でも優秀なのは周知の事実だし、本部でも名前は通っているから上層部に直談判だってできたかもしれない。それだけ優秀だから、今回ホーム5に出張などすることになったのだろうけれど」私はシチューを睨みつけ、しばし沈黙した。

「私が行くか」


「あら、そう」ヒバリが眉を上げた。

「私が行ってもいいけれど。だいたいあんた、今そんな時間あるの?コハク君が論文書いている最中じゃなかったっけ」


「そうだ」私は渋い表情を作らないよう努力しながら言った。

「だが、事前にある程度指導しておけばコハクなら大丈夫だろう。あの子は年の割にしっかりしている。向こうへ行った後でも、電話でなら口頭で指導できるし」


「そんなことでいいの?なんかいい加減に聞こえるけど。コハク君は確かにしっかり者だけれど、今期の論文はちゃんと面倒見てやった方がいいんじゃないの。前年度のやつがあまり良くなかったって、本人も言っていたよ」


 至極まっとうな意見の前に私の気持ちはあっさり萎んだ。

「確かにその通りだが、では君に頼めるか?君の助手は――」


「――前年度の前期に無事にリサーチャーになったよ。私が多少留守にしたところで心配ないでしょ。いいよ、惑星の配達、引き受けたげよう。私の研究もひと段落してちょうどゆっくりしたかったところだし、のんびり観光でもしてくるわ」ヒバリはスプーンをくるりと指の間で回し、にかっと笑った。

「ああ、手数料として今回奢ってね」


「本当にいいのか?」私はヒバリの気の変わりように驚いていた。

「君、さっきは無茶苦茶だと言っていただろう」


「あれは本部の対応に言ったのよ。手前の問題をこっちに押し付けて自分は知らんぷりなんだからそりゃ無茶苦茶じゃない。あんたも一言言ってやればいいのにあっさり引き受けちゃうんだから、そりゃ文句の一つも出るわよ」ヒバリはじろりとこちらを見た。

「まあ、それは過ぎたこと。さっきも言ったけど、私もちょうどゆっくりしたかったところだからね。休暇も兼ねて引き受けるよ。それとも余計な世話だった?」


「いや」私はざっくばらんな友人に感謝して微笑んだ。

「ありがとう、助かるよ」


「ならばよし」ヒバリは空になった皿にスプーンを置いた。

「スケジュールはこっちで勝手に決めるけれど、それでいい?それと、配達する惑星のナンバーは?」

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