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各ホーム間の研究施設を連絡する電話機は、この施設には数台しか存在せずその全てが一つの部屋に集められている。普通ならどこの施設でも研究室一部屋につき一台、他のホームの施設につながる電話機が設置されているのだが、この施設だけがそうならないのはもともと少ない予算が年ごとに削られているせいだ。ここ何年も大した研究成果を出せない上に一般住民の理解も得られず、研究員たちはそれらに対する危機感が薄い。何とかしようにも私自身がその成果を出せない研究員の一人なのだからどうしようもない。人工惑星の研究自体が行き詰りかけており、どのホームの科学者たちも現在の関心はもっぱらマザーに向いている。
――今回もまた、マザーで大きな発見があった。君のところはまだ小さな惑星を眺めているのかい?――
先日、盗難された人工惑星の件を本部に連絡したときの、相手のからかうような言葉を思い出した。そしてその相手は今回も受話器の向こう側にいて、またかい、と呆れたように言う。
「ついこの間も同じことを言われたんだけど?そっちで作った惑星が盗まれているんじゃないの?」
そうだったとしても結構な問題には変わりないんだがな、と私は思いながらなるべく明るく振る舞う。
「いえ、ナンバーは三桁台ですし、本部で制作されたものに違いないかと。いかがします?仮に窃盗犯がこのホームにいるとなると、このままこちらで保管するのはいささか危険ですし、本部に引き取っていただいた方がいいのでは」
困ったように相手が唸る。
「この間も同じことを言ったけど、本当に人が割けないんだよ、今。ホーム5の件もあるし、前からホーム12の復興でも大分忙しいし。君も分かっているだろう、あれで優秀な人材がだいぶ減った――」
「それは承知の上です」相手の話が長くなりそうだったので、私はさえぎるように言った。
「連絡員を一人でも構いません、こちらに回してくだされば――」
「だから無理なんだって」いらいらしたような口調で、今度は私がさえぎられた。
「連絡員も大方ホーム5に強制徴募されちゃっているよ。最もあちらさんの方がよっぽど羽振りがいいだろうから、皆喜んで行っただろうけれど」
私は愕然とした。「一人も?一人も来れないってそんな――?」
「一人も」相手はきっぱりと言った。
「ホーム5の件がなくても、どこも忙しいんだよ、君のところと違って。君こそ、今暇なんだろう?そんな事件に首突っ込んだりして。そうだ、君が持ってくればいい」
「え?」私は思わず愛想を忘れて聞き返した。
「私が?」
「うん、それがいい。君のところの管轄下で起こったことだろう?こうやって何かあるたびに本部を頼ってこられても困るんでね。君じゃなくても、そちらから人を送るのが筋だ。旅費は経費で落ちるし、問題はないだろう」
「しかし、件の惑星が盗難されたのは本部からですし、それを制作したのも本部です」私は反論した。
「貴重な惑星なのですから、発見したとなればそちらに指示を仰ぐのが妥当でしょう。それに――」
ここまで言ったところで、私はこれ以上はまずいと思い咳ばらいをした。「すみません……わかりました。件の惑星ですが、こちらから人を送って輸送させることを検討してみます」
「それを聞いて安心したよ」相手は一瞬黙ったが、さらりと続けた。
「なにせ、どこもてんやわんやの状態でね。少々苛ついて、嫌味なことを言ってしまった」
「いえ、こちらこそ……すみません」
「ああ。それでは、件の惑星を頼んだよ」そして手短な別れの挨拶の後に、電話は切れた。
私は下唇を噛みながら受話器を置いた。苛ついた感情の後に、苦い後悔が残った。今回の件をまともに取り合う者が少ないことに腹を立てていたが、しっかりした対策を立てられないままやれやれと首を振るだけの自分にも嫌気がさした。
しっかりしろ。呟いて頭を軽く振る。できることをやるしかない。惑星の輸送の件はニオとヒバリに相談してみよう。私か彼女らの中から行くか、あるいは近く本部に出向く者がいれば、その人に託すこともできる。
まだほかにも盗難された惑星は残っている。恐らくはこのホームの、この町の中にも。リンゴに掛け合って、一部市民に注意を促すこともできるだろう。地上の憲兵の協力も得られるかもしれない。
私は考えをまとめると、通信室を後にした。




