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人工惑星  作者: 赤靴下
17/49

3-3

 しかしどうしたものか。コハクには余裕があるかのようにふるまったが、実のところかなり面倒なことになっている。科学連合機関本部に保管されていた希少な人工惑星が一度に、しかも大量に盗まれたのが四ヶ月前だ。そして先月からその盗まれた惑星が、本部から遠く離れたこの町でいくつも回収されている。盗んだ犯人はこの町にいるのか?本部に侵入して、まさに科学の産物そのものを盗み出すという行為からして、明らかに地上の一般人ではないはずだが。何にせよ、惑星が悪用されれば面倒では済まなくなる。回収されていない惑星はまだたくさんあるが、この町にすべて存在しているのか。仮にそうだとして、どうやって見つけ出す?私は考えながら保管庫へ向かった。

 

 考え事をしていたせいで、保管庫の前で作業着姿の女性と衝突しそうになった。


「すいません」と謝った後で、ぶつかりそうになった相手がだれなのか気づいた。

「やあ、シグレ」


「ヒイラギ」長い黒髪を後ろですっきりと束ねたシグレは、大きな箱を乗せた台車を押していた。惑星を保管するときに使う、衝撃を吸収する特別な材料でできた箱だ。ヒバリは私の右手に乗っている惑星に目をやった。

「またなの?」


「そうなんだ。地上の、知人の雑貨屋で見つかった」私は惑星を持ち上げてみせた。

「ナンバーは三桁台だ」


 シグレは黙って惑星を私の手から取ると、それで何かがわかるとでもいうように、目を近づけてじっと見つめた。


「また本部に連絡せねば。回収しに来てもらうには賄賂でも必要になるだろうが」私は冗談交じりに言うと、台車の箱に目をやった。

「その惑星は?観測に使うのか」


 シグレは頷いた。

「トウジン博士に頼まれて。4878番惑星で観測された巨大積乱雲をこの惑星でも再現できるかもしれないって言うの。私は助手じゃないんだし、使い走りは勘弁してほしいのだけど」そう言いつつすっと目を細める。

「それよりどうするの。もうこれで、盗まれた惑星がこの町で四つは回収されている。本当にこの町のどこかに、盗まれた惑星がそっくり全部あったとしても驚かないわ」


 私はシグレの、何の表情も浮かんでいない顔を見上げた。若々しく見えるが、実際は私よりかなり年上だ。


「どうしようもないな」私はさっきと同じ返事をした。

「本部もこの支部もまともに調査する気がないとあっては、私達にできることは向こうから見つかるのを期待するだけだ――悠長だということは分かっている」弁解するように付け加えたが、シグレはそう、と言っただけだった。


「ホーム5の一件で、今はどこも浮かれているようだ」私は続けた。

「確かにマザーの調査が飛躍的に進むかもしれないというのは喜ばしいかもしれないが……こうもお祭り騒ぎでは」


「最近は調査範囲にも限界が見えてきて、滞っていた反動もあるでしょうね。惑星の件は、ほとぼりが冷めたところでまた切り出しましょうか。私もなるべく地上に出て探してみることにする」シグレは人工惑星を私に返し、台車を押した。

「それじゃ」


「ああ、ありがとう。助かるよ」私は努めて明るい声で言った。


 惑星を保管庫に入れ、私は研究室に戻るつもりだった。さっきコハクが言ったことに気がかかっていて、人工惑星核の構成物質について調べようと考えていた。コハクのレポートも見てやらねばならない。助手の成績はチューターの評価にも影響する。


 そう考えながら上階へ行くエレベータを待っていたが、扉が開いた途端にぎやかにしゃべる声があふれ出てきた。白衣の若い科学者が三人乗っており、そのうちの一人が私を見てちょっと片手を上げて挨拶した。

「よっ、ヒイラギ」


「ああ、やあ」私も挨拶を返したが、困ったことに相手の名前が出てこない。何度か話したことがあるはずなのだが。エレベータに乗りながら、また話しかけられたらどうやって流そうか、と考えた。幸い私に声をかけた男は一緒にいた二人の科学者とまたしゃべり始めた。


「それでさ、僕も言ってやったんだ。そろそろ隠居なさったらいかがですかって」さっき私に声をかけた科学者がクックッと笑いをこらえながら言った。


 それを聞いた二人の科学者の片方がひゅっと口笛を吹いた。

「そりゃあ、やっこさん、怒ったろ」


 すると初めの科学者が、なおも肩を震わせながら首を横に振った。

「そう思うだろ?ところが、あの爺さんときたら――」話している途中でこらえきれなくなったのか、その科学者は声を上げて笑った。


「それで?」三人目の科学者が面白そうに先を促した。

「どうしたんだ?」


「それで――それで」笑いをこらえようとむせ返りながら最初の科学者は続けた。

「こう言うんだ。『んっ、それもいいかもしれんな、んっ。なにしろ、んっ、イシナギ君も言っていたが、そろそろ内職を本格的にやろうかと、んっ、思っていてな――』」声真似を途中まで続けたところでその科学者はまたしても吹き出し、他の二人も笑い出した。


「内職ってそりゃ――」げらげらと笑いながらさっき口笛を吹いた男が言った。「あの星を観察するんだろ?例のサルの――」


 最初の科学者が笑いすぎで出た涙を拭いながら頷いた。「爺さん、あのサルに惚れているんだって。間違いないや」


「あぁ、そのうち、子供でも作るんだろ?」三人目の科学者が体をくの時に折り曲げながら喘いだ。

「新種の人類誕生だ……次のダーウィン勲章はいただきだな」


 狭いエレベータ内に笑い声がはじけた時ピーンという音とともに扉が開き、三人の科学者はなおも笑いながらどやどやと降りていった。初めに私に声をかけた科学者がこちらを振り向き、挨拶代わりに片手を上げるのが見え、私も手を上げた。誰も乗ってこないまま扉が閉まり、私は思い出せない科学者の名前を考えながら上階へ向かった。


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