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人工惑星  作者: 赤靴下
16/49

3-2

 研究室に入るとまず目に付くのが、左側の机にうず高く積みあがる本の山だ。机に座っている人の姿は本に隠れてほとんど見えないが、ページをめくりペンを走らせる音がする。私が部屋に入るとペンの音がやみ、積まれた本の向こうから少年の顔がひょっこり出てきた。


「お疲れ様です、先生」


「お疲れ様、コハク。ほら、差し入れだ。ちょっと休憩したらどうだ」私は祭りの屋台で買った焼き菓子の入った袋を掲げて見せた。


「ありがとうございます」コハクの顔が嬉しそうに笑う。

「お茶でも淹れますか」


 私は机の上に散らかった書類や本を除けてスペースを作り、焼き菓子の袋を置いた。コハクが茶の入ったカップを二つ机の上に置き、私の向かいに座った。


「どうでした、祭り市は。何か面白いものはありましたか」コハクは焼き菓子を一つ手に取りながら私に尋ねた。


「いつも通りだよ。特に珍しいものがあるわけじゃない」私も椅子に座り、焼き菓子を取った。


「なんだ、そうですか。でもレポートが終わったら僕も行ってみようかな」コハクは焼き菓子を頬張った。

「お、これおいしい」


「祭り市が目的で地上に出たわけじゃないぞ」私は何となく念を押すように言った。

「惑星が知人の店で発見されたんだ。それを回収しに行った」


 カップを持ち上げようとしたコハクの手が止まった。

「またですか。最近多いですね」


「そうだ、今月で三個目。先月は私が知る限り五個回収された」私は雑貨屋で受け取った惑星を鞄から出し、机に置いた。

「誰かが盗んだ上に、まるで意図的にばらまいているようだ」


 コハクは真剣な顔で惑星を手に取った。

「ナンバー378か。三桁台ならここで制作された惑星じゃないし、本部に保管されていたものじゃないですか」


 コハクの言葉に私は頷いた。

「今まで見つかったやつも全部二桁か三桁台だ。当然だが、こんなものはそう見かけるものじゃない。きちんとした捜査を実施すべきだと、この間も所長に進言してはみたが、あの生返事じゃ期待はできなさそうだ」そう言って私は椅子にもたれかかった。


 コハクは惑星を机の上に戻した。

「本部に連絡を取ってみては?貴重な惑星が絡んでいるんですから、調査員を送ってくれるのでは――」


 コハクが言い終わる前に私は首を横に振った。

「先月回収された惑星を本部の職員が直接引き取りに来たんだ。そのとき頼んだが、今は本部どころかどこの研究施設も手いっぱいで、人手を割くのは難しいそうだ」


「そういえば」コハクはもう一つ焼き菓子を取った。

「先日のマザーでの一件で、どこも大わらわでしたね」


「その大わらわは今も続いている。今年のダーウィン勲章受章者をソテツ氏がとるかもしれんとあっては、ホーム5の科学者たちは鼻高々だろう。この施設だけが蚊帳の外だ」私は腕組みをして顔をしかめた。

「だから、この件については私達が調査するしかない。そう所長に言ったんだが」


「どうするんですか?施設全体で動けないなら、協力者を募ることくらいならできると思いますが。ニオ先生やヒバリさんや、シグレ先生は手伝ってくれているんでしょう」


 私はうーんと唸った。

「募って協力者が出るなら、それもありなんだろうがな。ニオもヒバリもシグレも、調査や回収を手伝ってくれているのは知り合いのよしみだろうし、大方の科学者たちは皆地上のことには興味を持たん。まあ、何か実害があったわけじゃないし、残った惑星がまた地上で見つかれば回収するだけだな」


 コハクは浮かない顔でカップを口へ運んだ。

「それで大丈夫なんでしょうか。本部から盗難された惑星がこの町で見つかるなんて異常としか思えないのに」


「確かに悠長ではあるが、他にどうしようもないよ。君はそんなことを気にしてないで、レポートに集中しなよ。前年度の最後のやつ、あまり評価がよくなかったんだろう」私は立ち上がり、惑星を鞄に入れた。


「あれは審査した科学者が厳しかったんですよ。あのしわくちゃの、鼻の上にでかいほくろがある爺さん――また出かけるんですか?」私がドアへ向かうのを見てコハクが言った。


「惑星を保管して、本部にまた引き取りに来てほしいと連絡をしないと。来てくれるのかどうかもわからんが」私が答えると、コハクは何か思いついたような顔になった。


「その惑星、後で観測してみてもいいですか?」


「うん?」コハクの頼みに私は怪訝な顔をした。

「この惑星はまだ核しかない状態だぞ。観測しても何が見えるわけでもないと思うが」


「もしかしたら、何か特殊な核構成かもしれないと思ったんですが。もし珍しい核物質でできていたり、構成系列が特殊なものならそれが盗難にあった原因かもしれないですし。というか、ヒイラギさんもまだ観測していなかったんですか」


「ああ……じゃあ後で観測してみるか?いったん1番保管庫に入れておくから、先にレポートを終わらせてからにしなよ」


 研究室を出て歩きながら、私は鞄からまた惑星を取り出して見つめた。惑星の白い核が音もなく回転している。


 特殊な核物質でできているかもしれない――それが盗まれた理由か。なぜか今までそのことを考え付かなかったが、言われてみればそうだ。

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