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人工惑星  作者: 赤靴下
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1-1 アキ

 町はずれの丘の家に住んでいる、キジという婆さんに孫娘がいるという話は西地区の住民の間にすぐ広まった。噂の出所はキジの雑貨屋の店員をしているリンゴという女で、店に寄った者は皆その話について尋ねた。


「あたしも店長からちょっと聞いただけだよ」リンゴは言った。

「だけど本当に孫がいて、今度こっちに越してくるんだって」


「いったいどんな子なんだろうね」話を聞いた客は言った。

「やっぱり大きいのかね」


「そうかもね」リンゴは面白そうに答えた。

「もしそうだったら店長の家、改築するかも」


「とんでもないよ。今度は北の森がなくなっちゃうよ」


「店長が家を建てた時は向こうの山がハゲちゃったもんねぇ」


 

 荷馬車の車輪が小石を踏んづけてガタンと跳ね、荷台で眠っていたアキはそのはずみで頭をぶつけて目が覚めた。目をしょぼしょぼさせながら起き上がると、御者台の男が声をかけた。


「起きたかい、アキちゃん。ほれ、もうすぐ着くぞ」


「あれですか」


「おう、あれよ」アキの問いに、男は前に見える大きな町を指しながら答えた。

 丘の斜面に白壁にレンガ色の屋根の家がたくさん寄り集まって建っているのが見えた。町はそこから平原に向かって扇状に広がっている。町のはずれから広がる草地の間の道を、馬車はゴトゴト進んでいた。


「お婆さんは丘の向こうに住んでるからね」男の隣に座っている妻が振り向いて言った。

「着いたら丘を回っていって……」


「あ、いえ」アキはさえぎった。「祖母の店で待つように言われてます」


「あら、そうなの」


「はい、迎えに来てくれるそうで」


「着いたらあそこの雑貨屋によればいいのか」男が言った。

「西地区の」

 アキは頷いた。祖母から届いた手紙には、彼女が営む雑貨屋の場所が手書きの地図で記されてあった。


「よしわかった」男は手綱を握りなおす。

「しかし、あんたがあのキジさんの孫とはなあ。なんというか、ちょっと意外だったな」


「意外?」アキは聞き返した。


「意外というか、予想と違ったっていうか」男は頭を掻いた。「こう、もっと大きい子かと思ってたんだよ」


「そうなんですか」それじゃ、祖母はかなりの年なんだろうか。アキはそう思ったが、男は妻と話し始めたので聞きそびれてしまった。祖母と会ったことは一度しかない。それもかなり小さいころだったらしく、アキは祖母の顔も覚えていなかった。


 

 荷馬車は町に着くと、南地区の端をぐるりと回って西地区へ向かった。大きな通りが町の中心までずっと伸びているのが見えた。通りの脇にはレンガ造りの民家や店が立ち並び、店の軒下には野菜や果物、こまごました雑貨なんかが積まれ、並べられていた。荷馬車が行きかい、人がたくさん集まっている。


「これから市なんですよね?」アキは尋ねた。


「明日からな。俺たちは南地区に店を出すんだ」男は親指で荷台に積まれた大量の荷を指した。

「今回は祭り市だ。アキちゃん、いい時に来たね」

 祭りと並行してあちこちから商人が集まるバザーを開くということを、この町は十年ほど前からやっているのだと男は馬車を進めながら説明した。

市の準備をするざわめきが遠のき、白壁の民家が並ぶ静かな通りをしばらく行くと、男が不意に言った。


「ここから先が西地区だな」


「ありがとうございます。ここからは歩いていきます」 


「おやそうかい?だが、店の場所は知らんだろう?」男は眉根にしわを寄せた。


「場所は大体わかっていますよ。地区の端の方にあるんですよね」


「そうだ、一番大きい通りの端っこの店だ……アキちゃん、この町に来たことがあるのかい?」


「いえ、祖母からの手紙に書いてあったので」アキは荷物の入った皮袋を抱えて荷台から降りた。


「そう……本当に一人で行けるかい?」男の妻が尋ねた。


「大丈夫です。送ってくださってありがとうございました」


「ああ、気を付けてな」


「キジさんによろしくね」

 アキはにっこり笑う初老の夫婦に頭を下げ、皮袋を背負って歩き出した。


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