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一人暮らししているマンションから大学は自転車で行ける距離だ。俺は慣れた通学路を自転車で猛スピードで通り抜ける。この辺りはまだ被害が出ていないらしい。
「あれは…結界!」
二十分後。そこでは瓦礫の山と人影が遠くからでも見えると同時に全体に張られた結界に向かって内側から見覚えがないモンスターが体当たりしている。どうやら閉じ込めていたため被害は大学内に留まっていたようだ。そしてそれは裏を返せば大学内の人間が危機にさらされていることを意味する。自転車を乗り捨てて俺はこっそり物陰から中に侵入した。外から中への行き来は自由なようだ。
二重構造で結界が張られていた通路は怪我人だらけだった。学生のみならず魔法少女達も傷付いて手当を受けている。保健室の職員が必死に働いていたが、いかんせん、数が多すぎる。しかもまだ隙を見て結界外から回収した怪我人はどんどん運び込まれているようだ。大規模災害並みだ。
「これは、酷い…」
幸い死者はいないみたいだがそれも時間の問題だ。と、後ろから誰かが駆け寄ってきた。
「シリウスさん!」
それは何回かテレビ番組で組んだことがある魔法少女、イチゴだった。どうやらこの結界は支援や防御に特化した彼女によるものらしい。ナイス判断…とまでは言い難いが戦闘力はほぼ皆無な彼女にできる最善なのだから仕方ないだろう。
「…今はただの人だから」
「そんな!各地でモンスターが同時に現れて…シズカお姉様や教官もそっちに駆り出されていて、このエリアはもう限界なんですよ!」
見れば彼女以外の魔法少女は皆重傷を負っていたり、意識を失っていたりするようだ。ちなみにシズカお姉様と呼んでいるがただの敬称である。
「でも、俺は今変身できない。シズカさんにそういう魔法をかけられてる」
「シズカお姉様が!?何でそんなことを…」
だが、攻撃手段を彼女が持たない以上このままでは危険だ。俺は周辺を見回して落ちていた、途中で折れている鉄パイプを拾う。しっくりくる。どうやらあの剣と同じぐらいの重さだった。
イチゴが不安げに俺を見た。
「…シリウスさん?」
「仕方ない。魔法使えないからすぐやられると思うけど」
いくら俺が元不良といえども魔力が無ければ身体能力は普通の人間と変わらない。が、これ以上の被害を減らすためにはやらなければならない。そうしないとこの場にいる人々は助けられない。
俺がしようとしていることに気付いたイチゴの制止も聞かず結界の外に飛び出せば、モンスターは俺に気付いたらしく、その巨体で突進をかけてきた。どう見てもかわしきれないだろうから、俺は鉄パイプを構え、受け身を取ろうとした。