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こうして俺は半ば嵌められる形で魔法青年として働くことになった。
「―――本日のゲストは期待の魔法青年のシリウスさんでした!」
テレビ収録が終わり、俺はむすっとした表情でスタジオを出ようとした。と、すかさずシエロの奴が駆け込んでくる。いつの間にかスタジオに潜り込んでいたらしい。
「いやぁ、シリウス。お疲れ様」
「また来やがったのかゴミ虫野郎」
この胡散臭いゴミ虫、クラスティ・シエロはとても不本意ながら俺とミコトの先輩である。俺を魔法青年に変えた奴はまんまとマネージャーのようなポジションを務めている。自分は矢面に立たない典型的な小悪党である。
「駄目だろ?君は礼儀正しい騎士というキャラで売り出しているんだから」
流石に外堀からじわっと埋められた俺でもあのザマが身内や友人にバレるのは嫌だった。が、既にマスコミの毒牙にかかった俺に許されていたのは別人のように振る舞うことと一応個人情報を守ることだけだった。だから面倒なことに魔法青年として振る舞う時は、変身後の外見イメージに合う品行方正な騎士然とした優男のふりをしなくてはならない。実は見た目の違いは髪や目の色や服装の変化ぐらいしかないのだが、中の人は元不良勇者で口も足癖も最悪なのであまりの違いに身内は別人だと思ってくれているらしい。
「…そうでしたね、先輩。速やかに死ね」
「だからキャラ設定!…あのさ、いいんだよ、別に俺は。普段は近付くだけで絶対零度な光君が女性の理想の騎士としてニコニコ愛想振りまいてコスプレもどきのまま歌まで歌ったりしてアイドル扱いなんてことがバレても、僕はね」
さらっと脅迫され俺は黙らざるをえなかった。カメラが回っていたらこの極悪スーツを断罪できるのに…もっともそう簡単にはいかないが。
何しろこの極悪スーツ、こんな屑野郎だというのにこいつも元勇者なのである。以前日頃の恨みを晴らすため不意打ちをしかけたら、いつも背負っているスティックケースから素早くホッケースティックを二本取り出し、それでそのまま撲殺されかかった。魔法少女シズカが偶然その場に居合わせなかったら間違いなく黄泉路直行だったに違いない。十分強いじゃん。お前が魔法青年やれよ。確かに表情とか雰囲気は胡散臭さ全開だが顔立ち自体は知的でそんなに悪くはないんだからお前でも魔法青年で売れるだろ、鬼畜眼鏡枠とかで。
ついでにスーツ侍ことミコトは魔法青年ではないが、実は魔法少女の戦闘指導や討ち漏らしの撃破などの表舞台には出ないが重要な作業を陰ながら担当していたので俺は土下座した。聞いた話、他の魔法少女達からもかっこよくて強い頼りがいがあるなどと好評らしい。ついでに一度俺も軽く稽古してもらったがあれはちょっとしたトラウマだ。元勇者とか粋がっていてごめんなさい、ってレベルだ。
「さて、この後はフリーだ。シリウス、三時間後には授業だろ?急いだ方がいいんじゃないか」
腕時計で現在時刻を確認しながらゴミ虫が言う。そう、これだ。魔法青年などという怪しい職業とはいえ地味に学業優先にしてくれるのは驚きだった。でもまあ、魔法少女は十代の少女ばかりだから当然かもしれない。ともかく、ちゃんとかなりの額の給料を貰えるから他にバイトをしなくていいのは幸いだ。
「…んじゃ御言葉に甘えて」
挨拶もそこそこに俺は慌ててスタジオを飛び出した。