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日常崩壊系魔法青年の憂鬱  作者: 染井Ichica
日常崩壊系魔法青年の憂鬱
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 物陰で変身を解除した俺は慌ててとある事務所に駆け込んだ。

「あ、こちら人材派遣会社エンド―――」

「おい、あの銀縁変態男出しやがれ!」

 しかし中にいたのは俺に厄介事を押し付けた銀縁眼鏡男ではなく、別の、染めたとは思えない銀色の短髪に桜色の瞳の男前だった。ただし、こちらも何故かスーツなのに日本刀より長めの太刀に近い刀を携帯している。何だ、ここの奴らはスーツ+αが基本なのか?それより、まさか本物の刀じゃないだろうな…。

「銀縁眼鏡ってことは…シエロ?奴なら宣伝のためにテレビ局に…」

「おい、宣伝って何だ宣伝って」

 俺の言葉に男前ことスーツ侍は見ていたテレビを指差す。そこには。

〈魔法少女ならぬ魔法青年現る!〉

〈緊急ニュース、謎のイケメン、ドラゴンを瞬殺!〉

「だああああ!?」

 やっぱり!嫌な予感は的中していた。あのヘリコプターの側面に●×テレビなんてあった時点で。

 込み上げてきた怒りのままにテレビを破壊しようとする俺をスーツ侍は捕まえる。俺より小柄なくせに恐ろしい力だ。というかスーツの下はこれ、かなり筋肉がついてるぞ。

「まあ、シエロに目を付けられたからには諦めてうちに就職しような。俺は祭屋命。気軽にミコトって呼んでくれ」

 スーツ侍は少なくともあの胡散臭い銀縁眼鏡男よりはマシな人間であるようだ。とはいえ。

「…こんな知名度低くてちっさい会社になんか入りたくない。堅実な生涯設計以外認めない」

 両親の老後のことも考えてしっかり貯金はしておきたい。そもそもこんな何をやってるかさえ分からないような事務所に内定が決まったとか報告できない。

 スーツ侍ことミコトは俺の言葉に少しきょとんとした後、不意に何か思いついたように懐から何世代も前の携帯を取り出した。そして俺の目の前にも関わらず誰かと通話し始める。

「あ、今大丈夫?仕方ないから暴露作戦でいこう。っていうかさっさとしろ」

 謎のイケメンの快進撃こと久しぶりに勇者の力を取り戻したせいでノリノリになりすぎてしまった俺の醜態が繰り返されていたテレビ映像が突然切り替わった。そこに映るのはどこか少女にはふさわしくない類の色気を振りまく、黒髪黒目のボーイッシュなウエディングドレスもどきを着た魔法少女。その名もシズカ。俺でも知っているほど大人気な魔法少女だが秘密主義なのか個人情報はおろか所属事務所や人間関係も流出してなかった気がする。画面の右上には生中継と書かれている。

「えー、皆、今日は僕のために集まってくれてありがとう!僕、シズカだよぉ」

 当世一番人気のカリスマ魔法少女の生中継は緊急ニュースすらふっ飛ばすらしい。これ以上黒歴史確実な映像が晒されることはないと少し安心した時だった。魔法少女はあざとい上目遣いでカメラを見る。これ、自分の少しつり気味だけど大きなくりくりした目の破壊力を分かっててやってるな。あざとい。

〈今日は今まで秘密にしていた僕の所属事務所とか新人を発表しちゃいますっ〉

 背後のミコトが苦笑いしているのは何故だ。いや、ここまでの流れから薄々予想はついてきたが。

〈僕の所属事務所は《人材派遣会社エンドレス》ですぅ。そして新人は…〉

 シズカの笑顔と共に大画面に映ったのは。

 ノリノリで剣を振るう俺だった。

〈魔法青年シリウスちゃんですぅ!〉

「うぼべぐへぁ!?」

 あざとい上目遣いより笑顔で突き付けられた現実の方が破壊力は大きかった。

「ほら、知名度は解決したぞ。明日から大忙しだな、魔法青年シリウス」

 同情するようにミコトにポンと肩を叩かれるが結局はお前もグルじゃねぇか!さっきの電話の内容、俺は忘れていないぞ!

「いやぁ、いい加減マスコミから女性向けにかっこいい男の魔法少女を派遣しろって言われてたんだがこれで助かった」

 つまり俺は生贄である。

「部外者巻きこまないでてめぇが魔法少女やれやゴルア!」

「いや、これでも俺、れっきとした妻子持ち単身赴任だから。バレたらアウトだろ。週刊誌でフルボッコにされるのが目に見えている」

 いくら男前とはいえこんな銃刀法違反なリア充がいてたまるか!俺にだって彼女いないのに!世の中は不平等だ!

 ミコトが深く溜息をついた。

「それに一応身内を犠牲にしてるぞ。今、テレビに映っている大人気美少女魔法少女シズカ」

「ああ。ここの所属とか言ってたな」

「あれな、八千歳越えのジジイ。趣味は甘言や虚言による精神汚染で特技は人を弄ぶこと、な人外」

 画面ではさり気なくパンチラをかます魔法少女。細い足がとても魅力的である。へえ、あれが男かぁ…は?

「今、なんと?」

「男としてデビューできるだけあんたのがマシだろ」

 あ、これは断ったら死ぬわ俺。


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