おいでよナユタ狩猟区ー新人研修は危険な香り(4)
それからの数日間は地獄だった。なまじ素の戦闘力があるので朝夜関係なく狩りに連れ出される。最初は可愛らしいモンスターだったりしたが最終日にはドラゴンの仲間の地竜をシエロと一緒に討伐しにいっていた。この程度ならミコトさんもまだ余裕らしく、同じフィールドにいる別のドラゴンを喜々として狩っているのを見た時には少し殺意が芽生えたりした。
でも、まぁ……価値観が変わるぐらいにはあれな体験だった。
「最終日お疲れさん」
ミコトさんが木で出来たジョッキを三つ持ってくる。そこの酒場のカウンターで買ってきたらしくまだ泡が消えていないそれは確実に酒だろう。
「シエロは前よりチームプレイ上手くなったな。で、シリウスは初めてなのに頑張った。俺の昔の仲間を思い出したよ」
「あの、これ、飲んでいいのか?」
ミコトさんが頷く。
「勿論。奢りだ。この世界では俺は金に困ってないしな。それに狩りの後は酒盛りが常識だ」
それじゃ遠慮なく。一気に煽ったそれはまろやかな甘みがある。感覚としてはスパークリング日本酒か。それにしてもおいしい。これはミコトさんが飲兵衛に育つわけだ。
「ミコトさん、このお酒、持ち帰れませんか?」
「え?まぁ出来なくはないが……事務所に酒樽置いておくのか?」
そうか、こっちの世界ではまだ技術的な問題で樽なのか。無念。いや、持ち帰るけど。ミコトさんはグビグビと酒を飲む俺達を優しい目で見ている。幸せそうに。あぁ、この人が素朴で些細なことを幸せに感じるのはこういう世界だからこそなのだろうな。
だから元の世界に帰った時ミコトさんがウォッシュレット付きトイレを笑顔で撫で回したことはスルーしておく。確かにあっちのトイレ、水洗ですらなかったけどさぁ……。
またしばらく投稿期間あきます。