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おいでよナユタ狩猟区ー新人研修は危険な香り(1)

お久しぶりです。

 拝啓、お父さんお母さん。

 俺は今、なんというかとても未開な土地に来ています。

 毎夜お外からは謎の咆哮が聞こえ、肉も結構元の形のまま売られてます。挙げ句の果てには物々交換が普通に成り立つ。あらまぁ、とってもワイルドなんでしょう。



「さて、これから一週間、俺とシエロ、そして光は新人研修に行くことになった。ちなみにシズカから許可おりてるから拒否権は無い」

 ある日ミコトさんが突然言い出したのはあまりに突飛なことだった。書類を眺めていたシエロがだるそうにソファーに倒れこむ。

「ラッキー、雑務サボり放題じゃん。で、場所は?」

「ナユタ狩猟区」

「前言撤回。拒否だ、そんな危険なの」

 珍しくシエロが焦った様子で即答した。そういえば以前ミコトさんとシエロが口喧嘩してた時にそんな名前を聞いたような気がする。気になって尋ねてみるとミコトさんは頷いた。

「よく覚えてたな。まぁ、俺が育った地元だ。主な産業はモンスター退治によるモンスター素材の売買と鍛冶だな。山、海、草原などなど様々な種類のフィールドがあるのも特徴だ」

 ああ、だからミコトさんもハンターと名乗っているのか。だが何でシエロはそこまで嫌がるのか。先日のあれから考えるとモンスター退治自体はシエロもできるはずである。するとシエロは俺を引っ張って、ソファーの裏側に座り込んだ。

「……あそこはトラウマ量産地帯だ。覚悟しておけ」

「……何があったんですか」

 だがシエロは教えてくれない。結局現地に着くまで俺は何一つ知らないまま新人研修を開始することとなった。



 そして今、俺の目の前に広がっているのは見渡限りの森、そうあまりに手つかずの森だった。

「とりあえず研修自体は村についてからにするから安心して俺の後についてこい」

 ミコトさんが着ているのは本気の時のハンターっぽい装備とはまた違った、どちらかというと侍っぽい装備だった。ただあまり防御力は高くなさそうだ。俺とシエロもミコトさんに渡された装備をつけており、こちらは革鎧といういかにも初心者向け装備である。まあ、ミコトさんが対処してくれるなら物々しくする必要はないのだろう。

 と思ったのが間違いでした。

 数分後、既に俺はシエロが嫌がった意味を理解し始めていた。率直に言おう、ミコトさんについていくのすらままならないのである。彼がすいすいと進んでいくのは獣道。それも相当な悪路だ。かつて冒険の旅をしていた俺ですら辛いのだからどれほどやばい代物なのかは察してほしい。シエロは無言だった。その足取りは俺よりマシか、といったレベルである。

「ちょっととばしてるけど大丈夫か?」

 今、ちょっと、って言った?地元民歪みない。だがミコトさんの足が止まってくれるわけもなく、結局足の感覚が無くなる頃、俺達は村に辿り着いた。



 着いた村は典型的な集落だった。木造のどこかエスニックな小屋が並び、露店などもぽつぽつある。ミコトさんと似たような、とはいえ防御力はずっと高そうな装備姿のハンター達が所々に立って世間話をしていたり、依頼を見ている。

「おい、前行った村と違うところじゃないか?」

 シエロが不機嫌そうに呟く。ミコトさんは当然と言わんばかりに胸を張った。

「だってここはナユタ村じゃないからな。同じ狩猟区内といえどもナユタ村の方面は玄人向けの激戦区だし、何より身内に見られるのも面倒だ」

 一応初心者向けとかは考えてくれているのか。

「……あとこの村は酒が旨い」

「この飲兵衛め」

 酒に強くないくせにやたら酒好きな先輩はカウンターへと歩いて行く。

「おう、流れのハンターなんだが……ああ、これでランク証明は可だよな?こいつらはまだ見習いだから指導でついてんだ。出来れば森猿狙いで」

 何かのプレートを取り出して見せるとカウンターの係員は真っ青になった。ミコトさんは怪訝そうに首を傾げる。

「ん?どうした?」

「あ、貴方は……本物ですよね?本当の本当に本物ですよね?」

「偽造できないことぐらい知ってるだろ。それよりあんまり騒がないでもらえると嬉しい」

 なんだか嫌な予感。これ、確実に面倒事に巻き込まれるパターンだろ。会話の流れ的に。やはりその用で係員が一度裏に消えるとすぐ入れ替わりに出てきたのはあまりに鋭い眼をした中年の男だった。

「ギルド長のササだ。本当にSSS級ハンターなら二つ返事で請け負ってほしい依頼がある。勿論装備を含めすぐにSSSとして振る舞って構わない」

「あのな、じいさん。わかっちゃいるが流れハンターにそんな特例適用したら地元の奴らがいちゃもんつけてくるのがわかりきってるよな?それでも命令するのか?」

 ミコトさんは普段はあまり見せない厳しい表情を浮かべている。それを見て、俺はこの人は本当に本業に関しては一切の妥協を許さない仕事人なのだと改めて実感した。男は十分承知しているらしく潔く言い訳はしなかった。

「それでもあんたは請けるだろうよ……相手は狂った《神龍》だ」

 思わず俺とシエロは息を飲む。

 ミコトさんの目から光が消えていたからだ。




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