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贄の娘と支配の魔王  作者: 八千
<3>魔王の王
16/20

 城に戻った翌日。

 ティティはメイストに買ってもらったモップで、張り切って城中の掃除をしていた。

「おおお……この手になじむ柄!モップの滑り心地……なにもかも完璧だべぇっ!」

 おかげで虫退治も捗った。軽さがあって、振り回しやすい。これ一本で、どんな場所でも片付きそうだ。伝説の剣を手に入れた勇者というのは、こんな気分なのかもしれない。

「ティティ」

「はいっ?」

 声をかけられて振り向くと、そこには大きな箱を抱えたメイストがいた。

「これ、捨てておいてくれ」

「へっ。わかりますたが……これ、何です?」

 箱にはガラクタのような道具や、古い本が無造作に放り込まれていた。

「片付けたら出てきた、いらないやつ。欲しいものあったら持っていっていい」

「わかりますた」

 メイストが去っていったあと、ティティは箱の中を覗いてみる。だが、彼女には見たことがないものばかりで、道具は握るところも向きもわからないものばかりだ。幅広の、三日月のような形をした金属があった。腕輪かと思い手首を通してみるが、ティティの手には大きすぎる。頭まで入ってしまった。自分が輪投げの的になった気分だ。

本も、「魔王のなりかた」だとか、「支配における精神論」とか、読み物として楽しそうなものでも無かった。

「……あれっ?」

 不意に違和感に気づき、肩のあたりを触った。

 だが、あるはずの金属に触れない。まさかと思い首に触れると、先ほどの金属がぴったり首に巻きついていた。手を首の後ろにやっても、信じられないことに輪が繋がっていた。

――とれねぇ。

 ティティは青ざめた。この不思議な金属は、なんらかの魔力がある。だからこんなことが起きているのだ。

「ねぇ、ティティ~。魔王様、おかしくない?」

 そこへやってきたモニクに、ティティは泣きついた。

「モニク~!」

「きゃあっ!な、なによ!」

「これ、取ってけろ!取れなくなっちまった!」

「はぁ?」

 必死の形相のティティに、モニクは首輪となってしまった金属の周りを一周する。

「何これ。どうやってつけたの?首切らないと取れないじゃない」

「ギャーッ!なんてこと言うだ!死んじまうべ!」

「そんなことより、魔王様よ!」

 一大事を「そんなこと」扱いされてしまったが、モニクは真剣で、ティティを鬱陶しく思っているわけではないようだった。

「急にテキパキ動いてるし、かと思ったらボーッとしてどこかを眺めてるし……魔王会議から戻ってきてから、おかしいわ」

「ああ……確かに」

 ティティはメイストが持ってきた箱をちらりと見やる。

 魔王会議から戻ってからというもの、例のエネルギーがどうとかで、メイストは夜も眠っていなかった。今はメイストのベッドで、ティティだけが一人で寝ている。夜、何をしているかを尋ねたが、具体的な答えは貰えなかった。

「魔王会議で、絶対に何かあったのよ!アンタ、一緒に行ったでしょ?わからないの?」

「ご、ごめんモニク……」

 苛立ったモニクに、ティティは謝ることしかできなかった。

あの日からメイストがおかしいことはティティにもわかっていた。だが、思い当たることは何もない。魔王会議でも、メイストは一言も発さなかったのだ。

――ん?でも、それがおかしいな?……

 彼はオーウェンと接触したことを、魔王会議の場で発言しなかった。なぜ、黙っていたのだろう。

「ティティ」

 そこへ、メイストがやってきた。

「言い忘れてた。明日、客が来るから、用意しておいてくれるか」

「へっ?お客さん」

「ああ。飯は食っていかねえと思うけど……遠方から来るし、軽めに何か頼む。五人分」

「はいっ」

 それだけを言うと、メイストはティティとモニクを通り過ぎて、歩いていってしまった。

「……怪しい。すっごく怪しい!」

 完全にメイストが見えなくなってから、モニクが怒ったように言う。

「友達って誰よ!魔王様、友達なんかいないのに!五人もいるわけない!」

「ロニーさんでねぇのか?」

「ロニーのことだったら、そう言うに決まってるでしょ!そもそも、あいつが事前に約束して来たことなんか無いわよ」

 この城での暮らしが長いモニクでもわからないのであれば、ティティには知る由もない。

 突然の訪問者は、メイストの急変と関係があるのだろうか。




 夜が長い。

〈裂け目〉を訪れると、メイストはいつもこの症状に悩まされる。

 目を閉じているが、当然眠りはやってこない。暖炉で薪が立てる音だけが、メイストに付き合っていた。寝室ではなくこの部屋で過ごすのは、ティティを起こしてしまうかもしれないし、あの部屋には時計があるからだった。

 不眠ではないのだ。体調は万全で、それどころか力が漲っている。その影響で眠らなくても良くなっているだけだ。

 だが、体ではなく、頭は眠りを欲している。長い間、夜に眠ることを繰り返していたためだろう。

 人間は一日の三分の一程度を睡眠に費やすが、魔王たちはそうではない。魔王たちのなかで、こんな生活をしているのはメイストだけだ。メイストは他の魔王に比べると、力では優位に立っている。だがその力のせいで、メイストは異常なほど体力を消耗する。その回復に、睡眠が必要だった。

 生贄を食えば、回復はする。食うというのは、言葉のままの意味でも、性交するという意味でもある。

 人間は不味い。女との交わりも、メイストには興味深いものでは無い。

 だが時折、メイストの中で、本能的な飢えが姿を見せることはあった。その強い衝動が、日増しに強くなっている自覚もあった。

 そして――〈裂け目〉を訪れたのが、決定打だったかもしれない。

「……魔王様」

 死にかけのネズミのような、小さな小さな声だった。

 気づけば、そこにオーウェンとティティが立っていた。オーウェンはティティを後ろから抱き、メイストに剣の切っ先を向けていた。

 メイストは、椅子からゆっくりと立ち上がった。自分の影で、オーウェンたちが黒く染まる。その中で、爛々と輝くオーウェンの瞳。気づけばメイストは杖を抜いていた。

 暖炉の火が、メイストを通り過ぎ、オーウェンを包み込んだ。その際に起きた風で、ティティが壁際に吹き飛ぶ。オーウェンは美しい金髪を、精悍な顔を、どろどろに燃やしていた。凄まじい悲鳴だった。

 メイストの心が、満たされていく。乾いた土に水をかけると、黒くなるように……湿り気を帯び、ぐちゃぐちゃに濡れていく。

 ティティが恐ろしげに見つめていたのは、オーウェンではなく、メイストだった。

――この女はオレの生贄だ。

 メイストは、ティティの元に歩み寄った。ティティの白い顔に出来た影が、炎の揺らめきで妖しく形を変える。彼女はすっかり怯えきっていた。

 だが、これでティティが奪われることはない。

 メイストは、ティティの頬に手を這わせた。他に目的があるときに、それを遂げるために触れたことしか無かった。触れることを目的とした接触は初めてだ。

 自分も、人並みに魔王だったのだ、と思う。

 誰かを支配して、征服して、喜びを覚える心があったのだ。




「……魔王様?魔王様!」

 何度目かの呼びかけで、メイストがようやくティティと目を合わせた。ティティはほっと胸をなでおろした。

「よがったぁ……目開けたまま動かねんだもの。おら、てっきり魔王様が死んじまったのかと……」

 メイストは、ティティの顔をじっと見つめていた。目が、そこに縫い付けられてしまったのだろうかというほど、動かない。ティティは再び不安になる。

「魔王様?」

「……ああ。悪い」

 何かを拭うように、目の辺りを手で覆う。次に目が合ったメイストは、はっきりとティティと視線を合わせていた。

「寝なくて平気だっていうけど、横になったほうがいいべよ。ずっとこうやって夜を過ごしていたんだが?それじゃ疲れるべ。さっきだって、目開けたまま夢見てたみてぇだぞ」

「夢……」

 メイストは、再びぼんやりと目を曇らせる。

 いつもと同じなようでいて、違う。

 普段のメイストは口数が少ないだけで、目の前にいるティティたちのことは認識している。でも、今のメイストはティティの知らない何かで頭がいっぱいに見えた。

「……お前、オーウェンのことどう思う?」

「へぇっ?オーウェン様?」

 突然、はっきりと質問をされて、ティティは戸惑った。しかも、質問の意図がよくわからない。

「立派なお人だとは思うども……魔王様と立場は違っても、おらたちのことをよく考えてくださってるべ」

「そうだな。俺もそう思う」

 さきほどの質問が、同意を求めてのことだったとティティは知った。それは、ティティの心を微かに波立たせた。

「ははは……魔王様が勇者様を認めてどうすんだ」

「まあな……」

 メイストの口元に、薄い笑みが浮かんだ。

――魔王様、なしてそんな顔するだ?悲しいことでも、あっただか?

 そう尋ねたいのに、聞けない。メイストは、もしかしたら話してくれるかもしれない。けれど、聞きたくないことまで聞かされてしまいそうだった。

――話を変えねば。

 悩んだ末に、ティティは自分の首元に手をやった。

「あっ、魔王様……あのな、こないだ捨てろって言われたやつ、つけてみたら取れなくなっちまったんだ」

「なにそれ」

 ティティは羽織っていたブランケットをはだけると、メイストに首元を見せた。半日以上こうして過ごしたが、やはり取れなかった。

「これ……何のアイテムだったっけな。覚えてねえ」

「そんなあ!おら、このままなのが?」

「そんなことない。首切れば取れるだろ」

「モニクにも同じこと言われただよ……」

 メイストは、ティティの首輪に指を這わせた。その慎重な動作は、ティティの素肌には触れないように気をつけているように見えた。

「似合ってるよ。飼い犬の首輪みたいだ」




 言われていた時刻までに準備を済ませて、ティティは玄関ホールで来客を待っていた。

 十時ぴったりに、外で蹄の音が聞こえてきた。

 扉を開けて出迎えると、雪に包まれた正面広場に、白馬がいた。その背にまたがるのは――。

「お、オーウェン様!」

「おお、ユースティティア殿。息災であったか。出迎え感謝する」

 オーウェンは馬の背からひらりと飛び降りた。「馬はどちらに繋げば良いかな?」

「あ、馬ならあっちに……って、違ぇ!」

 魔王の城を当然のように訪れた勇者の態度に、ティティは疑問を忘れるところだった。

「なしてお城さ来ただ?魔王様を倒しにきたんだがっ!」

「おや?メイスト殿から聞いておらんのか」

「え……」

「うひぃ~寒ぃー!」

 そこへ、更に来訪者があった。無精ひげを凍らせたロニーだった。

「あれっ!オーウェンさん?」

「おお、ロニー殿。遠路はるばる、ご苦労であったな」

「えっ、何でここに……うおっ!」

 ロニーの言葉を遮るように、目の前を馬が走り去っていった。オーウェンが乗ってきた馬ではない。今度は、暗い夜の色をした黒い馬だ。それが三頭いる。

 馬上には、馬と同じ色のローブに身を包んだ人物がいた。顔も見えない。ティティがわかるのは、手綱を握る彼らの肌の色だけだった。

――魔王様、一体何をする気だ……?

 不安にかられながらも、ティティはメイストに言われていた通り、全員を客間に案内した。人数分の茶を用意したが、口をつけたのはオーウェンとロニーだけで、ローブの三人はソファに座りもしなかった。

「全員揃ったか。待たせて悪い」

 メイストが客間にやってきた。彼の分まで茶の用意をすると、ティティは部屋を出て行こうとした。

「待て。……お前にも関係のある話だ。座れ」

「へ……」

 ティティの予感は、的中した。




 最終決戦。

 ここに彼らが集められたのは、“メイストを倒す打ち合わせ”のためだった。魔王を倒す勇者の戦いを、「最終決戦」といい、様々な慣習に倣う必要があるのだという。もちろん突発的に勇者が城を攻めることもあるが、大体はその時点で「最終決戦」の条件は揃っている。だが、メイストは確実を期すためにこのような場を設け――

 そんな話は、ティティにはどうでもよかった。

「なっ……なんだそれ!倒されるって、どういうことだ!」

「魔王っつーのは、ただ倒されるだけじゃダメなんだ。ひとつは、囚われている生贄がいる場合、それを救い出すこと。ふたつめは、魔王には勇者の手でトドメを刺すこと。みっつめは、それを語り継ぐ証人がいること。それが約束だ」

 興奮するティティに対し、メイストは冷静だった。その態度が、余計にティティを苛立たせた。

「おらが聞いているのは、そんなことでねえ!」

「あー、メイスト?俺もそんな話聞いてねえんだけど……」

「今話してるだろ」

「おらたちのこと、馬鹿にしてるだか!」

「ユースティティア殿、落ち着きなさい!」

 突然、大きな声で一喝したのはオーウェンだった。予想もしていなかった人物の言葉に、体が硬直した。

「……男が決めたことに、口を出すでない。メイスト殿は、人間を愛するが故に、この決断をしたのだ。私がメイスト殿を倒せば、相当の経験値が入る。さすれば、私は今よりも強くなり、デリランテを倒す大きな力となるだろう。メイスト殿は、それを見越していたのだ。彼は、ヒロイの都の民の行く末を、案じてくださったのだよ」

「だ、だども……」

ティティはうろたえた。メイストなら、考えそうなことだった。彼が人間を支配すると言っておきながら、守っているのはわかっていた。

「……本当、なんだが?魔王様……」

「ああ……」

 メイストは、ティティの顔を見なかった。そして、ティティの追いすがる視線を振り払うように、話を始めた。

「生贄と俺があんたに倒される件については、何の問題もない。あとは証人だが……」

「ああ、それなら心配はいらぬ。彼らは教会から派遣された、正統な魔導士だ。彼らで十分であろう」

 オーウェンは背後に立っていた三人の人物を見やった。

「……あんたも知ってると思うが、証人は人間側と魔王側に必要だ。でないと、公平じゃないからな。伝説は人間だけのものじゃねえ。魔王側の奴が全員、勇者に殺されたら、あとは勇者に好き放題にされちまうからな」

「メイスト殿……」オーウェンが不愉快そうに顔をしかめた。

「悪い。あんたを信用してないわけじゃないんだ。だが、あんたが〈真の勇者〉だった場合、俺は二度と復活できない。死に行く者の願いだと思って、聞き入れてくれ」

「ふむ……私がそのような大それた者であるかはわからぬが……よかろう」

〈真の勇者〉という言葉に、オーウェンが満更でもなさそうに顎を撫でた。「では、そちらは誰を証人とするのだ?」

「ロニーに任せる」

「はっ?お、俺かよ!」

 急に名指しされたロニーは、ソファから飛び起きた。

「これはまた面白い……魔王側の証人ならば、魔族が妥当であろう。彼は人間で、しかも勇者であるというのに」

「人間だが、こいつは俺の親友だ。信用できる。必ず、公平な証人になってくれる」

「メイスト……」

 二人のやりとりを、オーウェンは何かを確かめるようにじっと見つめていた。

「……そういうことなら、メイスト殿の意向に従うとしよう。……ロニー殿。しかと頼みましたぞ」

「いや、だけどよお……」

 ぼりぼりと頭をかきながら、ロニーはティティに視線をやる。

「ティティちゃんはどうなるんだよ。お前がいなくなったら、ひとりぼっちじゃねえか」

「それについては、心配は及ばぬ。ユースティティア殿は私のもとへと来てもらうことになるだろう。救われた生贄の行く末は、そうと相場が決まっておる」

「ティティには父親がいる。そいつのことも頼んでいいか」

「ああ。もちろんだとも。ユースティティア殿のお父上とあらば、私も大歓迎だ」

 ティティの頭上を通り過ぎて、話が進んでいく。泣き叫びたい気持ちと、呆然と無気力になっていたい気持ちの狭間で、ティティの唇から言葉が漏れた。

「……おら、オーウェン様にお仕えするのか?」

 メイストにどう思われていようと、自分がどうなろうと、ただひとつだけ……彼との繋がりを確認するための、言葉だった。

「まさか、とんでもない。ユースティティア殿さえよければ、私の妻として迎えたいのだが。勇者に救われた生贄は、そうなるのが自然であるからな」

「妻ァ!?」

 誰よりも反応が大きかったのは、ロニーだった。ティティはよろめいて、背後の柱にぶつかった。そのあと、頼りない足取りで客間を出ていった。

「おやおや。照れてしまったのだろうか」

 オーウェンが、参ったというポーズを取る。ロニーは何か言いたげにメイストを見ていたが、彼の表情を見て……口をつぐんでしまった。




 最終決戦の打ち合わせも終えて、オーウェンは下山した。

 ロニーは食事を取ったら、麓に村に帰ることになった。この男はこれだけの山を、毎回徒歩で登ってきている。今日も泊まっていけといったが、「ティティちゃんと積もる話もあるだろ~」と、今日は遠慮すると言った

 だが、ティティはずっと姿を現さなかった。話どころか、顔を出すことさえなかった。

「……ティティ?」

 寝室の前に立ち、メイストは呼びかけた。扉が開かない。この向こうにティティがいることは明白だった。ここはメイストの寝室なのだが、眠らない夜を過ごしていたため、訪れるのは久々だった。

――ここ、俺の部屋なんだけど。

 壊そうと思えば、壊せる扉だ。だが、それをしないのは扉がもったいないからとか、魔力を使いたくないからだとか……言い訳を並べる。

 ただ、ティティと顔を合わせても何を言えばいいのかわからない。

「魔王様……」

 消え入るような声に、メイストは振り向いた。目を真っ赤にしたモニクと、暗い表情のドラゴンがいた。

「……話は聞いてただろう?お前らも城を出て、自由に暮らせ。最終決戦のときには、ここも危なくなる」

「あたしたちに……どこに行けっていうのよ」

 モニクは搾り出すように言った。「あたしたち、ここ以外に居場所なんてないのに!そんなの、魔王様が一番知ってるでしょ!」

「そうだよ……どこで暮らせっていうのさ……」

「前から言ってるだろ。俺になにかあったらオヤジを頼れって。ここよりもよっぽどいい暮らしが出来る」

 メイストの言葉に、二人が激昂した。

「そういう意味じゃないわよ、バカぁ!」

「魔王様のバカー!」

 ドラゴンとモニクはそう履き捨てると、廊下を去っていった。入れ替わるように、様子を伺っていたロニーが顔を出す。

「誰も味方してくれねえ」

「当然だろ。大事な奴がいなくなるってわかって、冷静でいろっていうほうが無理だ」

「お前は冷静だ」

「なんの相談もなく、全部勝手に決めちまったお前のことなんじゃ大事じゃねえし~」ロニーは下唇をつきだしながら、本気なのか冗談なのかわからないことを言う。

「それに……別に、お前は死ぬわけじゃないからな。どうせ復活すんだろ」

「……お前も、あいつが〈真の勇者〉じゃないって思ってるクチかよ」

「ああ。俺はこれでも、長年勇者をやってるからなあ。いろんな奴を見てきた。だから、俺にはわかるんだ。あいつが〈真の勇者〉じゃないって。確かに、立派な奴かもしれねえけどよ。たぶんこういうのって……見た瞬間に感じると思うんだ。こいつになら全部任せていい、ってな。なーんて」

 ロニーは肩をすくめた。「百年後、待ってるぜ。お前を倒すのはこの俺だ」

「……お前、何歳まで生きる気だよ」

 その夜、書置きを残して、ティティとモニクとドラゴンが、城からいなくなった。

 最終決戦まで、あと半日――。

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