闇の底
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(だれ・・・・?)
(誰かが、オレを呼んでる。)
知らない声が、頭の中で響いている。いつごろからだっただろう。それすらもう、頭に靄がかかってしまったように、思い出せないのだ。
――――まーくん
――――まーくん どこにいるの? どうしたの?
(ああ・・・お母さんの言い方に似てる。もう、ほっといてよ)
――――もういいんだ もうがまんなんてしなくていいんだから
(お父さんかな? 違うんだ、我慢なんかじゃないんだ)
母親の台詞のような、父親の台詞のような。
でも、聞きなれない声。それでも優しくて、心強くて、無性に懐かしい。
(だれ・・・・?)
問いかけたところで、返事は帰ってこない。声は聞こえるけど、どうも会話はできないみたいだ。
――――ぼくを、まーくんの場所へ。誰か、おねがい・・・・!!!
祈りの声が何度も何度も聞こえるのだ。それに返事をしても、向こうにはきっと聞こえてはないんだろう。
そう。ここは心地いい。何も考えなくていい。海の底のように、無音で、自分は揺らめいているだけでいいんだ。
それなのに、たまに頭の中に、こうして声が聞こえてくるようになった。静かな水面に投石するように、胸の中がざわめく。
(どうして・・・・)
(どうして・・・・)
しばらくの間、声が響き、また聞こえなくなった。また静かに揺らめいていると、瞼がピクリと動いた。
ここにいるとき、何をしても開かなかった目が、開こうとしている。
うっすらと光が見えた。
(怖い)
でも、興味もあった。ここで目を開いたら、いったい何が見えるのだろう。初めてここへきた時から、ずっと不思議に思っていた。
でも目は開けないし、ここでは視力が使えないのだと思っていた。
鼓動が速くなる。
うっすらと開いた目に、鮮烈な光が飛び込んできた。
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