憧れの野宿はちょっぴり苦い思い出に。。
ー「今日は野宿だな…」アルフは暗くなり始めた空を見上げて呟いた。その言葉に私は目を輝かせた。おおっ!旅には、定番の野宿か!やってみたかったんだよねー。アルフはサッと指示を出した。「グレヴィリウス、木の枝を集めて来い。エヴァンは周囲の見張り。ラシェル、お前火の魔法は使えるな?」「もちろんですわ。」「ん。じゃあその準備をしてろ。食料は俺が取ってくる」そう言うなり、アルフは森へ消えていった。え?え?えぇ!?ちょ、ちょっと待って、わ、た、し、は!?私は急いで木に登っているエヴァンに声をかけた。「エヴァンエヴァンエヴァンエヴァン!!!」「なに?うるさいんだけど。」名前を連呼されたのがお気に召さなかったのか、不機嫌度マックスである。怖っ。「私はなにしたらいいの?」「はぁ?」眉間にシワ寄ってるよ!?怖いから!ね、怖いから!!エヴァンの前から速攻で消えたい。。でも、他に訊ける人がいないので我慢する。(グレヴィリウスは森に。ラシェルは何やら準備で忙しそうだから)君しかいないのだよ!と期待を込めてエヴァンを見つめる。「知らん。自分で考えれば?」な、なんだとぉっ!?「じゃ、僕忙しいから」そう言って、エヴァンは木に登ってしまった。…ポツン。私は何もしなかった場合どうなるか考えてみた。ー「本当に役立たずだな。」とアルフ。「魔獣の餌くらいしか、アホリアの使い道はないんだね。よぉぉっく分かったよ」ー70度の微笑みを浮かべるエヴァン。「あなたどうしてここにいるのかしら?」言外に役立たずだから、要らないと、蔑みの目で私をみるラシェル。「宇宙人」いやいやいやっ!グレヴィリウス意味不明だから!!ーーーゼッタイヤバイヨネッティー。。冷や汗がダラリと垂れた。何かできること何かできること、、、だぁーーーーーっ思いつかん!!ガシガシと頭をかく。前途多難だぁ、とうなだれる。しかし、そこは発想の女神アメリア。突然、ポンッと思いついちゃいました。そう!薪集めをすればいいじゃないか!集めすぎて困ることもないだろーしアルフもグレヴィリウスに頼んでたし!よし、そうと決まれば!と私は颯爽と森の中へ入っていった。ーのは良いものの、私はあることを忘れていた。もう何時間も歩き通しで疲労感半端ないということを。皆から離れた瞬間、それまでのハイテンションモードがピタリ止まった。あるのは、疲労感と何かせねばという焦燥感。だから、注意力が散漫になっていたのは仕方のないことだと言えるかもしれない。この時、遠くの方で私の名が呼ばれていた事に気づくことはなかった。ー「おいしょっと。これで、、、50本目。」そう呟きながら、枝を拾った。その時、ポキポキッと後ろで物音がしたがボーッとしていた私は気づかなかった。不意に襲ったのは、肩に広がる鈍い痛み。何かがツーっと背中を伝う。あまりの痛みにバラバラと私は拾っていた枝を落とした。ゆっくりと振り返れば、そこには私の肩に食らいつく獣の姿。またボス級の魔獣じゃん。私はヤケに冷静な頭でそんな事を考えた。ポコンっと力任せにソイツの頭を殴ってみる。ダメ元だったが、驚いたらしいその獣は思わずといった様子で私の肩を離した。その隙に、私はサッと足元に落ちている木の枝を拾うと、獣から全力で逃げた。後ろは振り向ない。追いかけてくるのを見たら、体が竦んで動かなくなりそうだったから。痛む肩を庇いながら必死に私は逃げた。暗闇には、獣たちの視線が無数にある気がして周りを見ずにただ前だけを見て私は逃げた。しかし、疲労感が私を襲い、足がもつれる。あっと思う間もなく私は木の根に足を取られ転んだ。グキッという嫌な音。どうやら足をひねったらしい。散々だな。なんて乾いた笑いを浮かべる。ヨロヨロと立ち上がった私の前で、ザッと地面を踏む音がした。顔を上げれば、そこにいたのは無数の獣たち。あぁ、終わったな。獣たちが飛びかかってくるのをみて私がそう思って目を閉じるのと、誰かの声が聞こえたのはほぼ同時だった。「アメリア!!」耳にしたのは何かが空を切り裂く音。襲ってくるはずの痛みがなくて、そっと目を開けると、そこにあったのは肩で息をしているアルフの姿ーーーと地面に崩れ落ちる獣たちの姿だった。アルフは刀をしまうと、私の方に振り返った。ヒェェェェエエッ!!怖いんですけど!?何でそんな恐ろしげな顔してんの!??「馬鹿か、お前。戦えもしねぇ癖に何で森なんか来たんだよ?」本当にソウデスネ。私も自分の馬鹿さ加減を思い知らされたところっス。オッソロシイ形相で私をみていたアルフは私が抱きしめている木の枝に目を留めた。「それ、なに?」「薪、だけど?あると便利じゃん?」アルフは、はぁーーっと深いため息をついて額に手を当てた。「本当…馬鹿」えぇ!?そこ普通けなす!?誉めるとこでしょっ!理不尽だ、とむくれていると、サッサとアルフは歩き出した。おいっ!待てやコラ!、、なんて言える筈もないので大人しくついていく。心なしかフラフラする。捻った足はズキズキ痛むし、肩はドクドクと血が流れる。予想以上に痛むぜ。痛みを紛らわせる為に私は喋り続けた。「そう言えば、グリフィーマートの肉まん新しくなったんだよー。しってた?」「………」「新作のわたあめは本当激うまだしー。あ、そうそうアルフはコンビニ何派?私は断然グリフィーマート派なんだけど。」「……」なんか喋ろよ!いたたまれん。「あ、でもでもオレゴンマートも好きだな」「……」相当お怒りらしい。はいはい。黙りますよ。黙ればいいんでしもろょ?……シーン。うっわぁ、気まずいっ!なんて思ってると、不意にアルフが振り向いた。「遅い」左様で御座いますか。私はひねった足をかばいながら、出来る限りスピードアップした。この鬼畜め…。ー「アメリアっ!」元の場所に戻ると、ラシェルに抱きつかれた。うわっ!そこ、もろ獣に食いつかれた所何ですけど!?ラシェルは不思議そうに顔を上げた。ソウダロウネ。だってそこ、血でグショグショだもん。「あら、何で濡れ、、、血!?」「「は!?」」仏頂面だったエヴァン、不機嫌そうだったアルフ、どこかホッとした顔をしていたグレヴィリウスは一斉に声を上げた。ラシェルが咎めるような目で、アルフをみる。アルフは驚きを隠せないようだった。「コイツ一言もそんな事言わなかった…ぞ」「別に大した傷じゃないし?それよりこれ、」平然とそう言って私はラシェルに木を押しつけた。「アメリア様が取ってきてあげたのだ!感謝したまえ!」私は満面の笑みで皆を見つめた。あ、やば。フラフラ、、する。血、流しすぎちゃったかな?私は笑顔のままバタンと倒れた。「アメリア!」薄れゆく意識の中皆がそう言って駆け寄ってくるのがぼんやり見えたのだった。