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  初めての乗馬

「え、乗れるの?」


どこでそんな経験したの? 

とぼくは不思議に思ってセイラに尋ねた。

だって、乗馬の経験なんて普通の高校生にあるわけないじゃないか。


「なんかおかしくない?」


イマイチ納得できなくて呟いてみるけれど、説明するつもりはないみたいで、セイラは追い打ちをかけるように


「で、どっちに乗る?」


と聞いてきた。

そうだ。自分で乗れないならどちらかと一緒に乗るしかない。

バランスのことを考えれば、セイラの方に乗せてもらうべきだろう。

しかしそれでは男としてのプライドが許さない。

それに……フェクトゥスなら何度も人を乗せた経験があるだろうけれど、セイラもそうだとは限らない。

いや、絶対に人を乗せて走ったことなんかないはずだ。せめてそう思いたい。


そして――後悔した。


「急げば明日の昼には着くから」


フェくトゥスはぼくが悲鳴をあげるのを、大声で笑いながらどんどんスピードを上げた。

ちょっと待ってとか、笑うなとか、あとは自分でもなんて言ったかわからないくらい大声で叫んだのに、全て彼の笑い声にかき消えた。

その後ろからセイラも……笑い声を上げながらついてきた。

ぜったい、一人で馬に乗れるようになってやる! 

ぼくは2人の笑い声を聞きながら誓った。


フェクトゥスのいう「俺の家」 と言うのは……大きな町の大きな城だったらしい。

ぼーっとその城の外郭を眺めながら「こういうのをお約束って言うんだよね」

長時間馬の上で叫んでいたからか、なんだかかすれ気味の声でぼくはつぶやいた。


「若、誰です? その子たち。また拾ってきたんですかい」


ぼくたちを連れたフェクトゥスに、城の入口に立っていた兵士が大声で尋ねた。


「拾ってきたなんてヤだなあ。スカウトだよスカウト」


その答えに兵士は値踏みするような視線を向けた後、いやちがうなと首をふった。


「ま、なんでもいいですが、世話を押し付けられるのだけはゴメンですよ」


ぼくたちは剣なんて持ったこともない。

人を殺したこともなければ、警戒心だってどうやって示せばいいのかわからない。

スキだらけって言われればその通りだから、「こんなのをスカウトしてきてどうする気だ? 口からでまかせに決まってる」

なんて、兵士はおおかた、そんなふうに思っているのに違いない。


そう思ったけれど、「魔法が使えるんだから役に立つはずなんだ!」 って訂正したからといって兵士の考えは変わるはずもないに決まってる。

だから黙ってフェクトゥスの後を追いかける。

そのまま城の中に入り大きな通路から逸れ、暗がりの階段を登る。


「これって今何階?」

「2階か3階くらい」

「あの人、僕たちをどこに連れてくつもりかな」


なんてセイラとコソコソ話しをしながら歩いていると、どうやら目的地に着いたらしいフェクトゥスが足を止めた。

派手というわけではないけれど、重厚感あふれる扉の向こうから小さな声がした。


「入れ」


ノックもしていないのによく外の気配がわかったものだ。

そして、分厚く重そうな扉が誰も触っていないのに、自動的にゆっくり内側に開く。


彼に続いて部屋に入ったところでぼくは気づいた。

扉は自動だったわけではなく、中にいた人が開けたのだった。

これが噂に聞く執事とかいうものなんだろうか?

そう思ってみていると、彼はおもむろに口を開いた。


「久しぶりだなフェクトゥス」


あれ、執事にしてはこの城の若君に対してフランク? 


「父上。只今戻りました」

「父? お父さん?」


扉を開けてくれたのはどうやら執事ではなくてフェクトゥスの父親だったみたいだ。

ぼくはびっくりしてちょっとだけ後ろに下がった。

えっと、貴族に対しての礼はどうすればいいんだろう?


「で? なんのようだ」


ぼくは慌てたけれど、彼は挨拶なんてどうでもいいみたいだ。

軽く頭を下げるだけのセイラに、満足気に頷いただけで礼儀がどうのと目くじら立てることもなかった。

だからぼくもそれにならって頭を下げた。


「新しい風に濁った水は合わなかったみたいです」


フェクトゥスはそんなぼくたちに構わず、わけのわからないことを言い始めた。


「ほぉ?」


なんだかわからないけれど、彼は楽しそうだ。


その後もフェクトゥスと彼はしばらく何事か話しをしていたけれど、それは小さすぎて聞こえなかった。

やがてドアをノックする音が聞こえ振り返る。


「失礼致します」


入ってきたのは揃いの服を着た男女。

男の方はぼくと同じくらいの背の高さだけれど、この世界の人は体が大きいので年は少し下かもしれない。

そして女のほうは――いや、あそこに目を向けたらダメだ――巨乳メイド、思わず頭にそんな言葉が浮かぶほどインパクトのある体型だった。


「君たちの世話をするイヴァンとジャニースだ。何かあったら彼らに言うといい」


フェクトゥスのお父さん――デュークトスさん――はそういうと、2人にぼくたちの案内をさせた。





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