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3、変化


「ふぅ、終わったか。さすがに疲れたぜ」


しばらくするとジュンが大剣を肩に担いでやってきた。

その剣は昨日、「丸腰では戦えないだろう」 と余っていたらしい大きな剣をユージンが投げて寄越したものだ。


「これで自分たちの身を守れってことなのかな」


まるで捨てるように放られた大きすぎる剣を持ち上げようとして私はすぐに手を離した。

――重い。


それもそのはずで、身長158cmの私とほぼ同じ長さなんだよ!私にはとてもじゃないけど使えない。


「これは俺が持つよ」


一番体が大きなジュンが仕方がないと肩をすくめてから拾った剣は彼にも重そうで、その時は両手で振るのがやっとに見えた。……なんだけど、一晩明けてその剣を今、ジュンは軽々と扱っていた。


「みんな、セイラ見つかったわよ」


自分の手柄のようにそういうマリンの声に、ケイはホッとした表情を浮かべた。


「やっと帰ってきた。どこで寝てたの?」

「えっと、ごめんね本当に」


まるでさっきまで寝ていたことを知っているかのような口調が、私の後ろめたさを増長する。


「まあ、一人でどこかに行ってないなら、よかったよ」

その場に腰を下ろし、はぁと息を吐いた。


同じようにみんなも腰を下ろした。

「なんか……疲れてるんだね」 って言うと、「朝からずっと戦い通しだったからね」 と答えが帰ってきた。

ちょこっと休憩して、朝からの疲れが少しとれたって感じのところでユージンに飲み物を渡されたカルムフレが機嫌よく言った。


「みんな強いんだね。最初は武器も持っていなかったから心配だったけど、助かったよ」


ケイ、ジュンはその声に「どーも」 と軽く頭を下げる。


「剣一本でどこまでやれるかと思ったが、生き残るとはな」

「うん、本当だよね。あの大剣を使いこなしてて、びっくりしたよ」


ユージンが鋭い眼差しをジュンに向けるが、カルムフレはそれを嫌味だと全く気づかずニコニコしている。


「しかしそれだけ強いと間者だという疑いが強くなるな。お前らの素性が分からない以上、俺はお前たちを信用しない。たとえ殿下がお許しになられたとしても必要以上に近づくな」


――いやな感じ。

マリンが、朝起きたらみんなが強くなっていたと言っていたけれど、それが返ってユージンの警戒心を煽ってしまったみたい。


「言われなくても近寄らないから安心しろよ」


ずっと睨みつけられるように見られていたジュンは、それに嫌気が差したらしくそんな捨てぜりふを残してテントへと戻って行った。

それに追随する形で私もその場を去ったけれど、マリンは相変わらずカルムフレにくっついている。

私たちに厳しい言葉を放ったユージンも、カルムフレが何も言わないのでマリンを追い払うことができないんだろうな。

楽しそうな彼女に舌打ちをすると、忌々しそうにその場を離れるユージンの姿を見て私はそんなことを思った。


しばらくそんな感じで休憩した後、甲冑の騎士たちの主導で朝と兼用の昼食を食べた。

その時も私たちはカルムフレたちとは少し距離を開けて座っていた。

だって、あまり近寄るとユージンがひどく睨みつけるのだ。あの忠誠心は関心するものなんだろうけれど、彼の警戒心が強すぎて疲れるわぁ。


「ところで、ジュンは力が増したって聞いたけどケイも何か変わったの?」


マリンはなにもないところから弓を引く仕草で矢を放っていたし、ウイング何とかって叫んでいたから……きっと風っぽい魔法が使えるようになったのだろう。

でも、ケイが何かするところは見てないんだよね。


「えっと、ぼくは土とか石を使って攻撃できるみたいなんだ。朝起きたら体の中に変な感覚があったけど、何故かそれの使い方を知ってた? って感じで……。ごめん。うまく説明できないや」

「うーん、そっか。なんとなくわかった」


魔女は約束通りうまくやってくれたみたいだ。

私が内心でほっと胸をなでおろしつつ曖昧にごまかそうと思っているとケイが小さな声で聞いてきた。


「ところであの人達、しばらくここにいるって言ってたけどなんでかな?」

「いや、知らん。そのへんのヤツに話し振ってみたけど相手にされなかったし、ぜんぜんワカンネ」


同じように小さな声でジュンが答える。




この世界にきてまだ1日。

私たちは最初、カルムフレたちと打ち解けて、少しは親しくなりたいと思っていた。

だけど今ではその気持は冷めてしまってた。

だって、魔女に用事のある彼らと、魔女に呼び出された私たちはお互いに協力したほうがいいと思うのに、彼らの態度があまりにもひどすぎるから。


まずムカつくのが騎士のプライドってやつだ。それから、貴族ってだけで周りを見下す選民思想。

軍隊とか王宮の階級なんてよくわからないけれど、カルムフレは皇太子殿下でユージンたちは近衛兵とかいうのだと思う。

そして平民だの、下賎な身分だのと見下した目で私たちを睨みつけていたから、全員が貴族だ。

この国には明確な身分制度があって、平民の立場は貴族に比べるととても弱い。

彼らがそんな態度で接してくるから、ジュンもケイも、相当ストレスが溜まっているみたい。

なぜなら日本でここまであからさまな身分差別をされた経験なんて、あるわけがないのだから。


「さっきだって、ちょっと敬語を忘れただけで身分が違うって殴られたんだぜ? 勘弁して欲しいよ」


上から目線でいちいち命令する甲冑の騎士たちに怒り心頭の様子でジュンが愚痴った。


「それにしても、本当にこんな所に魔女はいるのか?」


いつまでたっても森のなかから移動しようとしない彼らの様子にイライラしながらジュンは周りを見回す。


「魔女がいるとして、あの皇太子は何をしてもらうつもりなのかなあ。この国で一番エライ人の子供なんだから、何でも自分で叶えられそうだけど。もしかして魔王を退治してくださいとかだったりして?」


ジュンとは反対にケイは怒りを通り越してクスクス笑う。疲れすぎて、ちょっとおかしくなっちゃってる感じっなのかな。


「おいおい、それが本当だとしたら呼び出された俺らは勇者様かよ。なんかちょっと人より強い力もあるし?」

「でもそうだとしてもさ、彼らの助けなんかしたくないよね。ひどい扱いだし」


2人は助けてなんかやるものか! って言いたそうな顔でカルムフレのいる方向に冷たい目を向ける。

よく考えてみれば、いきなりこの場所に召喚されたってだけでケイとジュンは何も知らないんだもんね。

魔女が召喚なんかをした理由も、この国の現在の状態も。

それなのに、何の知識もないのに突然連れて来られた場所で蔑まれて睨まれるって意味わかんないし、彼らを恨むのも無理ないと思う。

よくあるファンタジー小説の勇者召喚なんかで連れて来られた人間には、たいていの場合その世界の情報と召喚の理由なんかが説明される。

だけど今回そういうのが一切ないんだから。

だからわけが分からなくて不安になるのは仕方ない。


「彼ら、魔女に皇兄とその勢力を倒してもらいたいんだよ。本当は」

「え……?」


いきなり説明しだした私に2人はおどろいて目を丸くした。当然だよね。

だってずっと一緒にいたのに、なんで私だけがそのことを知ってるんだって思うに決まってる。

本当は私もあんまり説明したりとか得意じゃない。

それに私の話を彼らが信じてくれるとは限らないし。

だけれど、2人のイライラや不安が少しでも解消されないと、ジュンなんて本当に暴走しそうだから。


話したことで、もしかしたら他にも何か隠しているんじゃないかって私は疑われるかもしれない。

ううん、きっと疑われる。

だって全部を説明するのは無理だから。

でも……2人がこれからどうするかは、今から私が説明することを知ってからでも遅くないって思うんだよね。


「なんて説明したらいいのか、分からないんだけど頭のなかにこの国の知識が……」


とちょっと首をかしげるとケイが身を乗り出すように聞いた。


「えっと、それってぼくたちが魔法使えたり怪力になったりしたみたいに、セイラには知識が身についたってこと?」


えっ。さっきは私の言葉に2人がおどろいたのだけれど、今度は私がケイの言葉におどろいた。

もっと疑われると思ってた。

だって私は彼らみたいに前々から一緒のクラスにいた友だちじゃないもの。

ただ、偶然今日という日に転校してきてしまったただのクラスメイトだ。

それなのに、疑うどころか戦うための力を得られなかった私に同情的な視線で


「ぼくたちは目に見える力だったけど、セイラは違うものに目覚めたのかもしれないね」 


なんてケイは軽く笑みを浮かべながら言ったのだから驚かずにはいられなかった。



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