2 part.2
五十嵐がアリスの教育係になってから、数日が経った。相変わらず事件に進展はないがまた新しい事件が起きてしまった。今度は渋谷区の『メレーヌ・ド・リュブレ』の一室で、若い女性の変死体が発見された。また、手首を縛られて、喉を切られ、目玉を取られた女の死体。現場に足を踏み入れた五十嵐は、思わず目をそむけた。苦しんで死んでいったにちがいない。目玉のない顔が、苦悶の表情を浮かべている。
「また殺人か…」
五十嵐は女の死体を見ながら言った。アリスは例のメッセージ・カードを見て頭をひねった。
「今度はなんだ?」
「『アリスを追うのは誰?』です」
また「不思議の国のアリス」か、と思った五十嵐は、ふと机の上を見た。
「そういえば、このティーセットっていうのか?これは何の意味があるんだ?」
前の現場にもティーセットがあったことを思い出した五十嵐は、アリスに聞いてみた。
「『アリス』の話では、3月ウサギ、帽子屋、眠りネズミがお茶会をするシーンが出てくるんです」
また帽子屋が関わっているということは、つまり物語に沿ってまた新しい殺人が起こるということか、と五十嵐はそんなことを考えた。
「しかし、前の死体の死亡推定時刻が午前3時ってなったんだが、これとお茶会は関係あるのか?」
疑問になったことを五十嵐に聞いてみた。
「3時とお茶会っていうのは英国では必ずと言っていいほどの楽しみのひとつなんです」
イギリスで過ごすアフタヌーン・ティーというのは、紅茶と共に楽しむ軽食のようなものだと、五十嵐はあとで知った。
「だから、それと事件は関係ないと思うんだが」
五十嵐は頭を悩ませた。