ドライブ(1)
どうして、こうなっているのかわからない。
伊瀬は助手席に埋もれたままぼやいた。
外はからっと晴れていて、どこまでも続くかに見える畑や牧草に色鮮やかな光沢を与え始めていた。今は朝5時。観光シーズンでもないので車もそれほど多くなく、スムーズに北へ北へと向かっている。向かいたくないのに。
久々にとれた2連休のはずだった。積んでいたゲームでもやろうか、それとも、2日ただただ寝て過ごそうか。本も読みたい、音楽も聴きたい。ともかく家から一歩も出る予定はなかったのだ。ああ、それなのに・・・。
「伊瀬さーん、のど渇いた。お茶取って下さーい。」
ハンドル握って前を向いたまま、二俣が飲み物を要求する。
そう、諸悪の根源はこいつ。徹夜明けでさぁ家に帰ろうというときに、ちょっと付き合って下さいときたもんだ。名寄に!芽久野に!!何時間かかると思ってんだ・・・名寄まで5時間弱だぞ!金がないから高速は使えんし。車はボロいし!
頭の中で文句を言いながら、伊瀬は膝の上のビニール袋を探った。この袋もずいぶん重い。いくら狭い車内とはいえ俺の上以外に置き場がないのがなける・・・。
「どれ、ウーロン?ほうじ茶?緑茶、黒豆、麦茶・・・ってどんだけ種類あるんだよっ」
「あー、今の気分は紅茶ですねー。赤いペットボトル・・・そう、ソレ下さい。伊瀬さんもどれか飲んで良いですよ。」
「気分で飲み分けかよ、優雅だな。」
飲み物も良いが、固形物がほしい。朝食どころか夜食を食べたのも6時間前なのだから。
さっきから眠気と空腹で苛立っているのが自分でも解る。
「・・・食い物は?腹減ってるんだけど。」
「やだな、あるわけないでしょ。オレ昨日から準備していたんですから。食い物あったら痛んじゃうじゃないですか、あはは。」彼は無邪気に笑った。
「それは出発前にコンビニ寄れよ。お前、人を――あ!セイコマ!――
…… だ か ら 止 ま れ や !!
オマ、何通り過ぎてんだよ、こっちは腹減ってるってっべや!あぁ?」
「伊瀬さん、眠くてイライラしてるんですね。いいっすよ?寝てて。着いたら起こしますから。」
軽くあしらうその声。
伊瀬はすぅっと脳が冷たくなった気がした。
「・・・麦茶を二俣君のズボンにかけたら、ちょっとは目が覚めるかな。面白くて笑えて目が覚めるかもな。…それとも・・・」
「い、いやー、そんなマジな声出して。いつもの冗談じゃないですか。サイドポケットにおにぎりありますよ。ね?」
伊瀬は無言でサイドポケットをまさぐった。
まったく、出発して40分でこの騒動である。伊瀬はこの先の長い道のりを思い、(色々攻撃方法を思い浮かべつつ)気を落ち着かせるため瞼をとじた。