09「どうやら魔王はぼっちだったようだ」
前回の三沢との爆発ネタは色々とおかしい点があるとは思いますが、そこは高校生特有の馬鹿なノリだったと思って軽く流してください。
あの勇者(笑)と魔王(笑)による第一回厨二サミットが繰り広げられてから数日が経過した。
あれから二人はなんやかんやで仲良くしているようで何度か二人で会っているようだ。
その度に何故か俺まで同席させられたが、第一回以降は比較的安全な話し合いとなった。
まあ、話し合いの度に命の危機に陥ってたらたまったもんじゃないが。
そんな生活の中、今日学校からあるモノが返された。
テストだ。
テストといっても中間テストや期末テストといった規模の大きいテストではない。
というか4月の始めからそんな規模のテストされたら涙目だ。
今回行われたのは一年の頃の確認テストで、実質的には小テストと変わらないモノ。
だが一年の頃の内容が疎かになっていると、これからの二年の内容がわかるはずがない。
ここで最低限の点数を取っておかなければ色々とキツいだろう。
「…………」
その事実を理解しているため、俺はどうしても目の前の現実を認められない。
―否、認めたくない。
俺の手にある一枚の紙から目が離せない。
教室には和気藹々と仲良さそうに会話している生徒達がいるが、それを無視してでも俺は叫びたい。
―間違ってる。こんなのは間違ってると。
「……一ノ瀬。そんな点数で大丈夫か?」
「問題ない。赤点だ」
「それは問題だろ」
冗談抜きで憐れみに満ちた視線を向けてくる三沢。
三沢の手にはまるで俺に見せつけるかのように赤く、大きく『96』と記されていた。
……俺がこのテストを二回受けても勝てないんだけど。
「世の中何も点数だけが全てじゃない。こんな紙キレ一枚で人間を評価しようなんておこがましいにも程がある。だから人は傲慢だとか慢心しているとか言われるんだ。勉強が出来ないからって人は不幸なのか?違うだろ。幸せとは個人の価値観であり、決して他人が決めるものでは……」
「現実逃避するのはかまわんが、その点数でそんな事言ってもただの負け犬の遠吠えだぞ」
……本当にこんな世界は間違ってると思う。
「間違ってるのは一ノ瀬の解答だろう」
「誰が上手い事を言えと言った」
今回のテストで赤点を取った者は放課後の無料補習が約束された。無論強制。
ただ補習を担当するのは各クラス担任と決まっているので、俺のクラスは美羽先生が担当することとなっている。
そのためクラスの一部の男子はわざと赤点を取った者もいたりする。
というか真面目にやって赤点を取る人間の方が少ないぐらいだ。
俺のクラスでテストを真面目に受けたくせに補習を受けるのは恐らく一人だけ。
誰かって?言うまでもないだろう。
てか言わせんな。
「やれやれ。そんなだから一ノ瀬は脳筋やら童貞やら言われるんだ」
「前者はともかく後者関係ないよね!?勉強出来る出来ない関係ないよね!?てか誰が言ってんだ!?」
「俺だ」
「お前かよ!?」
ただでさえ六限目まで授業を受けるというのに、そこから更に補習を受けなければならないとか鬼畜過ぎるだろ。
そもそも何で数学にXやらZとか英語が出てくるんだよ。
出しゃばるなよ英語。そこはアとかイでいいじゃん。座標Xとか求めてどーすんの?求めたら空間転移でも出来るの?ジャッ○メントにでもなれるの?黒翼とか出せるようになんの?
「……一ノ瀬は数学に何を期待しているんだ」
「こう、なんか科学とか魔術とかが交差するような展開を……」
「色々とアウトだぞソレ」
……色々と厳しくなったもんな。
何が厳しくなったかは言わないが。
「しかし、今回はまだ大丈夫だとして7月の中間試験もこの調子だとマズいぞ一ノ瀬」
「そんな未来なことを見据えるよりも、今目の前にある現実をしっかり見ていたい。僕はそう思いました」
「夏休みの作文?第一未来といっても後3ヶ月しかないぞ」
……どうやら俺の学校生活は誰かが難易度をハードに設定しているようだ。
少なくとも俺に全く優しさを見せない。
「妹の方は文武両道だというのに。ふむ、どうせなら妹さんに勉強を教えてもらったらどうだ?」
「兄が妹に勉強教わるとか情けなさすぎるだろうが」
「補習を受ける時点で今も充分情けないと思うがな」
本当にこの世界は俺に厳しいと思う。
「……ん?」
厳しい現実に嫌気がさしていると、八神が自分の席で解答用紙を見つめて溜め息を吐く姿が目に入った。
「なんだ、八神も俺の仲間か?」
「ひゃあっ!?」
気になった俺は背後からこっそりと気配遮断E(効果なし)を発動しながら近づき、八神の解答用紙を覗き見る。
そこには俺と大差ないマズい点数が記されていた。
「うわ……八神って隠れお馬鹿さんだったか」
「いや、八神は確か去年の学年順位は全て上位だったハズだぞ」
「はあ?でもこの点数は……」
もしこの点数で上位だというなら俺だって上位だ。
もちろんそんな事はありえないが。
「わ、私、わ枠を一つずつズラして書いちゃって……」
「……ベタだなぁ」
「ベッタベタだな」
今のご時世にそんなベタな間違いをする人間がいるとは。
まあ、八神なら不思議と納得出来る。
でも俺と違って勉強出来るのに補習に参加しなければならないってのは可哀想だな。
補習中も「はっ―!君達はこの程度の問題も理解出来ないのかね!」みたいに優越感に浸ってなければいけないのだから。
……あれ?なんかその立場羨ましくね?
「ぐっ……6月の体育祭では見てろよ。必ずや今回の汚名を挽回してやる」
「一ノ瀬までベタな間違いをするな。それより先程まで未来より今を見据えるとか抜かしていた奴が何6月の話をしているんだ」
「細かい事は気にすんな」
「「…………」」
三沢どころか八神まで俺に冷たい視線を向けてくる。最近そんな視線に慣れてきた自分が嫌だ。
「あら、妹と違って兄はあまり頭の出来はよくないのね」
「その話はもういいって。……ん?」
不意に今までとは違う、落ち着いた口調で話しかけられた。
嫌な予感がしつつ、俺は三沢と八神の顔を確認する。三沢は面白そうに首を横に振り、八神は八神で慌てながらも三沢と同じように首を振る。
更に八神は俺の背後を指差す。
嫌な予感がMAXになりつつも、俺はロボットのようなぎこちない動きで身体を回転させた。
「ご機嫌よう。調子はあまりよくないようね」
「……何でお前がいるんだよ」
嫌な予感は見事に的中。
俺の背後にはいつの間にか自称魔王(笑)の二階堂がいた。
クラスが違う上に、学年一の有名人の登場にクラスの連中は八神を筆頭に動揺しまくっている。
そもそも何で魔王(笑)さんがこの階にいるの?
魔王(笑)さんの拠点は三階だよね?
「私はお昼はいつも生徒会室にいるのよ。それで貴方のクラスは4階だったと思い出したから様子を見に来たってわけ」
そういえば生徒会室も4階にあった気がする。
まあ、場所を知ったところで生徒会室に行く予定なんてないんだけどな。
「でも、なんで昼間から生徒会室に?昼から働かないといけないくらい生徒会って忙しいのか?」
「うっ……」
何気ない俺の質問に二階堂はあからさまに気まずそうな顔をする。
……なんで?
「……教室でお弁当を食べようとすると、皆私を避けるように離れていくのよ」
「うわ……」
どうやら俺は訊いてはいけない事、パンドラの箱を開けてしまったようだ。
案の定、箱の中身は闇に満ちたものであった。
「ふむ。噂通り二階堂は高嶺の花で、クラスメイトだろうが話しかけづらいというわけか」
それってつまり周りに友達がいないって事なんじゃ……。
彼女は友達がいない。俺の知ってる小説よりひどい。
「ゆ、友人ぐらいいるわよ」
「どこに?」
明らかに強がった発言。
おそらく今脳内で友人を必死で検索しているんだろうが、中々ヒットしないようだ。
数秒黙ってから、二階堂は意を決したかのように口を開いた。
「ヘイ、マイフレンド!」
「キャラ変わってんぞ」
お嬢様口調からいきなりコレではギャップが激しいどころではない。
二階堂も自分の過ちに気付いたのか顔を真っ赤にして肩を震わせている。
慣れない事、てかキャラじゃないことするからだ。
「ま、まあ、俺でよければ友達だと思ってくれていいけど……」
「お断りするわ」
「マイフレンド!?」
照れながら提案したのに、二階堂にキッパリと断られた。
何故か裏切られた気分だ。
「馴れ合いなんて無用よ。わたしはずっと一人だったのだから」
「「「…………」」」
いきなりの二階堂のぼっち発言に空気が重くなった気がする。
勝手に会話に入ってきて勝手に空気を重くするとは流石魔王(笑)。
あまりの暴虐ぶりにお兄さんビックリです。
「……よかったらこれからは一緒にお昼食べるか?」
「えっ?……い、いいわよ!一人で食べるほうが気楽だし、自分のペースで食べるんだから」
一瞬、犬ならブンブンと尻尾を振ること間違いなしの嬉しそうな表情を見せた二階堂。
だが次の瞬間にハッとなり、すぐに顔を逸らした。
「あっそ。ならいいや」
「で、でも、貴方がどうしてもって言うなら考えないわけでも……」
「ツンデレ乙」
見事なまでにツンデレの定番台詞だった。
あいにくと俺にはツンデレ属性はないため効果はないが。
だから、まさかこのような展開になるとは俺には全く予想できなかった。
「わ、わかったわ。なら、こうしましょう。私が貴方に勉強を教える代わりに、これからお昼は私に付き合いなさい」
「……sneg?」
どうやら魔王の正体はただの寂しがり屋なウサギちゃんのようだ。
ていうか何で?
設定ミスで今まで感想はユーザーさんからのみにしてしまっていました。
制限をなくしましたので、よかったら感想、ついでに評価もお願いします。