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08「どうやら妹は魔王と再会したようだ」

 


ラブレター、という物に俺は秘かに憧れていた。もちろん送る側としてではなく貰う側として。


手渡しでもよし。ギャルゲーのように下駄箱に入れてあるのもよし。

とにかくラブレターを貰うことに俺はひどく憧れを抱いていた。


中学時代など毎日下駄箱に来るたびに胸をドキドキさせたほどだ。無論一通たりとも入ってたことはないんが。


だから、この高校生活2年目の春。下駄箱に可愛らしい便箋が入ってるのを見つけて俺は胸を高鳴らせた。


……差出人の名前を見るまでは。


手紙には放課後に体育館裏に来てほしいという願い。

そして、その手紙の最後に達筆とした文字で『二階堂紗那』と書かれていた。


……これラブレターじゃなくね?

どっちかっていうと呼び出しじゃね?ヤンキー的な意味での。

しかも呼び出し場所が体育館裏だし。まるで人目がない場所だし。


そもそも何で妹じゃなくて俺なの?

仮にも妄想の中とはいえ魔王(笑)なら勇者(笑)である妹を呼び出せよ。ノーマルな俺を巻き込まないでほしい。


「となれば、やはり再びアレの出番か」


「アレ?」


昨日の件と手紙の件について三沢に説明したら、昼休みである今、科学部の部室にへと拉致られた。

アレと言われると嫌な予感しかしない。


「『2ch』だ!」


「帰る」


振り返って部室から出ようとする俺を三沢が引き止める。


「おっと、動かない方がいいぞ一ノ瀬。既にお前の周りには酸化鉄とアルニウム粉末の混合物がバラ撒いてある。俺がこの手に持つマッチで点火すれば『ボンッ』だ」


「何してんのお前!?」


「はは、冗談だ」


「冗談にしては質が悪すぎるわ!?」


「せいぜい『ドカンッ!』ぐらいだ」


「そこが冗談なの!?」


心底愉快そうに笑う三沢。今更ながら友人を選び間違えたと思う。


「とにかく書き込んで損はあるまい」


俺の了承を得ずに三沢は文字を打ち込んでいく。


……損ないのか?主に妹の尊厳というものがパチンコ玉の勢いの如く失われている気がするのだが。


「そういや今スレはどんな様子なんだ?」


「今朝確認した時点ではそろそろ400を超えそうだ」


「そ、それって結構凄いんじゃないか?」


「うむ。そのうち二つ目のスレを立てる必要があるかもしれんな」


『俺の妹が厨二病を患ったようだvol2』ComingSoon。

……なんか大事になってきたな。


「と言っても内容は参考にならん。主に『妹たん、はぁはぁ』や『ちょっと妹たんのパーティーに加わってくるお(`・ω・´)/』。後は『ウチの愛娘もこないだ退院してから同じ症状なんだけどw』とかくだらない内容ばかりだ」


「どーでもいいがお前が『妹たん』とか言うと虫酸が走るな」


「おにいたん?」


瞬間に先程回収しておいた酸化鉄とアルニウム粉末の混合物を三沢に向かってブチ撒けた俺は悪くない。


「甘いな一ノ瀬。お前がコレを回収した時に既に中和してある。現役科学部員である俺をあまり見縊るなよ」


「部活の中で最強なのは運動部とかじゃなくて科学部じゃないかと思えてきた……」


一度見てみたい気がする。総合格闘技的なノリで全ての部活がどの部活が最強か決める戦いを。

剣道部なら竹刀、軽音部ならギターやらスティックの直接攻撃や音での攻撃。パソコン部ならネットから攻めるとか、科学部なら薬品使っての爆破みたいな感じで。


俺?俺は帰宅部だから戦いが始まった瞬間に帰宅するよ。いざというときは勇者(笑)である妹でも盾にすればいいし。


「おっと、早速新しい書き込みがされたようだ」


「相変わらず仕事早いなオイ」


スクロールされていく画面を覗きこむ。その際に三沢が新しく書き込んだモノも見えた。


『学年一の美女が魔王だった件について』

……いや、まあ間違えてはいないけどさ。


もう書き込んだしまってあるんだから仕方ない。

俺はその書き込みに対して書かれた2ちゃんねらーの反応を―


『魔王っ子キタ――――――ッ!!』

『ちょっと魔王様に踏まれてくるお』

『世界の半分やるから魔王をください』


「「…………」」


相変わらずの2ちゃんねらー達だった。



◆◆◆◆◆◆



 放課後。俺は手紙で指定された場所である体育館裏に来ていた。


あれから考えてみたが、今日逃げ出したとしても二階堂とは同じ学校にいるのだから、いずれは捕まる。それなら潔く顔を出した方がいいだろう。


「あら、待たせてしまったかしら?」


覚悟を決めていると、二階堂が現れた。

二階堂が現れただけで、辛気臭い体育館裏が一気に優雅で華やかな場所へとBeforeAfterした気がする。


「で、何の用?伝言なら伝えたし、妹と違って俺は勇者(笑)でも何でもないただの一般人なんだけど」


俺がそう言うと、二階堂は人気がないというのに、なり警戒した様子で周りを見渡す。

周りに誰もいないと確認した二階堂はホッと安心してから、俺に傘を差し出してきた。


…………傘?


「昨日はありがとう。おかげで濡れずにすんだわ。一方的に押し付けて一人でどこかに消えたのはどうかと思うけど」


「あ、ああ、悪い。に、にしても傘を返すぐらいだったなら、わざわざ体育館裏に呼ばなくても直接教室に来れば……」


「だ、だって」


二階堂は少し俯いて視線を俺からそらし、頬を赤くしてモジモジと恥ずかしそうに言った。


「お、男の子に傘を返す所を誰かに見られたら、変に勘繰られるかもしれないじゃない」


……学年一の美女、二階堂紗那の意外な一面を発見した気がする。

アレか?お嬢様なだけあって箱入り娘で男に免疫がないとかか?


……萌えるじゃないか。


「そんなのに需要はないんだよ、お兄ちゃん!!今世間が求めているのは妹モノ。つまりは私なんだよ!」


「のわぁっ!?」


「アナタは……」


いきなり背後から妹の大声が聞こえたため、驚いて跳ね上がる。二階堂は妹の姿を見て目を見開いている。


「教室にいないから気配を探ってみたら、体育館裏なんかにいるからおかしいと思ったよ」


気配を探ってって、俺の妹はリアルZ戦士だったりするの?

というか、それ俺のプライベート無視だよね?


「お兄ちゃんをどうするつもり魔王?お兄ちゃんに手を出そうなんてしたら―」


「―安心しなさい勇者。私はアナタの兄に……いえ、アナタにだって手を出すつもりはないわ」


どうやら俺を放置して二人で自分達の世界にへと入っていたようだ。

勇者とか魔王って呼びあっているこの時点でかなり痛々しい。


「……どういうこと?」


「どうもこうもないわ。この世界には武器も魔法もない。魔法で強化すら出来ない私達はただのひ弱な女子高生なのよ」


「確かに魔素がないこの世界じゃ魔法は使えないし、私の剣もない。けど、あの世界で培った経験、剣を振るったあの経験があれば例えその傘であろうと、私は一騎当千の働きをするよ。それは魔王であるアナタも一緒でしょ?」


「ふっ、違いないわね」


……どうやら無駄に壮大で凝った設定で繰り広げられているようだ。

しかし、俺としてはそろそろ見ていて痛々しいレベルが臨界点を突破しそうだから自重してほしい。


「けれどもアナタは知りたくないの?何故私達が勇者と魔王に選ばれ、何故あのタイミングでこの世界に戻ってきたのか」


「それは……」


……そろそろ帰ってもいいかな俺。昔の古傷がグシュグシュと抉られてる気がするんだ。


「まず、あちらの世界とこちらの世界では時間の流れが違う。これは理解しているわね?」


「うん。私は向こうに1年半近くいたけど、こっちじゃたった3日しか経ってなかった」


「ええ。私は向こうに5年いたけれど、こちらでは2週間程度しか経ってなかったわ」


「5年!?」


あまりの年数に妹が驚く。それに対し俺はあまりにもいき過ぎた妄言の数々に呆れ出してきた。


「何故私があの世界に行き、魔王として選ばれたかは分からないわ。けれど、私が魔王をしていた理由はあるわ」


「魔王をしていた……理由?」


「闇の民達の存在を脅かす光の民、その先導である勇者を倒せば元の世界に戻れる。私があの世界に来た瞬間そう言われたわ」


「なっ―!?ま、待って!存在を脅かしていたのは闇の民の方でしょ!?私はその闇の民を統べる魔王を倒せば元の世界に戻れるって言われたから……!?」


「……どうやらその時点でお互いに矛盾があるようね」


本格的に話についていけなくなった。

お前ら無駄に話のスケールを大きくしすぎなんだよ。


「互いにどんな理由があれ、私達は勇者と魔王として戦った。そして、最後の私の城での戦いの時―」


「なんらかの理由で二人とも元の世界に戻った」


「その理由を確かめようにも、私達にはあの世界に行く術がない。あちらも私達が消えてからもう2・3年は経っているだろうから、果たして世界はどうなっているのやら」


暇だし円周率でも数えておくか。

3,14……うん、円周率なんてπで覚えとけばいいんだよπで。

やはり数えるべきは素数……アレ?1って素数だっけ?


「ねえ、貴方は―」


「お兄ちゃんはどう思う?」


「え?」


何でここで俺に訊くの?

俺って関係ないよ。君達は俺にどんな答えを期待してるの?


……しかしながら、ここで完璧な返答をしたら二人は目を覚ますのではないだろうか?

二人の話を頭ごなしに否定するでもなく、かと言って更に悪化させない答えを――!


「いいかい二人共。パソコンでも携帯でもいいからこのサイトに登録するんだ」


「「は?」」


「このサイトは『小説家にNA☆RE』っていってな、年齢性別内容関係なく自分の妄そ……小説を受け入れてくれるサイトなんだ。もちろん最初は批判もあるだろうし馬鹿にされるかもしれない。厨二乙wとか言われるかもしれない。けど大丈夫。二人の想いが本物で努力すればきっとそれに応えてくれる読者が―」


話し終える前に、顎と腹に尋常じゃない衝撃が当たった。

意識が薄れていく中で、俺が最後に見た光景は、拳を突き出している妹と、足を高く蹴りあげている二階堂の姿だった。


「み、水色ストライプ……だと……ガクッ」


どうやら俺では勇者と魔王を相手するには荷が重いようだ。


おふくろ「……どうしたの?珍しくパソコンなんて使って?」

親父「ちょっと面白いスレを見つけたんだw」

おふくろ「ふーん……」

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