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07「どうやら患者は妹1人ではないようだ」



「やっぱり狭いものね」


相合傘なんて妄想か黒板、もしくはゲームの中でしかない存在だと思っていた。


1つの傘を2人で使う。それを学園で一番の美女と呼ばれる女性と。

これがいかに凄まじい事か考えてみてくれ。


狭い傘の中、雨に濡れないように互いに身体を寄せ合う。

歩く度に肩が触れ合う時なんて心拍数が上がり過ぎて心臓が爆発してしまいそうになるほどだ。


更に、ふと視線を横に目を向けてみたら三沢だなんてオチはなく、間違いなく“あの”二階堂の顔が間近にある。

黒曜石のような、艶のある腰まで届く漆黒の髪。腰まで届くその髪からは、なびくたびにラベンダーのような甘い香りがする。

ラベンダーがどんな香りなのかは実際知らんが。


それだけでノックアウト寸前だというのに、目の前には人形のように端正な顔があるのだから、俺としてはたまったもんじゃない。

デンプシーロールを全てコークスクリューでもらった気分だ。


というか何なのこれ?

なんで俺は二階堂のご令嬢と相合傘で帰ってるの?あり得ないでしょ。これ俺の妄想じゃない?

ついに俺の『妄想を現実に変える力』が発現したとか。妄想ならば胸を揉んでも問題ないよね?


「あ痛たたたたたたたたたたたたたた!?」


「……いきなり私の胸を揉むとはいい度胸じゃない。いっぺん死んでみる?」


「潰れる!このままじゃ俺の顔がプチトマトみたいにクシャって潰れちゃう!放送禁止で18歳以下はお断りな事になっちゃうから!!」


「次やったら潰すからね」


俺の顔面を掌で鷲掴む―

俗に言うアイアンクローで俺の身体を持ち上げた二階堂は、不吉な言葉を残してようやく解放してくれた。


だが、これで今の状況が妄想ではなく現実だという事が理解出来たので成果はあった。

……その代償に二階堂の俺を見る目が汚物を見るような目になってしまったが。


まあ、二階堂のその冷たい視線はまるで女王様のようで、中々そそるものがあるから良としよう。


「……で、私に何か一言言うべきなんじゃないかしら?」


「あっと、そうだな。……オホン。二階堂、意外と着痩せするタイp「遺言はそれでいいかしら?」…………さーせん」


俺の傘に入れてやってるんだから、お礼として胸の一揉みや二揉みは許すべき。むしろ喜んで差し出すべきではないだろうか?

それを言ったら今度こそこの世からログアウトしそうだから黙っておくが。


「……あの妹が妹なら、兄も兄ね」


「あれ?妹の事知って……って、そっか」


昨日のスピーチで妹の存在は全校生徒に知れ渡ったからな。それに生徒会役員として同じ壇上にいたであろう二階堂なら知っててもおかしくないな。


「ええ。貴方の妹さんについては誰よりも知っているつもりよ」


「もしかして妹の友人だったりする?」


「友人?……フフ。私とあの子の関係はそんな生易しい関係じゃないわ」


生易しい関係じゃない?

つまりは友人以上って事なのか?

まさかYURI的な関係って事は……ごくり。


「妹さんに伝えてもらえるかしら?」


「は、はいっ!?誰も目の保養だなんてことはこれっぽっちも!?」


「……何言ってるの?」


二階堂の中で俺のイメージが変態から意味不明な変態にランクアップした気がした。この場合はランクダウンかもしれないが。


「で、何て伝えれば?」


「ええ。貴方の妹さん―いいえ」


二階堂は立ち止まり、狭い傘の中で身体を俺の正面へと向き直した。

そして、次の一言が俺の中での二階堂のイメージを粉々までに崩壊させた。


「『勇者』に伝えなさい。私は、『魔王』はまだ生きていると」



…………世界中の時が止まった気がした。あまりの発言のために俺の脳は今の言葉の意味を理解出来ないでいる。


「…………ちょっとごめん」


なんとか最低限の内容を察した俺はとりあえずポケットから携帯を取り出す。そこから電話帳を開き、ある番号へと電話をかけた。

電話の相手はほんのワンコールで出た。


『もしもし?どしたの、お兄ちゃん?』


「……アキ。まだ学校にいるか?」


『うん。仕事終わって今から出ようとしてるところだけど』


「なら待ってろ。すぐに向かうから」


『下校イベントキタ――――!?いつの間にフラグ建てたっけ私!?ど、どどどうしよ!?私今日勝負下着じゃn』


アキが何か言い終える前に俺は電話を切る。

ポケットに携帯を戻した俺は手に持った傘を二階堂にへと渡す。


「そういう事だからこれ使って」


「え?ちょ、これ何よ?そういう事ってどういう事?その前に色々とリアクションしてくれないと私ただの痛い子なのだけれども」


「本当にごめん。妹の悪ふざけに付き合わせて。妹にはキツく言っとくから」


雨に濡れようが俺は二階堂に90度の角度で謝り、振り返って学校にへと急いで戻った。

その背後から「ちょっと待ちなさいよ――――!」と二階堂の叫び声が聞こえたが、俺は一度も振り返る事なく走り続けた。



◆◆◆◆◆◆



「アキ―――――!!」


「お、おおおお兄ちゃん!私はいつでも大人の階段を登る準備は出来てるよ……って、ぐしょぐしょ!?あっ、もちろん私じゃなくてお兄ちゃんの事だよ!?」


「はあ……はあ……はあ……」


色々とツッコミたい所があるが、まずは息を整える事を優先させる。

息が整ったのを確認してから、俺はアキの胸ぐらに掴み掛かる。


「この愚妹が―――――――!!!」


「ええええっ!?な、なんなのいきなり!?DV!?DVなの!?」


どんだけV(ゔぁか)なんだよお前!?」


「DVだ!?」


下駄箱の前で騒いでいたら、まだ下校していなかった生徒達が何事かとぞろぞろ集まってきたので、俺は内心舌打ちをしながら空き教室へと場所を移した。


「放課後の教室に二人っきり……この状況はまさか18禁イベント!?くっ、何故今日私は勝負下着じゃないの!?」


「…………」


「し、締まってる!?首締まってるよお兄ちゃん!?このままじゃ私の首がポッ○ーみたいに折れちゃって未成年は断固お断りな展開になっちゃうって!?」


「…………」


「タップ!タップ!タッ――――プ!!」


……仕方なしに妹を解放する。そのリアクションにどこか覚えがあるのは俺の気のせいだと信じたい。


「ゆ、勇者の私にここまでダメージを与えるなんて流石お兄ちゃん……。お兄ちゃんには『チートな兄』略して『チィにい』の称号を進呈するよ」


「いらん」


相変わらずの妹の妄言を俺は一刀両断して今まで溜め込んだ言葉を爆発させる。


「お前はなに二階堂を巻き込んでんだ!?アレは頼むから家庭内だけにしてくれよ!」


「に、二階堂って誰!?その前にアレって何!?」


「お前の厨二病の事じゃ―――!!」


「にゃあ―――――!?」


いつまでもとぼける妹に腹が立って、両肩を掴んで激しくシェイクする。


「他人の家の子、挙げ句の果てにあの二階堂家のご令嬢に病気を伝染させるなんて何考えてんだ!?日本を背負ってる二階堂グループの後継者が厨二だったら日本終わるからね!?第一次厨二ショック起きちゃうからね!?」


「日本オワタww」


「言ってる場合か!?」


危機感がまるでない妹。己が招いた状況をまるで理解していないようだ。


「異議ありだよ!」


「却下!」


「話が進まないから却下しないで!?」


バンッ!と赤いテロップで表示されそうな言葉を言った妹をまたしても一刀両断した。俺は言い訳なんぞ聞きたくない。


「もー!そもそも私は二階堂さんとは話すどころか会ったことすらないもん!」


「はあ?お前が誰かに話してないのにどうやって二階堂が知ったんだよ?」


「私はお兄ちゃんやお母さん達だから信頼して話したんだよ!見ず知らずの人にそんなカミングアウトするわけないじゃん!」


……あまりにも真っ直ぐな妹の言葉に思わず照れてしまう。

コイツは昔から何気なく恥ずかしい事を平然と言ってくるから困るんだ。


「じゃ、じゃあ何か?二階堂の爆弾発言は偶然にもお前の妄言と一致したってことか?」


「だから妄言なんかじゃないもん!」


まさか今時のJKの中で厨二病、特に勇者ごっこが流行ってるのか?

制服姿のJKが下校中に傘とかを聖剣だとか言って振り回す……うん、見ていて痛々しいな。


「というより爆弾発言って、その二階堂さんって人は何て言ってたの?」


「ああ、なんかお前に伝えたい事があるんだって」


「私に?」


「確か……『勇者に伝えなさい。私は、魔王はまだ生きている』だっけか」


「っ――!?」


妹の目が大きく見開かれる。その目は信じられないとでも訴えてるようだ。

まあ、確かに自分以外にもそんな重症患者がいるとは思いもしなかっただろうからな。仕方ないか。


しかし、二人が知り合いだろうがなかろうが一度会ってほしいな。二階堂には悪いが、人の振り見て我が振り直せというし、これを機に妹の症状が治ればいいと思う。

他人の厨二発言ほど見ていて痛々しいものはないからな。


「その話が本当なら私は二階堂さん……魔王と決着をつけなきゃいけない」


「がんば」


「素っ気ない!?」


まさかこれが妹の症状を悪化させることになるなんて今の俺には知るよしもなかった……って、このオチ多くね?



親父「忘れてるね!?まだ2話でしか出番がないからって!?」

おふくろ「だって需要がないんだもの」

親父「(´・ω・`)」

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