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05「どうやら妹は待ちきれなかったようだ」


学校生活において何の部活にも所属していない俺には縁がない場所だと思っていた。きっとこれからも縁がないまま卒業すると思っていたのだが、まさか新学期初日の放課後から部室棟に向かうことになるとは。


「そういや三沢って何の部活に入ってんだ?」


「む?一ノ瀬には教えてはいなかったか?」


「さあ?教えてもらってたとしても興味ないから忘れただけかもな」


この学園の部活動は中高合同で行われる。つまりは中学一年から部活に入っていれば六年間も同じ部活にいる計算になる。中でも野球部や軽音部は人数が100人を超えているらしい。


「これを見ればわかろう」


そう言って三沢は部室棟の中のとある部屋の前に止まる。俺は扉に付いているネームプレートに目をやると、そこにはこう記されていた。


「……科学部?」


「うむ」


正直予想外だった。俺の予想としては、三沢の性格からして新聞部やPC部かと思っていたから。誰かの秘密を暴いて「ふはは、スクープだ!」って言ったり、PCを使って情報を集めているものだと。


「馬鹿言うな。相手の有益な情報を手に入れたなら、いざというときまで弱味として握っておくのが普通だろう。わざわざ周りに公表して何の得がある。それにパソコンで情報を集めるのは自宅で充分だ」


「そうだ……お前はそういう奴だった……」


しかしながら、三沢が科学部ってのは意外と似合うかもしれん。暗い部室で試験管の中身を混ぜて劇薬など作ってそうだし。


「…………」


「ん?どうかしたか?」


「……いや、なんでもない」


急に部室に入るのが怖くなった。科学部=爆発みたいな法則があるし。いや、あれはアニメや漫画の世界だけで現実に起こるハズはないとわかってはいるのだが、三沢の事を考えるとどうしてもその可能性を否定出来ない。


「では入るぞ」


「えっ、ちょっ、まだ心のスタンバイが―――――あれ?」


恐る恐る部屋の中を見てみると、そこはイメージしていた人体模型や試験管などはなく、パソコンやプリンタなどの機械類が置いてあった。見た感じは安全そうだ。


「……危険な薬とかはないんだな」


「危険な薬をそこら辺に放置出来るわけなかろう」


「……あるにはあるんだ」


「ははん」


「不気味に笑うな!?不安になるから!」


そのまま三沢は椅子に座ってパソコンを立ち上げる。パソコンの知識はまるでない俺だが、学校で使われているパソコンよりは新しく高性能のように見える。


「で、お前は何をしているんだ?」


「まあ、待て……よし、完了だ」


三沢は素早くキーボードを動かすと、パソコンを反転させ画面を俺に向けた。


「餅は餅屋と言うだろ。ならば一ノ瀬の妹の症状について、それに詳しい者達に訊くのが得策だ」


「どういう意味だ……げっ!?」


不信に思いながらも俺は画面に目をやる。とにかく一番最初に目に言ったのが、画面上中央に大きく表示されている文字だった。


『目を覚ました妹は厨二病を患ったようだ』


画面には妹のプロフィールや特徴などは流石に書かれてはいないが、妹が頭を強く打って三日間意識がなかったことや、目覚めてからの妹の言動について俺が三沢に話した内容が書かれていた。俗に言うスレが立っている状態だ。


「お、おまっ……これ何だよ?」


「日本最大の電子掲示板サイト。通称『2chにちゃんねる』だ」


「そうじゃなくて!何で2ch!?」


「2chを利用している2ちゃんねらーの殆んどが厨二病患者か元患者だろう。そんな彼らならば対処法の一つや二つは思いつくハズだ」


「謝れ!画面の向こうの2ちゃんねらーの人達に今すぐ土下座で!!」


平然と大多数の人間に喧嘩を売る三沢。そこに痺れもしないし憧れもしない。


「けど、大丈夫なのか?正直不安しかないんだが……」


「一ノ瀬は知らぬというのか。2chに秘められた無限の可能性を!」


「なんやかんやでお前も厨二くさいよな」


俺の周りってこんなんばっか。類友?一緒にしないでくれ。俺はもう卒業したんだから。


「かの有名な列車男とエルメスちゃんの事を忘れたか!?あのTバックをくれたエルメスちゃんのハートをゲット出来たのも2chがあってのことだぞ!?」


「ティーカップな!Tバックだったらエルメスちゃんただの痴女だからね!?」


「そんなことは今問題ではないのだ!」


「大問題だわ!?」


これ以上ツッコミ続けては話が進まないので、とりあえずは三沢の案を見守ることにする。


「ふむ、どうやらさっそく書き込みがきたぞ」


「へぇ、何て書いてあるんだ?」


二人で画面に覗きこむ。そこには三件ほど既に書き込まれていた。2ちゃんねらー仕事早ぇなオイ。


『あなたが厨二です』


『妹はぁはぁ……』


『妄想乙』


「「…………」」


どうやら列車男のようにドラマチックな展開にはならないようだ。



◆◆◆



「……とんだ無駄足だったな」


1人寂しく下駄箱で靴を履き替える俺。なんでも三沢はまだ用事が残ってるとの事で学校に残るらしい。

……ついでに伝えておくと、あのスレは作った以上は作った本人である三沢が引き続き管理する事となった。


「おーい、おにーちゃ―――んっ!!」


「は?」


校門に向かって歩いていると、校門の前に私服姿の妹がこちらに勢いよく手を振ってる姿が見えた。

えっ?何でいるの?


「私が送ったからよ」


「ぬわっ!?」


「ちゃお」


呆気に取られていると、あまりにも突然におふくろが現れた。

おふくろは黒のジャケットに黒のジーパン。腕には黒のヘルメットを抱えており、全身黒一色の格好だ。よく見てみると、校門の端にはおふくろの愛車であるNinja250がその存在感を惜しみなくアピールしてた。

……学校になんちゅーもんで来てるんだよ。リムジンで送り迎えしてもらう生徒はいても、流石にバイクはいないぞ。


「……おふくろ。仕事はどうした?」


「買い出しの途中にアキを送っただけだから心配ないわ」


……そもそも今日学校が休みの妹が何故学校に来る必要があるんだ。


「愚問だよ、お兄ちゃん!家にいたらお父さんに仕事を手伝わされそう・・じゃなくて、お兄ちゃんに一刻でも早く会いたかったんだよ!」


「愚妹だよ、お前は」


「馬鹿なっ!?」


本音が9割以上ダダ漏れじゃねーか。

……まあ、それでも来てくれたのは多少嬉しいが。


「私は商店街で買い物してから帰るわ」


「あっ、うん。ありがとーお母さん」


おふくろはヘルメットを被り、バイクに跨る。何度見ても、この黒づくめの銀行強盗のような格好をしている人間が自分の母だと信じたくない。


「ナツ」


「なに?」


「私は私の覇道を疾走し、蹂躙するわ」


「会話に脈絡がなさすぎるわ!?」


「あでゅー」


宣言通りにバイクで疾走してどんどんその姿を小さくしていくおふくろ。

……蹂躙してるのかはわからんが。


「じゃあ帰ろ、お兄ちゃん」


呆れ半分におふくろを見送ると、妹が俺の手を掴んできた。


「お、おい、やめろよバカ。誰かに見られたらどうすんだよ?」


「大丈夫だよ。お兄ちゃんと私のラブ度は周知の事実なんだから」


「初耳なんだけど!?第一兄弟で手なんか繋ぐなよ!?」


「違うよー。兄弟だからこそ繋ぐんだよ。でもお兄ちゃんがどうしてもって言うなら……えいっ!」


手を離したかと思ったら今度は俺の腕を両手で抱えだした。小さいながらも確かに存在する2つの弾力に一瞬たじろぐが、俺の腕を幸せそうに抱えている妹の顔を見たらどうでもよくなった。


「はあ……もう好きにしろよ」


「にゅふふー。だからお兄ちゃん好きー」


すりすりと、まるで猫のように俺の腕に頬ずりをする妹。こんな甘えん坊が明日から高校生だと思うとかなり不安になってくる。ただでさえ不安要素が他にあるというのに……。


「……アキ」


「んー?」


「学校ではあんま変な発言すんなよ」


中学では許された事は高校では許されない事もある。それにちょっとした発言が周りと壁を作ってしまう事もある。そうなってしまってはせっかくの輝かしい学校生活は一気に輝きを失ってしまうだろう。兄としては妹にはそんな学校生活は送ってほしくない。


「変な発言?」


「アレだよ。厨二病発g「厨二じゃないもんっ!」……じゃあ世迷い言」


「どっちにしろ酷い!?」


とにかく目立たなければそれでいい。そう思っていた。

…………そう思っていたのに翌日—


『それでは新入生を代表して一ノ瀬秋奈さん、お願いします』


「あー……マイテスマイテス。本日は晴天なり……こほんっ。えっと、2年の一ノ瀬 夏樹の妹の一ノ瀬 秋奈です。好きなモノはお兄ちゃん。好きな言葉は背徳感。ふつつか者ですが、新入生代表としてー」


新しい制服を着た妹が壇上のマイクを使って馬鹿げたスピーチをしてるなんて誰が予想出来た?

あまりのもブッ飛んだ妹のスピーチに生徒どころか教師達まで呆気にとられている。


「ふむ、流石は一ノ瀬の妹。入学早々から学校中の注目を集めるとは」


「……誰かこれが夢だと言ってくれ」


「残念ながらこれは現実リアルだ」


頬を抓る。痛い。……痛ければよかった。


「……間違いなくアキだけじゃなく、俺もこの後呼び出されるよな?」


「だろうな」


「……俺、どうすればいいかな」


「笑えばいいと思うぞ」


「は、ははは……」


どうやら俺のー

いや、俺と妹の新しい学校生活は波乱の幕開けとなったようだ。



12位の不幸はまだまだ続きます。

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