04「どうやら妹の出番はないようだ」
この作品に出てくるキャラの性格は全員私の趣味だったりします(キリッ
「えー……であるからにして、皆さんは青南学園の生徒だという事を常日頃から意識し、誇りに思いながら―」
どの時代、どの場所においても校長先生の話が長いのは何故だろうか。この疑問についての推測は俺の中で二つほどある。
一つは、校長の自己満足。普段校長室にヒッキーして、生徒と話す機会がない校長はここぞと言わんばかりに集会のタイミングを狙ってコミュニケーションをとろうとしているのではないだろうか。それならばあんな長々と無駄話するのも納得ができる。だが、それがただ一方的な会話で、生徒達とコミュニケーションをとるどころか、むしろ好感度が下がっているということに気付いてほしい。
もう一つの推測としては、校長の陰湿な仕打ち。無駄話という名の睡眠薬を生徒達に振り撒くことで、この後の授業に集中出来ないようにさせる。その様子を各教室に隠されたカメラの映像を見ながらほくそ笑んでいるというものだ。教育者としてあるまじき非道な行い。許せまいな。
「−以上が俺の推測ですけど、どう思います?」
「校長先生を何だと思ってるの!?いいから黙ってなさい!」
「俺としては二つ目が有力だと思うが」
「三沢君も黙ってなさい!」
始業式から見事に遅刻をした俺と三沢は、華麗にかつ堂々と体育館に入場。先生達からの熱い視線を受けながら8組の列の最後に並んだ。始業式は校長の話の最中だったようだが、黙って聞くのも何かと思い、三沢と馬鹿話をしていたら見知った顔の先生が現れた。
国語教師の佐伯美羽先生。
童顔で158cmという小柄な体格。年齢は、俺と三沢の予想では26歳で独身。茶色の髪を軽くロールさせ、ふんわりとさせている。しかし、その幼い顔とは裏腹にバストは推定D。所謂ロリ巨乳だ。彼女が浮かべる笑顔とバストにやられて、いったいこの一年で何人の男子生徒が中腰になったことか。
俺たちと同じで、去年この学校に赴任したばかりの新米の先生だが、当時は教員不足だったため赴任一年目から担任を任されたという運がいいのか悪いのか分からない先生である。そんな先生は生徒から「さっちゃん」やら「みう先生」といった名で親しまれている。その人気は男子生徒だけではなく、女子生徒からもというのが先生の凄いところだ。
「はあ……また私は二人の面倒を見ないといけないんだね……」
「あれ?ってことはまた先生が俺達の担任?」
そうなのだ。勘のいい人は既に気づいていたかもしれないが、佐伯先生は去年の俺達の担任だったのだ。
若いうえに美人な教師が担任と知った時は、まだ名前も知らないクラスの男子と泣きながら抱き合ったものだ。……初めて受け持ったクラスに三沢という問題児がいたのは本当に同情したけど。
「一ノ瀬君も充分問題児なんだからね……」
「えっ?知らなかった。優等生であるこの俺と同じ苗字が他にもいるんですね。むむ、いったい問題児の方の一之瀬って奴はどんな奴なんだ」
「……はあ」
頭痛を堪えるように頭を押さえる先生。先生には悪いかもしれないが、これはラッキーだ。新学期になって、ようやく良いことが俺の下に訪れたのだから。
まず先生は甘い。朝のHR開始から五分程度の遅刻だったら見逃してくれる。遅刻常習犯の俺からしたらこれは本当にありがたい。
それに目の保養にもなる。童顔のため見た目は26の大人どころか俺達と同年代ぐらいがいいところの先生だが、胸は立派な大人。大事なことだからもう一度言うが胸は立派な大人。
授業中にチョークを落として、身を屈めて拾おうとするときに強調される谷間はどこのAVかとクラス中が思った。これからの一年間もまたあのすばらしき光景が見れると思うと楽しみでしょうがない。
「な、なんだかえっちぃ視線を感じるんだけど?」
「心当たりがないので、先生の胸に手を当てて考えさせてください」
「なんで私の胸なの!?そこは自分の胸に手を当てて考えるものでしょ!?…………あっ」
何度も言うが、現在は校長の話の最中。今までは小声で会話していたが、俺のセクハラまがいの発言に過剰に反応してしまった先生は大声でツッコんでしまった。当然、周りは静かにしている。そんな状態で一人大声を上げれば―
「……佐伯先生。私の話はそんなにもつまらないですかな?」
「は、ははは……」
青筋を浮かべた校長を前に、佐伯先生はただ笑うことしか出来なかった。
◆◆◆
今日の授業は1限が始業式、2限のHRで終わりとなる。といっても新学期初日のHRなぞやる事は一つしかないだろう。
「三沢だ。新しいクラスになって不安だろうが安心しろ。この俺が責任を持ってクラスを盛り上げてやる」
「……お、おい、三沢って“あの”三沢かよ」
「終わった……私の学園生活は今ピリオドを打ったわ」
「ジーザスッ!!」
そう、自己紹介だ。これから一年間同じ空間で過ごすのだから、皆の顔と名前を一致させる自己紹介は必要不可欠なものだと言える。
自己紹介でも、ある程度は相手の個性がわかってくるというものだ。無難に名前だけ言う奴がいれば、今のように変わった自己紹介をする変人もいる。というか安心するどころか余計に不安になってるじゃねえか。
「や、八神レナですっ。よ、よよよよろしくお願いしますっ」
(ん……?)
悪友の相変わらずの行動に呆れていると、しばらく自己紹介が続いた後にかなり舌足らずな自己紹介をしている子がいた。
(あー……アイツも同じクラスか)
八神も三沢同様に同じクラスだった子だ。といっても彼女と同じクラスだったのは去年だけだが。
八神は何でも父が日本人で母がロシア人のダブル。母方の血の方が濃く、金色の髪をしている。その金色の髪を見ていると、いかに髪を人工的に染めてもあんな綺麗な金色にはならないと思った。
細身なわりには出るところが出ていて、顔立ちも凛としていて黙っていれば“出来る女”って表現がピッタリなのだろう。だが、ちょっと蓋を開けてみれば極度の恥ずかしがり屋だったりする。
余談だが母方の実家が資産家で大金持ちらしい。
「金髪のお嬢様なのにツンデレじゃないどころか極度の恥ずかしがり屋。どう思う一ノ瀬?」
「ぶっちゃけツンデレ金髪お嬢様は在り来たり感があるし……ありだな」
「あうっ……」
「二人供!なに堂々とお喋りしてるのよ!」
「だって小声じゃ三沢の席まで聞こえませんよ?」
「そういう問題じゃないの!」
うーっと、毛を逆立てた猫のような……いや、佐伯先生は猫って感じじゃないな。頬を膨らませて怒るあたりとかリスっぽいし。乳は牛並みだけど。
「あっ……」
とりあえずは全員の自己紹介が終わるまでは静かにしてようと思い、視線を八神の方に戻すと、こちらを見つめていた八神と目が合った。あわあわと慌ててからぺこりと小さくこちらに頭を下げた八神は机に向かって俯いてしまう。
(相変わらず律儀だな)
俺と八神は同じクラスだったとはいえ、あまり会話した事はない。にも関わらず、八神は廊下ですれ違ったり、今のように目が合うと恥ずかしそうにしながらも律儀に挨拶してくれる。これからまた一年同じクラスなのだから、一度話しかけてみるのも悪くはないかもしれない。
「――っと、メールか?」
全員の自己紹介が終わり、明日からの授業の説明を先生がしていると、ポッケに入れてある携帯が振動した。ディスプレイに表示されている名前を確認すると、送ってきたのは三沢。……いくらさっき普通に話して怒られたからって、わざわざ同じクラスの奴にメールするなよ。
『終わり次第部室棟にフォロー・ミーだ。準備しておけ』
部室棟?何で部室棟なんか……って、ああ。もしかしてさっき言ってた考えってヤツかな。
どっちにしろ放課後は特に予定もないので、俺は三沢に了承のメールを送った。
―まさかこの時の三沢のアイデアが、後にとんでもない出来事を引き起こすことになるとは俺、一ノ瀬夏樹は知るよしもなかった」
「人の名前を使って不吉なナレーションをしないでくれる!?」
「も――!!だから静かにしてよっ!!」
センスないネーミングしか思いつかない自分に絶望しました