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20「どうやら新世界の神の見舞いにいくようだ」

2位でしたが、レナ編も投稿することにしました。




「八神が風邪?」


親睦会が終わって、学園に平和が戻ってきた。

何気ないただの授業がこんなにも素晴らしいもんだったんだと心の中で噛み締めながらネバーランドから帰ってきた俺を迎えたのは、顔面蒼白させた魔王(笑)さんのドアップの顔だった。


そういえばHRの時に姿が見えないとは思っていたが遅刻ではなく風邪だったとは。

まあ、あの真面目が具現化したような八神が遅刻するわけないか。


「そうなのよ朝今日は風邪を引いてしまったのでお昼ご一緒出来ませんってメールが来て一応無理はしないでって返信しておいたんだけどやっぱり心配でお見舞いに行きたいんだけど今日は大事な会議があるからどうしても放課後は外せなくて―」


「とりあえず落ち着け」


息継ぎなしでどんだけ喋るんだ。

止めなかったらあのまま死ぬまで喋り続けたかもしれない。


にしても相変わらず八神に対してだけはデレデレな魔王(笑)さんだ。

そのデレを少しでもいいから俺にもやってくれると助かるのだが。


「そんなわけで夏樹、私の代わりにレナのお見舞いに行ってきて」


「はいっ?」


そんなわけでって、どんなわけだ。

テンパり過ぎてて説明がかなり不足してる。


「夏樹だってレナの友達でしょ!?心配じゃないの!?」


「い、いや、そりゃあ心配だけど、たかが風邪なんだし……」


「何言ってるの!?もしかしたら血を吐いて苦しんでたり幻覚を見て危ない状態なのかもしれないのよ!?」


「それ風邪じゃねえよ」


そこまでいくと入院しろって話だ。

魔王(笑)さんは将来子供が出来たら間違いなく過保護な親になると思う。


「とにかく病気の時は友達の顔が見たくなるものなの。私なんて昔風邪ひいたとき友達に会いたいなーなんて思ったら、私友達いないって事実に気づいて更に寝込んだ記憶があるんだから……グスッ」


「なに自分でトラウマ掘り起してんの!?」


魔王(笑)さんの抱えている心の闇は思った以上に重いものなのかもしれない。

最近マジでいたたまれなくなってきた。


つーか傍から見たら魔王(笑)さんは情緒不安定にしか見えない。

前までは羨望や尊敬の眼差しで見ていたウチのクラスの連中も魔王(笑)さんの本性を知ってから憐みに満ちた視線を向けるようになってきてるし。


「……はあ。わかった、そこまで言うならお見舞いに行くよ」


「そう!なら後でレナの家の住所を携帯に送っておくわね」


もともと放課後は暇だったから構わないのだが、男性恐怖症気味の八神の家に俺が行っていいものなのかねえ。

しかも1人で。

そう思った俺は、いないよりマシだと思い隣で何かの書類に目を向けている三沢に声をかけた。


「お前はどうする?」


「悪いが俺も今日は部活の方で重要な任務があってな。八神には見舞いの言葉とコレを渡しておいてくれ」


三沢が懐から取り出した小さな紙袋を俺に投げ渡す。


「コレは?」


「なに、大したものではない。ただのトカゲの丸焼きだ」


「渡せるか!?」


何でそんなものを持ち歩いているんだと問い詰めたい気もするが、世の中には開けてはいけないパンドラの箱があるという事を思い出し、やめておく。

三沢が少し物足りなさそうな顔をしたが無視だ無視。


「ならお願いね夏樹」


「はいはい」



◆◆◆




「でっか」


放課後、送られた住所を頼りに俺は八神の家の前にまでやってきた。

俺の目の前にはとても一般家庭とは思えないほどの大きさの家が存在していた。

流石に魔王(笑)さんの家には勝てないが、それでも充分すぎる家だ。


そういえば母方の実家が大金持ちの資産家とか言ってたしな。

そう思えば納得だ。


そもそも忘れてしまっていたが、ウチの学園は学費が高く、金持ちばかりが通う学園。

もしかしたら八神みたいな家が普通なのかもしれない。


……そんな学園に俺と妹が通えているのが未だに不思議でならないが。

いったい俺達の学費はどこから出てるんだ。

そんなに儲かってるのかウチの喫茶店。


「っと、いつまでも突っ立ててもしょうがないな」


俺はインターホンを鳴らし、家の人が出るのを待つ……と、思ったら、聞こえてきた声は俺の聞きなれた声だった。


『は、はい……八神ですけど』


「あ、八神?俺だよ、俺。一ノ瀬」


『えっ?いちのせ…………い、いいいいいいい一ノ瀬君!?』


いつも通りの安定した慌てた声が聞こえたと思ったら、中から派手な音が盛大に聞こえた。

状況から察するに……転んだな八神。


そういえば見舞いに行くと連絡するの忘れてたしな。

いきなり同級生が家にやってきたら誰だって驚くだろうしな。


しばらく玄関の前で待ってみると、玄関の扉が遠慮がちに開けられた。


「い、いいい一ノ瀬君?ど、どうして……」


「見舞い」


そういえば見舞いなのに果物買ってくるの忘れたけど……まあ、いいか。

八神の事だから見舞いの品まで持ってきたら余計萎縮しちゃいそうだし。


「……で?なんで八神は扉に隠れてんの?」


八神は扉から顔だけを出した状態で、一向に姿を見せようとはしない。

なんで?


「あ、あの、私、い今パジャマですから……その、は、恥ずかしくて……」


……八神の顔が赤いのは熱のせいだけではないだろう。

恥ずかしそうにする八神は学園で見慣れているはずなのに、何故かクラッきてしまった。


「……なら先部屋に戻って布団に隠れてれば?」


「あっ、そ、そうですね。私の部屋は2階の突き当りにあるので、ちょっとしたら扉は開けておくので入ってきてください」


冗談半分で言ってみたら八神は真に受けてしまった。

一度玄関の扉を閉めると、中からパタパタと階段を登る音が聞こえてきた。


……いいのかコレ?


とは言っても、ここまで来て黙って帰るのもどうかと思うので俺は言われた通り少し待ってから中に入る。

確か2階の突き当りの部屋だったな。


2階に上がり、突き当りの部屋に向かってみると扉が開いていたので、俺は恐る恐る中に入る。


「おじゃましまーす……」


「ど、どうぞ」


中に入ると布団で目元まで隠した八神がいた。

部屋の中は整理整頓されており、家具や小物は暖色系の色でまとめられている。

犬や猫などのファンシーなぬいぐるみがたくさん置かれており、まさに年頃の女の子の部屋といった感じだ。

本棚にも目を向けてみたが、鎖で覆われた怪しい本や死神が持ってそうな黒い本は見つからなかった。

……拍子抜けだ。


「す、すいません。何も用意出来なくて」


「いいって、いいって。いきなり押しかけた上に八神は風邪なんだからゆっくり寝てなって」


八神と話していると、昼に魔王(笑)さんが言っていたことがつい気になってしまった。


「……血ぃ吐いたり幻覚見たりしない?」


「はい?」


「いや、ないならいいんだ」


むしろ、そうだったらここでのんびりしてる場合じゃないし。

それに見た感じは大丈夫そうだしな。


「熱はどうなんだ?」


「い、今は寝てたおかげで微熱ぐらいにまで下がりました」


「それはよかった」


高熱だったらこうして急に家に押しかけたのは迷惑だろうしな。

……微熱でも充分迷惑な気もするが。


「ところで親御さんは?」


「お、お父さんは仕事で、お母さんは今買い物に行ってます」


ならタイミングの悪い時に押しかけちゃったかな。

いや、でも母親さんがいたらいたで気まずくなったと思うし、ある意味ナイスタイミングだったのかもしれない。


「「…………」」


状況確認が済んだところで会話が止まった。

もともと俺と八神は二人っきりで何か話したことなんてないし、こんな場合どうしていいかわからない。


そんな中、ふと変わらず布団で身体を隠している八神が……いや、八神のパジャマが気になってしまった。

一度俺の好奇心に火が付いたからにはもう止まることなんて出来ない。


―――否。

止まってはいけないのだ。


不退転の想いを胸に誓った俺は無言で八神のパジャマを隠すベールを剥ぎにかかった。


「ちょ、ちょちょちょっと一ノ瀬君!?な、なんで引っ張ってるんですか!?」


意外にも八神は抵抗を見せる。

そのせいで八神のパジャマが未だ布団に隠れてその姿を見る事が出来ない。


よろしい。

ならば我が身を持って、その抵抗が無意味であるという事を思い知らせてやろう。


「ほ、ほほほ本気で引っ張ってますよね!?や、やめてください!?」


「ええい、大人しく剥がれろ!大人しくしていれば乱暴はせんから!」


「も、ももももももうしてますよ―――――――!?」


……あれ。

今の俺ってよく考えたら変態じゃね?

もしくは強姦魔的な何か。


い、いやいや。

これは性的欲求を満たすためにパジャマ―じゃなくて布団を剥ごうとしているだけなんだ。


そうだ、俺は純粋に八神のパジャマが見たいだけなんだ。

故に自身から零れ落ちた気持ちなどないのだ―――――!


「きゃあああああああああああああああっ!?」


そうこう考えてる間に八神の布団を剥ぎ取る事に成功した。

悲しいけどこれ、戦争なのよね。


「あう……あうあうあうあうあう」


そこのあったのは一つの芸術。

長袖長ズボンのピンクを基調としたチェック模様のパジャマで、春のようなイメージを与えるデザイン。

上着ポケットには可愛らしい花の刺繍がされている。

女物のためよくわからないが、中々値の張る一品だろう。


俺が来てからずっと布団を被ってたせいか八神の身体は少し汗ばみ、無理矢理布団を剥いだせいでパジャマは乱れ、おへそが見えたり、ボタンは第3ボタンまで開かれており胸元が見えそうで見えないきわどい姿になっている。

更に熱のせいか八神の瞳はとろんと潤んでおり、このまま見つめていたら間違いを起こしてしまいそうだ。

正直、やっちまった感がぬぐえない。

下手したらAVなんかより破壊力があるんだから。


しかも気づいてしまったんだが……。


「……ノーブラ?」


「っ!?」


オーバーヒートしそうな程に一瞬で顔を真っ赤にした八神。


でも胸元がきわどい事になっている事にも関わらず、ブラが全く見えないのはおかしい。

そういえば女性は寝間着姿の時はブラを付けない人もいると聞いたことがある。

妹もそうだし。

ただ妹の場合は付ける必要がないだけだと思うが。


「だ、だだだだだって今日は出かける予定なんてありませんでしたし、一ノ瀬君が来るなんて思ってもいなかったからわた、私は……!?」


「あー……なんかすまん」


とりあえず、これ以上は理性が危ないし八神のためにも布団を返す。

なんだろう。罪悪感以上に満足感で胸がいっぱいだ。


「う、うー……」


「…………」


しかし、俺の満足感と引き換えに八神がご機嫌斜めになってしまったようだ。

誰かが幸せになる代わりに誰かが不幸になるという言葉は本当だったか。


俺は恨めしそうにこちらを見る八神の機嫌を直すためにも話を無理矢理変えた。


「そ、そうだ。腹減ってないか?」


「……少しだけ」


おおう、八神が噛まずに喋れるとは。

これは相当怒ってるに違いない。


「なら俺が何か作ってやるよ。冷蔵庫の食材使っていいか?」


「え、え?一ノ瀬君、料理出来るんですか?」


「出来るよー」


こないだ魔王(笑)さんに同じ説明をして、また八神にも説明するのは面倒なので適当に答えておく。

というか最近誰かの家に行ったら手料理をふるうってのがパターン化してきた気がする。


「病人だから軽いものがいいよな。―――――――――ナポリタンでいいか」


「がっつりですよソレ!?」


八神がツッコむとは珍しい事もあったもんだ。

もしかしたら、これも熱のせいかもしれないな。


「だって俺お粥なんて作ったことないし……じゃあハヤシライスでいい?」


「変わらないですよ!?」


困った。

そうなると何を作っていいか分からない。

目玉焼きは二番煎じになるから嫌だし、何より卵系は俺が食ったばかりだから嫌だ。


やはり病人にはお粥なのか。

お粥って簡単って言うけど、どうやって作るんだ?

ご飯を炊くときに水を多くしてべちょべちょにすればお粥になるのか?


「あ、あの無理して作ってくれなくても……。多分もう少しでお母さんも帰ってくると思いますし……」


「それは俺への挑戦か八神?」


「へ、へっ!?」


「――君を見舞いに来たクラスメイトがお粥ぐらい造れないわけがないだろう。待ってろ、目にもの見せてやる」


そう言って俺は部屋から退室し、1階にあるであろうキッチンに向かう。

最悪携帯で調べればいいだろう。

そう思っていた頃が俺にもありました。


「へっ?」


「えっ?」


そこにいたのは金髪の外国人女性。

色白でかなりスタイルがいい。

けど、どこかで見たことあるような……。


「「…………」」


お互いになんて話しかけていいかわからない。

だが、俺が言うべきことはただ一つ。


「――――お粥作れますか?」


「はいっ?」



◆◆◆



「まさか八神の母親さんだったとは」


お互いの素性が分からないまま一緒にお粥を作り、八神の部屋に持ってった。

そこで初めて隣の人が八神の母親であると知った。


そういえば八神の母親はロシア人で、自分は日本人とのダブルだって言ってた気がする。

それにどこかで見たことがあるはずだ。

八神の母親さんは八神を落ち着かせて大きくしたみたいだし。


……ロシア人の女性は成長すると劣k……じゃなくて、突然変異を遂げるという噂を聞いたが、それは八神家には当てはまらないようだ。

何故かホッとしてしまう。


「言い忘れてましたけど、おじゃましてます」


「い、いいのよ。で、でもレナちゃんがボーイフレンドを連れてくるなんてどどどどうするべきかしら!?と、とりあえずは赤飯!?」


「お、おおおお母さん、落ち着いて!」


……八神のテンパり癖は母親譲りのようだ。

2人とも黙ってればクールビューティーな見た目なのに、どうしてこうも性格と違うものか。

ある意味これもギャップなのかもしれない。


「そ、それじゃあ、私は……買い物!買い物に行ってくるからゆっくりしていってね!?」


「今行ってきたんじゃないの!?」


またしても八神がツッコんだ。

二度あることは三度あるとは本当だな。


けど八神の母親さんは八神のツッコみを無視して部屋から出て行った。

あの様子ではマジで買い物……とは言わないが、外に出て行ったんだろう。


実に個性的な母親さんだ。

……俺も人の事言えないが。


「とにかくお粥食ってみろよ」


「は、はい……じゃあ、いただきます」


八神がお粥を手に取り、ふーふーと冷ます。


教えてもらいながらとはいえ、初めて作ったお粥だから。

味見はしたが、それでも美味しいといってもらえるか気になってしまう。


だが八神は一向に食べようとしない。

どした?


「え、えっと……」


「ん?」


「あ、あまり見られると食べづらい、です」


「大丈夫。この視線に慣れれば露出へk……逆に人に見られるのが快感になるから」


「どこが大丈夫なんですか!?」


露出癖に目覚めた八神を想像してみる。

……うん、もうそれ八神じゃないね。


しかし、見るなと言われると余計に見たくなるのが人の性。

俺はあえて八神の口元を凝視する。


「だ、だから見ないで下さいよぉ……」


「料理を作った身としては反応が気になるからな。それぐらいいいだろ?」


「う、ううぅ……」


ついに涙ぐんでしまう八神。

イジメ過ぎたかと俺は慌てて慰める。


「ほ、ほら、冷めないうちに食べてくれよ」


俺はレンゲでお粥を掬い、もう一度ふー、と息を吹きかけてから八神の口元に持っていく。


「え?え、え、ええええええええええええっ!?」


そうすると八神は涙ぐみながら顔を紅潮させて…………倒れた。


「……きゅう」


「……なんで?」


この後、八神は母親さんが帰ってくるまで目を覚まさなかった上、熱がまた上がってしまった。

……俺のせいか?


そして、翌日。

八神の容態は回復したが、見舞いに行った俺に風邪がうつったというベタな展開になってしまった。


……馬鹿でも風邪ひけるんだな。



甘い話ってどうやって書くんでしょうね……。

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