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02「どうやら妹は重症のようだ」

 俺の一つ下の妹、一ノいちのせ秋奈あきなは自慢の妹だ。


こんなことを言うと俺がシスコンだと思うかもしれないが、どうか聞いてくれ。


秋奈―

家族からアキと呼ばれている妹は、まずルックスがいい。

母親譲りの陶磁器のような白い肌。髪はふんわりとしており、薄茶色のボブ。目はまるでアニメに出てくるキャラクターのようにぱっちりとしている。体格に関しては小柄で、胸も控えめだが、それを差し引いても充分可愛いと思える。

渋谷に行った回数=芸能事務所にスカウトされた回数と言えば、そのルックスの良さは伝わるだろうか。


これで性格が悪かったら、世の男性陣は落胆するが、ところがどっこい。俺の妹は性格まで良い。天真爛漫で、誰とでも直ぐに仲良くなれる妹は天使みたいな存在だ。実際に俺と父はよく天使と見間違えたりする。・・ブラコン気味なのが少々傷だが。


さて、これだけ説明すれば妹のスペックの高さを分かってくれたと思う。

こんな可愛い妹がいれば自慢に思う気持ちも分かるだろ?


それに俺は妹を目に入れても痛くない。むしろ甘んじて目に入れたいぐらいだと自信を持って言える。だがー


「―そんなわけで、私が選ばれし勇者なんだよ!」


今の妹は見ているだけで痛々しいです。


妹曰く、自分は魔物を操り大陸を支配せんとする魔王を倒すために選ばれた勇者だとか。

数々の冒険を乗り越え、魔王城にて魔王と決着をつけようと戦っている最中に、突如放たれた謎の光が視界を覆いつくした。すると、次に目を開いた瞬間、そこは知らない病室の天井だったと。


……どこのB級RPGだよ。しかもそれが夢の中の出来事だとしても僅か三日で魔王まで辿り着くって、どんだけ最短ストーリー。制作スタッフや中ボス涙目だろ。


「違うよ!向こうでは一年以上の月日が経ってて、私の冒険はそりゃあもう単行本なら20巻以上、ドラマなら3シーズンは間違いない程の大スペクタクルで―」


―と、衝撃発言を聞かされた俺はすぐ様にナースコール、それと両親に連絡をした。


喫茶店を営んでいる両親は、すぐには来れないかと思ったが、妹が目を覚ましたと伝えた瞬間に両親は電話を切った。その様子ならばおそらく一時間としない内に病院に着くだろう。


両親の到着を待つ間に妹は異常がないか検査することになり、今は診察室でその結果を待っている。


「先生ぇ……お願いだ、どうにかしてくれよ。あんなんになっても俺の妹なんだよ」


「今あんなんって言った?たった一人の可愛い妹に向かってあんなんって言ったよね?」


病院で騒ぐ妹をスルーして俺は先生に縋りつくように頼み込む。

だが、先生は瞳を閉じて、重苦しい雰囲気で首を横に振った。


「残念ですが……現代の医学では妹さんの『厨二病』を治す事は不可能です」


「そ、そんな……!?」


「ブルータスッ!!」


お前もか!と言わんばかりに叫んで立ち上がる妹。そろそろ流石にうるさすぎなので妹の頭に軽くチョップをかましておく。

すると妹は猫のような呻き声をあげ着席する。よし。


「ですが秋奈さんの身体に関しては全く異常がありません。むしろ健康すぎるほどですよ」


「そうですか……」


それに関しては本当によかったと思う。

これで精神に異常がなければ万々歳だったのだが。


「あっ、お母さん達が着いたみたい」


「……は?いやいや、いくらなんでも早過ぎるだろ。てか何でわかるんだよ?」


「気配」


「「…………」」


先生とともに口をあんぐりとさせ何も言えなくなる。まさか、これほど重病だとは……。

と思っていたら廊下からドタドタと誰かが走るような音が聞こえ―


「アキ――――ッ!!」


「あっ、お父さん」


「……本当に来たよ」


連絡してから30分。妹が言った通り、偶然にも親父が飛び込むような勢いで部屋に入ってきた。

自宅から病院まで1時間程度はかかるはずなのだが、我が父親はその常識を見事打ち破ったようだ。てか、どうやったんだよ。


「はあ……はあ……む、娘のためなら、父に不可能などない…………ガクッ」


「先生、急患ー」


酸欠気味になった親父をベッドに寝かせる。リアルでガクッて言う人初めて見たよ俺。


そんな父親とは対称的に、今度はおふくろが静かに部屋に入ってきた。


「アキ……ほんとによかった……!」


「わわっ!?お、おにーちゃんに続いておかーさんまでどーしたの!?―—はっ!まさかモテ期か!?」


そのまま椅子に座る妹におふくろは抱き付く。

……感動の場面の最中で申し訳ないんだけど、今隣で酸素ボンベを使ってる死にかけの親父の事も心配してあげてくれ。


「ナツ。かつて、とある偉大な人物はこう言ったわ。『娯楽と男はいづれ飽きていくものだ』と」


「このタイミングで何で両親の関係を不安にさせるような事言うんだよ!?第一偉大な人って誰だ!?」


「私よ」


「アンタかよ!?」


家族4人構成という中でボケ3にツッコミ1という状況は辛過ぎる。

流石に俺一人じゃ3人分のボケを捌ききれない。

だから今のおふくろの発言を聞いて、酸素ボンベを使いながらシクシクと涙を流す親父は無視しておく。


「では秋奈さんのこれからについてですが―」



◆◆◆



「んーー!美味しいー!」


肉体的には何の異常もないということで、妹は退院。無事に・・いや、無事かどうかはわからないが自宅にへと家族全員で帰った。

自宅に到着する頃には、既に夕食の時間になっており、今は実に三日ぶりとなる家族全員での食事だ。


……だが隣で歓喜のあまりに涙を流しながら食事をする妹を見て、やはり頭を強く打ち過ぎたかと再認識する。


「ほんとに美味しいよ。向こうの世界の食事も美味しくはあったけど、やっぱりお母さんの手料理が一番だね。これ、何の野菜?」


「「「っ―――!」」」


来た、厨二発言が!


医者の話では、妹の症状は若い時なら誰もがそうなる可能性がある反抗期なようなもので、治療方法としては時が経つのを待つしかないと。それと、妹の発言を頭ごなしに否定してはいけなく、やんわりと聞き流すような大人の対応が必要だと。


恥ずかしい話だが、数年前までは俺も同じ症状を患っていたので、妹にどう対応していいかは心得ている。なので、後は両親が大人な対応をしてくれれば―!


「「――――(コクッ」」


俺の気持ちが伝わったのか、両親は頼もしい表情でアイコンタクトしてくれた。これなら問題は―


「母さん、これは確かエデンの果実だったか?」


「違うわよ。これは世界樹の葉に決まってるじゃない」


「HAHA!そうだった。ならば今日も偉大なシュナイバルに感謝を」


「ええ。シュバルツに感謝を」


「何でだよ!?」


話に乗ろうとした考えは悪くないかもしれないけど、その後のエデンの果実とか世界樹の葉って何!?明らか適当に知ってるファンタジー用語使ってるだけじゃん!?というかエデンの果実や世界樹の葉が一般家庭の夕食に気軽に使われてたまるか!!しかも誰に感謝してんだ!?二人して名前違うし!


「ナツ、食事中は静かにしてろ」


「そうよ、ナツはもう17。明後日からは二年生で先輩になるんだから少しは大人になりなさい」


「俺!?俺が悪いの!?」


妹との対応の温度差に全俺が泣いた。

親父は前から俺に厳しく妹に甘いのは分かっていたが、まさかおふくろまで俺の敵になるとは。


「何言ってるの」


「はっはっ、そうだ。母さんは私だけの味方に決まっ「私は私だけの味方よ」……」


「格好いいけれども!?そこは空気読んで親父の味方って言ってやれよ!親父がまた泣いてるじゃん!」


「自らの想いを押し殺して赤の他人の機嫌をいちいち気にする。世知辛い世の中になったものね」


「違うから!?親父は赤の他人じゃないからね!?」


艶のある黒髪ロングの俺の母親は二児の母とはとても思えない程の若さと美貌を持つ。

ご近所からは「一ノ瀬家の奥さんはクールビューティーねぇ」と言われているが、口を開いてみればマイペースな不思議ちゃんだったりする。現に家族である俺すらおふくろの性格は掴めない。


「ほら、お父さん元気出して」


「うっ、うっ……私にもうアキだけだよ」


「あっ、ごめん。私はお兄ちゃん専用だから」


「ナツ――――!!」


「あーもうっ!食事の時ぐらい静かに出来ないのかウチの家族は!」


一方の親父は、息子である俺が呆れるぐらい単純な性格をしている。言ってしまえば、おふくろと妹が大好きでたまらない親父。親父の行動の殆どの理由がおふくろと妹のためだと言っても過言ではない。

親父はクセッ毛の茶髪に中々の高身長。運動している姿は見たことないが、ボクサーのように引き締まった身体をしている。

ご近所からは「一ノ瀬さん家の旦那さんはイケメンだけど残念よねぇ」と言われている。イケメンなのは納得いかないが、残念に関しては本当にその通りだと思う。


色んな意味でアキは父親似だろう。


「ナツ、人生において絶対に越えられない壁が何だがわかるか。――はっ。ベルリンの壁?何を甘い事を言っている。その程度の考えで私の息子を名乗るとは……身の程を知れっ!」


「何も言ってねぇよ」


「絶対に越えられない壁。それすなわち父親。つまりは私だ!アキが欲しければ私を倒していけ!!」


「結構です」


「お兄ちゃん!?」


明後日からの新学期。俺はこの春無事に二年生に進級。妹はその翌日に新入生として同じ学校にへと入学する。

だが、俺の中では新しい生活への期待よりも、俺は妹へのどうしようもない不安で胸がいっぱいだった。



なんやかんやで1番ノリがいいのは病院の先生

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