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14「どうやら魔王が購買へと出陣するようだ」

 

反省しよう。


若いからって一時のテンションに身を任せて行動するべきではないのだ。

ある意味この考えなしの行動が一時期の俺の厨二病を増長させたといっても過言ではない。だからこそ俺は面倒事は避け、なるべく目立たないように暮らそうと思ったのに、ついハメを外すとこれだ。


「急な招集ですまない。事態は刻一刻と迫っているため迅速な対応が必要だったのだ」


教卓に手を置き、三沢が静かに話し始める。

俺に魔王(笑)さんとその配kーじゃなくて、八神はそれを教室の隅で黙って見つめていた。


放課後になった今、俺を含む昼飯のメンツは揃って8組の教室にいる。

だが、この場にいるのは俺達だけではない。この教室には他に12名の生徒がいる。


わかるだろ?そう、8組男子だ。


普段の授業ではお喋りばかりで、ろくに授業を聞かない8組男子。

けれど今は誰1人喋ることもなく、ただ三沢を見つめている。

きっと美羽先生がこの光景を見たのなら間違いなく涙目になるだろう。


「それにも関わらずこれほどの人数が集まった事を俺は誇りに思う」


その三沢の言葉に8組男子からは「なに水臭い事言ってんすか」とか「これは俺達が好きでやってんすよ」などとの言葉が聞こえてくる。


……コイツら、始業式ではジーザスとか言って嘆いていたくせにいつの間に三沢に友好的になってんだ。

そもそも学園中が三沢を危険人物と見なしているのによく集まったな。


もしかしたら8組は学年の変人が一カ所に集められたクラスなのかもしれない。

……あっ、でも、それだと俺がこのクラスなのは納得いかないし、魔王(笑)さんが他のクラスだとおかしいか。


「……ねえ、なんなのよコレ」


魔王(笑)さんの戸惑い4割呆れ6割の声で俺に聞いて来る。


簡単に言えばこれは魔王(笑)さんの購買デビューをサポートするための集まりだ。


昼に魔王(笑)さんのちょっとした発言から俺と三沢が計画。

その作戦を決行するためには人手が足りなかったため、こうして8組の連中に呼びかけたわけだ。

……自分で集めておいてなんだが、こうして実際に集まったとこを目の当たりにするとやっちまった感が溢れ出て何か冷める。

 

最近、認めたくないけど若さ故の過ちが多すぎると思うんだ。


「作戦の概要は既に配布してあるプリントで把握していると思う」


いつの間にそんなもんを用意したんだコイツは。


「くだらない事だろうが全力を尽くす。それが俺のミサニズム」


「新しい言葉を作るな!?」


「悪いが今は会議の途中だ。黙ってろ」


非常に腑に落ちないが邪魔しては悪いので……悪いのか?

と、とにかく俺は再び黙る。


「今回の我々の目標は三種の神器の内のいずれかひとつの入手。そのためには購買に少なくとも10人以内には辿り着かなくてはならない。これがいかに困難な事なのかは言うまでもないだろう」


中等部と高等部の生徒の合計は1500人程度。

購買を利用する者は半分以下だろうと、その数は膨大だ。


その中で10人以内に辿り着かなければならないというのははっきり言って不可能に近い。

だからこそ、購買の三種の神器を手にした者は栄光を掴むとまで言われているのだ。


それを理解している8組男子達はざわめきだす。

 

—そんなの無理じゃないのか。


そんな不安が彼らの中によぎる。


「何を不安に思う事がある。だからこその俺だ!だからこそのお前達だ!信じろ!お前達を信じる俺を!されば栄光への道は開かれる!」


「「「う、うおおおおおおおおおおおおっ!!」


「……茶番ね」


「……茶番ですね」


三沢の演説で8組男子の士気が極限にまで高まる。

主役である魔王(笑)さんを置いてかなりの盛り上げをみせている。


そして何故か三沢を筆頭に皆立ち上がる。


「購買とは!生徒全ての羨望を束ねた結晶である!」


「「「然り!然り!然り!」」」


馬鹿がいた。阿呆がいた。

この状況を作り上げた一因が自分も彼らと同類だと思うと死にたくなって来た。


三沢のせいで皆のテンションがおかしな事になっている。

これが三沢の保有スキル『カリスマ(笑)』の効力か。


「購買を蹂躙し、征服してこそ我らは青学の歴史に名を残す事となるのだ!」


「「「然り!然り!然り!」」」


「歯が痛い時は!?」


「「「歯科医!歯科医!歯科医!」」」


「それが言いたかっただけだろ!?」


三沢がちゃっちゃっちゃっちゃ、と某昼番組を思い出させる手拍子をし、一斉に座る。


「はい、ロイヤルストレートフラッシュ」


「え、ええええええええっ!?」


「ふふ、これで私の11連勝目ね」


終わらない茶番に魔王(笑)さんと八神はポーカーを始めていた。

魔王(笑)さんが無駄な強さを発揮している。


「決行は明日の昼。失敗は許されない。皆、今日はしっかりと英気を養ってくれ」


その言葉で一斉に解散する8組男子達。

彼らの瞳には今まで見た事のない闘志という名の炎が宿ってるように見えた。


その闘志をもっと別のとこでみせればいいと思うのは俺だけだろうか。


「はい、フルハウス」


……てか、主役がまったく状況を理解してない気がするんだが大丈夫なのだろうか。



◆◆◆◆◆◆



 開幕を告げるチャイムが戦場(学園)に響き渡る。


それと同時に俺と三沢を含む8組男子14人一斉に立ち上がる。

なんやかんやで巻き込まれた八神は渋々といった感じに立ち上がる。

……なんかごめん。


板書した黒板の文字を消そうとする美羽先生や今回の趣旨を知らない八神を除く女子は何事かと驚く。


しかし説明をしている暇はない。

俺達は脇目も振らずに教室から飛び出す。


その際に「…………こ、こら———!!廊下は走らないの———!!」」との怒声が聞こえるが無視。

唯一、八神だけが申し訳なさそうな顔をしながら走っている。


「一ノ瀬、抜かるなよ」


「はっー。お前こそな」


昨日の放課後は熱が冷め、己の行動を悔やんだが、いざ実行するとなったら急に血が滾って来た。

魔王(笑)さんにそう言ったら単純だと呆れられるだろう。我ながら悪い癖だと思う。


だが、こうなった以上は全力で挑む。

それが購買に対する礼儀というものだ。


計画通りならば既に魔王(笑)さんも購買に向って走り出しているはずだ。

しかし、俺のクラスよりはマシだとはいえ魔王(笑)さんのクラスは3階。

購買は1階に位置しており、その間の2階には最上級生である3年生がいる。


別校舎から来る中等部の生徒や、4階から来る1年生は恐るるに足らん。

厄介なのは同学年である2年生と、幾度とこの戦いを経験している3年生達だ。


ここで俺と三沢は布石を打った。


チャイムが鳴ろうと、4限を担当した教師によって授業の終わる時間は変わって来る。

それはたかが一分一秒の違い。

だが、その僅かの時間に俺達がつけ込む隙がある。


まず、2年8組と魔王(笑)さんのクラスである1組を除く残りの6クラス。

その各クラスに8組男子を2人ずつ向わせ、教室の扉を廊下から封鎖。

購買に向う同学年の猛者達を封じ込める。


だが、まだ最大の難敵である3年生が残っている。


そこで三沢と八神の出番だ。

三沢と八神には放送室に侵入してもらい、ある内容を校内に流す。

そろそろ流れてもいいはずだが……。


『聞いているか!学園の生徒諸君よ!』


———きた。

校内に聞き慣れた三沢の声が響き渡る。


『本日、学食においてあのAランチを超えるメニュー。Sランチが出るという噂を入手した。繰り返す。本日、学食において……』


『こ、ここここんなことして本当に大丈夫なんですか!?も、もし先生に聞かれたら……!?』


『何を言う八神。この会話は当然職員室にも放送されているぞ』


『ふえええええええええええっ!?』


……色々とツッコみたいが、これがこの作戦の要。

購買と双璧をなすもう1つの存在『学食』への陽動。


バリエーションに富んだメニューで大人気。

中でも手頃な値段で美味さMAXのAランチは料理部出版の青学グルメブックでランクA。

それを超越したのが販売日不明の月1限定メニュー『Sランチ』。ちなみにランクは測定不能のEX。


しかもSランチは購買の限定商品とは違い、数量限定ではない。

だからこそ、Sランチがメニューに並ぶ日は購買の利用者を大きくうわまわる。

もっとも、生徒が殺到して食堂に入りきれなかったり、配給が間に合わないという問題があるが。


ちなみにこの放送はあくまで陽動目的であり、真実ではない。

三沢から言わせれば「これも一種の情報戦。騙される方が悪いのだ」と。


これでますます三沢の悪評が増えると思うが、まあ、今さら三沢に悪評が1つ2つ増えても変わらないだろう。

むしろアイツはそれを喜んでる節があるし。


しかし、それでも購買に向う者はいる。

俺達と同じように食堂に生徒が集まる今日がチャンスと思う連中だ。


「お兄ちゃんっ!!」


俺は持ち前の脚力を発揮し、4階から購買までの秘密の最短ルートを疾走。

そこに助っ人として呼んだ最終兵器リサールウェポン 妹と合流。


「アキ!助かった!」


「魔王のためってのは気に食わないけど、お兄ちゃんのためってなら私は頑張るよ!」


そのまま2人で誰よりも速く購買に到着。

そして生徒達が来る方向を向き、立ち塞がる。


購買のおばちゃんが一瞬怪訝そうな顔をするが、俺だと分かると何故か納得した様子になった。


そこから10秒としないうちに生徒達がなだれ込むかのようにやって来た。

だが、俺と妹を見つけると皆一斉に停止する。


「お、おい。あれって……」


「ああ……間違いない。一ノ瀬兄妹だ!」


後少しといったところまで辿り着いた生徒達はざわざわと色めき立つ。

なぜならそこに立ち塞がるのは初日から全校生徒の記憶にその名を鮮明に刻み込んだ兄妹。


あの三沢と唯一ツルむ事が出来る兄妹。彼らからしたら異教徒のようにしか見えない存在。


彼らの本能が警告する。


―近づくな。


その本能だけが、彼らの足を止めていた。


「……立ち去れ、なんて言わないよ。けど、お兄ちゃんからここから先は通すなって言われた。それを知って尚進むっていうなら覚悟して。今の私は長坂での張飛に匹敵すると言っても過言じゃないから」


それは過言だと思う。

珍しく真剣な顔をしているのに、発言が厨二チックでお兄ちゃん悲しい。


けど、他の生徒達には効果があったようだ。

自覚しているかは分からないが、彼らはジリジリと後退している。


「はあ……はあ……!」


その生徒達の間を切り裂くように1人の生徒が割り込み、妹の前に飛び出した。


魔王(笑)さんだ。


額に汗をため、荒い呼吸を繰り返す。

普段のクールな姿を知る者からしたら信じられない姿だ。


現に周りの生徒達は「お、おい。あれってまさか二階堂さんか?」「う、嘘だろ。二階堂さんが購買に来るなんて……」と己の目を疑っている。


無理もない。

知り合う前の俺のきっと同じ反応をしていた。


だが、今は違う。


俺は優しく微笑みながら、妹は不服そうにしながら魔王(笑)さんに道を譲る。


その光景に魔王(笑)さんは呆気に取られるが、すぐに何時もの凛々しさを取り戻す。

そして、1歩、また1歩と今までの道のりを思い出すかのように足を進める。


「まるでポケ◯ンで殿堂入りの部屋に進む主人公みたいだね」


「もう少しまともな例えはなかったのか」


けど、そう言われるとそう見えなくもない。

……色々と台無しになってしまった気がする。


「いらっしゃい」


購買のおばちゃんは聖母のような優しさに満ちた顔で魔王(笑)さんに接客する。

魔王(笑)さんは軽く会釈し、商品を手に取っていく。


勿論、手に取るのはやきそばパン・カツサンド・特製プリンの3つ。

1つでも手に入れることが出来れば栄光を掴めると言われている三種の神器全てを。


「お願いします」


「はいよ。やきそばパンにカツサンドにプリンで……」


さあ、魔王(笑)さん。その手で栄光を掴むんだ———!


「全部で430円ね」


「これで一括で」


そう、一括で……えっ?


皆の視線が魔王(笑)さんの手元に集中する。

そこには黒光りするカード。


「……お嬢ちゃん。ウチは現金支払のみだよ」


「えっ?」


その瞬間、全世界が— 

いや、全宇宙が停止した気がした。


この後、今回騒ぎを起こした俺達は職員室で2時間に及ぶ説教。

さらに罰として校内中の掃除をさせられることとなった。


まあ、あれだけの騒ぎを起こして、これぐらいで許してもらえるなら俺達は感謝するべきだろう。


だが一言だけ言わせてくれ。


——せめて現金ぐらいは持ち歩こうよ、と。





次回、ようやく親睦会となります。

これ以上カオスになると思うと書く私ですらゾッとします(えっ



話が変わりますけど、5000pt超えたら何かやろうかな……?

人気投票で1位になったキャラの特別ストーリーを書くとか。

まあ、それは実際に超えたときに考えます。




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