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13「どうやら魔王は寂しかったようだ」


 ―終末の日。ラグナロクは近い。


親睦会まで残り1週間をきった今日、学園内のあちらこちらからそう聞こえてくる。


だが先週までとは違い、学園にあるのは絶望だけではなかった。


生徒会や風紀委員会が役に立たないと知った生徒達は有志で対策チーム『青学防衛軍』を設立。

人類最後の希望とされ、中等部・高等部・人種・性別を一切問わない選りすぐりの精兵達が集った。


自ら死地と理解して決戦に挑む彼らを奮い立てるように声援を送る一般人達。

彼らの瞳に、あの頃の絶望はない。

あるのは明日への希望だけだ。


皮肉な事に、最後の最後で彼らの想いは一つとなったのだ。


果たして、一つとなった彼らの運命は―

いや、私達の運命はどうなるのだろうか。


また、あの陽の下で笑いあえる日は来るのだろうか。


後は私の記事がこれで最後にならない事を祈るばかりだ。

では、また縁があれば。



「……なんだこれは」


俺は手に取った一枚の紙、週一で昼休みに配れる新聞部手製の学園新聞。通称『青学新聞』を読み、呆然となる。


この新聞は、なんと学園全体の購読率84,6%(三沢調べ)。

生徒から教師達まで週一で配られる新聞を楽しみにするほどだ。


そういう俺もその1人。

少々脚色が過ぎる部分があるが、読者を引き込ませるその記事はかなり魅力的である。


だから、今日もいつものように楽しみにしていたのだが―


「ふふふ。いい感じに盛り上がってきたではないか」


隣で三沢が心底嬉しそうに俺の持つ記事を眺める。


それもそのはず。

今回の内容は一面が親睦会の内容について。

学園新聞のため、ただでさえ一面しかないのに一面全てが親睦会について書かれているのだから。


個人的に毎回楽しみにしている4コマすら今回は省かれている。

地味にショックだ。


見出しにはでかでかと『バッドサイエンティスト三沢来る!?』と書かれている。


マッドとバッドをかけたのだろうか?

どっちにしろ、また三沢のろくでもない二つ名が増えたようだ。


なのに何故か三沢は満足そうに頷いている。


「ふふん」


「……もしかして気に入ったのか」


「あはん」


……気に入ったようだ。

いつも以上にご機嫌だし。


というか、この学園の奴らはやたら二つ名が好きな気がする。

少し目立った事をしまえば直ぐに名付きの要注意人物になってしまうし。


俺の二つ名?

……聞かないでくれ。


「最近では俺と一ノ瀬の二人に対してのもあるらしいぞ」


「……聞きたくないが、一応聞こう」


「学園を混乱させるなら俺か一ノ瀬のどちらか一人で充分。そこから『二人は要らず。一人いれば事足りる』との二つ名が」


「長っ!?」


それなんて魔拳?


第一、俺がした事なんてたかがしれているというのに何故四天王の三沢と同じ扱いなんだ。

納得がいかん。


「あ、あの、一ノ瀬くん」


「ん?……ああ、悪い。もう約束の時間か」


相変わらずの低姿勢で、八神が弁当を持ってこちらにやって来た。


時刻を確認してみると既に昼休み開始から5分経過している。

どうやら三沢と無駄な話で無駄に盛り上がってしまっていたようだ。


「い、いえ。そ、それで、あの……」


八神がいつも以上に戸惑った様子で、ゆっくりと視線を扉にへと向ける。

つられて俺も扉に視線を向けると―


「じぃ――――」


魔王(笑)があらわれた!


たたかう ←

どうぐ

にげる


「はっ!?」


扉から顔だけ出して、こちらをジト目で睨んでいる魔王(笑)さんを見たら一昔のRPGのコマンドを思い出してしまった。

というか現実で「じぃ――――」って言う人初めて見たよ。


とりあえずは「中に入れよ」的なニュアンスを込めて魔王(笑)さんを手招きしてみる。


魔王(笑)さんは親に悪い点数が見つかったかのようなばつの悪い顔をしたが、直ぐにいつものキリッとした凛々しい表情となった。


「ふ、ふん。わ、私は男性に手招きされてホイホイと近づくような尻の軽い女じゃないわ」


「いや来てるし」


「なっ―!?い、いつの間に……。まさかこれが孔明の罠!?」


「かかりましたね」


「三沢は黙っとこうか」


最近になってわかったが、魔王(笑)さんも馬鹿だ。

勉強の出来る馬鹿だ。


てかツッコミ所が満載すぎて捌ききれない。


八神にツッコミを求めるのは無理があるしな。

だからって、いつまでも一人であわあわとしないでくれ。

ここ慌てるような場面じゃないから。


「どうかしたのか?いつも以上にツンツンしてるみたいだけど?」


「……何でもないわよ」


その言い方だと確実に何かあると言っているようなものなのだが。

ずっとツンツンされて一緒に飯を食べるのは嫌なので、俺としては原因を解明したい。


「――――――のよ」


「え?なんて?」


俺を恨めしそうに睨む魔王(笑)さんはポツリと何かを呟いた。

聞き返すと、魔王(笑)さんは顔を真っ赤にさせてバンッと俺に詰め寄る。


「何で私は誘ってくれないのよ!」


「…………はあ?」


話についていけない。

誘うって何に?


「こないだの休日に貴方の家に集まったんでしょ」


「こないだ?……あー、あの日か」


多分俺と妹が店を手伝った日のことだ。

でも集まったって言っても三沢一人だし、そもそも誘ったわけではないのだが。というより何故知ってる。


「俺がツイッターに書き込んでおいたからな」


「お前もかい!?」


なに?おふくろといい三沢といい、お前らのツイッターの内容は俺のプライベートしか公開しないのか。

お前らとは一回プライバシーについてディスカッションを行うべきかもしれん。


「親睦会の話をしたんなら私も呼んでくれていいじゃない……。なに、ぼっちはぼっちらしくしてろってこと?」


「ついに自分でぼっちって言っちゃったよ!?」


見るからに落ち込む魔王(笑)さん。

もう魔王(笑)じゃなくて魔王(泣)さんだよコレ。


「三沢と勇し……妹さんだけズルいわよ」


「いや、三沢はともかくアキは同じ家だし」


「…………」


そんな涙ぐんだ目で睨まれても。


というか魔王(泣)さん、どんどんキャラが崩壊してるんですけど。

……いや、こっちが素なのか?


コミュ障で友達少ない寂しがりで泣き虫な魔王(笑)。


うん、なんか俺でも勝てる気がする。

RPGというより、むしろギャルゲーに出てきそうだ。


「……もう、いいわよ。行きましょ、レナ。除け者は除け者同士で仲良くしましょ」


「あ、あわわわっ!?に、二階堂さん、ま、また手、手が!?」


「あら、私の事は紗那でいいって言ったじゃない。私がファーストネームを許すなんてそうないんだから光栄に思いなさい」


……知らぬ間に魔王(笑)さんは八神と仲良くなっていたようだ。

俺には決して見せない魔王スマイル(最高純度の宝石の輝きにも負けない笑顔)を八神には惜しみなく見せている。


幸運にもその魔王スマイルを見ることの出来た8組男子は「目が!?目がぁあぁあああああ!?」やら「彼女は大切なモノを盗んでいきました。―――私の心です」などと騒いでいる。

喧しいエトセトラ達だ。


「…………」


「追ってやらんのか?」


おそらく、魔王(笑)さんと八神はいつも通り屋上に向かっているのだろう。


もういいと言ったくせに、歩くスピードは遅く、しきりに俺の方に振り返って追って来ないかと確認している。

その行動がどこか可愛く思えてしまい、苦笑する。


仕方なく思いながらも、俺は二人の後を追うことにした。




◆◆◆◆◆◆




「ねえ、それって美味しいの?」


 今度集まる時はきちんと誘うと約束し、ようやく機嫌が良くなった魔王(笑)さんが、デザートのプリンを食べようとする俺にそう言った。


あまりにも突然で何の話かわからなかったが、魔王(笑)さんの視線から、このプリンの事だと察した。


「そ、そういえば一ノ瀬君はいつも購買でお昼ご飯買ってますよね」


「んー、単純に弁当だと荷物がかさばるって理由もあるけど、なによりウチの購買の品は美味いからな」


中等部と高等部の人間の大半が利用するウチの購買は、学園のこだわりでかなりレベルが高い。

何でも美味くて安いがモットーらしい。


そのため、生徒達からは大人気。

昼休みになると我こそはと購買に駆け出す様子はまさに戦場。

一切の情けは許さず、弱肉強食の世界。


中でも数量限定の焼きそばパンやカツサンド。

そして今俺が手に持つ購買のおばちゃん特製の青学プリンは『購買の三種の神器』と呼ばれ、それを一つでも手に入れる事が出来れば栄光を掴めるとまで言われている。


まあ、入学してから数年間購買を利用し、多くの栄光を掴んだ俺は購買のおばちゃんと仲良くなり、今では予約やお取り置きが可能なのだが、それはここだけの秘密だ。


「へぇ、そこまで言うなら一度食べてみたいわね」


何気なく言った魔王(笑)さんの一言。

その一言に俺と三沢は瞳を輝かせた。


「ほう。それはつまり購買戦争に挑むというわけか」


「こ、購買戦争?」


「何の心得もない素人が挑んでもただ死にに行くだけ。だが安心しろ。貴様には俺と!」


「この俺がついている!」


「「…………」」


いつになく熱くなる俺と三沢に対し、いつになく冷たい視線を向ける魔王(笑)さんと八神。

温度差がありすぎて風邪引きそうだ。


だが、ここで退くわけにはいかない。


「その食べたいという気持ち。まずはその一歩が何よりも重要なのだ」


「故に俺達が全力でサポートしよう。この購買の覇者と恐れられた俺達が!」


俺と三沢は二人を置いて作戦を考える。

まず三沢が懐から出した学園の地図にペンで俺達のクラスと購買の場所に印をつける。


「俺達と違い二階堂のクラスは三階だ。それだとどうしても二階のクラスの者達に出遅れてしまう」


「正直4限の授業にもよるんだよなー。チャイム前に終わる授業ならいいが……」


意見を言い合う。


ぶっちゃけ俺の特権を使えば楽に入手出来るのだが、それでは意味がない。

栄光とは己の手で掴むものなのだから。


「……これ、今更前言撤回は無理よね」


「あ、あはは。ふ、二人共かなりノリ気ですしね」


「……レナ。これから私、不用意な発言は控えるようにするわ」


「え、えっと、頑張ってくださいね?」


遠い目をする魔王(笑)さんの背中を優しくさする八神。


どうやら俺達は親睦会の前にやらなきゃならない事が出来たみたいだ。



NGシーン


「……もう、いいわよ。行きましょ、レナ。除け者は除け者同士で仲良くしましょ」

「一緒にしないでください」

「……グスっ」


◆◆◆


親睦会の前に少し寄り道で、次回は購買戦争編となりますw

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