11「どうやら妹は出遅れたようだ」
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……申し訳ない事に今回は出来がイマイチですが(オイ
朝、枕の横に置かれた携帯が振動する。
重たい瞼を擦りながら、俺は携帯を手に取る。
ちなみに俺の携帯はスマホではない。
まったく、どいつもこいつも流行に流されすぎるんだよ。そんなに新しい物がいいかね?
もっと自分だけのオリジナリティを大切にするべきだと俺は思う。
不満だがとりあえず次のお年玉まで今の携帯で我慢しよう、うん。
余計な話はさておき、時刻を確認すると現在は6:30。
普段の起床時間よりも一時間以上も早い時刻だ。
俺はこんな早朝に携帯のアラームを設置した覚えはない。
だとしたら理由はただ一つしかない。
「……またか」
携帯の画面には着信メールが一件。
受信ボックスを開いて差出人の名を確認すると、そこには俺の予想通りの名前が表示されていた。
『魔王(笑)さん』と。
魔王(笑)さんとは例の約束をした時に互いの連絡先を交換していた。
これから一緒に食事をしたり、勉強を教えるんだから互いの連絡先を知っておいた方が都合がいい。
そう魔王(笑)さんから言われ、確かにその通りだし特に拒む理由はなかったのでその提案に俺は直ぐに頷いた。
……今思えば俺はこの提案を断っておくべきだっただろう。
魔王(笑)さんは暇なのか、かなりの量のメールを送ってくる。
それも毎回が日記みたいな文章量で。
今送られたメールも―
『おはよう。今日も清々しい朝ね。まさか私のメールが目覚まし代わりになったわけじゃないわよね?早起きは三文の得というのだから普段からこの時間に……<都合により省略>……では、また学校で会いましょう』
かなりスクロールするのが面倒なメールが送られてきている。
何このメール?
ちょっとした迷惑メールレベルなんですけど。
というか朝からよくこんなメール送る暇あるな。
「……はあ」
溜め息を吐きながら俺は一言『また学校で』と返信しておく。
ここ最近で溜め息が癖になってしまった気がする。
おそらくストレスも溜まっているはずだ。
将来俺がハゲたら絶対に魔王(笑)さん含めた数名が原因だろう。
「お兄ちゃん!今誰にメール送ったの!?」
「ちょ、ちょっ、お、お前ノックぐらいしろよ!?」
妹が朝から馬鹿デカイ声で部屋に無断入室。
RPGの主人公じゃないんだから、人の部屋に無断入室しないでほしい。
思春期の男子の部屋にノックなしで入るとか、タイミングが悪かったら互いに一生消えないトラウマが生まれるところだったぞ。
何がとは言わないが。
「……あれ。そういや今日はちゃんと自分の部屋で寝てたんだな」
今更ながらに俺の布団に妹がいなかった事に気付く。珍しい。
いつもなら勝手に俺の布団に潜り込んでいるのに。
「うっ……。お、お兄ちゃんがいけないんだよ。私が潜り込む前に起きたりするから。こんな早起きするなら昨日のうちに言ってよ」
「あ、ああ、スマン。これからは早起きする時はちゃんと昨日のうちに……って、違うわ!?」
なんで俺が悪いみたいになってるんだ。
思わず朝からノリツッコミしてしまったじゃないか。
「流石お兄ちゃん。そのノリツッコミなら間違いなくM1グランプリの予選1回戦で敗退だね!」
「それ下手くそって言ってるよね!?」
朝から夫婦漫才ならず、兄妹漫才を繰り広げる俺達。
起床してからまだ10分と経っていないのに、既に1日の体力の半分を持っていかれた気がする。
「って、違うよ!?こんな朝からイチャイチャと18禁イベントを消化してる場合じゃないんだよ!」
「勝手に捏造しないでくれるか」
今までのやり取りの中のどこに18禁イベントの要素があったというんだ。
「あの女ね!?あの女に連絡したんでしょ!?」
「大声で誤解されそうな事言わないでくれる!?ていうか何で知ってんだ!?」
「こう、ビビビッと何かを感じたんだよ!」
まさか妹は携帯から発せられる電波を受信したというのか。
確かに普段から馬鹿な電波を受信している妹なら可能かもしれない。
「……修羅場?」
「……おふくろ。いきなり現れてブッ飛んだ発言をするのはやめてくれ」
騒ぎ過ぎたのか、廊下から部屋の中を覗き込むように顔だけ出したおふくろが現れた。
「間違えた」
無表情なまま部屋の中に入るおふくろ。
……ウチの女性陣は人に断りを入れるという事を知らないのだろうか。
「濡れ場ね」
「それも間違いだよ!?」
「……濡れてない?」
「私はいつでもグショグショになる準備は出来てるよ!」
「二人共黙ってろ!」
このままじゃ、ある意味18禁だよ。
朝からなんちゅー会話してるんだ我が家は。
「母親は我が子の情事を確かめる義務があるの。アキみたいな美少女が誘ってるのにナツは……もしかして不能?」
「妹だからだよ!?」
「大丈夫だよお母さん!その点に関しては私が毎朝布団の中で元気だって確認済みだから!」
「二人共お願いだからもう黙って!!」
頼むから静かな朝を過ごさせてくれ。
七つの玉があれば俺は切実にそう願いたい。
◆◆◆
「屋上?」
慣れとは恐ろしいもので、もう昼休みに魔王(笑)さんが8組に侵攻してきても驚くものはいなくなった。
……代わりに男子からは歓喜の声。女子から羨望の眼差しが向けられることになったが。
魔王(笑)さんはその全てに気付くことなく、俺と三沢の近くにへと寄って来た。
約束通り、一緒に食事をするために机の位置を調整しようとすると、魔王(笑)さんから待ったの声がかかった。
「何でわざわざ屋上に?ここでいいじゃん」
「だ、だって、男の子と一緒に食事をしたら、こ、こここ恋人かと勘違いされちゃうじゃない」
三沢も一緒だからその可能性はないと思うんだが……。
そもそも休み時間の度に何度も余所のクラスに来ている時点で色々と勘違いされそうな気もするが、それはいいのか?
「……まあ、俺は屋上でもいいけど、三沢は?」
「俺も別に構わん。だが、屋上への扉は鍵がかかってるはずだが」
「へっ?でも去年、俺お前と一緒に屋上に行ってたよな?」
「そんなもの俺が予めピッキングしておいたに決まっておろう」
……妹といい三沢といい、最近の学生は皆当たり前のようにピッキング技術を習得してるのか?
隣にいる魔王(笑)さんも平然と出来そうで怖い。
「心配ないわ。鍵なら生徒会室からスペアを拝借してきたから」
「それって職権乱用なんじゃ……」
「いい?権力はただ持つだけでは意味がないの。それをいかに有効に使う事が出来るかが権力を持つ者への課題なのよ」
「良い事を言ってるっぽいけど、規則違反なのは変わらないからな」
「…………」
「黙るなや」
と言っても、屋上に無断で入ってる時点で俺も規則違反なため、あまり強くは言えないんだが。
それに滅多に行けない屋上に行くチャンスを逃すには惜しいので、俺は魔王(笑)さんの提案に了承することにした。
昼休みといってもいつまでもグダグタと話してては食べる時間がなくなるので、早速屋上に向かおうと―
「なにしてるの。ほら、行くわよ」
「えっ?…………ええええええええっ!?」
いつの間にか魔王(笑)さんが俺達から離れ、何故か八神を屋上にへと拉致しようとしていた。
まさか自分が声をかけられるとは思ってもなかった八神はあわあわとパニくり出す。
「ちょっ、何で八神も?」
「あら?だって私が約束した時彼女もあの場所にいたじゃない」
……いや、確かに八神もいたかもしれないけどさ。
知ってる?約束ってのは約束した相手が納得して頷かないと成立しないんだよ?
「そもそもお互いに名前しか知らない状態なのに一緒に食事とか気まずいだろ」
「だ、大丈夫よ。貴方の友達は私も友達。私の友達も私の友達って言うじゃない」
「言わないからね!?誰もそんな事言ったことないからね!?」
なんというジャイアニズムをお持ちなんだ。
というか自称魔王(笑)の人の発言がガキ大将レベルなのはいかがなものか。
「で、どうなの。べ、別に嫌なら無理して来る必要はないけど……」
八神が中々返事しない事に不安になったか、途端に悲しそうな声を出す魔王(笑)さん。
その姿はご褒美を取り上げられて落ち込んでしまった子犬のように見える。
もし魔王(笑)さんに犬耳が生えてたら間違いなくぺたんと伏していただろう。
「あ、あの。み、みみ皆さんさえよかったら私もご一緒させてください!」
八神が顔を真っ赤にしながらも、はっきりとそう言ってきた。
その言葉に俺と三沢だけでなくクラス中が呆気にとられ、目をパチクリさせている。
人見知りで恥ずかしがり屋の八神の事だから断ると思ったんだが……。
まさかこれが魔王(笑)マジックだとでも言うのか。
「決まりね!なら早速行きましょう!」
「あわっ!?に、ににに二階堂さん!ひ、引っ張らないでくださ―――い!?」
八神の返事に花が咲いたかのような満面の笑みを浮かべる魔王(笑)さん。
あまりの嬉しさに魔王(笑)さんは八神の手を取って屋上にへと向かって行った。
「……なんでアレで友人がいないのかね?」
「なに、人は見掛けにはよらない。蓋を開けてみれば俺達と変わらないただの学生だったというわけだ」
魔王(笑)を名乗っている時点でただの学生だとは思えないけどな。
まあ、今それを言うのは野暮だってもんだろ。
俺と三沢は二人を追うように教室を後にした。
◆◆◆◆◆◆
「親睦会?」
暖かい日差しの下、俺達は食事をしながら他愛ない話で盛り上がっていた。
その際に魔王(笑)さんがそんな事を言ってきた。
「ええ。そろそろ5月が近いから生徒会で考えないといけいのよ」
言われて思い出す。
俺の記憶が正しければ、確か去年の5月頃にクラスの親睦を深めるためにそんなのが開かれた気がする。
なにをやったけな?
「きょ、去年はクラス対抗のドッチボール大会だったと思います」
「あー……そういやそんな気がする」
「ボールに油を塗ったり、コートにねずみ花火を放ったりしたではないか」
「ああ、した、した。あれは爆笑もんだったよな」
「あの騒ぎは貴方達のせいだったのね……」
藪蛇だった。
言っておくが、俺はあくまで作戦を一緒に考えただけで実行したのは三沢だ。
俺は悪くない。
それに、その後は教師陣に捕まってたっぷりの説教と1週間トイレ掃除をやらされたんだから、既に罪は償ったはずだ。
「……まあ、あの時の事はもういいわ。それより何かいい案はないかしら?この時期に何をやるかも決まってないのはちょっとマズいのよ……」
そういえば今期の生徒会はかつてない程の人手不足だと聞いた覚えがある。
何でも副会長である魔王(笑)さんがかなり頑張っているらしい。
会長は?……会長か。
突然だが、この学園には『四天王』と呼ばれる者達が存在する。
その者達と関わったら平穏な学園生活はその瞬間に終了するとも言われ、青学生から恐れられている。
そのうちの一人は、勘のいい者ならわかるかもしれないが、三沢だ。
そして、残りの三人の内の一人が青学生の頂点に君臨する人間。
『女帝』の二つ名を持つ我らが生徒会長だ。
彼女が生徒会長として任期してからのしばらくは青学が暗黒時代に突入してしまうと、職員室は阿鼻叫喚の嵐であったらしい。
ちなみにその暗黒時代を救ったのが魔王(笑)さんであり、教師達はその貢献を称え、魔王(笑)さんの代―
つまりは俺達の代を『黄金時代』と呼んでいるらしい。
約1名程、その名に泥を塗っている俺がいるが。
そんな『女帝』の下で好き好んで働きたいと思うのは魔王(笑)さん以外いず、今の生徒会は会長・副会長の二人だけとなっている。
当時1年生だった魔王(笑)さんが副会長に抜擢されたのも人手不足だからという噂も。
……それでいいのか生徒会
「ふ、ふふふふ……。ははは……はーはっはっはっは!!」」
しばらく何かアイディアはないかと考えていると、急に三沢が気味の悪い笑い声を上げた。
……俺の危険察知センサーがビンビン反応している。
三沢がこんな笑い声を上げた時はろくな事が起きない。
「なるほど。つまりは皆を楽しませる画期的かつ斬新なアイディアが欲しいということだな」
「い、いえ、別にそこまでは……」
「俺に相談して来たのは正解だ二階堂よ。流石は生徒会の懐刀と呼ばれるだけはある」
「その卵焼き美味そうだな……。もしかして手作り?」
「は、はい。よ、よかったらどうぞ」
妙なスイッチが入ったようで、三沢はまるで聞く耳を持たない。
魔王(笑)さんは戸惑っているようだが、長年三沢の奇行を隣で見続けた俺に、去年である程度耐性がついた八神は平然と食事を続ける。
卵焼きうまー。
「任せるがいい。俺の名に誓って必ずや親睦会を最高のものにすると約束しよう!」
その瞬間、三沢を除く俺達三人の気持ちは同じだったと思う。
——親睦会終わったな、と。
妹「色々と出遅れた気がするんだよ!」




